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鏡台の前に並べたのは本日の戦利品たち。この秋発売したばかりのマニキュアの新色にリップ、アイシャドウまで新調してしまった。
リップに至ってはなかなか減らないのに気づいたら三本も買っていて。私の口はひとつしかないのにどうやって使い切ろうと頭を抱えている。もう一人、二人私がいれば、もっとたくさん色んなメイクを楽しめるのに。
とはいえ、叶わないことを望んだって仕方がない。私は買ったばかりのリップの内のひとつを手に取った。人間に分裂は不可能。でも毎日使うことならできる。
仕事の日も、気合いを入れて外出する日も、ちょっと近くのコンビニに行くだけの日も。なんなら家から一歩も出ない日だって、メイクしたっていいんだから。
とりあえず今日のところは試し塗り。買ってきたばかりの化粧品を初めて使うこの瞬間はいつだってわくわくする。
鏡の中の自分に向き合いながら、さっとくすみピンクのリップを唇に乗せた。それから色を馴染ませて、何度か角度を変えながら鏡を見つめる。
ーーうん、かわいい。
夏のような鮮やかさはないけれど、上品で落ち着いた色合いは可愛らしくてそれだけで目を惹く。どんな服装にも合いそうだし、普段使いもしやすそうだ。プチプラでこれなら文句なしのお値段以上。いい買い物をした。
さて、お次は。一旦塗ったばかりのリップを落とし、残る二本へと手を伸ばす。掴んだのはシックな黒いパッケージのリップだ。こちらはプチプラではなく有名ブランド店の少しお高めのもの。一時期このお店のリップ持っていると恋が叶うなんてジンクスがあってなかなか手に入らなかったけれど、そのジンクスを抜きにしても一本は持っておきたいリップだ。
色は秋らしく落ち着いた、それでいて色気のあるボルドー。塗ってみると心なしか鏡の中の自分がいつもより大人っぽく見えた。私にはちょっと大人っぽすぎ? いやでもこの前買ったタイトスカートとブーツには合うかも。髪型もおろすか緩く巻いて……。
そんな時、ふと視線を感じて顔を上げた。ぱちり、と鏡越しに視線が絡む。一体いつからそこにいたのか、顔を顰める私に赤い瞳が楽しげに笑った。
「チリ、いたなら声かけてよ」
それかせめて、気配くらいは出してほしい。一人でルンルンでメイクしていたのをずっと見られてたと思うと恥ずかしくて堪らない。
けれどチリは悪びれた様子もなく言った。
「いやー、お楽しみのとこ邪魔したらあかんと思てな」
拗ねた子どものようにツンとそっぽを向く私の肩に、チリの手が置かれる。
「お嬢さん、そないおめかししてどこ行くん?」
手袋をつけていない指先があやすように頬を撫でた。
「どこも。せっかく色々買ったから試してるだけ」
「ほーん。な、こっち向いてや。チリちゃんにもっとよう見せて」
「……」
こういう時にねだるような声音で言うのはずるいと思う。それか、私がチリに甘いだけか。どちらにせよ反発する気にはなれなくて、私はゆっくりとチリの方へと顔を向けた。
「ど、どう?」
じぃっとチリの視線が私に注がれる。それから顎をくっと持ち上げられた。恐らくよく見るために。けれどまるでキスする直前みたいに思えて心臓が大袈裟に跳ねた。どうかチリにはバレませんように。思わず逃げ出したくなるのをなんとか我慢していると「うん、よう似合うとる」と甘やかな囁きが降ってきた。
またドキリと心臓が鳴る。
「そ、そうだ! チリも試してみない?」
このままだとドキドキしているのを指摘されるのも時間の問題だ。私は誤魔化すように鏡台へと手を伸ばし、今つけているボルドーのリップを取った。
チリのメイクは基本シンプルだ。でもたまにはこういうメイクをしてもいいと思う。この色は私よりもずっと大人っぽくてかっこいいチリに似合うだろうし、正直に言えば普段とは違うメイクをしたチリを見てみたい。
そんな私の提案を、チリは「ええよ」と二つ返事で了承した。もっと渋るかと思ったけど、意外とあっさり受け入れられて少し驚く。
「で、チリちゃんはどれ試したらええの?」
「えっとこのボルドーの、私の同じのを……」
「ん、了解了解。おんなじの、つければええんやな」
ニッと、チリが笑った時に私は気づくべきだった。あれはチリが悪巧みをしてる時の顔。けれど一瞬反応の遅れた私は、ぐっと顔を近づけてきたチリにあっという間に口を塞がれてしまった。
「んっ、」
何度も何度も啄むようなキスが降ってくる。抵抗するようにチリを押し返すと、それが癇に障ったのか逆にきつく隙間なく抱きしめられた。苦しい。頭がくらくらする。キスの合間、チリがわざとらしく私の弱いところを指先でなぞっていくせいで、意に反して力が抜けていく。
呼吸がままならなくて、熱を逃したくて口を開く。けれど、それだけ。チリはただ、目を細めて唇を落とすだけだった。
もう、無理。言葉の代わりにチリのシャツに皺を作ると、満足げに微笑んだ彼女がゆっくりと離れていった。
「どう? 似合う?」
見れば意地悪く弧を描く薄い唇に、私と同じボルドーが滲んでいた。それは私がつけた時以上に色っぽさを増していて、続きを急かしたくなるくらいには、チリによく似合っていた。
リップに至ってはなかなか減らないのに気づいたら三本も買っていて。私の口はひとつしかないのにどうやって使い切ろうと頭を抱えている。もう一人、二人私がいれば、もっとたくさん色んなメイクを楽しめるのに。
とはいえ、叶わないことを望んだって仕方がない。私は買ったばかりのリップの内のひとつを手に取った。人間に分裂は不可能。でも毎日使うことならできる。
仕事の日も、気合いを入れて外出する日も、ちょっと近くのコンビニに行くだけの日も。なんなら家から一歩も出ない日だって、メイクしたっていいんだから。
とりあえず今日のところは試し塗り。買ってきたばかりの化粧品を初めて使うこの瞬間はいつだってわくわくする。
鏡の中の自分に向き合いながら、さっとくすみピンクのリップを唇に乗せた。それから色を馴染ませて、何度か角度を変えながら鏡を見つめる。
ーーうん、かわいい。
夏のような鮮やかさはないけれど、上品で落ち着いた色合いは可愛らしくてそれだけで目を惹く。どんな服装にも合いそうだし、普段使いもしやすそうだ。プチプラでこれなら文句なしのお値段以上。いい買い物をした。
さて、お次は。一旦塗ったばかりのリップを落とし、残る二本へと手を伸ばす。掴んだのはシックな黒いパッケージのリップだ。こちらはプチプラではなく有名ブランド店の少しお高めのもの。一時期このお店のリップ持っていると恋が叶うなんてジンクスがあってなかなか手に入らなかったけれど、そのジンクスを抜きにしても一本は持っておきたいリップだ。
色は秋らしく落ち着いた、それでいて色気のあるボルドー。塗ってみると心なしか鏡の中の自分がいつもより大人っぽく見えた。私にはちょっと大人っぽすぎ? いやでもこの前買ったタイトスカートとブーツには合うかも。髪型もおろすか緩く巻いて……。
そんな時、ふと視線を感じて顔を上げた。ぱちり、と鏡越しに視線が絡む。一体いつからそこにいたのか、顔を顰める私に赤い瞳が楽しげに笑った。
「チリ、いたなら声かけてよ」
それかせめて、気配くらいは出してほしい。一人でルンルンでメイクしていたのをずっと見られてたと思うと恥ずかしくて堪らない。
けれどチリは悪びれた様子もなく言った。
「いやー、お楽しみのとこ邪魔したらあかんと思てな」
拗ねた子どものようにツンとそっぽを向く私の肩に、チリの手が置かれる。
「お嬢さん、そないおめかししてどこ行くん?」
手袋をつけていない指先があやすように頬を撫でた。
「どこも。せっかく色々買ったから試してるだけ」
「ほーん。な、こっち向いてや。チリちゃんにもっとよう見せて」
「……」
こういう時にねだるような声音で言うのはずるいと思う。それか、私がチリに甘いだけか。どちらにせよ反発する気にはなれなくて、私はゆっくりとチリの方へと顔を向けた。
「ど、どう?」
じぃっとチリの視線が私に注がれる。それから顎をくっと持ち上げられた。恐らくよく見るために。けれどまるでキスする直前みたいに思えて心臓が大袈裟に跳ねた。どうかチリにはバレませんように。思わず逃げ出したくなるのをなんとか我慢していると「うん、よう似合うとる」と甘やかな囁きが降ってきた。
またドキリと心臓が鳴る。
「そ、そうだ! チリも試してみない?」
このままだとドキドキしているのを指摘されるのも時間の問題だ。私は誤魔化すように鏡台へと手を伸ばし、今つけているボルドーのリップを取った。
チリのメイクは基本シンプルだ。でもたまにはこういうメイクをしてもいいと思う。この色は私よりもずっと大人っぽくてかっこいいチリに似合うだろうし、正直に言えば普段とは違うメイクをしたチリを見てみたい。
そんな私の提案を、チリは「ええよ」と二つ返事で了承した。もっと渋るかと思ったけど、意外とあっさり受け入れられて少し驚く。
「で、チリちゃんはどれ試したらええの?」
「えっとこのボルドーの、私の同じのを……」
「ん、了解了解。おんなじの、つければええんやな」
ニッと、チリが笑った時に私は気づくべきだった。あれはチリが悪巧みをしてる時の顔。けれど一瞬反応の遅れた私は、ぐっと顔を近づけてきたチリにあっという間に口を塞がれてしまった。
「んっ、」
何度も何度も啄むようなキスが降ってくる。抵抗するようにチリを押し返すと、それが癇に障ったのか逆にきつく隙間なく抱きしめられた。苦しい。頭がくらくらする。キスの合間、チリがわざとらしく私の弱いところを指先でなぞっていくせいで、意に反して力が抜けていく。
呼吸がままならなくて、熱を逃したくて口を開く。けれど、それだけ。チリはただ、目を細めて唇を落とすだけだった。
もう、無理。言葉の代わりにチリのシャツに皺を作ると、満足げに微笑んだ彼女がゆっくりと離れていった。
「どう? 似合う?」
見れば意地悪く弧を描く薄い唇に、私と同じボルドーが滲んでいた。それは私がつけた時以上に色っぽさを増していて、続きを急かしたくなるくらいには、チリによく似合っていた。