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ズズッと蕎麦を啜って、ほぅと満足の息をつく。時刻は午後二時近く。やっとありつけた昼食に、胃が、心が満たされていく。
ーーやっぱり、疲れた時は宝食堂のかけそばに限るな。
蕎麦を啜りながら一人納得し、昆布と鰹出汁の効いたおつゆまでしっかりと味わう。その最中、ちらりと隣を見ればしみじみとおにぎりを噛み締めるアオキさんが目に入った。
「今日は朝から大変でしたね」
私の言葉にアオキさんが静かに頷く。
「はい、本当に」
その声には微かに疲れが滲んでいた。無理もない。受付をしている私でさえこんなにクタクタなのだから、ジムリーダーともなればその疲労も相当なものだろう。それに彼はサラリーマンにジムリーダー等、色々と兼任しているし。
ここ数日、チャンプルジムを訪れるトレーナーがどっと増えた。特に多いのが学生で、「戦ろう! アオキさん」とネモちゃんが受付に飛び込んできたのは記憶に新しい。彼女の話によるとアカデミー恒例の課外授業が始まったようで、この忙しさはもうしばらく続きそうだ。
今日も朝から多くのトレーナーたちがジムに挑戦しにやって来て、ジムテストに合格したのがその内の半数以下。ジムリーダーであるアオキさんはそんな彼らと順にバトルをし、全員を打ち負かした。今日の合格者は、今のところまだいない。
ちょうど人の出入りが途切れたところで昼休憩に入ったのだけど、さすがのアオキさんも連戦に次ぐ連戦で参って……というよりは、空腹に耐えきれず参っているようだった。バトルが終わるや否やカウンター席に向かい山盛りおにぎりを注文していた時はさすがに笑ってしまった。
「背と腹がくっつくかと思いました」
もぐ、とラスト一個のおにぎりを咀嚼しながら深刻そうな顔でアオキさんが呟く。細身の彼が食事を抜いたら、確かにくっついてしまいそうではある。でもこの人、山ほどあったおにぎりを全部平らげてるんだよなあ。一体この薄い身体のどこに収まっているのか、不思議で仕方がない。もしかしていくら食べても太らない体質とか? 食べたら食べた分だけ太る私からしたら羨ましい限りだ。
「あ」
「どうしました?」
「アオキさん、今お腹何分目くらいですか?」
私の質問にアオキさんがコテッと首を傾ける。それから何か考えるような表情でお腹を摩り、「五分目、ですかね」と返ってくる。
「この後も挑戦者が来るかもしれないので、食べすぎないようセーブしておきました」
まさかあの量を食べて腹五分目、しかも彼的には控えたつもりだったとは。でもこれならいけるかもしれない。
「あの、アオキさん。お願いがあるんですけど」
「はあ。内容にもよりますが、自分にできることでしたら」
「無理なら無理で大丈夫です。実は私、ずっと前からアレが食べてみたくて……」
「ああ、アレですか」
ここ宝食堂の常連でもあるアオキさんは「アレ」で全てを察してくれたらしい。そう、私が食べたい「アレ」はこのお店の秘密のメニュー。ジムテストの答えにもなっていて、それが何なのかはもちろん知っている。常連のあいだで美味しいと評判で前々から食べたいと思っていたのだけど、ここに来ると毎回それを忘れて、お気に入りのかけそばを頼んでしまうのだ。
「先にお蕎麦食べちゃったし、私一人じゃアレを食べきれそうになくて。よかったら一緒に食べてもらえませんか?」
昼食が遅すぎて胃がおかしくなっているのか、かけそばを食べたにも関わらず私のお腹はどこか物足りなさを感じていた。とはいえさすがに秘密のメニューを完食するほどの余裕はなく、しかし私の隣にはまだ腹五分目という頼もしすぎるアオキさんがいる。この機会を逃す手はない。
「自分でよければ構いませんが……」
その返答に私は小さくガッツポーズをした。
「やった! ありがとうございます」
アオキさんのお陰で、やっと例のアレを食べられる……! パッと厨房に顔を向けると、一連のやりとりを見ていたらしい女将さんと目が合った。彼女はニィッと唇の端を持ち上げ、私の言葉を待っている。
「あの、追加注文をお願いします!」
***
「美味しかった〜!!」
宝食堂秘密のメニューを堪能した私は、満腹感と多幸感に包まれていた。秘密のメニューは意外な組み合わせだったけれど評判に違わぬ美味しさで、私の中でリピート確定だ。美味しいものをいっぱい食べてエネルギー補充もバッチリ。この後も激務が予想されるけど、ジムへと向かう足取りは随分と軽い。
「気に入ったもらえたようで何よりです」
「はい、本当にすっごく美味しかったです! あとすみません、奢ってもらっちゃって」
「いえ、自分のが多く食べたので」
いつもより胃に余裕があると思っていたものの、結局私が食べられたのは出された秘密のメニューの内の一個だけだった。残りはアオキさんがぺろりと平らげてくれて、その上さらりと私の分までお会計を済ませてくれて。できる大人って、こういう人のことを言うのだろう。私も見習わないと。
「食べるの、好きなんですか?」
「え?」
「あんなに美味そうに食べる人、初めて見ました」
「えっ、私そんな顔してました?!」
驚いて隣を見ると、アオキさんはこくりと頷いた。
「何というか、その、すごく幸せそうでした」
一体どんな顔をしていたのだろう。食べている時に自分がどんな顔をしてるかなんて今まで意識したこともない。変な顔じゃないといいのだけど……いざ指摘されると恥ずかしい。
「うう、できれば忘れてください」
「はあ。善処します」
「でも私なんかよりアオキさんのほうがずっと美味しそうに食べてると思いますよ」
「? そうですか。自分ではわかりませんが」
きっとそういうものなんだろう。食べている本人は目の前の美味しい料理に夢中だから。だから私もアオキさんの幸せそうな顔を拝めたわけだし。
「そういえば、宝食堂のメニューでアオキさんのおすすめってどれですか? 秘密のメニュー以外で」
「おすすめ、ですか。悩みますね。あそこは何食べても美味いので」
「ですよねー。あ、もしかしてアオキさん、全メニュー制覇してます?」
「期間限定含めひと通りは」
さすがアオキさん、すごすぎる。私もいつか全制覇してみたいものだ。でもーー。
「私、毎回かけそば頼んじゃうからなあ」
「ああ、かけそばも美味いですよね。出汁が効いてて」
「そうなんですよ! でもそれ食べちゃうと他のが食べられなくて」
お気に入りでつい反射で注文してしまうかけそばを諦めるか、鍛えて胃の容量を増やすか。どちらにせよ、メニュー全制覇への道のりは遠く険しいものになりそうだ。
「なら、自分がお手伝いしましょうか」
「へ?」
キョトンとする私に、アオキさんが丁寧に言葉を付け加えて言い直す。
「自分がいる時であれば、今日みたいにお手伝いします。それならかけそばを食べた後でもいけるでしょう?」
「あ……えと、はい。でも、いいんですか?」
「構いません。自分もあなたに食べてほしいものがたくさんあるので」
宝食堂のメニューを全制覇したアオキさんが秘密のメニュー以外でおすすめを決めきれないのだから、本当にどれも美味しいのだろう。全部食べてみたくてもなかなか一人では困難なそれを、アオキさんが手伝ってくれる。こんなに頼もしくありがたいことはない。
「ふふ、アオキさんがいれば百人力ですね。ぜひお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
目指すは宝食堂のメニュー全制覇。……だったのだけど。
「これ、よかったら」
「わっ、パティスリームクロジのケーキじゃないですか! ありがとうございます!」
なぜかこの日を境にアオキさんが出張のたびに美味しいものを差し入れしてくれるようになり、体重増加が著しいので(アオキさんは私より食べてるのに変わらない)、私は全メニュー制覇より先に巷で人気のエクササイズを始めるべきか絶賛迷い中だ。
ーーやっぱり、疲れた時は宝食堂のかけそばに限るな。
蕎麦を啜りながら一人納得し、昆布と鰹出汁の効いたおつゆまでしっかりと味わう。その最中、ちらりと隣を見ればしみじみとおにぎりを噛み締めるアオキさんが目に入った。
「今日は朝から大変でしたね」
私の言葉にアオキさんが静かに頷く。
「はい、本当に」
その声には微かに疲れが滲んでいた。無理もない。受付をしている私でさえこんなにクタクタなのだから、ジムリーダーともなればその疲労も相当なものだろう。それに彼はサラリーマンにジムリーダー等、色々と兼任しているし。
ここ数日、チャンプルジムを訪れるトレーナーがどっと増えた。特に多いのが学生で、「戦ろう! アオキさん」とネモちゃんが受付に飛び込んできたのは記憶に新しい。彼女の話によるとアカデミー恒例の課外授業が始まったようで、この忙しさはもうしばらく続きそうだ。
今日も朝から多くのトレーナーたちがジムに挑戦しにやって来て、ジムテストに合格したのがその内の半数以下。ジムリーダーであるアオキさんはそんな彼らと順にバトルをし、全員を打ち負かした。今日の合格者は、今のところまだいない。
ちょうど人の出入りが途切れたところで昼休憩に入ったのだけど、さすがのアオキさんも連戦に次ぐ連戦で参って……というよりは、空腹に耐えきれず参っているようだった。バトルが終わるや否やカウンター席に向かい山盛りおにぎりを注文していた時はさすがに笑ってしまった。
「背と腹がくっつくかと思いました」
もぐ、とラスト一個のおにぎりを咀嚼しながら深刻そうな顔でアオキさんが呟く。細身の彼が食事を抜いたら、確かにくっついてしまいそうではある。でもこの人、山ほどあったおにぎりを全部平らげてるんだよなあ。一体この薄い身体のどこに収まっているのか、不思議で仕方がない。もしかしていくら食べても太らない体質とか? 食べたら食べた分だけ太る私からしたら羨ましい限りだ。
「あ」
「どうしました?」
「アオキさん、今お腹何分目くらいですか?」
私の質問にアオキさんがコテッと首を傾ける。それから何か考えるような表情でお腹を摩り、「五分目、ですかね」と返ってくる。
「この後も挑戦者が来るかもしれないので、食べすぎないようセーブしておきました」
まさかあの量を食べて腹五分目、しかも彼的には控えたつもりだったとは。でもこれならいけるかもしれない。
「あの、アオキさん。お願いがあるんですけど」
「はあ。内容にもよりますが、自分にできることでしたら」
「無理なら無理で大丈夫です。実は私、ずっと前からアレが食べてみたくて……」
「ああ、アレですか」
ここ宝食堂の常連でもあるアオキさんは「アレ」で全てを察してくれたらしい。そう、私が食べたい「アレ」はこのお店の秘密のメニュー。ジムテストの答えにもなっていて、それが何なのかはもちろん知っている。常連のあいだで美味しいと評判で前々から食べたいと思っていたのだけど、ここに来ると毎回それを忘れて、お気に入りのかけそばを頼んでしまうのだ。
「先にお蕎麦食べちゃったし、私一人じゃアレを食べきれそうになくて。よかったら一緒に食べてもらえませんか?」
昼食が遅すぎて胃がおかしくなっているのか、かけそばを食べたにも関わらず私のお腹はどこか物足りなさを感じていた。とはいえさすがに秘密のメニューを完食するほどの余裕はなく、しかし私の隣にはまだ腹五分目という頼もしすぎるアオキさんがいる。この機会を逃す手はない。
「自分でよければ構いませんが……」
その返答に私は小さくガッツポーズをした。
「やった! ありがとうございます」
アオキさんのお陰で、やっと例のアレを食べられる……! パッと厨房に顔を向けると、一連のやりとりを見ていたらしい女将さんと目が合った。彼女はニィッと唇の端を持ち上げ、私の言葉を待っている。
「あの、追加注文をお願いします!」
***
「美味しかった〜!!」
宝食堂秘密のメニューを堪能した私は、満腹感と多幸感に包まれていた。秘密のメニューは意外な組み合わせだったけれど評判に違わぬ美味しさで、私の中でリピート確定だ。美味しいものをいっぱい食べてエネルギー補充もバッチリ。この後も激務が予想されるけど、ジムへと向かう足取りは随分と軽い。
「気に入ったもらえたようで何よりです」
「はい、本当にすっごく美味しかったです! あとすみません、奢ってもらっちゃって」
「いえ、自分のが多く食べたので」
いつもより胃に余裕があると思っていたものの、結局私が食べられたのは出された秘密のメニューの内の一個だけだった。残りはアオキさんがぺろりと平らげてくれて、その上さらりと私の分までお会計を済ませてくれて。できる大人って、こういう人のことを言うのだろう。私も見習わないと。
「食べるの、好きなんですか?」
「え?」
「あんなに美味そうに食べる人、初めて見ました」
「えっ、私そんな顔してました?!」
驚いて隣を見ると、アオキさんはこくりと頷いた。
「何というか、その、すごく幸せそうでした」
一体どんな顔をしていたのだろう。食べている時に自分がどんな顔をしてるかなんて今まで意識したこともない。変な顔じゃないといいのだけど……いざ指摘されると恥ずかしい。
「うう、できれば忘れてください」
「はあ。善処します」
「でも私なんかよりアオキさんのほうがずっと美味しそうに食べてると思いますよ」
「? そうですか。自分ではわかりませんが」
きっとそういうものなんだろう。食べている本人は目の前の美味しい料理に夢中だから。だから私もアオキさんの幸せそうな顔を拝めたわけだし。
「そういえば、宝食堂のメニューでアオキさんのおすすめってどれですか? 秘密のメニュー以外で」
「おすすめ、ですか。悩みますね。あそこは何食べても美味いので」
「ですよねー。あ、もしかしてアオキさん、全メニュー制覇してます?」
「期間限定含めひと通りは」
さすがアオキさん、すごすぎる。私もいつか全制覇してみたいものだ。でもーー。
「私、毎回かけそば頼んじゃうからなあ」
「ああ、かけそばも美味いですよね。出汁が効いてて」
「そうなんですよ! でもそれ食べちゃうと他のが食べられなくて」
お気に入りでつい反射で注文してしまうかけそばを諦めるか、鍛えて胃の容量を増やすか。どちらにせよ、メニュー全制覇への道のりは遠く険しいものになりそうだ。
「なら、自分がお手伝いしましょうか」
「へ?」
キョトンとする私に、アオキさんが丁寧に言葉を付け加えて言い直す。
「自分がいる時であれば、今日みたいにお手伝いします。それならかけそばを食べた後でもいけるでしょう?」
「あ……えと、はい。でも、いいんですか?」
「構いません。自分もあなたに食べてほしいものがたくさんあるので」
宝食堂のメニューを全制覇したアオキさんが秘密のメニュー以外でおすすめを決めきれないのだから、本当にどれも美味しいのだろう。全部食べてみたくてもなかなか一人では困難なそれを、アオキさんが手伝ってくれる。こんなに頼もしくありがたいことはない。
「ふふ、アオキさんがいれば百人力ですね。ぜひお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
目指すは宝食堂のメニュー全制覇。……だったのだけど。
「これ、よかったら」
「わっ、パティスリームクロジのケーキじゃないですか! ありがとうございます!」
なぜかこの日を境にアオキさんが出張のたびに美味しいものを差し入れしてくれるようになり、体重増加が著しいので(アオキさんは私より食べてるのに変わらない)、私は全メニュー制覇より先に巷で人気のエクササイズを始めるべきか絶賛迷い中だ。
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