優一郎黒野
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休日の終わりが近付くにつれて憂鬱な気持ちになるのは何故だろう。
毎週のことなのにこればかりはいつまで経っても慣れない。
リフレッシュのつもりでお気に入りのカフェに来てみたけれど、心の声は偽れないようで。
「明日会社行きたくないなー」
「それなら提案があるんだが」
聞き覚えのある声に大きく両手を上げた状態で固まってしまう。
「黒野先輩」
完全に気を抜いているところを見られてしまった。こほんとひとつ咳払いして、仕事モードに切り替える。
「お疲れ様です、」
どうしてここに、と訊ねる前に黒野先輩は私の隣に腰掛けた。待って、私まだ座っていいって言ってない。というか、こういうボックス席では向かい合わせに座るのが一般的なのでは。
「明日から会社に行かなくてもいい方法ならある。知りたいか?」
休日に会社の人に会うなんて最悪だが、逃げ道を完全に塞がれてはどうしようもない。しばらく話に付き合って、適当な理由をつけてお暇するのが得策か、と先輩の話にのる。
「行きたくないのは事実ですけどお金は欲しいんですよ。そんなうまい話が……」
「ひとつだけある」
ぐっと黒野先輩がさらに距離を縮めてきた。仕方なく私も隣にずれるもすぐに隅に追いやられてしまい、これ以上は離れられない。追い討ちをかけるようにドンと壁に手をつかれ、人生初の壁ドン、私の胸はときめきとは違うドキドキでいっぱいだった。
先輩はそんな私を見下ろしてニタリと笑い、ワイシャツ(休日なのに仕事の時と同じ格好)のポケットから折り畳まれた紙を取り出した。
「こ、これは……」
私は飛び込んできた文字を二度、いや三度見した。そこには婚姻届の文字。婚姻届って、あの婚姻届? 実際に見るのは初めてだったけど、ドラマとかに出てくるのと同じ紙だった。
「俺のところに永久就職するんだ。会社に行かなくていいし、金の心配もいらない。基本夜以外は自由にしてもらっていい。ここに名前を書くだけだ。簡単だろう?」
すらすらと話す先輩につい流されそうになって、ハッとする。
私たちそもそも付き合って……ないな! 聞き捨てならない言葉もちらほら。いや、それよりも。
「これ私の欄、名前以外全部書いてあるんですけど。住所とか、印鑑も」
「なかなか口を割らなくて苦労したが、総務に訊いたら教えてくれた。印鑑は会社にあるだろう」
何を当たり前のことをと黒野先輩は真顔で私にペンを差し出してくる。プライバシーも何もあったものじゃない。
「あー、何だか急に会社に行くのが楽しみになってきたー!」
このままだと名前を書くまで帰してもらえなさそうだ。失礼します、と立ち上がってレシートに手を伸ばすとするりとそれを奪われた。
「付き合ってもらった礼だ。ここは俺が払う」
「いや、でも……」
「永久就職したくなったらいつでも言ってくれ」
「いえ、今は遠慮しておきます」
「今は、か」
婚姻届を大事そうに胸ポケットにしまい直す黒野先輩の冷たい目がわずかに緩んだように見えたのは、多分気のせいだ。
毎週のことなのにこればかりはいつまで経っても慣れない。
リフレッシュのつもりでお気に入りのカフェに来てみたけれど、心の声は偽れないようで。
「明日会社行きたくないなー」
「それなら提案があるんだが」
聞き覚えのある声に大きく両手を上げた状態で固まってしまう。
「黒野先輩」
完全に気を抜いているところを見られてしまった。こほんとひとつ咳払いして、仕事モードに切り替える。
「お疲れ様です、」
どうしてここに、と訊ねる前に黒野先輩は私の隣に腰掛けた。待って、私まだ座っていいって言ってない。というか、こういうボックス席では向かい合わせに座るのが一般的なのでは。
「明日から会社に行かなくてもいい方法ならある。知りたいか?」
休日に会社の人に会うなんて最悪だが、逃げ道を完全に塞がれてはどうしようもない。しばらく話に付き合って、適当な理由をつけてお暇するのが得策か、と先輩の話にのる。
「行きたくないのは事実ですけどお金は欲しいんですよ。そんなうまい話が……」
「ひとつだけある」
ぐっと黒野先輩がさらに距離を縮めてきた。仕方なく私も隣にずれるもすぐに隅に追いやられてしまい、これ以上は離れられない。追い討ちをかけるようにドンと壁に手をつかれ、人生初の壁ドン、私の胸はときめきとは違うドキドキでいっぱいだった。
先輩はそんな私を見下ろしてニタリと笑い、ワイシャツ(休日なのに仕事の時と同じ格好)のポケットから折り畳まれた紙を取り出した。
「こ、これは……」
私は飛び込んできた文字を二度、いや三度見した。そこには婚姻届の文字。婚姻届って、あの婚姻届? 実際に見るのは初めてだったけど、ドラマとかに出てくるのと同じ紙だった。
「俺のところに永久就職するんだ。会社に行かなくていいし、金の心配もいらない。基本夜以外は自由にしてもらっていい。ここに名前を書くだけだ。簡単だろう?」
すらすらと話す先輩につい流されそうになって、ハッとする。
私たちそもそも付き合って……ないな! 聞き捨てならない言葉もちらほら。いや、それよりも。
「これ私の欄、名前以外全部書いてあるんですけど。住所とか、印鑑も」
「なかなか口を割らなくて苦労したが、総務に訊いたら教えてくれた。印鑑は会社にあるだろう」
何を当たり前のことをと黒野先輩は真顔で私にペンを差し出してくる。プライバシーも何もあったものじゃない。
「あー、何だか急に会社に行くのが楽しみになってきたー!」
このままだと名前を書くまで帰してもらえなさそうだ。失礼します、と立ち上がってレシートに手を伸ばすとするりとそれを奪われた。
「付き合ってもらった礼だ。ここは俺が払う」
「いや、でも……」
「永久就職したくなったらいつでも言ってくれ」
「いえ、今は遠慮しておきます」
「今は、か」
婚姻届を大事そうに胸ポケットにしまい直す黒野先輩の冷たい目がわずかに緩んだように見えたのは、多分気のせいだ。
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