火鱗佐々木
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「お疲れ様でした。良いお年を!」
まだ残っている店長たちに挨拶をして、裏口から店を出た。
吐いた息は白く夜空に靄をかけて、冬の空気につんと鼻の奥が痛む。
年の瀬だなぁ。
この時間帯というのもあるが、行き交う人々の少なさに、物寂しい街の雰囲気に、今年ももう終わるのだと実感する。私も今日でバイト納め。あとは適当に掃除でもして新しい年を迎えるだけだ。
ぴゅうと吹いた冷たい風に身体が震える。早く帰ろ。寒さから逃げるようにマフラーに顔を埋め、手袋をした両手をさらにコートのポケットに突っ込む。
灯りのまばらな道を足早に進むと「おい」と聞き覚えのある声がした。
「やる」
振り向くと同時に、こちらに向かって何かが投げられる。それは綺麗な放物線を描いて飛んで来て、けれど私のところまでは届きそうになく。気付けば手を伸ばして、慌てて一歩前に出ていた。
「あっぶな!」
「おー、ナイスキャッチ」
腕の中に飛び込んで来たのはホットココアの缶だった。私の好きなやつ。手袋越しでもあたたかくてぎゅっと両手で握りしめる。
「ナイスキャッチ、じゃないし。ヘタクソ火鱗!」
「うっせ」
文句を言えば隣にやって来た彼にがしがしと髪をかき混ぜられた。バイト上がりで綺麗でもなかったけれど、きっと笑えるくらいぐしゃぐしゃになった。
「ねぇ、なんでいるの?」
「ランニングに決まってんだろ」
「こんな時間に?」
「悪ィかよ」
「別に悪くはないけど。最近シフト遅い日によく会うなと思ってさ」
「そうだっけか? たまたまだろ。たまたま」
そう言って火鱗が鼻をすすった。
偶々、ね。
すっかり冷え切って鼻の頭が赤くなってるのも、ココアが買ったばかりみたいにあたたかいのも、いつもより三十分以上残業したのに出会えたことも。彼が頑なに「たまたま」と言うのなら、そういうことにしておいてあげよう。
「そういえば今日でバイト納めなんだ」
「あっそ。お疲れ」
「あ」
「どうした?」
「開かない。開けて火鱗」
「え。なに急に非力ぶってんの」
「うっさい。手袋のせいで開かなかっただけですー」
カシュ、と小気味いい音とともにココアの甘い香りと白い湯気が隣から漂ってくる。
「ほらよ」
「ん。ありがと」
年の瀬というものは、どことなく物寂しい。
けれど、彼のくれたココアは甘くてあたたかくて、そんな寂しさを溶かすように、すっと私の心に染み込んでいくのだった。
まだ残っている店長たちに挨拶をして、裏口から店を出た。
吐いた息は白く夜空に靄をかけて、冬の空気につんと鼻の奥が痛む。
年の瀬だなぁ。
この時間帯というのもあるが、行き交う人々の少なさに、物寂しい街の雰囲気に、今年ももう終わるのだと実感する。私も今日でバイト納め。あとは適当に掃除でもして新しい年を迎えるだけだ。
ぴゅうと吹いた冷たい風に身体が震える。早く帰ろ。寒さから逃げるようにマフラーに顔を埋め、手袋をした両手をさらにコートのポケットに突っ込む。
灯りのまばらな道を足早に進むと「おい」と聞き覚えのある声がした。
「やる」
振り向くと同時に、こちらに向かって何かが投げられる。それは綺麗な放物線を描いて飛んで来て、けれど私のところまでは届きそうになく。気付けば手を伸ばして、慌てて一歩前に出ていた。
「あっぶな!」
「おー、ナイスキャッチ」
腕の中に飛び込んで来たのはホットココアの缶だった。私の好きなやつ。手袋越しでもあたたかくてぎゅっと両手で握りしめる。
「ナイスキャッチ、じゃないし。ヘタクソ火鱗!」
「うっせ」
文句を言えば隣にやって来た彼にがしがしと髪をかき混ぜられた。バイト上がりで綺麗でもなかったけれど、きっと笑えるくらいぐしゃぐしゃになった。
「ねぇ、なんでいるの?」
「ランニングに決まってんだろ」
「こんな時間に?」
「悪ィかよ」
「別に悪くはないけど。最近シフト遅い日によく会うなと思ってさ」
「そうだっけか? たまたまだろ。たまたま」
そう言って火鱗が鼻をすすった。
偶々、ね。
すっかり冷え切って鼻の頭が赤くなってるのも、ココアが買ったばかりみたいにあたたかいのも、いつもより三十分以上残業したのに出会えたことも。彼が頑なに「たまたま」と言うのなら、そういうことにしておいてあげよう。
「そういえば今日でバイト納めなんだ」
「あっそ。お疲れ」
「あ」
「どうした?」
「開かない。開けて火鱗」
「え。なに急に非力ぶってんの」
「うっさい。手袋のせいで開かなかっただけですー」
カシュ、と小気味いい音とともにココアの甘い香りと白い湯気が隣から漂ってくる。
「ほらよ」
「ん。ありがと」
年の瀬というものは、どことなく物寂しい。
けれど、彼のくれたココアは甘くてあたたかくて、そんな寂しさを溶かすように、すっと私の心に染み込んでいくのだった。
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