優一郎黒野
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連日の残業でヘロヘロになって帰宅。私の「ただいま〜」は優一郎くんのせいで最後まで言えなかった。「おかえり」パンプスを脱ぐより先にぎゅうと抱きしめられる。ただいまくらい言わせてくれればいいのに、どうやら待ちきれなかったらしい。
身長差のせいですぐにつま先は地面を離れ、履いていたパンプスが乾いた音を立てて脱げ落ちた。腕に込められる力は次第に強くなり、締め上げるとまではいかないけれど痛いくらいになってきて、私は慌てて優一郎くんの背中を叩く。タンマの合図である。……タンマの合図である。一向に力を緩めてくれないので二度言った。それでもまだ緩める様子はなく、何も言えないように胸板に頭を押し付けてくるので、私はさっきよりも容赦なく背中を叩いた。
「……恋人に対してそれはないんじゃないか」
バシバシと叩くこと数回。やっと腕の力を弱めた優一郎くんは不満げな顔で私を見下ろしてきた。
「だって、待ってって合図しても止まってくれないから」
「仕方ないだろう。お互い忙しくて久々に会うんだ。まだまだ君が足りない」
再び抱き寄せられる気配に、私は大事なことだからと忠告する。
「痛くない程度にしてね。次痛くなったら即ハグ終了だから」
「ああ、わかった」
頷くなり、優一郎くんはそっと私を抱きしめた。さっきよりも随分と優しくて、かと言って緩すぎず。これくらいが好きだな、と思いつつ私も彼の背中に腕を回した。
そしてそのまま心地よく抱きしめられて、どれくらい経ったのか。夜風で冷え切った身体はすっかり温まっていた。
「優一郎くん、そろそろ……」
「痛くした覚えはないが?」
それはそう。優一郎くんは珍しいことに私の言いつけを守って優しく抱きしめてくれている。けれど、痛かったら即ハグ終了というのは、痛くなければずっとハグしていい、と同義ではない。
愛情表現はありがたいけれど、そろそろお腹が限界だ。リビングから漂ってくるカレーの匂いがさらに空腹に追い討ちをかけてくる。
「うう、ご飯食べたい」
私の泣き言のように弱々しい言葉は優一郎くんを喜ばせるだけだった。きゅうっと痛くない程度に抱き寄せて、鼻を首筋に擦り寄せてくる。すうっと深く息を吸い込む彼に、私は思わず身を捩った。その反応に優一郎くんはうっそりと目を細め、「っ⁈」突然私を引き剥がした。
きっと彼が満足するまで解放されることはない、下手したらそのまま寝室に連れて行かれるかもしれないと覚悟していた私は目を丸くした。そして、優一郎くんの顔を見てさらに目を見開くことになる。
「ど、どうしたの?」
見上げた先の優一郎くんは、口を開け鼻に皺を寄せて、何とも言えない表情をしていた。付き合うようになって今までに彼の色んな表情を見てきたが、こんな顔をしている優一郎くんを見たのは初めてだ。でも何だろう、この既視感。どこかで見たような、と記憶を遡り、思い当たる。フレーメン反応だ。実家で飼っていた猫が時折優一郎くんみたいに、何とも言えないあの顔をしていた。でも、どうして? 私の疑問は優一郎くんの言葉に掻き消された。
「……部長の匂いがする」
「え?」
「何故君から大黒部長の匂いがするんだ」
そんな匂いするかな? すんすんと服の袖に鼻を当てるも自分ではわからなかった。けれど優一郎くんは確信しているらしい。すごい嗅覚だ。浮気かと怖いくらいに詰め寄ってくる。
「違う違う、帰りのエレベーターが一緒になっただけだよ」
「本当か?」
「うん、本当」
エレベーターに二人しか乗ってないのにやたら距離が近くて、1Fに着くなり逃げるようにダッシュしたけど、これは言わないほうがいいだろう。
私の言葉に優一郎くんも納得してくれたようだ。ハグからも解放されたし、やっと晩ご飯にありつける。
「よし、行こう。優一郎くん」
早くリビングに行きたくて、急かすように優一郎くんの腕を掴む。しかし彼は頑なにそこから動こうとしなかった。
「優一郎くん?」
「どこに行くつもりだ。風呂はそっちじゃないだろう」
「いや先にご飯……」
「他の男の、ましてや部長の匂いを付けたままでか? 良いわけないだろう。風呂で綺麗さっぱり、全部洗い流してからだ」
「ええー⁈」
渋る私を優一郎くんは問答無用で風呂場に引きずっていった。そして当然のごとく一緒に入り、一晩寝かせたカレーを次の日の朝(というかほぼ昼)に食べることになるのだが、まあいつものことだった。
身長差のせいですぐにつま先は地面を離れ、履いていたパンプスが乾いた音を立てて脱げ落ちた。腕に込められる力は次第に強くなり、締め上げるとまではいかないけれど痛いくらいになってきて、私は慌てて優一郎くんの背中を叩く。タンマの合図である。……タンマの合図である。一向に力を緩めてくれないので二度言った。それでもまだ緩める様子はなく、何も言えないように胸板に頭を押し付けてくるので、私はさっきよりも容赦なく背中を叩いた。
「……恋人に対してそれはないんじゃないか」
バシバシと叩くこと数回。やっと腕の力を弱めた優一郎くんは不満げな顔で私を見下ろしてきた。
「だって、待ってって合図しても止まってくれないから」
「仕方ないだろう。お互い忙しくて久々に会うんだ。まだまだ君が足りない」
再び抱き寄せられる気配に、私は大事なことだからと忠告する。
「痛くない程度にしてね。次痛くなったら即ハグ終了だから」
「ああ、わかった」
頷くなり、優一郎くんはそっと私を抱きしめた。さっきよりも随分と優しくて、かと言って緩すぎず。これくらいが好きだな、と思いつつ私も彼の背中に腕を回した。
そしてそのまま心地よく抱きしめられて、どれくらい経ったのか。夜風で冷え切った身体はすっかり温まっていた。
「優一郎くん、そろそろ……」
「痛くした覚えはないが?」
それはそう。優一郎くんは珍しいことに私の言いつけを守って優しく抱きしめてくれている。けれど、痛かったら即ハグ終了というのは、痛くなければずっとハグしていい、と同義ではない。
愛情表現はありがたいけれど、そろそろお腹が限界だ。リビングから漂ってくるカレーの匂いがさらに空腹に追い討ちをかけてくる。
「うう、ご飯食べたい」
私の泣き言のように弱々しい言葉は優一郎くんを喜ばせるだけだった。きゅうっと痛くない程度に抱き寄せて、鼻を首筋に擦り寄せてくる。すうっと深く息を吸い込む彼に、私は思わず身を捩った。その反応に優一郎くんはうっそりと目を細め、「っ⁈」突然私を引き剥がした。
きっと彼が満足するまで解放されることはない、下手したらそのまま寝室に連れて行かれるかもしれないと覚悟していた私は目を丸くした。そして、優一郎くんの顔を見てさらに目を見開くことになる。
「ど、どうしたの?」
見上げた先の優一郎くんは、口を開け鼻に皺を寄せて、何とも言えない表情をしていた。付き合うようになって今までに彼の色んな表情を見てきたが、こんな顔をしている優一郎くんを見たのは初めてだ。でも何だろう、この既視感。どこかで見たような、と記憶を遡り、思い当たる。フレーメン反応だ。実家で飼っていた猫が時折優一郎くんみたいに、何とも言えないあの顔をしていた。でも、どうして? 私の疑問は優一郎くんの言葉に掻き消された。
「……部長の匂いがする」
「え?」
「何故君から大黒部長の匂いがするんだ」
そんな匂いするかな? すんすんと服の袖に鼻を当てるも自分ではわからなかった。けれど優一郎くんは確信しているらしい。すごい嗅覚だ。浮気かと怖いくらいに詰め寄ってくる。
「違う違う、帰りのエレベーターが一緒になっただけだよ」
「本当か?」
「うん、本当」
エレベーターに二人しか乗ってないのにやたら距離が近くて、1Fに着くなり逃げるようにダッシュしたけど、これは言わないほうがいいだろう。
私の言葉に優一郎くんも納得してくれたようだ。ハグからも解放されたし、やっと晩ご飯にありつける。
「よし、行こう。優一郎くん」
早くリビングに行きたくて、急かすように優一郎くんの腕を掴む。しかし彼は頑なにそこから動こうとしなかった。
「優一郎くん?」
「どこに行くつもりだ。風呂はそっちじゃないだろう」
「いや先にご飯……」
「他の男の、ましてや部長の匂いを付けたままでか? 良いわけないだろう。風呂で綺麗さっぱり、全部洗い流してからだ」
「ええー⁈」
渋る私を優一郎くんは問答無用で風呂場に引きずっていった。そして当然のごとく一緒に入り、一晩寝かせたカレーを次の日の朝(というかほぼ昼)に食べることになるのだが、まあいつものことだった。