優一郎黒野
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突然「両手を出せ」なんて黒野先輩言われて、つい拳を握った状態で差し出したら「お縄につけとは言ってない」と溜め息が零された。正論である。
「俺に後ろめたいことでもあるのか」
「いや、えっと。その……」
刺すような鋭い眼光から逃げるように視線を泳がせる。と、すぐに無理やり目線を戻された。片手なのになんて力だ。指が頬に食い込んでとても痛い。
「おにゃかがしゅいてしぇんぱいのデスクからおやつを拝借ひまひた」
どうしても空腹を我慢できなくて、でもこういう日に限って自分のは切らしてて。先輩の引き出しに入っていたチョコレートを一個食べてしまった。あまり食べているところを見たことがないから後でこっそり返せばいいかなと思って。無論勝手に食べた私が悪いのだけど、まさかこんなすぐにバレるとは思いもしなかった。
すみませんと謝ったらまたも重たい溜め息が降ってきた。ぷかりと浮かぶ煤のドクロも心なしか呆れたような表情をしている。
「悪い子だな。全く、油断も隙もない」
黒野先輩が私の手首を掴む。悪事を白状したのだ、今度こそお縄につくのかと覚悟していたら、握りしめていた指を一本一本ゆっくりと解かれた。
両の手のひらを天井に向けて、水を掬うような形にさせられる。何だこのポーズは。困惑する私を余所に黒野先輩は「余分に買っておいてよかった」だの「隠しておいて正解だった」だの、ぶつぶつ言いながら鍵の付いた引き出しを開けた。
中から出てきたのは小さな茶色の紙袋だった。何が入っているのか、はち切れそうなほどパンパンに膨らんでいる。黒野先輩は可愛らしいマスキングテープで留められていた封を盛大に破り、あろうことかそのままひっくり返した。
「一つも落とすんじゃないぞ」
「そういうのは先に言っといてくださいよ!」
私は悪態をついて慌てて両手を伸ばした。バラバラ、がさがさ。たくさんのカラフルな色が降ってくる。その正体は個包装のチョコやら飴やらクッキーやら。あの小さな紙袋に一体どれだけ詰めていたのか、私の両手では到底足りなくて、いくつもいくつもデスクに散らばった。
「落とすなと言ったのに」
「無茶言わないでください。何なんです、これ?」
「誕生日プレゼントだ。今日だっただろう」
あー、そういえばそうだっけ。働いていると日にち感覚も曜日感覚も狂って困る。
「ありがとうございます。こんなにたくさん……」
「ちゃんと歳の数入れておいた」
「節分か」
思わずつっこんでしまった。だからこんなにあったのかとちょっとだけ複雑になる。歳を重ねることを楽しめる大人になりきれない、微妙なお年頃なのだ。
そんな私の心情を黒野先輩が珍しく察したらしい。
「来年は一つ増える。再来年はさらにもう一つ。お前の好きなものを用意しておく」
がしがしと髪をかき混ぜられて(撫でたつもりらしい)両手にあったお菓子がまたいくつかこぼれ落ちた。よく見ればどのお菓子も私が好んで食べているものばかりで、いけない、このままでは黒野先輩の好感度が上がってしまう。
「楽しみだろう?」
誕生日が来ても何とも思わなくなっていたはずなのに。黒野先輩は後輩の扱いが上手すぎる。
「そうですね。期待して待ってます」
先輩はまた容赦なく人の髪を乱し、私は揺すられながらデスクに散らばったお菓子をかき集めた。これから毎年ひとつずつ、この『嬉しい』が増えていく。そう思ったら頬が緩むのを止められそうになくて、来年の今日がもう待ち遠しい。
「俺に後ろめたいことでもあるのか」
「いや、えっと。その……」
刺すような鋭い眼光から逃げるように視線を泳がせる。と、すぐに無理やり目線を戻された。片手なのになんて力だ。指が頬に食い込んでとても痛い。
「おにゃかがしゅいてしぇんぱいのデスクからおやつを拝借ひまひた」
どうしても空腹を我慢できなくて、でもこういう日に限って自分のは切らしてて。先輩の引き出しに入っていたチョコレートを一個食べてしまった。あまり食べているところを見たことがないから後でこっそり返せばいいかなと思って。無論勝手に食べた私が悪いのだけど、まさかこんなすぐにバレるとは思いもしなかった。
すみませんと謝ったらまたも重たい溜め息が降ってきた。ぷかりと浮かぶ煤のドクロも心なしか呆れたような表情をしている。
「悪い子だな。全く、油断も隙もない」
黒野先輩が私の手首を掴む。悪事を白状したのだ、今度こそお縄につくのかと覚悟していたら、握りしめていた指を一本一本ゆっくりと解かれた。
両の手のひらを天井に向けて、水を掬うような形にさせられる。何だこのポーズは。困惑する私を余所に黒野先輩は「余分に買っておいてよかった」だの「隠しておいて正解だった」だの、ぶつぶつ言いながら鍵の付いた引き出しを開けた。
中から出てきたのは小さな茶色の紙袋だった。何が入っているのか、はち切れそうなほどパンパンに膨らんでいる。黒野先輩は可愛らしいマスキングテープで留められていた封を盛大に破り、あろうことかそのままひっくり返した。
「一つも落とすんじゃないぞ」
「そういうのは先に言っといてくださいよ!」
私は悪態をついて慌てて両手を伸ばした。バラバラ、がさがさ。たくさんのカラフルな色が降ってくる。その正体は個包装のチョコやら飴やらクッキーやら。あの小さな紙袋に一体どれだけ詰めていたのか、私の両手では到底足りなくて、いくつもいくつもデスクに散らばった。
「落とすなと言ったのに」
「無茶言わないでください。何なんです、これ?」
「誕生日プレゼントだ。今日だっただろう」
あー、そういえばそうだっけ。働いていると日にち感覚も曜日感覚も狂って困る。
「ありがとうございます。こんなにたくさん……」
「ちゃんと歳の数入れておいた」
「節分か」
思わずつっこんでしまった。だからこんなにあったのかとちょっとだけ複雑になる。歳を重ねることを楽しめる大人になりきれない、微妙なお年頃なのだ。
そんな私の心情を黒野先輩が珍しく察したらしい。
「来年は一つ増える。再来年はさらにもう一つ。お前の好きなものを用意しておく」
がしがしと髪をかき混ぜられて(撫でたつもりらしい)両手にあったお菓子がまたいくつかこぼれ落ちた。よく見ればどのお菓子も私が好んで食べているものばかりで、いけない、このままでは黒野先輩の好感度が上がってしまう。
「楽しみだろう?」
誕生日が来ても何とも思わなくなっていたはずなのに。黒野先輩は後輩の扱いが上手すぎる。
「そうですね。期待して待ってます」
先輩はまた容赦なく人の髪を乱し、私は揺すられながらデスクに散らばったお菓子をかき集めた。これから毎年ひとつずつ、この『嬉しい』が増えていく。そう思ったら頬が緩むのを止められそうになくて、来年の今日がもう待ち遠しい。