狗巻棘
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昇降口にところに見覚えのある後ろ姿を見つけた。
「棘くん」
声をかけると、じっと外を見つめていた彼が「しゃけ」と振り向く。私を見るなりにこっと微笑みかけてくるものだから、ついつられて頬っぺたが上がってしまう。
「何してるの?」
「高菜」
私の問いに棘くんは再び外へと顔を向けた。視線の先の空はどんよりと曇り、ぽつぽつと細い雨が地面を濡らしている。
「あー、降ってきちゃったか」
確か今日の天気は晴れのちくもり、ところにより雨、だったはず。予報では雨が降り始めるのは夜とのことだったけど、どうやら少しばかり早まったらしい。
「待ってたら止むかな」
「おかかー」
ぽつりと零した独り言のようなそれを棘くんが「止まないでしょ」とやんわり否定する。
「だよねえ」
私もそう思う。きっとこれから雨足は強くなる一方だ。ここで止むのを待ったところで時間の無駄。本降りになる前に帰ろうか、と棘くんに目配せすると、彼はとんと軽く拳で胸を叩いて「しゃけ!」と言った。
何を「任せて」なのだろう。不思議に思っていると、棘くんは私を残して下駄箱の向こうへと姿を消し、すぐに戻ってきた。その手には紺色の傘が一本握られている。
「傘持ってきてたの?」
「しゃけしゃけ」
湿気を帯びた空気の中、ぱんっと乾いた音が響く。棘くんが「おいで」と手招きするので、私はありがたくその厚意に甘えることにした。
初めて入る男物の傘は私の持っているものより一回り大きい。でも二人で使うには小さくて、お互い濡れないようにと距離がいつもより近くなる。
「棘くん濡れてない?」
「しゃけ。高菜?」
「私は大丈夫」
鞄を握りしめて小さく頷く。
もしかして棘くんは私の帰りを待っていてくれたのだろうか。だとしたら嬉しいような、申し訳ないような、そんな気持ちで胸がいっぱいになる。
「傘、入れてくれてありがとね」
「明太子!」
忘れたときはいくらでも入れてあげるよ! そう笑顔で返されて、きゅっと心臓が締め付けられる。
「うん、その時はまたお願いね」
「しゃけ」
ずるい私は本当のことは言えないまま、心の中で「ごめんね」と謝った。
鞄の奥に眠るのは新品の折り畳み傘。その出番はもう少し先になりそうだ。
「棘くん」
声をかけると、じっと外を見つめていた彼が「しゃけ」と振り向く。私を見るなりにこっと微笑みかけてくるものだから、ついつられて頬っぺたが上がってしまう。
「何してるの?」
「高菜」
私の問いに棘くんは再び外へと顔を向けた。視線の先の空はどんよりと曇り、ぽつぽつと細い雨が地面を濡らしている。
「あー、降ってきちゃったか」
確か今日の天気は晴れのちくもり、ところにより雨、だったはず。予報では雨が降り始めるのは夜とのことだったけど、どうやら少しばかり早まったらしい。
「待ってたら止むかな」
「おかかー」
ぽつりと零した独り言のようなそれを棘くんが「止まないでしょ」とやんわり否定する。
「だよねえ」
私もそう思う。きっとこれから雨足は強くなる一方だ。ここで止むのを待ったところで時間の無駄。本降りになる前に帰ろうか、と棘くんに目配せすると、彼はとんと軽く拳で胸を叩いて「しゃけ!」と言った。
何を「任せて」なのだろう。不思議に思っていると、棘くんは私を残して下駄箱の向こうへと姿を消し、すぐに戻ってきた。その手には紺色の傘が一本握られている。
「傘持ってきてたの?」
「しゃけしゃけ」
湿気を帯びた空気の中、ぱんっと乾いた音が響く。棘くんが「おいで」と手招きするので、私はありがたくその厚意に甘えることにした。
初めて入る男物の傘は私の持っているものより一回り大きい。でも二人で使うには小さくて、お互い濡れないようにと距離がいつもより近くなる。
「棘くん濡れてない?」
「しゃけ。高菜?」
「私は大丈夫」
鞄を握りしめて小さく頷く。
もしかして棘くんは私の帰りを待っていてくれたのだろうか。だとしたら嬉しいような、申し訳ないような、そんな気持ちで胸がいっぱいになる。
「傘、入れてくれてありがとね」
「明太子!」
忘れたときはいくらでも入れてあげるよ! そう笑顔で返されて、きゅっと心臓が締め付けられる。
「うん、その時はまたお願いね」
「しゃけ」
ずるい私は本当のことは言えないまま、心の中で「ごめんね」と謝った。
鞄の奥に眠るのは新品の折り畳み傘。その出番はもう少し先になりそうだ。