狗巻棘
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トントンと肩を叩かれて振り向くと、そこにいたのは棘くんだった。
ゆったりとしたスウェット姿でマスクをしている。
「こんな遅くにどうしたの?」
草木も眠る丑三つ時、とまではいかないけれど、こんな夜更けに食堂に現れる人はそういない。私は……色々やってたらこの時間になっちゃったんだけど。
私の質問に棘くんはにこりと笑みを返してきた。そしてそのままマスクを下げて、「あ」と大きく口を開ける。なるほど、目的はそれか。私が呆れたように息を吐くと、棘くんがいたずらっ子のように目尻を下げた。
食堂全体に立ち込める甘い香り。棘くんはどうやらそれに釣られてここにやって来たらしい。
「ちょっとだけだからね」
言うなり私は冷蔵庫から大皿を取り出し、ラップを外した。そこに並ぶのはころりとしたトリュフだ。大きさがまちまちなのは大目に見てほしい。
明日はバレンタイン。だからこっそり作ってみんなにサプライズしようと画策していたのに、まさか棘くんに見つかってしまうとは。
ココアパウダーのまぶされた一粒を指先で摘んで、雛鳥のように口を開けて待つ棘くんに近づける。あれ、これもしかして私が食べさせる感じ? すぐに彼自身の手で取ってもらえばよかったと気づいたが、もう遅かった。どうしようと止まる私の手首を待ち切れなくなった棘くんが掴んで引き寄せ「ひぁ」指先にふにと柔らかな感触がして、思わず変な声が出てしまった。
「高菜?」
「な、なんでもない! 大丈夫! 味はどう?」
「しゃけ!」
「ならよかった」
おいしい! 最高! と棘くんからお墨付きをもらってホッとする。残りは冷蔵庫にしまってラッピングは明日にしようと思っていると、再びトントンと肩を叩かれた。
「すじこ」
「他の味も食べたいの?」
「しゃけ」
作ったのは王道のココアに、抹茶、苺、紅茶味。感想は気になると言えば気になるけれど、たくさん数があるわけではないし。うーんと悩む私に、棘くんはこてんと首を傾けた。
「いくら」
「うっ」
「明太子?」
私を見つめる、小動物みたいなつぶらな瞳。その目でお願い、どうしてもだめ? と強請られて、あまりの可愛さに思わず胸を押さえてその場に膝をつきそうになった。なんてあざとい! きっと、いや間違いなく棘くんは私がこういうのに弱いとわかってやっている。策士だ。そして私はそうとわかっていながらNOと言えないのだから、とことん可愛いものや仕草に弱い。
「これで最後だからね!」
棘くんにというよりは自分への念押しだった。
しかしどうぞと差し出した皿に棘くんは手を伸ばさず、じっと私を見つめるだけで。
「すじこ」
食べさせて、とぱかりと開いた口。その表情は可愛くて、且つ小悪魔的。
ふざけないでと怒るべきなのに、きゅんとしてしまった私は重症かもしれない。それか愛の弓矢を射るのはキューピッドではなく小悪魔だったか。
もう一個、と何度も強請る棘くんの要望を聞いていたら、いつの間にかトリュフはほとんどなくなっていて、とてもみんなに配れる分は残っていなかった。
ゆったりとしたスウェット姿でマスクをしている。
「こんな遅くにどうしたの?」
草木も眠る丑三つ時、とまではいかないけれど、こんな夜更けに食堂に現れる人はそういない。私は……色々やってたらこの時間になっちゃったんだけど。
私の質問に棘くんはにこりと笑みを返してきた。そしてそのままマスクを下げて、「あ」と大きく口を開ける。なるほど、目的はそれか。私が呆れたように息を吐くと、棘くんがいたずらっ子のように目尻を下げた。
食堂全体に立ち込める甘い香り。棘くんはどうやらそれに釣られてここにやって来たらしい。
「ちょっとだけだからね」
言うなり私は冷蔵庫から大皿を取り出し、ラップを外した。そこに並ぶのはころりとしたトリュフだ。大きさがまちまちなのは大目に見てほしい。
明日はバレンタイン。だからこっそり作ってみんなにサプライズしようと画策していたのに、まさか棘くんに見つかってしまうとは。
ココアパウダーのまぶされた一粒を指先で摘んで、雛鳥のように口を開けて待つ棘くんに近づける。あれ、これもしかして私が食べさせる感じ? すぐに彼自身の手で取ってもらえばよかったと気づいたが、もう遅かった。どうしようと止まる私の手首を待ち切れなくなった棘くんが掴んで引き寄せ「ひぁ」指先にふにと柔らかな感触がして、思わず変な声が出てしまった。
「高菜?」
「な、なんでもない! 大丈夫! 味はどう?」
「しゃけ!」
「ならよかった」
おいしい! 最高! と棘くんからお墨付きをもらってホッとする。残りは冷蔵庫にしまってラッピングは明日にしようと思っていると、再びトントンと肩を叩かれた。
「すじこ」
「他の味も食べたいの?」
「しゃけ」
作ったのは王道のココアに、抹茶、苺、紅茶味。感想は気になると言えば気になるけれど、たくさん数があるわけではないし。うーんと悩む私に、棘くんはこてんと首を傾けた。
「いくら」
「うっ」
「明太子?」
私を見つめる、小動物みたいなつぶらな瞳。その目でお願い、どうしてもだめ? と強請られて、あまりの可愛さに思わず胸を押さえてその場に膝をつきそうになった。なんてあざとい! きっと、いや間違いなく棘くんは私がこういうのに弱いとわかってやっている。策士だ。そして私はそうとわかっていながらNOと言えないのだから、とことん可愛いものや仕草に弱い。
「これで最後だからね!」
棘くんにというよりは自分への念押しだった。
しかしどうぞと差し出した皿に棘くんは手を伸ばさず、じっと私を見つめるだけで。
「すじこ」
食べさせて、とぱかりと開いた口。その表情は可愛くて、且つ小悪魔的。
ふざけないでと怒るべきなのに、きゅんとしてしまった私は重症かもしれない。それか愛の弓矢を射るのはキューピッドではなく小悪魔だったか。
もう一個、と何度も強請る棘くんの要望を聞いていたら、いつの間にかトリュフはほとんどなくなっていて、とてもみんなに配れる分は残っていなかった。