火鱗佐々木
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四月も終わりだというのにその日はやたらと肌寒くて、隣を歩くあいつがいつもより近い距離にいた。
「寒っ!」
「おい、俺を風よけにすんなよ」
「えー、だって寒いんだもん」
言いながらあいつがぴたりとくっついてくる。俺の腕に細腕を絡ませて来られると身体も当然近付いて来て、何というか、その、色々と……当たってしまっている。
恋人同士なのだから腕を組んで歩くなんてのはごく自然なことで、決してやましいことをしているわけではない。でもこれだけ近いと意識せずにはいられなくて、俺の心はどうしてもやましいことを考えてしまう。
「……あんまくっつくなって。歩きにくいだろ」
あいつから顔を逸らして、必死に湧き上がる邪念を頭の隅に追いやる。けどあいつは俺のことなど知ったことかと、さらに身体を密着させてきた。
「何よケチケチしちゃって。火鱗のほうが体温高いんだし、これくらい別にいいでしょ」
よくねーよ。お前にとってはこれくらいのことでも、俺にとっては結構ギリギリなんだよ。
そう、言えてしまえたらどんなにいいか。でもさすがにダサすぎる。
俺はくっついて離れようとしない恋人を遠ざけるのを諦めて、目的地に急ぐことにした。行き先は映画館。空調の効いた室内に入ってしまえば勝手に離れて行くはずだ。
信号待ちをしていると強い風が吹いて、あいつのスカートがハタハタと揺れた。歩いている時はそうでもないが、止まっていると俺でも肌寒いと感じるような日だった。ちらりと視線を落とすとあいつは俺よりも寒そうで、少しでも風に当たる面積を狭くしたいのかぎゅっと身を縮めている。
「お前さ、何でそんな格好で来たの?」
俺の問いかけにあいつはきょとんとした顔で見上げてきた。
薄色のデニムジャケットに花柄のワンピース。女物の服のことはさっぱりわからないが、周りを見る限り、上着だけでももっと厚手のものを着てくるべきだったんじゃないかと思う。
「変?」
「変じゃねぇけど」
「じゃあかわいい?」
「はぁ⁈」
にまにまとあいつが俺を見てくる。何でそんなこと言わないといけねぇんだよ。絶対に言うものか、と思うのにあいつは「早く早く」と目で訴えてきて、俺はその訴えを退けられた試しがない。
「……まあ、いいんじゃね」
可愛い、と素直に言ってやれなかった。なのにあいつはパァっと目を輝かせて「やった」と小さくガッツポーズをしていた。
「覚えてないかもだけど、これ前に火鱗と買い物に行った時に買った服なんだよ。あの時火鱗が似合ってるって言ってくれたから早く見せたくて」
へへっとあいつがはにかんで、ぎゅっと腕を組み直してくる。
信号が青に変わって、周りが一斉に歩き出した。俺たち二人をその場に残して。
「火鱗?」
なかなか歩き出さない俺をあいつが不思議そうに覗き込んできた。そのまま抱きしめてしまいたい衝動に駆られて、これ以上は、ダメだ。もう限界。
「なあ。さっきも言ったけど、頼むからあんましくっつかないで」
「ごめん、嫌だった?」
「違ぇよ。俺が限界なの。このまま家に連れ帰りたくなる」
うっかり一緒に零してしまった「可愛すぎて」という言葉はあいつの耳にも届いたらしい。あれだけ寒い寒いと言ってたのに、茹で蛸みたいに真っ赤になっている。
「じ、冗談だよ、冗談! ほら早く行かねーと、お前の観たかった映画始まるぞ」
カチコチに固まってしまったあいつの手を引いて、点滅し始めた信号が赤になる前に渡りきる。そんなに長い距離じゃないのに俺もあいつも息を切らしていて、顔の熱も一向に引いてくれない。この熱を早いとこ冷ましたかった。映画を見る前にジュースを買う時間くらいあるだろうか。予告なら観れなくてもいいかと時間を確認していると、肩で息をしていたあいつがくいと繋いだままの手を引っ張ってきた。
「……よ」
「は? 何」
「映画、終わった後だったらいいよ」
その一言に思わずごくりと唾を飲んでしまった。
あーあ、オグンに映画どうだったか教えてくれって言われてたのに。
内容は何一つ頭に入ってこなくて、とりあえず、クソ長かった、とだけ言っておくか。
「寒っ!」
「おい、俺を風よけにすんなよ」
「えー、だって寒いんだもん」
言いながらあいつがぴたりとくっついてくる。俺の腕に細腕を絡ませて来られると身体も当然近付いて来て、何というか、その、色々と……当たってしまっている。
恋人同士なのだから腕を組んで歩くなんてのはごく自然なことで、決してやましいことをしているわけではない。でもこれだけ近いと意識せずにはいられなくて、俺の心はどうしてもやましいことを考えてしまう。
「……あんまくっつくなって。歩きにくいだろ」
あいつから顔を逸らして、必死に湧き上がる邪念を頭の隅に追いやる。けどあいつは俺のことなど知ったことかと、さらに身体を密着させてきた。
「何よケチケチしちゃって。火鱗のほうが体温高いんだし、これくらい別にいいでしょ」
よくねーよ。お前にとってはこれくらいのことでも、俺にとっては結構ギリギリなんだよ。
そう、言えてしまえたらどんなにいいか。でもさすがにダサすぎる。
俺はくっついて離れようとしない恋人を遠ざけるのを諦めて、目的地に急ぐことにした。行き先は映画館。空調の効いた室内に入ってしまえば勝手に離れて行くはずだ。
信号待ちをしていると強い風が吹いて、あいつのスカートがハタハタと揺れた。歩いている時はそうでもないが、止まっていると俺でも肌寒いと感じるような日だった。ちらりと視線を落とすとあいつは俺よりも寒そうで、少しでも風に当たる面積を狭くしたいのかぎゅっと身を縮めている。
「お前さ、何でそんな格好で来たの?」
俺の問いかけにあいつはきょとんとした顔で見上げてきた。
薄色のデニムジャケットに花柄のワンピース。女物の服のことはさっぱりわからないが、周りを見る限り、上着だけでももっと厚手のものを着てくるべきだったんじゃないかと思う。
「変?」
「変じゃねぇけど」
「じゃあかわいい?」
「はぁ⁈」
にまにまとあいつが俺を見てくる。何でそんなこと言わないといけねぇんだよ。絶対に言うものか、と思うのにあいつは「早く早く」と目で訴えてきて、俺はその訴えを退けられた試しがない。
「……まあ、いいんじゃね」
可愛い、と素直に言ってやれなかった。なのにあいつはパァっと目を輝かせて「やった」と小さくガッツポーズをしていた。
「覚えてないかもだけど、これ前に火鱗と買い物に行った時に買った服なんだよ。あの時火鱗が似合ってるって言ってくれたから早く見せたくて」
へへっとあいつがはにかんで、ぎゅっと腕を組み直してくる。
信号が青に変わって、周りが一斉に歩き出した。俺たち二人をその場に残して。
「火鱗?」
なかなか歩き出さない俺をあいつが不思議そうに覗き込んできた。そのまま抱きしめてしまいたい衝動に駆られて、これ以上は、ダメだ。もう限界。
「なあ。さっきも言ったけど、頼むからあんましくっつかないで」
「ごめん、嫌だった?」
「違ぇよ。俺が限界なの。このまま家に連れ帰りたくなる」
うっかり一緒に零してしまった「可愛すぎて」という言葉はあいつの耳にも届いたらしい。あれだけ寒い寒いと言ってたのに、茹で蛸みたいに真っ赤になっている。
「じ、冗談だよ、冗談! ほら早く行かねーと、お前の観たかった映画始まるぞ」
カチコチに固まってしまったあいつの手を引いて、点滅し始めた信号が赤になる前に渡りきる。そんなに長い距離じゃないのに俺もあいつも息を切らしていて、顔の熱も一向に引いてくれない。この熱を早いとこ冷ましたかった。映画を見る前にジュースを買う時間くらいあるだろうか。予告なら観れなくてもいいかと時間を確認していると、肩で息をしていたあいつがくいと繋いだままの手を引っ張ってきた。
「……よ」
「は? 何」
「映画、終わった後だったらいいよ」
その一言に思わずごくりと唾を飲んでしまった。
あーあ、オグンに映画どうだったか教えてくれって言われてたのに。
内容は何一つ頭に入ってこなくて、とりあえず、クソ長かった、とだけ言っておくか。