優一郎黒野
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「風邪、ですか?」
私の問いかけに、マスクをした黒野先輩がこくこくと頷く。
どうやらここ最近の寒暖差にやられたらしい。しかも喉風邪で、声が出ないんだとか。
珍しいこともあるものだと思うのは失礼と思いつつ、驚かずにはいられない。なんとなく先輩には風邪すら寄り付かなさそうな気がしていたから。
「よかったらこれどうぞ。噛み砕いちゃダメですからね。ゆっくり舐めてください」
気休めにしかならないかもしれないが、持っていたはちみつのど飴を差し出すと、黒野先輩は大人しくそれを口に入れた。
マスクの下がもごもごと動く。時折噛み砕きたくなるようで眉間に皺が寄るけれど、私の言いつけを守って我慢してくれているみたいだ。
ぱっと見、マスクをしていること以外はいつもと変わらない。熱はなさそうに見えるが、どうなのだろう。
「ちょっと失礼しますね」
右手を伸ばして黒野先輩のおでこに触れる。もう片方は自分のほうへ。
私の手が冷たいせいか熱く感じる。でも能力者の体温って無能力者より高いんだっけ。黒野先輩の平熱ってどれくらいなんだろう?
うーん、よくわからない。
「先輩、辛かったら早退して……」
顔を上げると金色の瞳がぱちくりと瞬きをしていた。
「先輩?」
固まったままの先輩に声をかけるとわかりやすくハッとして、普段では絶対にありえない反応だ。
やはり熱があるのかもしれない。
なるべく早く帰ってもらいたいのだが、黒野先輩は私の手に自分のを重ねて、気持ち良さそうに目を閉じた。そろそろ伸ばした腕が疲れてきたのだけど、このままでいろということらしい。
「先輩、今日はもう帰りましょう?」
そう言うと、黒野先輩は目を閉じたままふるふると首を横に振った。大きな駄々っ子がいる。
「このままだと私が困るんです。話し相手がいないと、ちょっとだけ寂しくて。だから早く治して、黒野先輩の声を聴かせてください」
「……」
ちらりと先輩が目を開けて、まだ不服そうながらも小さく頷く。ようやく解放された腕はすっかり痺れ、手のひらは先輩と同じ温度になっていた。
その日は、素直に帰ってくれたからよかったのだが。
名前を呼ばれて振り返る。
「どうかしましたか、先輩」
「いや、なんでもない」
風邪が治ってからというもの、黒野先輩は用もないのに私を呼ぶようになった。おかげで仕事は進まず今日も残業なのだけど、本人は声が出るようになって嬉しいのだろう。
まただ。遠くから私を呼ぶ、黒野先輩の声が聴こえる。
「はーい、今行きまーす!」
大変ではあるけれど、私も静かすぎるよりはこっちのほうがいい。だからもうすこしだけ、このやり取りに付き合ってあげようと思う。
私の問いかけに、マスクをした黒野先輩がこくこくと頷く。
どうやらここ最近の寒暖差にやられたらしい。しかも喉風邪で、声が出ないんだとか。
珍しいこともあるものだと思うのは失礼と思いつつ、驚かずにはいられない。なんとなく先輩には風邪すら寄り付かなさそうな気がしていたから。
「よかったらこれどうぞ。噛み砕いちゃダメですからね。ゆっくり舐めてください」
気休めにしかならないかもしれないが、持っていたはちみつのど飴を差し出すと、黒野先輩は大人しくそれを口に入れた。
マスクの下がもごもごと動く。時折噛み砕きたくなるようで眉間に皺が寄るけれど、私の言いつけを守って我慢してくれているみたいだ。
ぱっと見、マスクをしていること以外はいつもと変わらない。熱はなさそうに見えるが、どうなのだろう。
「ちょっと失礼しますね」
右手を伸ばして黒野先輩のおでこに触れる。もう片方は自分のほうへ。
私の手が冷たいせいか熱く感じる。でも能力者の体温って無能力者より高いんだっけ。黒野先輩の平熱ってどれくらいなんだろう?
うーん、よくわからない。
「先輩、辛かったら早退して……」
顔を上げると金色の瞳がぱちくりと瞬きをしていた。
「先輩?」
固まったままの先輩に声をかけるとわかりやすくハッとして、普段では絶対にありえない反応だ。
やはり熱があるのかもしれない。
なるべく早く帰ってもらいたいのだが、黒野先輩は私の手に自分のを重ねて、気持ち良さそうに目を閉じた。そろそろ伸ばした腕が疲れてきたのだけど、このままでいろということらしい。
「先輩、今日はもう帰りましょう?」
そう言うと、黒野先輩は目を閉じたままふるふると首を横に振った。大きな駄々っ子がいる。
「このままだと私が困るんです。話し相手がいないと、ちょっとだけ寂しくて。だから早く治して、黒野先輩の声を聴かせてください」
「……」
ちらりと先輩が目を開けて、まだ不服そうながらも小さく頷く。ようやく解放された腕はすっかり痺れ、手のひらは先輩と同じ温度になっていた。
その日は、素直に帰ってくれたからよかったのだが。
名前を呼ばれて振り返る。
「どうかしましたか、先輩」
「いや、なんでもない」
風邪が治ってからというもの、黒野先輩は用もないのに私を呼ぶようになった。おかげで仕事は進まず今日も残業なのだけど、本人は声が出るようになって嬉しいのだろう。
まただ。遠くから私を呼ぶ、黒野先輩の声が聴こえる。
「はーい、今行きまーす!」
大変ではあるけれど、私も静かすぎるよりはこっちのほうがいい。だからもうすこしだけ、このやり取りに付き合ってあげようと思う。