狗巻棘
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「しゃけ!」
そうだ、ピクニックに行こう! そう棘くんに提案されて、私は机に突っ伏していた顔を思い切り上げた。
「行く! 行きたい! 絶対行く!!」
季節は春。お花見には少し早いけど、だいぶ暖かくなったし、最近は天気もいい。こんな日にお弁当を持ってピクニックできたらーー。想像しただけで最高だ。
でもどうしたって頭をよぎるのは仕事のこと。ここ一か月だけでも任務が立て続けに入っているのだ。特別難しいものではないけれど、とにかく数が多く休みもろくに取れていない。このままだと、ピクニックに行けるのはいつになるやら。
「おかか」
不意に両手が伸びてきて、頬をむぎゅっと挟まれた。突然のことに驚く私を唇を尖らせた棘くんが見つめてくる。机を挟んで向いに座る彼は私の考えていることなど見通しだったらしい。今は仕事のことは考えないで、と咎められてしまった。でも、確かにその通りだ。いつ行けるかわからないけどせっかく棘くんが提案してくれたのだから、今は楽しいことだけ考えたい。
「ごめん」
「しゃけしゃけ。ツナマヨ!」
私の頬から手を離した棘くんが机の上にノートを広げた。授業で使うノートだ。そのまだ使っていない真っ白なページを開いて、鼻歌を歌いながらぐるっとペンを走らせる。できあがったのは大きな四角とも楕円とも言いがたい形。
何だろうと首を傾げる私に、棘くんは「こんぶ!」と満面の笑みで言った。彼が描いたのはお弁当箱だったらしい。そういえばさっきの鼻歌、聞き覚えがあると思ったら子どもの頃によく歌っていたお弁当の歌だ。
「すじこ、いくら」
このお弁当箱に好きなものを詰めていこう、と棘くんが提案する。つまりピクニックに持っていくお弁当の中身を、今のうちに決めてしまおうということだ。
私はうーんと悩みつつもワクワクしていた。頭に流れるのは懐かしい歌。これくらいのお弁当箱に、さて何を詰めようか。
「おにぎりは入れたいよね。具はツナマヨ、こんぶ、梅干し……」
「高菜!」
「あー、サンドウィッチもいいよね。おかずはどうしよ?」
定番の玉子焼きにから揚げ、ミートボールにポテトサラダ。
「タコさんウィンナーも入れたい!」
「ツナツナ!」
棘くんの描いた大きなお弁当箱の中にどんどん好きなものが詰め込まれていく。こんなに食べられるだろうか。でも、好きなものはまだまだたくさんある。
「デザートも忘れずに入れなきゃね」
「しゃけ」
デザートといえば、やっぱりフルーツだろうか。イチゴ、オレンジ、キウイフルーツ。この時期だとさくらんぼも好き。凍らせたゼリーも捨てがたい。保冷剤代わりにもなるし。
どっちにしようか迷いに迷って、結局どっちも描き足すことにした。棘くんの描いたお弁当箱にはもう入らないからノートの端に小さな四角を描いて、そこに好きなデザートを詰め込んでいき。
「できた!」
「すじこ!」
好きなものばかりがぎゅうぎゅうに詰まった、夢いっぱいのお弁当箱。このお弁当を持ってピクニックに出かけたら、絶対に楽しいに決まってる。
「棘くん、もう描き忘れはない?」
「しゃけ! ……おかか!」
私の言葉に棘くんがハッとする。どうやら描き忘れに気づいたみたいだ。何を描き足すのだろう。あと、棘くんの好きなものはーー。
しかし彼の持つペンは、いつまで経っても動き出さなかった。それどころかペンを机に置いてしまうものだから、どうしたのだろうと私は不思議に思って顔を上げた。
「棘く……」
「しゃーけ」
私を見つめる薄紫色の瞳がきゅうっと細められる。かと思えば、次の瞬間にはするりと指先を絡め取られていた。
「ツナマヨ」
囁いた棘くんが、軽く私を引き寄せる。
おにぎりに、玉子焼きに、から揚げに。好きなものばかりを詰め込んだお弁当箱。そこに入れ忘れた、棘くんの一番好きなもの。それが何なのか思い至って、私はふいと顔を逸らした。
「それはちょっと、入れられないかな」
「おかかぁ」
イヤイヤと首を振る棘くんに思わず笑みがこぼれる。でもお弁当箱の中に入るのはご遠慮したいところだ。
季節は春。絶好のピクニック日和。
いつか棘くんとお弁当を持って出かけるその時も、今日みたいな日でありますように。
そうだ、ピクニックに行こう! そう棘くんに提案されて、私は机に突っ伏していた顔を思い切り上げた。
「行く! 行きたい! 絶対行く!!」
季節は春。お花見には少し早いけど、だいぶ暖かくなったし、最近は天気もいい。こんな日にお弁当を持ってピクニックできたらーー。想像しただけで最高だ。
でもどうしたって頭をよぎるのは仕事のこと。ここ一か月だけでも任務が立て続けに入っているのだ。特別難しいものではないけれど、とにかく数が多く休みもろくに取れていない。このままだと、ピクニックに行けるのはいつになるやら。
「おかか」
不意に両手が伸びてきて、頬をむぎゅっと挟まれた。突然のことに驚く私を唇を尖らせた棘くんが見つめてくる。机を挟んで向いに座る彼は私の考えていることなど見通しだったらしい。今は仕事のことは考えないで、と咎められてしまった。でも、確かにその通りだ。いつ行けるかわからないけどせっかく棘くんが提案してくれたのだから、今は楽しいことだけ考えたい。
「ごめん」
「しゃけしゃけ。ツナマヨ!」
私の頬から手を離した棘くんが机の上にノートを広げた。授業で使うノートだ。そのまだ使っていない真っ白なページを開いて、鼻歌を歌いながらぐるっとペンを走らせる。できあがったのは大きな四角とも楕円とも言いがたい形。
何だろうと首を傾げる私に、棘くんは「こんぶ!」と満面の笑みで言った。彼が描いたのはお弁当箱だったらしい。そういえばさっきの鼻歌、聞き覚えがあると思ったら子どもの頃によく歌っていたお弁当の歌だ。
「すじこ、いくら」
このお弁当箱に好きなものを詰めていこう、と棘くんが提案する。つまりピクニックに持っていくお弁当の中身を、今のうちに決めてしまおうということだ。
私はうーんと悩みつつもワクワクしていた。頭に流れるのは懐かしい歌。これくらいのお弁当箱に、さて何を詰めようか。
「おにぎりは入れたいよね。具はツナマヨ、こんぶ、梅干し……」
「高菜!」
「あー、サンドウィッチもいいよね。おかずはどうしよ?」
定番の玉子焼きにから揚げ、ミートボールにポテトサラダ。
「タコさんウィンナーも入れたい!」
「ツナツナ!」
棘くんの描いた大きなお弁当箱の中にどんどん好きなものが詰め込まれていく。こんなに食べられるだろうか。でも、好きなものはまだまだたくさんある。
「デザートも忘れずに入れなきゃね」
「しゃけ」
デザートといえば、やっぱりフルーツだろうか。イチゴ、オレンジ、キウイフルーツ。この時期だとさくらんぼも好き。凍らせたゼリーも捨てがたい。保冷剤代わりにもなるし。
どっちにしようか迷いに迷って、結局どっちも描き足すことにした。棘くんの描いたお弁当箱にはもう入らないからノートの端に小さな四角を描いて、そこに好きなデザートを詰め込んでいき。
「できた!」
「すじこ!」
好きなものばかりがぎゅうぎゅうに詰まった、夢いっぱいのお弁当箱。このお弁当を持ってピクニックに出かけたら、絶対に楽しいに決まってる。
「棘くん、もう描き忘れはない?」
「しゃけ! ……おかか!」
私の言葉に棘くんがハッとする。どうやら描き忘れに気づいたみたいだ。何を描き足すのだろう。あと、棘くんの好きなものはーー。
しかし彼の持つペンは、いつまで経っても動き出さなかった。それどころかペンを机に置いてしまうものだから、どうしたのだろうと私は不思議に思って顔を上げた。
「棘く……」
「しゃーけ」
私を見つめる薄紫色の瞳がきゅうっと細められる。かと思えば、次の瞬間にはするりと指先を絡め取られていた。
「ツナマヨ」
囁いた棘くんが、軽く私を引き寄せる。
おにぎりに、玉子焼きに、から揚げに。好きなものばかりを詰め込んだお弁当箱。そこに入れ忘れた、棘くんの一番好きなもの。それが何なのか思い至って、私はふいと顔を逸らした。
「それはちょっと、入れられないかな」
「おかかぁ」
イヤイヤと首を振る棘くんに思わず笑みがこぼれる。でもお弁当箱の中に入るのはご遠慮したいところだ。
季節は春。絶好のピクニック日和。
いつか棘くんとお弁当を持って出かけるその時も、今日みたいな日でありますように。