東雲りん
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勤務を終えて女子更衣室ドアを開けたらそこはコスプレ会場だった、というのは言い過ぎかもしれない。でも猫耳やナースキャップ、魔女の帽子を身につけた隊員たちが数名いたのは確かだ。
「何してんのよアンタたち」
呆れたようにため息をついて、近くにいた同期に声をかける。どうせ発端はこいつだ。
「何ってプチ仮装パーティーだよ。あ、りんちゃんもやる?」
くるりと振り向いた同期の頭には赤い悪魔のツノが生えていた。ハロウィンだからって浮かれちゃって、まったく。
「やるわけないでしょ」
提案を秒で跳ね除けると、同期はつまらなそうに唇を尖らせた。
「えー、キコルちゃんはやってくれたのに」
「は? きこるんがやるわけないでしょ」
最近親しくなった後輩は、そういうことをするタイプじゃない。そう思ってたのに、同期の後ろから恥ずかしそうに顔を覗かせた彼女の頭には、ちょこんと可愛らしい魔女の帽子がのっていた。
「どう? かわいいでしょキコルちゃん」
「や、かわいいけど。きこるんまで……」
「違います! 先輩がどうしてもって言うから」
「お陰でいいツーショットが撮れました。先輩権限最高」
「アンタね……」
呆れて物も言えないとはまさにこのことだ。本日何度目かのため息をつき、そろそろ終わりにしなさいと仮装パーティー組を解散させる。
「最後にりんちゃんもやらない? キコルちゃんと三人で写真撮ろうよ」
「やんない」
「この猫耳、絶対りんちゃんに似合うと思うんだけどなー」
「だからやらないってば!」
しつこい同期を更衣室から放り出すと、騒いでいた面々も一人、また一人と退室していった。残るは私一人きり。さっきまでの騒々しさが嘘のように静かだ。
それにしても、ハロウィンか。私が子どもの頃はそんなにメジャーなイベントではなかったと思うけど、最近は仮装だなんだと盛り上がっている印象だ。仮装して何が楽しいのかはいまいちわからないけども。
ーーやったこともないのに否定するのはよくないか。
ふとそんなことが頭をよぎったのは、同期が持って行き忘れたであろう仮装グッズが目に入ったからだ。きこるん、かわいかったな。同期のあいつも楽しそうにしてて。少し羨ましかったのかもしれない。
私は近くにあった猫耳カチューシャを手に取り、念のため周りに人がいないか確認をした。更衣室に残っていたのは私だけだったから誰かいるなんてことはないのだけど……うん、大丈夫そう。
少し試してみるだけ。そう自分に言い聞かせて、そっとカチューシャを頭に着けた。それからすぐに姿見で確認する。頭の上にピンと立つ三角の黒い猫耳。見慣れないのもあって違和感はあるけれど、悪くない、気がする。むしろ似合ってるんじゃない? 前から、後ろから、色んな角度から見てみて、そう確信する。
年に一度くらいなら仮装するのも悪くないかもしれない。同期にやらないと断言してしまった手前、易々とやるわけにもいかないのだけど。
仮装を楽しんでいた隊員たちの気持ちが少しわかったところで、いつまでもこの格好でいるわけにはいかないと私はハッと我に返った。放り出した同期がいつ仮装グッズを取りに戻って来るかわかったものじゃない。
私は慌ててカチューシャを外そうとして、視界の端で更衣室のドアが少しだけ開いているのに気づいた。そしてそこから聞こえてくるカシャシャシャという連写の音にも。
「……ちょっと何してんのよ、アンタ」
そこにいたのは予想通り同期だった。無理やり連れてこられたであろうきこるんは、気まずそうな顔をしている。
「りんちゃんなら誰もいなくなってから着けるだろうなと思ってたけど、私の読みが当たったみたいだね。あー、やっぱかわいい。見てよこの写真! 私の見立て通り猫耳よく似合うね、りんちゃん」
「うっさい! その写真今すぐ消せ!」
「お断りしまーす。ほら逃げるよ、キコルちゃん」
「えっ、私もですか?!」
せっかくシャワーも浴びてさっぱりしたところだったのに、同期(と巻き込まれたきこるん)を追い回したせいで二度目のシャワーを浴びる羽目になったのは言うまでもなく、また撮られた写真も思った以上に枚数が多くて、全てを消去することはかなわなかったのだった。
「何してんのよアンタたち」
呆れたようにため息をついて、近くにいた同期に声をかける。どうせ発端はこいつだ。
「何ってプチ仮装パーティーだよ。あ、りんちゃんもやる?」
くるりと振り向いた同期の頭には赤い悪魔のツノが生えていた。ハロウィンだからって浮かれちゃって、まったく。
「やるわけないでしょ」
提案を秒で跳ね除けると、同期はつまらなそうに唇を尖らせた。
「えー、キコルちゃんはやってくれたのに」
「は? きこるんがやるわけないでしょ」
最近親しくなった後輩は、そういうことをするタイプじゃない。そう思ってたのに、同期の後ろから恥ずかしそうに顔を覗かせた彼女の頭には、ちょこんと可愛らしい魔女の帽子がのっていた。
「どう? かわいいでしょキコルちゃん」
「や、かわいいけど。きこるんまで……」
「違います! 先輩がどうしてもって言うから」
「お陰でいいツーショットが撮れました。先輩権限最高」
「アンタね……」
呆れて物も言えないとはまさにこのことだ。本日何度目かのため息をつき、そろそろ終わりにしなさいと仮装パーティー組を解散させる。
「最後にりんちゃんもやらない? キコルちゃんと三人で写真撮ろうよ」
「やんない」
「この猫耳、絶対りんちゃんに似合うと思うんだけどなー」
「だからやらないってば!」
しつこい同期を更衣室から放り出すと、騒いでいた面々も一人、また一人と退室していった。残るは私一人きり。さっきまでの騒々しさが嘘のように静かだ。
それにしても、ハロウィンか。私が子どもの頃はそんなにメジャーなイベントではなかったと思うけど、最近は仮装だなんだと盛り上がっている印象だ。仮装して何が楽しいのかはいまいちわからないけども。
ーーやったこともないのに否定するのはよくないか。
ふとそんなことが頭をよぎったのは、同期が持って行き忘れたであろう仮装グッズが目に入ったからだ。きこるん、かわいかったな。同期のあいつも楽しそうにしてて。少し羨ましかったのかもしれない。
私は近くにあった猫耳カチューシャを手に取り、念のため周りに人がいないか確認をした。更衣室に残っていたのは私だけだったから誰かいるなんてことはないのだけど……うん、大丈夫そう。
少し試してみるだけ。そう自分に言い聞かせて、そっとカチューシャを頭に着けた。それからすぐに姿見で確認する。頭の上にピンと立つ三角の黒い猫耳。見慣れないのもあって違和感はあるけれど、悪くない、気がする。むしろ似合ってるんじゃない? 前から、後ろから、色んな角度から見てみて、そう確信する。
年に一度くらいなら仮装するのも悪くないかもしれない。同期にやらないと断言してしまった手前、易々とやるわけにもいかないのだけど。
仮装を楽しんでいた隊員たちの気持ちが少しわかったところで、いつまでもこの格好でいるわけにはいかないと私はハッと我に返った。放り出した同期がいつ仮装グッズを取りに戻って来るかわかったものじゃない。
私は慌ててカチューシャを外そうとして、視界の端で更衣室のドアが少しだけ開いているのに気づいた。そしてそこから聞こえてくるカシャシャシャという連写の音にも。
「……ちょっと何してんのよ、アンタ」
そこにいたのは予想通り同期だった。無理やり連れてこられたであろうきこるんは、気まずそうな顔をしている。
「りんちゃんなら誰もいなくなってから着けるだろうなと思ってたけど、私の読みが当たったみたいだね。あー、やっぱかわいい。見てよこの写真! 私の見立て通り猫耳よく似合うね、りんちゃん」
「うっさい! その写真今すぐ消せ!」
「お断りしまーす。ほら逃げるよ、キコルちゃん」
「えっ、私もですか?!」
せっかくシャワーも浴びてさっぱりしたところだったのに、同期(と巻き込まれたきこるん)を追い回したせいで二度目のシャワーを浴びる羽目になったのは言うまでもなく、また撮られた写真も思った以上に枚数が多くて、全てを消去することはかなわなかったのだった。
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