優一郎黒野
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ーー状況を整理しよう。
会社に泊まること三日目。徹夜はないにしてもさすがに頭が回らなくなってきた私は、しばらく仮眠を取ることにした。灰島重工の仮眠室は完全個室、施錠設備もバッチリで重宝している。私は部屋に入るなり鍵をかけ、アラームをセットしてベッドに潜り込んだ。そのまますぐに気を失うように眠りにつき……ここまではいい。
意識を失ってしばらく、それが数十分だか数時間だか定かではないけれど、私は息苦しさで目を覚ました。もしかしたら悪い夢でも見ていたのかもしれない。ぼんやりと天井を見つめながら自身を落ち着かせるように数度深く呼吸する。けれど押し潰されるような圧迫感はいつまで経っても消えてくれず、これはとうとう過労で身体に支障が出てきたか、と真剣に悩み始めた時だった。
「ん……」
微かな声とともに、もそりと布団が動いた。よくよく見ると私が掛けていた布団に不自然な盛り上がりができていて、そう、まるで私以外に人ひとり入っていそうな、そんな盛り上がりがーー。
一瞬で血の気が引いて、私は思い切り布団をめくった。視界に飛び込んできたのは、黒。思わず息を呑むとその反動で黒色も揺れる。
「なんで……何してるんですか、黒野先輩」
ここにいるはずのない、いや、いてはいけない人がそこにいた。
きちんと鍵はかけたし(何なら今も施錠されている)、意識を手放す直前までは確実に部屋に一人きりだったはずだ。恐らく私が寝ている間に侵入したのだろう。けれど外から解錠するには当然私の持つ鍵が必要で、完全な密室だというのにこの人は一体どうやって入り込んだのか。名探偵もびっくりの所業だ。
不法侵入だけならまだいい。しかし黒野先輩は混乱する私を余所に、すやすやと寝息を立てていた。あろう事か人の胸を枕にして。息苦しさの原因は間違いなくこれだ。
「ちょっと、起きてください!」
強めに揺すると黒野先輩が無言のまま顔を上げた。その眉間には不機嫌であることを主張するように深く皺が刻まれていて、普段虐められる時の数倍怖い。目の開ききらない先輩はじぃっと私の顔を見つめ、そして何事もなかったかのように再び私の胸に顔を埋めた。擦り寄るように頭を動かし、安定する場所を見つけたのか、ぴたりとそこで動きが止まる。
「えぇ……」
その後先輩は何をしても起きてくれず、途方に暮れた私はただただ私の呼吸に合わせて上下する黒い頭を見つめることしかできなかった。けれど段々それも飽きてきて、何となく形の良い頭に手を伸ばす。頭のてっぺんから後頭部にそっと手のひらを滑らせると、その輪郭は見た目通り綺麗な曲線を描いていた。深く艶のある黒髪はさらりとしていて指通りがよく、少し羨ましい。
撫でたり、梳いたり、絡めたり。最初は恐る恐る触れていたのに次第に遠慮がなくなっていったのは、どうせ起きないだろうと高を括っていたからだ。だから、手首を掴まれて、薄く開いた金の瞳が私を捉えていた時は、心臓が掴まれたようにぎゅっとなった。
「す、すみませ……」
辛うじて絞り出した声はちゃんと音になっていたかわからない。黒野先輩は相変わらず私を睨みつけるだけで、
「……もっとちゃんと撫でろ」
「はい?」
ふん、と鼻を鳴らした黒野先輩の頭がぽすりと私の胸に着地した。掴まれていた手は先輩の頭の上へ。これは一体? どうしたものかと思っていると、ちろりと金色の目がこちらを向いた。早く撫でろ、そう目が語っている。促されるまま手のひらを動かすと、再び先輩が瞼を閉じた。
そろそろ仕事に戻りたいのだけど、残念ながら黒野先輩はまだ起きるつもりはないらしい。仕方なく命令通りに頭を撫でながらぴくりとも動かない先輩を盗み見ると、今にもゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえてきそうな、そんな寝顔をしていた。
まったく、気持ち良さそうに寝ちゃって。
私は溜め息を一つ零し、あと数分で鳴り出すアラームをオフにした。
***
「何で今日もいるんですか⁈」
布団を引き剥がした先には、もうすっかり見慣れてしまった光景が広がっていた。
「煩い。眠れないだろう」
「毎度毎度勝手に人の胸を枕に寝ないでください」
あれから黒野先輩は事あるごとに私の布団に潜り込んでくるようになった。一人でゆっくり寝たいのに部屋を変えても、気づかれぬようこっそり行動しても結果は同じで、そろそろ挫けそうだ。
「他の部屋で寝てくださいよ。二人じゃ狭くて寝にくいでしょ」
「いや、よく眠れる」
「私が寝れないんです!」
黒野先輩は私の訴えをまるで無視して胸元で寝息を立て始めた。こうなると私にはもうどうにもできなくて、今日も今日とて、この人の枕になるしかないのだった。
会社に泊まること三日目。徹夜はないにしてもさすがに頭が回らなくなってきた私は、しばらく仮眠を取ることにした。灰島重工の仮眠室は完全個室、施錠設備もバッチリで重宝している。私は部屋に入るなり鍵をかけ、アラームをセットしてベッドに潜り込んだ。そのまますぐに気を失うように眠りにつき……ここまではいい。
意識を失ってしばらく、それが数十分だか数時間だか定かではないけれど、私は息苦しさで目を覚ました。もしかしたら悪い夢でも見ていたのかもしれない。ぼんやりと天井を見つめながら自身を落ち着かせるように数度深く呼吸する。けれど押し潰されるような圧迫感はいつまで経っても消えてくれず、これはとうとう過労で身体に支障が出てきたか、と真剣に悩み始めた時だった。
「ん……」
微かな声とともに、もそりと布団が動いた。よくよく見ると私が掛けていた布団に不自然な盛り上がりができていて、そう、まるで私以外に人ひとり入っていそうな、そんな盛り上がりがーー。
一瞬で血の気が引いて、私は思い切り布団をめくった。視界に飛び込んできたのは、黒。思わず息を呑むとその反動で黒色も揺れる。
「なんで……何してるんですか、黒野先輩」
ここにいるはずのない、いや、いてはいけない人がそこにいた。
きちんと鍵はかけたし(何なら今も施錠されている)、意識を手放す直前までは確実に部屋に一人きりだったはずだ。恐らく私が寝ている間に侵入したのだろう。けれど外から解錠するには当然私の持つ鍵が必要で、完全な密室だというのにこの人は一体どうやって入り込んだのか。名探偵もびっくりの所業だ。
不法侵入だけならまだいい。しかし黒野先輩は混乱する私を余所に、すやすやと寝息を立てていた。あろう事か人の胸を枕にして。息苦しさの原因は間違いなくこれだ。
「ちょっと、起きてください!」
強めに揺すると黒野先輩が無言のまま顔を上げた。その眉間には不機嫌であることを主張するように深く皺が刻まれていて、普段虐められる時の数倍怖い。目の開ききらない先輩はじぃっと私の顔を見つめ、そして何事もなかったかのように再び私の胸に顔を埋めた。擦り寄るように頭を動かし、安定する場所を見つけたのか、ぴたりとそこで動きが止まる。
「えぇ……」
その後先輩は何をしても起きてくれず、途方に暮れた私はただただ私の呼吸に合わせて上下する黒い頭を見つめることしかできなかった。けれど段々それも飽きてきて、何となく形の良い頭に手を伸ばす。頭のてっぺんから後頭部にそっと手のひらを滑らせると、その輪郭は見た目通り綺麗な曲線を描いていた。深く艶のある黒髪はさらりとしていて指通りがよく、少し羨ましい。
撫でたり、梳いたり、絡めたり。最初は恐る恐る触れていたのに次第に遠慮がなくなっていったのは、どうせ起きないだろうと高を括っていたからだ。だから、手首を掴まれて、薄く開いた金の瞳が私を捉えていた時は、心臓が掴まれたようにぎゅっとなった。
「す、すみませ……」
辛うじて絞り出した声はちゃんと音になっていたかわからない。黒野先輩は相変わらず私を睨みつけるだけで、
「……もっとちゃんと撫でろ」
「はい?」
ふん、と鼻を鳴らした黒野先輩の頭がぽすりと私の胸に着地した。掴まれていた手は先輩の頭の上へ。これは一体? どうしたものかと思っていると、ちろりと金色の目がこちらを向いた。早く撫でろ、そう目が語っている。促されるまま手のひらを動かすと、再び先輩が瞼を閉じた。
そろそろ仕事に戻りたいのだけど、残念ながら黒野先輩はまだ起きるつもりはないらしい。仕方なく命令通りに頭を撫でながらぴくりとも動かない先輩を盗み見ると、今にもゴロゴロと喉を鳴らす音が聞こえてきそうな、そんな寝顔をしていた。
まったく、気持ち良さそうに寝ちゃって。
私は溜め息を一つ零し、あと数分で鳴り出すアラームをオフにした。
***
「何で今日もいるんですか⁈」
布団を引き剥がした先には、もうすっかり見慣れてしまった光景が広がっていた。
「煩い。眠れないだろう」
「毎度毎度勝手に人の胸を枕に寝ないでください」
あれから黒野先輩は事あるごとに私の布団に潜り込んでくるようになった。一人でゆっくり寝たいのに部屋を変えても、気づかれぬようこっそり行動しても結果は同じで、そろそろ挫けそうだ。
「他の部屋で寝てくださいよ。二人じゃ狭くて寝にくいでしょ」
「いや、よく眠れる」
「私が寝れないんです!」
黒野先輩は私の訴えをまるで無視して胸元で寝息を立て始めた。こうなると私にはもうどうにもできなくて、今日も今日とて、この人の枕になるしかないのだった。