優一郎黒野
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数か月前、新しく大黒部長の秘書となったその女は鉄壁だった。俺がいくらハラスメントをしようと表情を崩さず、屈しない。部長自ら見つけてきただけあって、それなりに使える人間のようだったが、俺はちっとも面白くなかった。鉄壁を具現化したような女には可愛さの欠片もない。今までに辞めていった秘書たちはよかった。あいつらは弱くて可愛げがあって、泣き顔を思い出すだけでゾクゾクとしたものが背中を走る。
あの女も社長や部長と同じ類の人間だろうか。強い人間が社内に、それも同部署にこれ以上増えるのは好ましくないのだが。
何かないか。どこかにあの女の弱点がーー。
けれど探れど探れどそんなものは見つからず、女は俺に冷ややかな視線を向けるばかり。この女はやはり強い人間なのだろうか。ああ、なんてつまらない毎日だ。
そう思っていたある日。
「ーーさん」
何度か声をかけたが、あの女は仕事に集中しているらしく、俺の声が届いていないようだった。大きな声を出す気にもなれず、距離を縮め、身を屈め、もう一度耳元で名前を呼んでやる。さすがにこれなら気づくだろう。予想通り女は振り返り、
「っ⁈」
両手で右耳を押さえ、驚いた表情で俺を見つめた。初めて崩れた女の表情に一瞬気を取られる。しかしすぐに、じわじわと懐かしい感情が胸の奥底から広がっていくのを感じた。
「ああ、黒野主任でしたか。すみません、驚いてしまって。書類お預かりしますね」
女は何食わぬ顔で俺から書類を受け取ろうと手を伸ばす。鉄壁であるつもりなのだろう。しかし頬の赤らみは未だ引いていない。
「それがアンタの弱点か」
「え?」
伸ばされた女の手を掴み、抱き寄せる。驚いた女は抵抗するように俺の腕の中でもがいたが、その力はあまりに弱く、段々と愛おしく思えてくる。
耳に息を吹き込むように女の名前を呼ぶと、ぴくりと身体が小さく震えた。俺を映す瞳はしっとりと濡れていて、今にも涙が零れ落ちそうだった。鉄壁だと思っていた女がここまで弱々しくなるとは。思わずごくりと喉がなる。
「アンタの弱点は耳か? それとも俺の声か?」
耳元で低く囁く。「あっ」と短く悲鳴を上げた女から力が抜けるのを感じ、俺はより強く彼女を抱きしめた。せっかく楽しめそうなのに、逃げられては堪らない。
「弱くて可愛いな。簡単に辞めないでくれよ。俺はもっと弱々しいアンタが見たいんだ」
あの女も社長や部長と同じ類の人間だろうか。強い人間が社内に、それも同部署にこれ以上増えるのは好ましくないのだが。
何かないか。どこかにあの女の弱点がーー。
けれど探れど探れどそんなものは見つからず、女は俺に冷ややかな視線を向けるばかり。この女はやはり強い人間なのだろうか。ああ、なんてつまらない毎日だ。
そう思っていたある日。
「ーーさん」
何度か声をかけたが、あの女は仕事に集中しているらしく、俺の声が届いていないようだった。大きな声を出す気にもなれず、距離を縮め、身を屈め、もう一度耳元で名前を呼んでやる。さすがにこれなら気づくだろう。予想通り女は振り返り、
「っ⁈」
両手で右耳を押さえ、驚いた表情で俺を見つめた。初めて崩れた女の表情に一瞬気を取られる。しかしすぐに、じわじわと懐かしい感情が胸の奥底から広がっていくのを感じた。
「ああ、黒野主任でしたか。すみません、驚いてしまって。書類お預かりしますね」
女は何食わぬ顔で俺から書類を受け取ろうと手を伸ばす。鉄壁であるつもりなのだろう。しかし頬の赤らみは未だ引いていない。
「それがアンタの弱点か」
「え?」
伸ばされた女の手を掴み、抱き寄せる。驚いた女は抵抗するように俺の腕の中でもがいたが、その力はあまりに弱く、段々と愛おしく思えてくる。
耳に息を吹き込むように女の名前を呼ぶと、ぴくりと身体が小さく震えた。俺を映す瞳はしっとりと濡れていて、今にも涙が零れ落ちそうだった。鉄壁だと思っていた女がここまで弱々しくなるとは。思わずごくりと喉がなる。
「アンタの弱点は耳か? それとも俺の声か?」
耳元で低く囁く。「あっ」と短く悲鳴を上げた女から力が抜けるのを感じ、俺はより強く彼女を抱きしめた。せっかく楽しめそうなのに、逃げられては堪らない。
「弱くて可愛いな。簡単に辞めないでくれよ。俺はもっと弱々しいアンタが見たいんだ」