優一郎黒野
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「黒野くん、好きな子がいるらしいのよ」
くるりと踊るように小さな人形を操っていた先輩が、ふとそんなことを言った。
「まっさかぁ。誰ですか、そんな噂流したの」
「あら、本当よ。だって本人が言ってたんだもの」
あなた、いつも一緒にいるのに気づかなかったの? そう言われて、私は何も言えなくなってしまった。
確かに一緒に行動することは多いけど、あの黒野先輩が恋? 思い返してみるも、そんな様子はなかったように思う。と言っても、私がわかるのは黒野先輩の機嫌が良いか悪いかくらいなのだけど。
相手は誰だろう。天使のお姉さん先輩も、「言ったら黒野くんが怖いから」とそこまでは教えてくれなかった。
(……私にも相談してくれればいいのに)
天使のお姉さん先輩よりも話す機会は多かったはずだ。それとも私なんかでは頼りなかったのだろうか。それなりに付き合いは長いと思っていたのだが。
ぼんやり窓から外を眺めていると、見覚えのある長身が中庭を歩いているのが見えた。黒野先輩だ。そのまま先輩は綺麗に花の植えられた花壇の前にしゃがみ込み、後ろ姿しか見えないが何かをしているようだった。あんなところで何を……? 嫌な予感がする。先輩に花を愛でる趣味があるとは思えない。やるとすればーー。
気づけば走り出していた。脳内で大黒部長の笑い声と「減給」の一言がこだまする。
「黒野先輩!」
階段を一気に駆け降りて肩で息をする私に、黒野先輩は「どうした?」と不思議そうな顔を向けた。その手には花がいくつも握られていて、花壇の一部が綺麗にはげていた。部長の「減給」がさっきよりも鮮明に頭に響く。
「どうしたじゃないですよ。勝手に会社のものを取ったら怒られますよ」
「少しくらいならバレないだろう」
一、二本ならそうかもしれないが、十本以上はさすがにバレるのでは。誤魔化せる気がしなくて、部長や社長がここを訪れないことを祈るしかない。
「そんなに花摘んでどうするんです? 誰かにプレゼントですか?」
「いや、これは花占い用だ」
「花、占い?」
「知らないのか? こう、花びらをちぎって……」
「大丈夫です、それは知ってます」
あの黒野先輩が恋なんて、と思っていたけれど、やっぱりそうなんだ。
「先輩、好きな人いるんですか」
「ああ。俺の片想いだがな」
「どんな人ですか」
「ずっと隣に置いて、死ぬまでいじめたくなるような奴だ」
それはちょっと相手が心配になるけれど。
「本当にその人のことが好きなんですね」
「ああ、愛している」
ぶち、ぶち、と黒野先輩が花びらを一枚ずつちぎっていく。好き、嫌い、好き、嫌い。枚数が残り少なくなってくると最後がどちらかもわかってしまって、ああ、これは……と様子を窺っていると、
「好き。よし、好きだな」
残り全ての花びらを強引に引きちぎった黒野先輩は満足げに頷いて、次の花に手を伸ばす。花占いとは。そう問いかけたくなったが、真剣にやっているところに水を差すのはよくないだろう。
「私、先輩の恋、応援してますから!」
黒野先輩からしたら私は相談すらできない頼りない後輩かもしれないけれど、応援くらいはさせてほしい。ぐっと両拳に力を込めて意思表示をしたら、なぜか「お前は何もわかっていない」と不機嫌になった黒野先輩にこれでもかと頬をつねられたのだった。
くるりと踊るように小さな人形を操っていた先輩が、ふとそんなことを言った。
「まっさかぁ。誰ですか、そんな噂流したの」
「あら、本当よ。だって本人が言ってたんだもの」
あなた、いつも一緒にいるのに気づかなかったの? そう言われて、私は何も言えなくなってしまった。
確かに一緒に行動することは多いけど、あの黒野先輩が恋? 思い返してみるも、そんな様子はなかったように思う。と言っても、私がわかるのは黒野先輩の機嫌が良いか悪いかくらいなのだけど。
相手は誰だろう。天使のお姉さん先輩も、「言ったら黒野くんが怖いから」とそこまでは教えてくれなかった。
(……私にも相談してくれればいいのに)
天使のお姉さん先輩よりも話す機会は多かったはずだ。それとも私なんかでは頼りなかったのだろうか。それなりに付き合いは長いと思っていたのだが。
ぼんやり窓から外を眺めていると、見覚えのある長身が中庭を歩いているのが見えた。黒野先輩だ。そのまま先輩は綺麗に花の植えられた花壇の前にしゃがみ込み、後ろ姿しか見えないが何かをしているようだった。あんなところで何を……? 嫌な予感がする。先輩に花を愛でる趣味があるとは思えない。やるとすればーー。
気づけば走り出していた。脳内で大黒部長の笑い声と「減給」の一言がこだまする。
「黒野先輩!」
階段を一気に駆け降りて肩で息をする私に、黒野先輩は「どうした?」と不思議そうな顔を向けた。その手には花がいくつも握られていて、花壇の一部が綺麗にはげていた。部長の「減給」がさっきよりも鮮明に頭に響く。
「どうしたじゃないですよ。勝手に会社のものを取ったら怒られますよ」
「少しくらいならバレないだろう」
一、二本ならそうかもしれないが、十本以上はさすがにバレるのでは。誤魔化せる気がしなくて、部長や社長がここを訪れないことを祈るしかない。
「そんなに花摘んでどうするんです? 誰かにプレゼントですか?」
「いや、これは花占い用だ」
「花、占い?」
「知らないのか? こう、花びらをちぎって……」
「大丈夫です、それは知ってます」
あの黒野先輩が恋なんて、と思っていたけれど、やっぱりそうなんだ。
「先輩、好きな人いるんですか」
「ああ。俺の片想いだがな」
「どんな人ですか」
「ずっと隣に置いて、死ぬまでいじめたくなるような奴だ」
それはちょっと相手が心配になるけれど。
「本当にその人のことが好きなんですね」
「ああ、愛している」
ぶち、ぶち、と黒野先輩が花びらを一枚ずつちぎっていく。好き、嫌い、好き、嫌い。枚数が残り少なくなってくると最後がどちらかもわかってしまって、ああ、これは……と様子を窺っていると、
「好き。よし、好きだな」
残り全ての花びらを強引に引きちぎった黒野先輩は満足げに頷いて、次の花に手を伸ばす。花占いとは。そう問いかけたくなったが、真剣にやっているところに水を差すのはよくないだろう。
「私、先輩の恋、応援してますから!」
黒野先輩からしたら私は相談すらできない頼りない後輩かもしれないけれど、応援くらいはさせてほしい。ぐっと両拳に力を込めて意思表示をしたら、なぜか「お前は何もわかっていない」と不機嫌になった黒野先輩にこれでもかと頬をつねられたのだった。