優一郎黒野
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「帰りたい」
連休明け、これが私の出社第一声。はあ、と溜め息まじりに零したそれに、隣の席の黒野先輩は「あけましておめでとう」と返してきた。黒野先輩がちゃんとしている、だと⁈ 何だか私がだめな大人みたいじゃないか。「お、おめでとうございます」慌てて新年の挨拶を返すと、黒野先輩はこくりと頷いて手元の手帳を捲った。どうやら今日のスケジュールを確認しているらしい。
「先輩、お休みはどうでした?」
「カレーを煮込んでいた」
「へえ」
いつもと変わらない休日を過ごしたということだろうか。
「あと公園に行って、弱……無邪気に遊ぶ子どもたちを眺めていた」
「念のため聞くんですけど、手を出したりはしてないですよね」
「当たり前だ。俺が犯罪を犯す訳がないだろう。お前は俺を何だと思ってるんだ」
何って、弱者をいたぶる嗜好を持った最狂の死神ですけど。逆に公園なんかに行ってよく我慢できたな、この人。
ただそれを正直に言うと何をされるかわかったものではないので、私はあははと曖昧に笑った。
「でも今回の連休短かったですよね。あーあ、もっと休みたい」
大人も子どもみたいに休みが長ければいいのに。それでできればお金もほしい。まあ世の中そんなに甘くはないので、ちゃんと働くけども。
「これ以上休んでどうするつもりだ」
「えー、休みは多ければ多いほどいいじゃないですか」
世の中の大半は私と同意見なのではないだろうか。けれど黒野先輩は信じられないものを見るような目で私を見た。
「そんな人間いるのか。俺は早く働きたくて仕方がなかったが」
「うわ、サラリーマンの鑑ですね。そういうところは尊敬します」
「そういうところ以外も尊敬しろ」
それは無理な話だ。だがサラリーマンとしてはお世辞抜きで尊敬している。昔はどうだったか知らないが、私の知る優一郎黒野という人は仕事のできる有能な先輩だ。弱者をいたぶるのが趣味とはいえ、仕事以外では決して一般人には手を出さない常識も持っている。大黒部長が手綱を握っているからこそかもしれないが。
私も、黒野先輩の仕事に対する姿勢は見習うべきなのだろう。
「あれ、出かけるんですか?」
「ああ。実験の時間だ」
ニィ、と目を細めた黒野先輩にぞくりと鳥肌が立つ。
連休中、我慢に我慢を重ね、待ちに待った実験の時間。罪に問われることなく弱者をいたぶれる至福の時間。
もしかしたら公園でも弱者をどういたぶろうか考えていたのかもしれない。
彼にとって弱者をいたぶることのできない時間は退屈でしかなかっただろうから。
私は何と言っていいのかわからなくて、ウキウキと遠ざかる背中に「行ってらっしゃい」と声をかけた。
がさごそと鞄の中を漁り、持ってきたポチ袋を数える。子どもたちにお年玉をと考えたが、この調子だと余るかもしれない。
「新年早々働きすぎなんですよ」
黒野先輩は仕事のできる人だ。ただやはり、尊敬しきれない部分のが多いなと私は思うのだった。
おまけ
「お帰りなさい。早かったですね」
黒野先輩が席に戻ってきたのは、実験終了時刻より少し前のことだった。足取りは重く、表情は暗く、ウキウキと実験に向かった時とはまるで別人である。
「……大黒部長に呼び出しをくらった。今から出張だ」
ああ、なるほどそれで。
「帰りたい」
「おやおや、働きたくて仕方がなかったのでは」
つい思ったことが口に出て、しかししまったと思った時にはもう遅かった。ぐわりと長い腕が伸びてきて、私の頭を鷲掴みにする。
「あだだだだっ‼︎」
「俺はどうやら後輩指導が下手みたいだな。一から鍛え直してやる」
「パワハラ! パワハラですよ!」
「パワハラじゃない。ただの後輩指導だ」
やっぱり、働かずしてお金が欲しい。今すぐにでも帰りたい。けれど私の願いが叶うはずもなく、私は出社初日から黒野先輩にしごかれるのだった。
連休明け、これが私の出社第一声。はあ、と溜め息まじりに零したそれに、隣の席の黒野先輩は「あけましておめでとう」と返してきた。黒野先輩がちゃんとしている、だと⁈ 何だか私がだめな大人みたいじゃないか。「お、おめでとうございます」慌てて新年の挨拶を返すと、黒野先輩はこくりと頷いて手元の手帳を捲った。どうやら今日のスケジュールを確認しているらしい。
「先輩、お休みはどうでした?」
「カレーを煮込んでいた」
「へえ」
いつもと変わらない休日を過ごしたということだろうか。
「あと公園に行って、弱……無邪気に遊ぶ子どもたちを眺めていた」
「念のため聞くんですけど、手を出したりはしてないですよね」
「当たり前だ。俺が犯罪を犯す訳がないだろう。お前は俺を何だと思ってるんだ」
何って、弱者をいたぶる嗜好を持った最狂の死神ですけど。逆に公園なんかに行ってよく我慢できたな、この人。
ただそれを正直に言うと何をされるかわかったものではないので、私はあははと曖昧に笑った。
「でも今回の連休短かったですよね。あーあ、もっと休みたい」
大人も子どもみたいに休みが長ければいいのに。それでできればお金もほしい。まあ世の中そんなに甘くはないので、ちゃんと働くけども。
「これ以上休んでどうするつもりだ」
「えー、休みは多ければ多いほどいいじゃないですか」
世の中の大半は私と同意見なのではないだろうか。けれど黒野先輩は信じられないものを見るような目で私を見た。
「そんな人間いるのか。俺は早く働きたくて仕方がなかったが」
「うわ、サラリーマンの鑑ですね。そういうところは尊敬します」
「そういうところ以外も尊敬しろ」
それは無理な話だ。だがサラリーマンとしてはお世辞抜きで尊敬している。昔はどうだったか知らないが、私の知る優一郎黒野という人は仕事のできる有能な先輩だ。弱者をいたぶるのが趣味とはいえ、仕事以外では決して一般人には手を出さない常識も持っている。大黒部長が手綱を握っているからこそかもしれないが。
私も、黒野先輩の仕事に対する姿勢は見習うべきなのだろう。
「あれ、出かけるんですか?」
「ああ。実験の時間だ」
ニィ、と目を細めた黒野先輩にぞくりと鳥肌が立つ。
連休中、我慢に我慢を重ね、待ちに待った実験の時間。罪に問われることなく弱者をいたぶれる至福の時間。
もしかしたら公園でも弱者をどういたぶろうか考えていたのかもしれない。
彼にとって弱者をいたぶることのできない時間は退屈でしかなかっただろうから。
私は何と言っていいのかわからなくて、ウキウキと遠ざかる背中に「行ってらっしゃい」と声をかけた。
がさごそと鞄の中を漁り、持ってきたポチ袋を数える。子どもたちにお年玉をと考えたが、この調子だと余るかもしれない。
「新年早々働きすぎなんですよ」
黒野先輩は仕事のできる人だ。ただやはり、尊敬しきれない部分のが多いなと私は思うのだった。
おまけ
「お帰りなさい。早かったですね」
黒野先輩が席に戻ってきたのは、実験終了時刻より少し前のことだった。足取りは重く、表情は暗く、ウキウキと実験に向かった時とはまるで別人である。
「……大黒部長に呼び出しをくらった。今から出張だ」
ああ、なるほどそれで。
「帰りたい」
「おやおや、働きたくて仕方がなかったのでは」
つい思ったことが口に出て、しかししまったと思った時にはもう遅かった。ぐわりと長い腕が伸びてきて、私の頭を鷲掴みにする。
「あだだだだっ‼︎」
「俺はどうやら後輩指導が下手みたいだな。一から鍛え直してやる」
「パワハラ! パワハラですよ!」
「パワハラじゃない。ただの後輩指導だ」
やっぱり、働かずしてお金が欲しい。今すぐにでも帰りたい。けれど私の願いが叶うはずもなく、私は出社初日から黒野先輩にしごかれるのだった。