火鱗佐々木
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「ただいまー」
「おー、おかえり」
バイトを終えて帰宅すると、珍しいことに火鱗が玄関まで出迎えてくれた。それに驚いて目をぱちくりさせる私に、彼は少し不満げで。「なんだよ」続く言葉はきっと、俺が出迎えちゃ悪いかよ、だ。声に出さずともわかりやすく顔に書いてある。
「へへ、お出迎え嬉しいなって」
「……間抜け面」
「なんだとぉ⁈」
人がせっかく素直に喜んであげたのに。ポカポカと火鱗の胸を叩いて抗議するも、彼は余裕そうに笑うばかりで、全く効いていない気がする。それどころかぎゅっと鼻をつままれてしまい、私のほうがダメージ大だ。
「いつもより遅かったじゃん」
呻く私に火鱗の声が降ってくる。思いのほか静かな声だった。心なしか元気がないように思えて顔を上げると、赤い瞳が微かに揺れている。
「ごめん」
思わず口を出たのは何に対しての謝罪だろう。
心配かけてごめん。そんな顔をさせてごめん。
自分でも上手く言葉にしきれない思いを火鱗は「ん」と短い返事とともに受け取ってくれた。
「遅くなる時はちゃんと連絡しろよ。迎え行くから」
「うん、ありがと」
もう少し帰るのが遅かったら、火鱗は迎えに来るつもりだったのかもしれない。でなければ、こんな時間にわざわざランニング用のジャージを着たりしないだろう。それを言ったら「走るつもりだったんだよ」と言いかねないから黙っておくけど。
「ありがとね、火鱗」
リビングに向かおうとする背中に腕を回してもう一度お礼を言う。
「何回言うつもりだよ」
聞こえてきたのは火鱗の照れ臭そうな声。それがなんだかくすぐったくて、もうしばらくこうしていたくなる。
「私の気が済むまで?」
こてんと首を傾けていたずらっぽく言うと、火鱗が諦めたように溜息を吐いた。
「そういえばアイス買ってきたんだけど」
「やった! 嬉しい」
「お前がいっぱい買ってくるから冷凍庫入りきらなくて、何個か外に出しっぱなし」
「は⁈ 信じられないんだけど!」
アイスを溶かすなんて絶対にあってはならないことだ。ダッシュでリビングに飛び込むと、後ろで火鱗が呆れたように笑った気がした。
「バイト、忙しかったのか?」
「忙しかったけど、残業はしてないよ?」
程よい固さになったアイスをスプーンですくう。カップアイスはこのくらいの固さが一番美味しい。溢れ落ちそうなほどすくったバニラアイスをぱくりと頬張ったところで「じゃあどこほっつき歩いてたんだよ」と火鱗が訊いてきた。
「すっごく人懐っこい猫ちゃんがいてね」
「は? 猫?」
「擦り寄ってきて離してくれなかったんだよ。お腹まで見せられたら、撫でるしかなくない?」
夜道で出会った可愛いあの子。全然逃げないからつい時間を忘れて撫でてしまった。首輪はしていなかったけれど、野良猫だろうか。それにしては人懐っこかった気も……。
少し前の出来事に思いを馳せていると、いつの間にか私の手元からアイスが消えていた。代わりに見覚えのあるカップが何故か火鱗の手に。
「あの……火鱗さん?」
「お前、今日のこともうちょっと反省しろ」
「し、したよ。今度からはちゃんと連絡するって……」
「バイト終わりは真っ直ぐ帰って来い!」
そう言うなり火鱗は大きく口を開け、そこにバニラアイスを放り込んだ。「ああっ!」私のアイスはみるみる火鱗の口の中へと消えていった。そしてそのまま私が何を言ってもアイスが返ってくることはなく、カップの残りは全部彼に食べられてしまったのだった。
「おー、おかえり」
バイトを終えて帰宅すると、珍しいことに火鱗が玄関まで出迎えてくれた。それに驚いて目をぱちくりさせる私に、彼は少し不満げで。「なんだよ」続く言葉はきっと、俺が出迎えちゃ悪いかよ、だ。声に出さずともわかりやすく顔に書いてある。
「へへ、お出迎え嬉しいなって」
「……間抜け面」
「なんだとぉ⁈」
人がせっかく素直に喜んであげたのに。ポカポカと火鱗の胸を叩いて抗議するも、彼は余裕そうに笑うばかりで、全く効いていない気がする。それどころかぎゅっと鼻をつままれてしまい、私のほうがダメージ大だ。
「いつもより遅かったじゃん」
呻く私に火鱗の声が降ってくる。思いのほか静かな声だった。心なしか元気がないように思えて顔を上げると、赤い瞳が微かに揺れている。
「ごめん」
思わず口を出たのは何に対しての謝罪だろう。
心配かけてごめん。そんな顔をさせてごめん。
自分でも上手く言葉にしきれない思いを火鱗は「ん」と短い返事とともに受け取ってくれた。
「遅くなる時はちゃんと連絡しろよ。迎え行くから」
「うん、ありがと」
もう少し帰るのが遅かったら、火鱗は迎えに来るつもりだったのかもしれない。でなければ、こんな時間にわざわざランニング用のジャージを着たりしないだろう。それを言ったら「走るつもりだったんだよ」と言いかねないから黙っておくけど。
「ありがとね、火鱗」
リビングに向かおうとする背中に腕を回してもう一度お礼を言う。
「何回言うつもりだよ」
聞こえてきたのは火鱗の照れ臭そうな声。それがなんだかくすぐったくて、もうしばらくこうしていたくなる。
「私の気が済むまで?」
こてんと首を傾けていたずらっぽく言うと、火鱗が諦めたように溜息を吐いた。
「そういえばアイス買ってきたんだけど」
「やった! 嬉しい」
「お前がいっぱい買ってくるから冷凍庫入りきらなくて、何個か外に出しっぱなし」
「は⁈ 信じられないんだけど!」
アイスを溶かすなんて絶対にあってはならないことだ。ダッシュでリビングに飛び込むと、後ろで火鱗が呆れたように笑った気がした。
「バイト、忙しかったのか?」
「忙しかったけど、残業はしてないよ?」
程よい固さになったアイスをスプーンですくう。カップアイスはこのくらいの固さが一番美味しい。溢れ落ちそうなほどすくったバニラアイスをぱくりと頬張ったところで「じゃあどこほっつき歩いてたんだよ」と火鱗が訊いてきた。
「すっごく人懐っこい猫ちゃんがいてね」
「は? 猫?」
「擦り寄ってきて離してくれなかったんだよ。お腹まで見せられたら、撫でるしかなくない?」
夜道で出会った可愛いあの子。全然逃げないからつい時間を忘れて撫でてしまった。首輪はしていなかったけれど、野良猫だろうか。それにしては人懐っこかった気も……。
少し前の出来事に思いを馳せていると、いつの間にか私の手元からアイスが消えていた。代わりに見覚えのあるカップが何故か火鱗の手に。
「あの……火鱗さん?」
「お前、今日のこともうちょっと反省しろ」
「し、したよ。今度からはちゃんと連絡するって……」
「バイト終わりは真っ直ぐ帰って来い!」
そう言うなり火鱗は大きく口を開け、そこにバニラアイスを放り込んだ。「ああっ!」私のアイスはみるみる火鱗の口の中へと消えていった。そしてそのまま私が何を言ってもアイスが返ってくることはなく、カップの残りは全部彼に食べられてしまったのだった。