優一郎黒野
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目が覚めたら、右手の小指に赤い糸が結ばれていた。
「……何これ?」
寝起きでまともに頭が働かない中、はて、と首を傾げる。
仕事が終わらず今日は一日職場で缶詰状態。締切ぎりぎりに何とか終わらせて、けれど家に帰る余裕はないから始業まで寝ようと仮眠室で横になったところまでは覚えている。が、起きたらこれだ。
確か寝る前はこんなのなかったはず。誰かの悪戯だろうか。だとしたら悪質だ。
お互いにこの人しかいないと結婚を誓った相手を、式前日に人体発火現象で失った私に運命の赤い糸、だなんて。
はっ、と乾いた笑いが仮眠室に落ちる。それから糸を解こうとして、解こうと……。何これ全然解けない。
赤いふわふわの毛糸は鬱血こそしないものの、これでもかとばかりに固く結ばれていた。こういうのって普通蝶々結びとかじゃないの?
残念なことにこの仮眠室にハサミはない。時間的にもうひと眠りしたいところだけど、人が来る前に糸を切るには自分のデスクに戻るしかないだろう。私はため息を一つ零してから、事務室へと向かった。
赤い糸は仮眠室を出た後も長くどこかに続いていた。本当に運命の相手に繋がっているとでも言いたいのだろうか。悪戯にしては手が込んでいる。
赤い糸を辿るように事務室に向かう。すると部屋の入口から照明の光が漏れているのが見えた。仮眠室に向かう前、確かに消したはずなのに。こんな時間に誰かいるのだろうか。だとしたら、誰がーー。
「何をしている」
「ひっ」
不意に後ろから声がして思わず息を呑む。恐る恐る振り向けばそこにいたのは黒野先輩だった。弱いものをいたぶるのが好きな彼は、驚き後ずさる私の顔を見てきゅっとその双眸を細める。
「帰ってなかったのか」
「仕事が終わらなくて。先輩こそこんな時間に何してるんですか」
私の言葉に黒野先輩は心底嫌そうな顔をした。それだけで大黒部長がまた無茶を言ったんだろうなと察しがつく。
黒野先輩ははぁ、と煤混じりのため息を吐き、私を押し退けて自分のデスクへと向かった。まだやることがあるらしい。私もそれに続こうとして、はたと気付く。
「先輩、それ……」
黒野先輩のぐるぐるに包帯を巻かれた右手。その小指に見慣れてしまった赤色があった。
そんな、どうして。
自分の目が信じられなくて立ち尽くしていると、黒野先輩が「どうした」と眉を顰めた。
「これ、黒野先輩がやったんですか?」
「何のことだ」
私は先輩の目の前に右手を突き出した。彼がこの悪質な悪戯をしたのだとしたら、私は一生許さないだろう。力で勝てるとは思わないけれど、無能力者なりに死んでも報復するつもりだ。
けれど黒野先輩はちらりと私の右手を一瞥しただけで、意味がわからないとばかりに眉間の皺を深くしただけだった。そこに嘘はない。
ーーああ、そんな。そんなことってある?
その瞬間、ひくりと頬が引き攣った。
婚約者と出会った時、お互いに一目惚れしてずっと幸せで、運命の相手に違いないと思っていた。それなのに彼は結婚式前日に焔ビトになって、灰すら残らなくて。
もしかしてこれは太陽神様の悪戯なのだろうか。だとしたら、いやだとしても、やっぱり悪質だ。
こんな糸を視えるようにして、私が運命だと思っていたものは全て勘違いなのだと嘲笑っているのか。
「はは……」
「何を笑っている」
「別に。黒野先輩って運命って信じます?」
突拍子もない私の質問に先輩ぱちりと瞬きをした。それから間髪入れずに答える。
「知らん。どうでもいい」
それを聞いて口角が上がる。
私は優一郎黒野という男について未だによくわからないし、わかりたいとも思わない。
でもこういうところだけは、心から信じられた。
「奇遇ですね。私もそう思います」
赤い糸の結ばれた小指を見て、にこりと微笑む。運命なんて、クソ食らえだ。
「……何これ?」
寝起きでまともに頭が働かない中、はて、と首を傾げる。
仕事が終わらず今日は一日職場で缶詰状態。締切ぎりぎりに何とか終わらせて、けれど家に帰る余裕はないから始業まで寝ようと仮眠室で横になったところまでは覚えている。が、起きたらこれだ。
確か寝る前はこんなのなかったはず。誰かの悪戯だろうか。だとしたら悪質だ。
お互いにこの人しかいないと結婚を誓った相手を、式前日に人体発火現象で失った私に運命の赤い糸、だなんて。
はっ、と乾いた笑いが仮眠室に落ちる。それから糸を解こうとして、解こうと……。何これ全然解けない。
赤いふわふわの毛糸は鬱血こそしないものの、これでもかとばかりに固く結ばれていた。こういうのって普通蝶々結びとかじゃないの?
残念なことにこの仮眠室にハサミはない。時間的にもうひと眠りしたいところだけど、人が来る前に糸を切るには自分のデスクに戻るしかないだろう。私はため息を一つ零してから、事務室へと向かった。
赤い糸は仮眠室を出た後も長くどこかに続いていた。本当に運命の相手に繋がっているとでも言いたいのだろうか。悪戯にしては手が込んでいる。
赤い糸を辿るように事務室に向かう。すると部屋の入口から照明の光が漏れているのが見えた。仮眠室に向かう前、確かに消したはずなのに。こんな時間に誰かいるのだろうか。だとしたら、誰がーー。
「何をしている」
「ひっ」
不意に後ろから声がして思わず息を呑む。恐る恐る振り向けばそこにいたのは黒野先輩だった。弱いものをいたぶるのが好きな彼は、驚き後ずさる私の顔を見てきゅっとその双眸を細める。
「帰ってなかったのか」
「仕事が終わらなくて。先輩こそこんな時間に何してるんですか」
私の言葉に黒野先輩は心底嫌そうな顔をした。それだけで大黒部長がまた無茶を言ったんだろうなと察しがつく。
黒野先輩ははぁ、と煤混じりのため息を吐き、私を押し退けて自分のデスクへと向かった。まだやることがあるらしい。私もそれに続こうとして、はたと気付く。
「先輩、それ……」
黒野先輩のぐるぐるに包帯を巻かれた右手。その小指に見慣れてしまった赤色があった。
そんな、どうして。
自分の目が信じられなくて立ち尽くしていると、黒野先輩が「どうした」と眉を顰めた。
「これ、黒野先輩がやったんですか?」
「何のことだ」
私は先輩の目の前に右手を突き出した。彼がこの悪質な悪戯をしたのだとしたら、私は一生許さないだろう。力で勝てるとは思わないけれど、無能力者なりに死んでも報復するつもりだ。
けれど黒野先輩はちらりと私の右手を一瞥しただけで、意味がわからないとばかりに眉間の皺を深くしただけだった。そこに嘘はない。
ーーああ、そんな。そんなことってある?
その瞬間、ひくりと頬が引き攣った。
婚約者と出会った時、お互いに一目惚れしてずっと幸せで、運命の相手に違いないと思っていた。それなのに彼は結婚式前日に焔ビトになって、灰すら残らなくて。
もしかしてこれは太陽神様の悪戯なのだろうか。だとしたら、いやだとしても、やっぱり悪質だ。
こんな糸を視えるようにして、私が運命だと思っていたものは全て勘違いなのだと嘲笑っているのか。
「はは……」
「何を笑っている」
「別に。黒野先輩って運命って信じます?」
突拍子もない私の質問に先輩ぱちりと瞬きをした。それから間髪入れずに答える。
「知らん。どうでもいい」
それを聞いて口角が上がる。
私は優一郎黒野という男について未だによくわからないし、わかりたいとも思わない。
でもこういうところだけは、心から信じられた。
「奇遇ですね。私もそう思います」
赤い糸の結ばれた小指を見て、にこりと微笑む。運命なんて、クソ食らえだ。