優一郎黒野
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「好きだ」
「すみません。私、彼氏いるんで」
もはや日課となってしまった応酬。それも今日だけは聞きたくなくて、会わないように必死で逃げ回っていたのだけれど。
倉庫に隠れたのは間違いだった。
キィと扉が開く音にはっとして顔を上げると、見覚えのある金色と視線がかち合う。私を見つけるなり黒野先輩は三日月みたいに目を細め、カチャリと扉の鍵を閉めた。
「好きだ」
私は返事の代わりにひゅっと息を飲む。黒野先輩を上手いこと躱して扉へ、なんて無理な話だ。逃げられない。奥へ奥へと逃げ込むとそれに合わせてコツコツと足音が近付いて来る。「好きだ。好きだ。好きだ」愛を囁きながら着実に距離を縮められ、そしてーー。
「好きだ」
壁際に追いやられ、降ってくるのは愛の言葉。
いつものように「すみません……」と返すと「彼氏はいないのに?」と先輩が首を傾げた。
「知ってるならそっとしといてくださいよ」
「泣いたのか」
「ちょっとですよ。ちょっとだけ」
そう言うと頭上から「はあ」と大きな溜め息が聞こえてきた。包帯だらけの手が伸びてきて、指先がうっすら残っていた涙の跡をなぞる。
「他の奴に弱らせられたお前は見たくない」
「そんなこと言ったって、すぐに立ち直れるものじゃないんです」
「それなら良い方法がある」
そんな都合の良いものがあるならぜひ教えてほしい。私だってできるのならこんな痛み、早いとこおさらばしたいのだ。「知りたいか?」と焦らす先輩に続きを促すと、するりと両手を攫われた。
「失恋には新しい恋が効くらしい」
「俺とどうだ?」なんて口説き文句、どこで覚えてきたのだろう。いつもは「好きだ」としか言ってこないくせに。
黒野先輩の両手にすっぽり収まった手がやけに熱かった。
「冗談、ですよね」
「冗談に見えるのか」
見えないから困っている。真っ直ぐな好意を躱す術はもうない。
「俺とは嫌か?」
「……」
「俺のことは嫌いか?」
「……」
「俺ではダメか?」
「……わからないんです」
彼氏がいるからと黒野先輩の好意を断り続けてきた。じゃあ彼氏がいなければいいのかというと、そうじゃない。でも今までみたいに頑なに拒否する理由もなくて、自分でもどうしていいのか分からないのだ。黒野先輩から逃げていた理由もそこにある。いつもの応酬の答えが見つかる気がしなかった。
正直に伝えると黒野先輩はきゅう、と私の両手を握り込んだ。
「ダメではないんだな。それなら俺は、お前が好きになってくれるよう努力しよう。まずは俺がどれだけお前を好きか……」
「そ、それはもう充分です」
「何を言っている。お前に恋人がいた時は遠慮して一日一回しか好きと言えなかったんだぞ。これからは思う存分言わせてもらう」
あれで遠慮してたのか。遠慮をやめたら一体どうなってしまうのだろう。全く見当がつかない。
そんな私の心など露知らず、黒野先輩は弱い者いじめをしている時と同じくらい楽しそうな顔で、早速「好きだ」と、受け止めきれない程の愛を捧げ始めるのだった。
「すみません。私、彼氏いるんで」
もはや日課となってしまった応酬。それも今日だけは聞きたくなくて、会わないように必死で逃げ回っていたのだけれど。
倉庫に隠れたのは間違いだった。
キィと扉が開く音にはっとして顔を上げると、見覚えのある金色と視線がかち合う。私を見つけるなり黒野先輩は三日月みたいに目を細め、カチャリと扉の鍵を閉めた。
「好きだ」
私は返事の代わりにひゅっと息を飲む。黒野先輩を上手いこと躱して扉へ、なんて無理な話だ。逃げられない。奥へ奥へと逃げ込むとそれに合わせてコツコツと足音が近付いて来る。「好きだ。好きだ。好きだ」愛を囁きながら着実に距離を縮められ、そしてーー。
「好きだ」
壁際に追いやられ、降ってくるのは愛の言葉。
いつものように「すみません……」と返すと「彼氏はいないのに?」と先輩が首を傾げた。
「知ってるならそっとしといてくださいよ」
「泣いたのか」
「ちょっとですよ。ちょっとだけ」
そう言うと頭上から「はあ」と大きな溜め息が聞こえてきた。包帯だらけの手が伸びてきて、指先がうっすら残っていた涙の跡をなぞる。
「他の奴に弱らせられたお前は見たくない」
「そんなこと言ったって、すぐに立ち直れるものじゃないんです」
「それなら良い方法がある」
そんな都合の良いものがあるならぜひ教えてほしい。私だってできるのならこんな痛み、早いとこおさらばしたいのだ。「知りたいか?」と焦らす先輩に続きを促すと、するりと両手を攫われた。
「失恋には新しい恋が効くらしい」
「俺とどうだ?」なんて口説き文句、どこで覚えてきたのだろう。いつもは「好きだ」としか言ってこないくせに。
黒野先輩の両手にすっぽり収まった手がやけに熱かった。
「冗談、ですよね」
「冗談に見えるのか」
見えないから困っている。真っ直ぐな好意を躱す術はもうない。
「俺とは嫌か?」
「……」
「俺のことは嫌いか?」
「……」
「俺ではダメか?」
「……わからないんです」
彼氏がいるからと黒野先輩の好意を断り続けてきた。じゃあ彼氏がいなければいいのかというと、そうじゃない。でも今までみたいに頑なに拒否する理由もなくて、自分でもどうしていいのか分からないのだ。黒野先輩から逃げていた理由もそこにある。いつもの応酬の答えが見つかる気がしなかった。
正直に伝えると黒野先輩はきゅう、と私の両手を握り込んだ。
「ダメではないんだな。それなら俺は、お前が好きになってくれるよう努力しよう。まずは俺がどれだけお前を好きか……」
「そ、それはもう充分です」
「何を言っている。お前に恋人がいた時は遠慮して一日一回しか好きと言えなかったんだぞ。これからは思う存分言わせてもらう」
あれで遠慮してたのか。遠慮をやめたら一体どうなってしまうのだろう。全く見当がつかない。
そんな私の心など露知らず、黒野先輩は弱い者いじめをしている時と同じくらい楽しそうな顔で、早速「好きだ」と、受け止めきれない程の愛を捧げ始めるのだった。