優一郎黒野
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弐佰伍拾年前、世界の大半は燃え、そして復興した。多くのものが失われ、それでも先人たちは必死に色々なものを取り戻した。すごいことだと思う、けど。
「へっ……くしょん!」
この花粉は取り戻さなくてもよかったんじゃないかと、花粉症の私は思わずにはいられない。かみすぎて鼻は痛いし、目は痒いし。強い薬を飲んだこともあって抗えない睡魔も襲ってくる。とりあえず辛い。
「弱っているな」
デスクにうつ伏せていると隣の席の黒野先輩が嬉々として声を掛けてきた。先輩はマスクも付けず平然としていて、花粉症ではないようだ。羨ましい。
「はい」と鼻声で返すとその弱々しい声が大層気に入ったようで、先輩の目がきゅうっと細くなる。もっと話せとしつこく揺すられたがそんな気力はない。しばらく黙っていると、興味を失くしたのか席を立って遠ざかっていく気配がした。よかった、これでゆっくりできる。私は昼休憩が終わる時間にアラームをセットして、押し寄せる睡魔に身を委ねた。
ピピピピというけたたましい電子音に重たい瞼を上げると、視界いっぱいに天井が見えた。おかしい。覚醒しきらないぼんやりとした思考でもそれだけはわかる。私はデスクにうつ伏せて寝たはずだ。
「起きたか?」
突然視界に入り込んだ黒にひゅっと息を呑む。黒野先輩だった。間近で覗き込まれ、さらりとした黒髪が降ってくるようだ。
仰向けの私、覗き込む黒野先輩、頭の下にある枕とは違う感触のもの。それが否応なく私に今の状況を理解させた。
私は、黒野先輩に膝枕をされている。
どうしてかはわからない。が、非常にまずい状況なのは一目瞭然だ。このままではいけないと身体を起こそうとすると、黒野先輩が無言のままそれを阻んだ。
「あの、先輩?」
「時間なら気にしなくていい。仮眠室の使用許可は取ってある」
見覚えのある部屋だと思ったら仮眠室か。
「いや、そうじゃなくて……え、私ここまで運ばれたんです?」
「それより、調子はどうだ」
「はい?」
そういえば、眠気はあるが鼻が通ってすっきりしている。薬が効いてきたのかもしれない。
「だいぶいいです」
「そうか。ならいい。一応花粉症に効果のあるものも買ってきた」
ベッドの脇にあるテーブルにはヨーグルトやビタミン剤、高級で肌触りの良いティッシュが置かれていた。
「全部お前の為だ」
「はあ、ありがとうございます」
あの黒野先輩に優しく? されている。それが何だか妙に居心地が悪い。目の前にいるのは実は黒野先輩の皮を被った別人なんじゃないかと、そんな気さえしてきた。
「何でここまでしてくれるんですか」
訝しげに見つめると、きょとっと金色の目が動く。
「お前が弱っているのを見るのは悪くないが、俺以外の奴に弱らされているのは気に食わない」
その台詞に思わず吹き出してしまった。花粉相手にこの人は何を言っているのか。でも紛うことなき「優一郎黒野」本人で安心する。
「眠いのなら寝るといい。花粉ごときに負けるんじゃない」
無茶苦茶な励ましとともに先輩の左手が私の両目を覆った。灰病に侵されていない手のひらはちゃんと人の温度をしていた。
「はは、頑張ります」
心配からくるものではないけれど、こんなに優しい先輩は貴重だ。だから私も、今日くらいはその優しさに甘えさせてもらおうと思う。
「おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
酷く優しい声が鼓膜を撫でた。それを合図に、私は決して寝心地がいいとは言えない黒野先輩の膝上で、もう一度目を閉じた。
「へっ……くしょん!」
この花粉は取り戻さなくてもよかったんじゃないかと、花粉症の私は思わずにはいられない。かみすぎて鼻は痛いし、目は痒いし。強い薬を飲んだこともあって抗えない睡魔も襲ってくる。とりあえず辛い。
「弱っているな」
デスクにうつ伏せていると隣の席の黒野先輩が嬉々として声を掛けてきた。先輩はマスクも付けず平然としていて、花粉症ではないようだ。羨ましい。
「はい」と鼻声で返すとその弱々しい声が大層気に入ったようで、先輩の目がきゅうっと細くなる。もっと話せとしつこく揺すられたがそんな気力はない。しばらく黙っていると、興味を失くしたのか席を立って遠ざかっていく気配がした。よかった、これでゆっくりできる。私は昼休憩が終わる時間にアラームをセットして、押し寄せる睡魔に身を委ねた。
ピピピピというけたたましい電子音に重たい瞼を上げると、視界いっぱいに天井が見えた。おかしい。覚醒しきらないぼんやりとした思考でもそれだけはわかる。私はデスクにうつ伏せて寝たはずだ。
「起きたか?」
突然視界に入り込んだ黒にひゅっと息を呑む。黒野先輩だった。間近で覗き込まれ、さらりとした黒髪が降ってくるようだ。
仰向けの私、覗き込む黒野先輩、頭の下にある枕とは違う感触のもの。それが否応なく私に今の状況を理解させた。
私は、黒野先輩に膝枕をされている。
どうしてかはわからない。が、非常にまずい状況なのは一目瞭然だ。このままではいけないと身体を起こそうとすると、黒野先輩が無言のままそれを阻んだ。
「あの、先輩?」
「時間なら気にしなくていい。仮眠室の使用許可は取ってある」
見覚えのある部屋だと思ったら仮眠室か。
「いや、そうじゃなくて……え、私ここまで運ばれたんです?」
「それより、調子はどうだ」
「はい?」
そういえば、眠気はあるが鼻が通ってすっきりしている。薬が効いてきたのかもしれない。
「だいぶいいです」
「そうか。ならいい。一応花粉症に効果のあるものも買ってきた」
ベッドの脇にあるテーブルにはヨーグルトやビタミン剤、高級で肌触りの良いティッシュが置かれていた。
「全部お前の為だ」
「はあ、ありがとうございます」
あの黒野先輩に優しく? されている。それが何だか妙に居心地が悪い。目の前にいるのは実は黒野先輩の皮を被った別人なんじゃないかと、そんな気さえしてきた。
「何でここまでしてくれるんですか」
訝しげに見つめると、きょとっと金色の目が動く。
「お前が弱っているのを見るのは悪くないが、俺以外の奴に弱らされているのは気に食わない」
その台詞に思わず吹き出してしまった。花粉相手にこの人は何を言っているのか。でも紛うことなき「優一郎黒野」本人で安心する。
「眠いのなら寝るといい。花粉ごときに負けるんじゃない」
無茶苦茶な励ましとともに先輩の左手が私の両目を覆った。灰病に侵されていない手のひらはちゃんと人の温度をしていた。
「はは、頑張ります」
心配からくるものではないけれど、こんなに優しい先輩は貴重だ。だから私も、今日くらいはその優しさに甘えさせてもらおうと思う。
「おやすみなさい」
「ああ。おやすみ」
酷く優しい声が鼓膜を撫でた。それを合図に、私は決して寝心地がいいとは言えない黒野先輩の膝上で、もう一度目を閉じた。