優一郎黒野
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ガッ、ガッ、ガッ、ガッ。
午後三時。私たちは今日のおやつに、頂き物のアイスを食べようとしている。だというのにこの音、信じられるだろうか。
「……固い」
隣の黒野先輩が溜め息を吐きながら肩を落とす。
「そういうアイスですからね」
大黒部長が取引先に貰ったというこのアイス。なんでも大災害が起きる以前に走っていた『新幹線』という乗り物(なんと電車より速いらしい)で販売されていたのを再現した、とても珍しいものなんだとか。その名も『シンカンセンスゴイカタイアイス』。名前の通りカッチカチで、スプーンがこれっぽっちも入らない。こんなに固いアイス、一体どうやって食べろというのだろう。昔の人はとんでもないものを作ったものだ。アイスは少し溶けたくらいが美味しいというのに。
「そうだ!」
いいことを思いついた。早速実行に移ると、さっきまで両腕を投げ出してアイスを食べることを放棄していた黒野先輩が訝しげな眼差しをこちらに向けた。
「何をしているんだ」
「私、天才かもしれないです。最初からこうやってアイスを溶かせばよかったんですよ」
両手でカップを包んで体温でアイスを溶かす。こうすれば食べ頃までの時間がぐっと減るし、溶け具合も自分の好みにできる。手が悴むのが玉に瑕だが、それも休みつつやれば問題ない程度だ。我ながら妙案と自画自賛していると、黒野先輩も「それはいい考えだな」と大いに頷いてくれた。
「先輩もぜひやってみてください。きっと能力者ならすぐですよ」
「そうだな。そうするとしよう」
そう言って、黒野先輩が手を伸ばす。が、
「あの、先輩……」
「なんだ」
「手はそこじゃないです」
黒野先輩の両手がカップを持つ私の両手をキュッと包み込む。先輩は「そうか」と言いつつその手を離す気配はない。それどころがさらにギュッと握り込んできた。
「ちょ、離してください。そろそろ冷たい……」
「俺は冷たくない」
「私が冷たいんです、ってなんでまた力入れるんですか⁈」
もう自力ではカップから手が離せなくなっていた。手の甲は黒野先輩から伝わる体温で温かいのに、手のひらは冷たいを通り越して痛い。
やめてくださいと目で訴えれば、先輩はぎらついた目を細め「まだまだ、溶けそうにないな」と楽しげな声で言った。
「やはりアイスはこれくらい柔らかいほうが美味いな」
黒野先輩がスプーンで掬ったアイスを口に運ぶ。カップの中身は液体とまではいかないが、アイスとは言い難いほど溶けていた。
「それ私のだったのに」
はあ、と真っ赤になった手のひらに息を吹きかけ摩っていると、黒野先輩が目の前にアイスを差し出してきた。私のを奪った代わりに自分のを、ということだろうか。結構時間が経ったはずなのに、そのアイスは未だにスプーンが入らないほどカチコチだった。
「もう一回やるか?」
「結構です!」
誰がやるか。あんな思い二度とごめんだ。
断っているのに黒野先輩が再び両手を伸ばしてきたので、私は慌てて天使のお姉さん先輩の元へと逃げ込んだのだった。
午後三時。私たちは今日のおやつに、頂き物のアイスを食べようとしている。だというのにこの音、信じられるだろうか。
「……固い」
隣の黒野先輩が溜め息を吐きながら肩を落とす。
「そういうアイスですからね」
大黒部長が取引先に貰ったというこのアイス。なんでも大災害が起きる以前に走っていた『新幹線』という乗り物(なんと電車より速いらしい)で販売されていたのを再現した、とても珍しいものなんだとか。その名も『シンカンセンスゴイカタイアイス』。名前の通りカッチカチで、スプーンがこれっぽっちも入らない。こんなに固いアイス、一体どうやって食べろというのだろう。昔の人はとんでもないものを作ったものだ。アイスは少し溶けたくらいが美味しいというのに。
「そうだ!」
いいことを思いついた。早速実行に移ると、さっきまで両腕を投げ出してアイスを食べることを放棄していた黒野先輩が訝しげな眼差しをこちらに向けた。
「何をしているんだ」
「私、天才かもしれないです。最初からこうやってアイスを溶かせばよかったんですよ」
両手でカップを包んで体温でアイスを溶かす。こうすれば食べ頃までの時間がぐっと減るし、溶け具合も自分の好みにできる。手が悴むのが玉に瑕だが、それも休みつつやれば問題ない程度だ。我ながら妙案と自画自賛していると、黒野先輩も「それはいい考えだな」と大いに頷いてくれた。
「先輩もぜひやってみてください。きっと能力者ならすぐですよ」
「そうだな。そうするとしよう」
そう言って、黒野先輩が手を伸ばす。が、
「あの、先輩……」
「なんだ」
「手はそこじゃないです」
黒野先輩の両手がカップを持つ私の両手をキュッと包み込む。先輩は「そうか」と言いつつその手を離す気配はない。それどころがさらにギュッと握り込んできた。
「ちょ、離してください。そろそろ冷たい……」
「俺は冷たくない」
「私が冷たいんです、ってなんでまた力入れるんですか⁈」
もう自力ではカップから手が離せなくなっていた。手の甲は黒野先輩から伝わる体温で温かいのに、手のひらは冷たいを通り越して痛い。
やめてくださいと目で訴えれば、先輩はぎらついた目を細め「まだまだ、溶けそうにないな」と楽しげな声で言った。
「やはりアイスはこれくらい柔らかいほうが美味いな」
黒野先輩がスプーンで掬ったアイスを口に運ぶ。カップの中身は液体とまではいかないが、アイスとは言い難いほど溶けていた。
「それ私のだったのに」
はあ、と真っ赤になった手のひらに息を吹きかけ摩っていると、黒野先輩が目の前にアイスを差し出してきた。私のを奪った代わりに自分のを、ということだろうか。結構時間が経ったはずなのに、そのアイスは未だにスプーンが入らないほどカチコチだった。
「もう一回やるか?」
「結構です!」
誰がやるか。あんな思い二度とごめんだ。
断っているのに黒野先輩が再び両手を伸ばしてきたので、私は慌てて天使のお姉さん先輩の元へと逃げ込んだのだった。