火鱗佐々木
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「なまえ!」
街中で私を呼ぶ声がした。
振り返るとそこにいたのは幼馴染の火鱗で、ランニングでもしてたのか、大きく肩が揺れていた。
「おー、火鱗。久々じゃん。てかよく私ってわかったね」
会うのは多分、五年ぶりくらい。火鱗は特殊消防隊の仕事が忙しいらしく、成人式にも来なかった。
背、伸びたなぁ。身体つきも消防隊で鍛えているだけあって、だいぶがっしりしたように見える。中学の時と比べれば当然かもだけど。
「もう、カッコよくなっちゃって」
昔のノリで茶化すようにバシバシと彼を叩くと、ぱしりとその手を掴まれた。ぐっと力が込められて息を呑む。見上げた先の彼は、静かに眉間に皺を寄せていて、なんだか怖い人に見えた。
馴れ馴れしくしすぎて怒らせてしまったのかもしれない。長い時間会わなくても、火鱗となら大丈夫だと、昔と同じように笑い合えるものだと、そう思い込んでいた。
あれから五年。それだけあれば人は変わる。見た目だけじゃなく中身も、関わり方も。
五年も変わらないことなんて、ないに決まってるのに。私は何を期待してたんだろう。
昔と同じではいられない。でも火鱗との関係が完全になくなるのは嫌だ。わがままは百も承知だけど、謝ればまだ間に合うだろうか。
「ごめ……」
「お前、結婚すんの⁈」
私の声をかき消して耳に届いた声に目を丸くする。けっこん? 結婚⁈ 私が⁈
「しないよ! するわけないじゃん!」
「だってお前が結婚式場に入っていくのを見たって中学の奴らが」
「それは、新しいバイト先で……」
「は?」
確かに何度も足を運んでいるけれど、正確には裏口から、一人で、だ。
「今も行く途中なんだけど」
「は、はは。なんだ、バイト先かよ」
私の手を掴んだまま、火鱗がずるずると力なくその場にしゃがみ込んだ。笑って、「はー」と長い溜め息を吐いて、「そっか。バイト先かー」と独り言を言っている。
「なら、よかった」
再び顔を上げた火鱗の真っ直ぐな目に一瞬どきりとした。よいせ、と立ち上がった彼はもう怖くなんかなくて、その顔には昔と同じ笑顔が浮かんでいた。
「ねえ、何がよかった、なの?」
「気になんの?」
「なるよ。だから教えてよ」
「別にいいけど」
くい、と手を引かれて火鱗との距離が一気に縮まる。熱のこもった赤い視線が私を射抜いて、息の仕方を忘れてしまったみたいに動けなくなる。でも心臓だけはうるさいくらいに速くて、壊れてしまいそうだった。
「俺、逃がす気ねェけど。いいの?」
その一言は火鱗からの宣戦布告。
私だってその言葉の意味がわからないほど子どもじゃない。五年あれば、中学生も大人になる。
ここで頷いたらきっと、私の望む、かつての関係にはもう戻れない。それでも、私はーー。
こくり、と小さく頷くと、火鱗がきゅっと唇を引き結んだ。次にその口が開いたら、私と彼の『幼馴染』という関係は終わってしまう。
正直に言うと、すごく怖い。でも火鱗となら大丈夫だと、不思議とそう思えた。
街中で私を呼ぶ声がした。
振り返るとそこにいたのは幼馴染の火鱗で、ランニングでもしてたのか、大きく肩が揺れていた。
「おー、火鱗。久々じゃん。てかよく私ってわかったね」
会うのは多分、五年ぶりくらい。火鱗は特殊消防隊の仕事が忙しいらしく、成人式にも来なかった。
背、伸びたなぁ。身体つきも消防隊で鍛えているだけあって、だいぶがっしりしたように見える。中学の時と比べれば当然かもだけど。
「もう、カッコよくなっちゃって」
昔のノリで茶化すようにバシバシと彼を叩くと、ぱしりとその手を掴まれた。ぐっと力が込められて息を呑む。見上げた先の彼は、静かに眉間に皺を寄せていて、なんだか怖い人に見えた。
馴れ馴れしくしすぎて怒らせてしまったのかもしれない。長い時間会わなくても、火鱗となら大丈夫だと、昔と同じように笑い合えるものだと、そう思い込んでいた。
あれから五年。それだけあれば人は変わる。見た目だけじゃなく中身も、関わり方も。
五年も変わらないことなんて、ないに決まってるのに。私は何を期待してたんだろう。
昔と同じではいられない。でも火鱗との関係が完全になくなるのは嫌だ。わがままは百も承知だけど、謝ればまだ間に合うだろうか。
「ごめ……」
「お前、結婚すんの⁈」
私の声をかき消して耳に届いた声に目を丸くする。けっこん? 結婚⁈ 私が⁈
「しないよ! するわけないじゃん!」
「だってお前が結婚式場に入っていくのを見たって中学の奴らが」
「それは、新しいバイト先で……」
「は?」
確かに何度も足を運んでいるけれど、正確には裏口から、一人で、だ。
「今も行く途中なんだけど」
「は、はは。なんだ、バイト先かよ」
私の手を掴んだまま、火鱗がずるずると力なくその場にしゃがみ込んだ。笑って、「はー」と長い溜め息を吐いて、「そっか。バイト先かー」と独り言を言っている。
「なら、よかった」
再び顔を上げた火鱗の真っ直ぐな目に一瞬どきりとした。よいせ、と立ち上がった彼はもう怖くなんかなくて、その顔には昔と同じ笑顔が浮かんでいた。
「ねえ、何がよかった、なの?」
「気になんの?」
「なるよ。だから教えてよ」
「別にいいけど」
くい、と手を引かれて火鱗との距離が一気に縮まる。熱のこもった赤い視線が私を射抜いて、息の仕方を忘れてしまったみたいに動けなくなる。でも心臓だけはうるさいくらいに速くて、壊れてしまいそうだった。
「俺、逃がす気ねェけど。いいの?」
その一言は火鱗からの宣戦布告。
私だってその言葉の意味がわからないほど子どもじゃない。五年あれば、中学生も大人になる。
ここで頷いたらきっと、私の望む、かつての関係にはもう戻れない。それでも、私はーー。
こくり、と小さく頷くと、火鱗がきゅっと唇を引き結んだ。次にその口が開いたら、私と彼の『幼馴染』という関係は終わってしまう。
正直に言うと、すごく怖い。でも火鱗となら大丈夫だと、不思議とそう思えた。