優一郎黒野
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「ひとつ、いりますか?」
本当はひとつだってあげたくはなかった。だって私が食べたくて買ってきたのだ。
でも隣からの突き刺さるような視線には耐えられなかった。無言の圧。いやこの人は、優一郎黒野という人は、プレッシャーに苦しむ私を見て楽しんでいただけかもしれないけれど。
私の言葉に、隣の席に座る彼はきょとっと一瞬目を丸くした。それからじぃっと私の差し出した箱を覗き込む。
そこに並ぶのはチョコレートでコーティングされたひとくちサイズのアイスだ。私のお気に入り。美味しいのはもちろんのこと、程よく六個入りなのもいい。しかも今日買ったのはバレンタイン限定の生チョコ仕立て。そんなの美味しいに決まってる。
「あ、やっぱいらないですよねー」
なかなか返ってこない返事に、私はアイスの箱を自分のほうへと引き戻そうとした。やはり黒野さんの興味はアイスではなく弱い私にあったのだと、そう結論付けて。
しかし、手元に箱は戻って来なかった。黒野さんががっちりと掴んでいたのだ。
「いる」
「え……」
今度は私が目を丸くする番だった。だってこれ、黒野さんの好きなカレーじゃないですよ? どろっどろに柔らかいわけでもないし。
「ひ、ひとつだけですからね!」
「ああ」
「言っておきますけど、六個とも全部同じ味ですから!」
「わかっている」
黒野さんがピックを指先でつまんだ。その先端が、箱の上でどれにしようかと揺れている。
ーーああ、どうか。どうか。太陽神様……!
その瞬間、ぱちりと黒野さんと視線がかち合った。そして私の顔を見るなり、金色の瞳がきゅっと弧を描く。
箱越しに、ずぶりとピックがアイスに突き刺さる感触がした。それからゆっくりと持ち上げられ、黒野さんの口元へと運ばれていく。
「あ……」
それはハートの形をしたアイスだった。通常のものと形が違うレア中のレアで、それが入っているといいことがあると言われている幸運のアイス。
箱を開け見つけた瞬間に嬉しくなって、最後に食べようと思ってたのに。
「美味いな」
私が食べるはずだった幸運のアイスを咀嚼しながら、黒野さんが言った。
「……そうですか。それはよかったです」
私はなんて馬鹿なんだろう。いりますか、なんて言うんじゃなかった。黒野さんが怖くても、無視して全部食べてしまえばよかった。
手元に戻ってきた箱に視線を落とす。ずっと食べるのを楽しみにしていたアイスなのに、わくわく感はどこかに行ってしまった。
もしかしたら、幸運のアイスと一緒に黒野さんに食べられてしまったのかもしれない。
項垂れる私の耳に届いたのは、心底幸せそうな黒野さんの声だった。
「ああ、これは。本当に美味い」
本当はひとつだってあげたくはなかった。だって私が食べたくて買ってきたのだ。
でも隣からの突き刺さるような視線には耐えられなかった。無言の圧。いやこの人は、優一郎黒野という人は、プレッシャーに苦しむ私を見て楽しんでいただけかもしれないけれど。
私の言葉に、隣の席に座る彼はきょとっと一瞬目を丸くした。それからじぃっと私の差し出した箱を覗き込む。
そこに並ぶのはチョコレートでコーティングされたひとくちサイズのアイスだ。私のお気に入り。美味しいのはもちろんのこと、程よく六個入りなのもいい。しかも今日買ったのはバレンタイン限定の生チョコ仕立て。そんなの美味しいに決まってる。
「あ、やっぱいらないですよねー」
なかなか返ってこない返事に、私はアイスの箱を自分のほうへと引き戻そうとした。やはり黒野さんの興味はアイスではなく弱い私にあったのだと、そう結論付けて。
しかし、手元に箱は戻って来なかった。黒野さんががっちりと掴んでいたのだ。
「いる」
「え……」
今度は私が目を丸くする番だった。だってこれ、黒野さんの好きなカレーじゃないですよ? どろっどろに柔らかいわけでもないし。
「ひ、ひとつだけですからね!」
「ああ」
「言っておきますけど、六個とも全部同じ味ですから!」
「わかっている」
黒野さんがピックを指先でつまんだ。その先端が、箱の上でどれにしようかと揺れている。
ーーああ、どうか。どうか。太陽神様……!
その瞬間、ぱちりと黒野さんと視線がかち合った。そして私の顔を見るなり、金色の瞳がきゅっと弧を描く。
箱越しに、ずぶりとピックがアイスに突き刺さる感触がした。それからゆっくりと持ち上げられ、黒野さんの口元へと運ばれていく。
「あ……」
それはハートの形をしたアイスだった。通常のものと形が違うレア中のレアで、それが入っているといいことがあると言われている幸運のアイス。
箱を開け見つけた瞬間に嬉しくなって、最後に食べようと思ってたのに。
「美味いな」
私が食べるはずだった幸運のアイスを咀嚼しながら、黒野さんが言った。
「……そうですか。それはよかったです」
私はなんて馬鹿なんだろう。いりますか、なんて言うんじゃなかった。黒野さんが怖くても、無視して全部食べてしまえばよかった。
手元に戻ってきた箱に視線を落とす。ずっと食べるのを楽しみにしていたアイスなのに、わくわく感はどこかに行ってしまった。
もしかしたら、幸運のアイスと一緒に黒野さんに食べられてしまったのかもしれない。
項垂れる私の耳に届いたのは、心底幸せそうな黒野さんの声だった。
「ああ、これは。本当に美味い」