的野×向井
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描いて描いて描いて描いて。こんなに描いてるのに何が足りないんだ。「君のみてる世界には色が足りないんじゃないか」と。何回も言われた。それなりに綺麗なものを、美しいものをみて生きてきたはずなのに。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
天才と呼ばれるようになってどのくらい経っただろうか。自分では凡だと自負している。誇らしいこともなく、私利私欲のために絵を描く日々。誰かから評価が欲しいわけじゃなかった。自分の中に閉じ込めておきたいものを描くのは自分の中では当たり前のことで、誰かにみてもらう為ではなかった。
全ての元凶が始まったのは、親が勝手に公募に応募していたことだった。反面教師といってはなんだが、親の承認欲求の強さはいまに始まったことではない。それを見て育ってきたからか、自分に謙虚に生きていこうと幼いながらに思った記憶がある。それのせいなのか、人と関わることが苦手だった。これに関しては直接的な因果関係がないにせよ、無駄に人脈を増やして苦手な人種を増やしたくなかったんだと思う。
色が足りないのはこのせいなのかと思ったことがある。それでも人と関わりたくなかった。否、純葉に会うまでは一度だけ関わったことがある。けれども、その時に癒えない傷が深く刻まれてしまった。
公募に出されていた絵をはじめて表彰された全校集会。ステージの上から目が合ったその子は軽く軽蔑の表情を浮かべていて、その日の放課後に言われたことに衝撃を受けて、そこからさらに人と関わることを辞めた。
「美青ちゃんはさ、生きてる世界が違うんだよ。天才には分かんないか。私のことだって下に見てんでしょ?」
「なんでそう思うの?私はそんなこと思ってないけど」
「天才って持て囃されて気持ちよくなってんでしょ?何も持ってない私たちを軽蔑してんでしょ?違うの?…そうでしょ?」
「……。」
「黙ってるってことは肯定として捉えていいんだね」
「勝手にして」
突き放したのは自分からか。いいように言われて、逃げ出した。こんなこと言われたくて絵を描いてるわけじゃないのに。こんなこと言われるならそもそも描かなければ良かったとも思って、部屋にあるキャンバスを全て破り捨てた。ついさっきまでキャンバスに広がってた世界は一瞬にして破壊されて、残ったのは空虚な気持ちだけだった。
この日から、絵を描かなくなった。描けなくなったといった方が合っているのかもしれない。あんなに好きだったキャンバスに向かう時間が嫌いになった。自分のみている世界が全て不正解のように思えて。その時かもしれない。世界から色が足りなくなったのは。人が綺麗と思うものを綺麗と思えなくなったり、美しいというものを醜いと感じてしまったり。
ただ、純葉というフィルターを通した時だけは、世界が鮮やかに見える。それくらい特別な存在と出会えたのに、その機会を自分から手放した。
スマホのフォルダに残っていた、昔描いた絵を純葉に見られた時に、ふと「この絵見たことある」とひとこと。
「みおってあれ?天才って言われてたよね?この絵みたことある」
「言われてたよ。でもその呼び方好きじゃないんだよね」
「なして?」
「なんか、壁を作られてる気がするから」
「そっか。」
純葉はそんな自分を受け入れてくれたのに、自分から棒に振った。
なぜだか、絵を描きたいと衝動に動かされて、何年か越しにキャンバスに筆を走らせた。そして、なぜだか純葉にみせたくなってしまって。描き終えてすぐに純葉へと描いたキャンバスを撮って送った。それは、純葉とみた忘れられない景色だったから。なのに、純葉は覚えていないと。忘れられなかったのは自分だけだったのかとムキになって、日々溜まっていたフラストレーションがいつの間にか口から出てきていた。
「純葉は悩みとかないじゃんいいじゃんそれで、私の事なんてわかりっこないんだから…」
「みおは今までいとの何を見てきたん?知ったかぶって何も分かってくれないのはみおの方じゃ」
「純葉のことなんて分かるわけないだろ、だって住んでる世界が違うんだ」
「勝手に壁作ってんのはみおの方じゃろ」
「だって誰も私の事分かろうとしないじゃん、天才って言ってそれで片付けて。私は天才でもなんでもない。ただの凡なのに…」
「じゃあ、みおはいとのこと知ろうとした?」
「知りたくなんかないよ。だっていつか純葉も私のこと嫌いになる」
「それはいとが決めることじゃけん、勝手に決めんといて」
それは自分にとって衝撃的な言葉だった。いつも一方的に決めつけていたのは自分なんじゃないかと、そう思った。けれど、その言葉も純葉はもう覚えていないんだろう。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
純葉とみた景色も、純葉と過ごした日々も忘れたくなくて、キャンバスに筆を運ぶ日々が始まった。完成したものを見せても「綺麗だね」とそれだけ。覚えていないのがもどかしくて。
「この景色、本当に覚えてないの?」
「覚えてるわけないじゃん」
「どうして?あんなに忘れないかもって言ってたじゃん」
「覚えられないの、景色も、出来事も、人も。ふとしたときにみおのことだって忘れてることがあるくらいに覚えてられないの」
「それって…」
「いとがカメラを手放せない理由わかった?」
「それを早く言ってよ…一人取り残された気分だった」
「ごめんね。だからさ、みおは描くのを辞めないでよ。いとの忘れちゃう記憶を遺しておいてよ。いつか思い出せるように」
その時からだと思う。色が戻ってきたのは。純葉に鮮明にその時のことを思い出して欲しいから。みえる色が増えたのかもしれない。
久しぶりに出した公募。出したというか、今回も親に勝手に出されたんだけど。そこではありとあらゆる賞を掻っ攫った。
「君の世界に色が足されてきたね」って言われた。嬉しかった。けれど、今まで言われてきた言葉たちには嫌な思いをしてきたのは忘れてないからな。なんてひとこと残してきたけど。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「なんか、みおの絵、カラフルになった?」
「なんかいつの間にか」
「輝いてるね」
「彩に溢れてるんだよ。」
君のおかげで。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
天才と呼ばれるようになってどのくらい経っただろうか。自分では凡だと自負している。誇らしいこともなく、私利私欲のために絵を描く日々。誰かから評価が欲しいわけじゃなかった。自分の中に閉じ込めておきたいものを描くのは自分の中では当たり前のことで、誰かにみてもらう為ではなかった。
全ての元凶が始まったのは、親が勝手に公募に応募していたことだった。反面教師といってはなんだが、親の承認欲求の強さはいまに始まったことではない。それを見て育ってきたからか、自分に謙虚に生きていこうと幼いながらに思った記憶がある。それのせいなのか、人と関わることが苦手だった。これに関しては直接的な因果関係がないにせよ、無駄に人脈を増やして苦手な人種を増やしたくなかったんだと思う。
色が足りないのはこのせいなのかと思ったことがある。それでも人と関わりたくなかった。否、純葉に会うまでは一度だけ関わったことがある。けれども、その時に癒えない傷が深く刻まれてしまった。
公募に出されていた絵をはじめて表彰された全校集会。ステージの上から目が合ったその子は軽く軽蔑の表情を浮かべていて、その日の放課後に言われたことに衝撃を受けて、そこからさらに人と関わることを辞めた。
「美青ちゃんはさ、生きてる世界が違うんだよ。天才には分かんないか。私のことだって下に見てんでしょ?」
「なんでそう思うの?私はそんなこと思ってないけど」
「天才って持て囃されて気持ちよくなってんでしょ?何も持ってない私たちを軽蔑してんでしょ?違うの?…そうでしょ?」
「……。」
「黙ってるってことは肯定として捉えていいんだね」
「勝手にして」
突き放したのは自分からか。いいように言われて、逃げ出した。こんなこと言われたくて絵を描いてるわけじゃないのに。こんなこと言われるならそもそも描かなければ良かったとも思って、部屋にあるキャンバスを全て破り捨てた。ついさっきまでキャンバスに広がってた世界は一瞬にして破壊されて、残ったのは空虚な気持ちだけだった。
この日から、絵を描かなくなった。描けなくなったといった方が合っているのかもしれない。あんなに好きだったキャンバスに向かう時間が嫌いになった。自分のみている世界が全て不正解のように思えて。その時かもしれない。世界から色が足りなくなったのは。人が綺麗と思うものを綺麗と思えなくなったり、美しいというものを醜いと感じてしまったり。
ただ、純葉というフィルターを通した時だけは、世界が鮮やかに見える。それくらい特別な存在と出会えたのに、その機会を自分から手放した。
スマホのフォルダに残っていた、昔描いた絵を純葉に見られた時に、ふと「この絵見たことある」とひとこと。
「みおってあれ?天才って言われてたよね?この絵みたことある」
「言われてたよ。でもその呼び方好きじゃないんだよね」
「なして?」
「なんか、壁を作られてる気がするから」
「そっか。」
純葉はそんな自分を受け入れてくれたのに、自分から棒に振った。
なぜだか、絵を描きたいと衝動に動かされて、何年か越しにキャンバスに筆を走らせた。そして、なぜだか純葉にみせたくなってしまって。描き終えてすぐに純葉へと描いたキャンバスを撮って送った。それは、純葉とみた忘れられない景色だったから。なのに、純葉は覚えていないと。忘れられなかったのは自分だけだったのかとムキになって、日々溜まっていたフラストレーションがいつの間にか口から出てきていた。
「純葉は悩みとかないじゃんいいじゃんそれで、私の事なんてわかりっこないんだから…」
「みおは今までいとの何を見てきたん?知ったかぶって何も分かってくれないのはみおの方じゃ」
「純葉のことなんて分かるわけないだろ、だって住んでる世界が違うんだ」
「勝手に壁作ってんのはみおの方じゃろ」
「だって誰も私の事分かろうとしないじゃん、天才って言ってそれで片付けて。私は天才でもなんでもない。ただの凡なのに…」
「じゃあ、みおはいとのこと知ろうとした?」
「知りたくなんかないよ。だっていつか純葉も私のこと嫌いになる」
「それはいとが決めることじゃけん、勝手に決めんといて」
それは自分にとって衝撃的な言葉だった。いつも一方的に決めつけていたのは自分なんじゃないかと、そう思った。けれど、その言葉も純葉はもう覚えていないんだろう。
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純葉とみた景色も、純葉と過ごした日々も忘れたくなくて、キャンバスに筆を運ぶ日々が始まった。完成したものを見せても「綺麗だね」とそれだけ。覚えていないのがもどかしくて。
「この景色、本当に覚えてないの?」
「覚えてるわけないじゃん」
「どうして?あんなに忘れないかもって言ってたじゃん」
「覚えられないの、景色も、出来事も、人も。ふとしたときにみおのことだって忘れてることがあるくらいに覚えてられないの」
「それって…」
「いとがカメラを手放せない理由わかった?」
「それを早く言ってよ…一人取り残された気分だった」
「ごめんね。だからさ、みおは描くのを辞めないでよ。いとの忘れちゃう記憶を遺しておいてよ。いつか思い出せるように」
その時からだと思う。色が戻ってきたのは。純葉に鮮明にその時のことを思い出して欲しいから。みえる色が増えたのかもしれない。
久しぶりに出した公募。出したというか、今回も親に勝手に出されたんだけど。そこではありとあらゆる賞を掻っ攫った。
「君の世界に色が足されてきたね」って言われた。嬉しかった。けれど、今まで言われてきた言葉たちには嫌な思いをしてきたのは忘れてないからな。なんてひとこと残してきたけど。
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「なんか、みおの絵、カラフルになった?」
「なんかいつの間にか」
「輝いてるね」
「彩に溢れてるんだよ。」
君のおかげで。
