優一郎黒野
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「何をしている」
自分の席でお昼を食べていると、隣から黒野先輩が覗き込んできた。食堂に行ったはずなのにいつの間に戻ってきたのだろう。あまりの気配のなさに、危うくサンドイッチを喉に詰まらせるところだった。先輩はむせる私を見て楽しそうに目を細め、手を伸ばして取ろうとした野菜ジュースをギリギリ届かないところに置いてくる。相変わらずひどい人だ。何とか呼吸を整えると黒野先輩は「なんだもう終わりか」とつまらなそうに言った。
弱いものいじめをして気が済んだかと思いきや、黒野先輩の視線は未だ私のパソコンに注がれている。先輩が興味を持つようなものではないと思うのだけど、一応先ほどの質問に答えておくことにした。
「猫を見てました」
「ねこ」
「猫、好きなんです。実家で飼ってるんですけどなかなか会いに行けないので、動画を見て癒されてました」
今もパソコン画面の向こうでよその子が愛くるしい姿を見せてくれている。ごろんと寝転がったり伸びをしたり、おもちゃに戯れついてみたり。あまりの可愛さについ頬が緩む。
黒野先輩はやはりというか何というか、こんなのを見て何が楽しいんだと、にやける私を若干引き気味に見てきた。正直先輩には言われたくないと思ったが趣味嗜好は人それぞれ。文句を言ったところでどうにもーーいや、弱いものいじめの楽しさを懇々と説明されそうだ。
「ああ、これはいいな」
ふいに黒野先輩の声色が変わった。パソコン画面には仰向けになった猫のお腹に飼い主が顔を埋めているシーンが映っていて、いわゆる『猫吸い』というやつである。私も実家の猫を吸うことはあるけれど、これがいいって……。黒野先輩が猫を吸うってこと? 顔中猫の毛だらけになった先輩を思い浮かべて、ないないと頭を振った。
「見ろ、この猫の顔。良い嫌がり具合だ」
よかった、そっちか。いやよくないけども。可愛すぎて猫を吸いたいなどと言われたら、頭でも打ったのかと医務室に連れて行くところだった。
「これは猫を吸って癒されてるんですよ」
「癒されるのか?」
「人によると思いますけど、私は癒されますね」
「猫は嫌そうだが」
「うっ、この子はそうかもですけど、猫の性格や信頼関係によって違うと思います。為すがままの子もいれば、一目散に逃げる子、我慢の限界がきて怒る子とか。実家では怒られるギリギリまで吸ってましたね」
お腹もいいけど、肉球とか首の後ろとか。たまに引っかかれることもあったけど、一度『猫吸い』の良さを知ってしまうとやみつきになってしまう。そんなことばかり考えていたからか、久々に実家の猫を吸いたくなってきた。
「そんなに良いものなのか」
「良いですよ。興味があったらぜひ吸ってみて欲しいです」
「そうか。わかった」
どうせ猫の嫌がる顔が見たいとかだろうけど、猫吸いに興味が湧いたならそれはそれで。ーーなんて甘い考えは早々に捨てるべきだった。
突然くるりと椅子の向きを変えられて、首筋にぞわりとした感触が走る。
「ふっ、あ、ちょっ……せんぱ……」
肌をなぞりながら先輩が深く息を吸う。嗅がれているのだと気付いて慌てて押し退けようとするも、私の手はいとも簡単に掴まれて椅子に押し付けられてしまった。どれくらいそうしていただろう。噛まれるわけでもなく、かと言って抵抗は一切許されず。ワイシャツから覗く肌に鼻先を滑らせていた黒野先輩は、最後に鎖骨から胸元をなぞり、フンと鼻を鳴らした。
「確かにいいな。だが吸いにくい」
顔を上げた先輩はひょいと私を担ぎ上げた。そのまま部屋を出て、向かう先に嫌な予感しかしない。
「せ、先輩、どこに……」
「仮眠室だ」
「もう休憩終わっちゃいますよ」
「問題ない。あと十分ある。それに吸って欲しいと言ったのはお前だろう」
私じゃなくて猫をですが‼︎ という訴えは仮眠室に放り投げられたことで声に出ず、休憩が終わるギリギリまで吸われた結果、私は飼い主に吸われる猫の気持ちを痛いほど理解したのだった。
自分の席でお昼を食べていると、隣から黒野先輩が覗き込んできた。食堂に行ったはずなのにいつの間に戻ってきたのだろう。あまりの気配のなさに、危うくサンドイッチを喉に詰まらせるところだった。先輩はむせる私を見て楽しそうに目を細め、手を伸ばして取ろうとした野菜ジュースをギリギリ届かないところに置いてくる。相変わらずひどい人だ。何とか呼吸を整えると黒野先輩は「なんだもう終わりか」とつまらなそうに言った。
弱いものいじめをして気が済んだかと思いきや、黒野先輩の視線は未だ私のパソコンに注がれている。先輩が興味を持つようなものではないと思うのだけど、一応先ほどの質問に答えておくことにした。
「猫を見てました」
「ねこ」
「猫、好きなんです。実家で飼ってるんですけどなかなか会いに行けないので、動画を見て癒されてました」
今もパソコン画面の向こうでよその子が愛くるしい姿を見せてくれている。ごろんと寝転がったり伸びをしたり、おもちゃに戯れついてみたり。あまりの可愛さについ頬が緩む。
黒野先輩はやはりというか何というか、こんなのを見て何が楽しいんだと、にやける私を若干引き気味に見てきた。正直先輩には言われたくないと思ったが趣味嗜好は人それぞれ。文句を言ったところでどうにもーーいや、弱いものいじめの楽しさを懇々と説明されそうだ。
「ああ、これはいいな」
ふいに黒野先輩の声色が変わった。パソコン画面には仰向けになった猫のお腹に飼い主が顔を埋めているシーンが映っていて、いわゆる『猫吸い』というやつである。私も実家の猫を吸うことはあるけれど、これがいいって……。黒野先輩が猫を吸うってこと? 顔中猫の毛だらけになった先輩を思い浮かべて、ないないと頭を振った。
「見ろ、この猫の顔。良い嫌がり具合だ」
よかった、そっちか。いやよくないけども。可愛すぎて猫を吸いたいなどと言われたら、頭でも打ったのかと医務室に連れて行くところだった。
「これは猫を吸って癒されてるんですよ」
「癒されるのか?」
「人によると思いますけど、私は癒されますね」
「猫は嫌そうだが」
「うっ、この子はそうかもですけど、猫の性格や信頼関係によって違うと思います。為すがままの子もいれば、一目散に逃げる子、我慢の限界がきて怒る子とか。実家では怒られるギリギリまで吸ってましたね」
お腹もいいけど、肉球とか首の後ろとか。たまに引っかかれることもあったけど、一度『猫吸い』の良さを知ってしまうとやみつきになってしまう。そんなことばかり考えていたからか、久々に実家の猫を吸いたくなってきた。
「そんなに良いものなのか」
「良いですよ。興味があったらぜひ吸ってみて欲しいです」
「そうか。わかった」
どうせ猫の嫌がる顔が見たいとかだろうけど、猫吸いに興味が湧いたならそれはそれで。ーーなんて甘い考えは早々に捨てるべきだった。
突然くるりと椅子の向きを変えられて、首筋にぞわりとした感触が走る。
「ふっ、あ、ちょっ……せんぱ……」
肌をなぞりながら先輩が深く息を吸う。嗅がれているのだと気付いて慌てて押し退けようとするも、私の手はいとも簡単に掴まれて椅子に押し付けられてしまった。どれくらいそうしていただろう。噛まれるわけでもなく、かと言って抵抗は一切許されず。ワイシャツから覗く肌に鼻先を滑らせていた黒野先輩は、最後に鎖骨から胸元をなぞり、フンと鼻を鳴らした。
「確かにいいな。だが吸いにくい」
顔を上げた先輩はひょいと私を担ぎ上げた。そのまま部屋を出て、向かう先に嫌な予感しかしない。
「せ、先輩、どこに……」
「仮眠室だ」
「もう休憩終わっちゃいますよ」
「問題ない。あと十分ある。それに吸って欲しいと言ったのはお前だろう」
私じゃなくて猫をですが‼︎ という訴えは仮眠室に放り投げられたことで声に出ず、休憩が終わるギリギリまで吸われた結果、私は飼い主に吸われる猫の気持ちを痛いほど理解したのだった。