狗巻棘
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いつだったか棘くんに訊かれたことがある。花、好きなの? と。ちょうど花壇に水やりをしていた彼と目が合ったタイミングで、私はこくこくと首を縦に振った。
本当に好きなのは、花ではなく棘くんのほうだったのだけど。彼は私の視線が自身ではなく花壇に咲く花に向けられているのだと勘違いしたらしい。でも、それならそれでいい。これを機に彼との距離を縮められるのなら、何でもよかった。
***
「ツナマヨ」
名前を呼ばれて振り返ると目の前でふわりと黄色い花が揺れた。お土産、と差し出された小さな花束を私はお礼を言って受け取った。
「おかえり棘くん。任務お疲れ様」
「すじこ」
あの日、私が花が好きだと嘘を吐いてしまった日から、棘くんは時折お土産と称して私に花を買ってきてくれるようになった。一人任務の帰りに街を散策して、花屋を見つけてはわざわざ立ち寄ってくれているらしい。
初めて花を貰った時は申し訳ないことに、嬉しさよりも動揺のほうが大きかった。棘くんは私のことを花好きだと思っているから買ってきてくれたんだろうけど、実際私の部屋には花を飾る花瓶すらなかったのだ。でもそれを正直に伝えるわけにもいかず、貰った花を枯らすわけにもいかず。ひとまずペットボトルで代用して、棘くんに気づかれないようこっそり且つ大慌てで花瓶を買いに行ったのは今では良い思い出だ。
「棘くんは今から花壇の水やり?」
「しゃけ」
「私も手伝うよ。先にこの花、部屋に飾ってくるね」
頷いて手を振る棘くんと別れて、私は自室に向かった。
歩くたびに腕の中で淡い黄色の花びらが揺れる。この前貰ったアネモネも綺麗だったけど、この花も可愛らしくて部屋に飾るのが楽しみだ。
前までは別に花なんて好きでも何でもなかったのに、いつからこんなに心を動かされるようになったのだろう。空いた花瓶を見て寂しく思うだなんて、昔の私では考えられなかった。今なら、あの日下心で吐いてしまった嘘をなかったことにできるだろうか。
花の茎を吸水しやすいように切り揃え、水の入った花瓶に挿す。大慌てで買った花瓶は意外とどんな花にも合わせやすく、今では大活躍している。それを部屋の定位置に置き、私はスマホを取り出した。どれだけ大切にしていても生花は枯れてしまうから、せめて写真だけでもと残しているのだ。その写真ももう随分と溜まってきた。
「そういえば、この花なんていうんだろう?」
気になってアプリを起動する。写真からその植物が何なのかを詳しく教えてくれる便利なアプリだ。
「リナリア……?」
答えはすぐに画面に表示された。けれどやっぱり知らない名前だった。
別名は姫金魚草。開花時期は三月から五月ごろで、黄色以外にも色んな色があるらしい。
それと花言葉はーーこの恋に気づいて。
たまたま目に入った一文にどきりと心臓が跳ねる。
誰がどう決めているのか、花言葉には恋にまつわるものが多い。けど棘くんは花言葉なんて知らないだろうから、この花を選んだのはきっと偶然だろう。
でも、それでも。私は過去に貰った花の写真を遡った。初めて貰ったのは甘い香りのするライラック。紫の花が、棘くんの瞳の色に似てたからよく覚えている。あとはマーガレットにひまわり、アガパンサス、他にもたくさん。花壇に咲いているパンジーやピンクのチューリップを貰ったこともあった。
そしてアプリでそれらの花言葉を知ったからといって、どうということはない、のだけど。
嘘。どうということは、ある。
「こんなの、期待しちゃうじゃん」
棘くんから貰った花たちは、揃いも揃って甘やかでくすぐったい想いを囁いていた。もしこれがただの偶然ではなく意図的なものだとしたらーー素直に嬉しい。私も彼と同じ気持ちだったから。
でも私は結構欲張りなのだ。花が好きと嘘を吐いてまで棘くんの傍に居ようとするのだから、当然といえば当然なのだけど。
「棘くん」
花壇にいる彼に声をかけると、薄紫色の瞳が私を柔く捉えた。
棘くんが今までたくさんくれていた、音のない言葉たち。
やっと気づいたそれを、棘くんの口から直接訊きたいと言ったら。そして私からも彼への想いを伝えたとしたら。いま目の前にいる彼は、一体どんな顔をするだろう。
本当に好きなのは、花ではなく棘くんのほうだったのだけど。彼は私の視線が自身ではなく花壇に咲く花に向けられているのだと勘違いしたらしい。でも、それならそれでいい。これを機に彼との距離を縮められるのなら、何でもよかった。
***
「ツナマヨ」
名前を呼ばれて振り返ると目の前でふわりと黄色い花が揺れた。お土産、と差し出された小さな花束を私はお礼を言って受け取った。
「おかえり棘くん。任務お疲れ様」
「すじこ」
あの日、私が花が好きだと嘘を吐いてしまった日から、棘くんは時折お土産と称して私に花を買ってきてくれるようになった。一人任務の帰りに街を散策して、花屋を見つけてはわざわざ立ち寄ってくれているらしい。
初めて花を貰った時は申し訳ないことに、嬉しさよりも動揺のほうが大きかった。棘くんは私のことを花好きだと思っているから買ってきてくれたんだろうけど、実際私の部屋には花を飾る花瓶すらなかったのだ。でもそれを正直に伝えるわけにもいかず、貰った花を枯らすわけにもいかず。ひとまずペットボトルで代用して、棘くんに気づかれないようこっそり且つ大慌てで花瓶を買いに行ったのは今では良い思い出だ。
「棘くんは今から花壇の水やり?」
「しゃけ」
「私も手伝うよ。先にこの花、部屋に飾ってくるね」
頷いて手を振る棘くんと別れて、私は自室に向かった。
歩くたびに腕の中で淡い黄色の花びらが揺れる。この前貰ったアネモネも綺麗だったけど、この花も可愛らしくて部屋に飾るのが楽しみだ。
前までは別に花なんて好きでも何でもなかったのに、いつからこんなに心を動かされるようになったのだろう。空いた花瓶を見て寂しく思うだなんて、昔の私では考えられなかった。今なら、あの日下心で吐いてしまった嘘をなかったことにできるだろうか。
花の茎を吸水しやすいように切り揃え、水の入った花瓶に挿す。大慌てで買った花瓶は意外とどんな花にも合わせやすく、今では大活躍している。それを部屋の定位置に置き、私はスマホを取り出した。どれだけ大切にしていても生花は枯れてしまうから、せめて写真だけでもと残しているのだ。その写真ももう随分と溜まってきた。
「そういえば、この花なんていうんだろう?」
気になってアプリを起動する。写真からその植物が何なのかを詳しく教えてくれる便利なアプリだ。
「リナリア……?」
答えはすぐに画面に表示された。けれどやっぱり知らない名前だった。
別名は姫金魚草。開花時期は三月から五月ごろで、黄色以外にも色んな色があるらしい。
それと花言葉はーーこの恋に気づいて。
たまたま目に入った一文にどきりと心臓が跳ねる。
誰がどう決めているのか、花言葉には恋にまつわるものが多い。けど棘くんは花言葉なんて知らないだろうから、この花を選んだのはきっと偶然だろう。
でも、それでも。私は過去に貰った花の写真を遡った。初めて貰ったのは甘い香りのするライラック。紫の花が、棘くんの瞳の色に似てたからよく覚えている。あとはマーガレットにひまわり、アガパンサス、他にもたくさん。花壇に咲いているパンジーやピンクのチューリップを貰ったこともあった。
そしてアプリでそれらの花言葉を知ったからといって、どうということはない、のだけど。
嘘。どうということは、ある。
「こんなの、期待しちゃうじゃん」
棘くんから貰った花たちは、揃いも揃って甘やかでくすぐったい想いを囁いていた。もしこれがただの偶然ではなく意図的なものだとしたらーー素直に嬉しい。私も彼と同じ気持ちだったから。
でも私は結構欲張りなのだ。花が好きと嘘を吐いてまで棘くんの傍に居ようとするのだから、当然といえば当然なのだけど。
「棘くん」
花壇にいる彼に声をかけると、薄紫色の瞳が私を柔く捉えた。
棘くんが今までたくさんくれていた、音のない言葉たち。
やっと気づいたそれを、棘くんの口から直接訊きたいと言ったら。そして私からも彼への想いを伝えたとしたら。いま目の前にいる彼は、一体どんな顔をするだろう。
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