日比野カフカ
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「頼む!」
民間清掃会社モンスタースイーパーの事務所にバチン、と大きな音が響く。「は?」かろうじて疑問を声に出すと、目の前の男ーー同僚である日比野カフカはもう一度思い切り両手を合わせて頭を下げた。
「俺の禁煙を手伝ってくれ。お前にしか頼めねぇんだ!」
聞き間違いであれと思ったけれど、二度同じことを聞けば認めざるを得ない。何を言ってるんだこいつは。
「もちろんただでとは言わねぇよ」
そう言ってカフカは私のデスクの上にコンビニの袋を置いた。中を覗き込むと、私の好きなフィナンシェやチョコがたくさん入っていた。わかってるじゃない。
「それは一先ず手付金みたいなもんだ。これから一日一個俺はお前に菓子を買ってくる。代わりにお前は俺の煙草を預かってくれ」
「別にいいけど、それ私じゃなくてもいいんじゃない?」
モンスタースイーパーには他にも何人か社員がいる。徳さんや最近仲の良い市川くんにでも頼めばいいのに。
「市川は未成年だからな。んで、何より同期のお前が一番信頼できる!」
グッと親指を立てるカフカに一瞬目を丸くして、「それはどうも」とコンビニ袋と手渡された煙草の箱を預かる。そっか、私信頼されてるんだ。そう思ったのも束の間、
「何せお前は鬼の金庫番だろ。よっ、経理部の鬼!」
デリカシーのない言葉に、手にした煙草の箱がくしゃりと音を立てる。誰だろ、言ったの。この前精算漏れで注意した営業部の新人かな。
後ろで市川くんがオロオロしながら「先輩!」と声をかけていたけれど、カフカは気づいていない。というか「かっけぇよな!」くらいのノリで言ってくるから、イライラするだけそんな気がしてきた。
「わかった。協力する。期間はあんたが防衛隊の試験に合格するまででいい?」
「おう! 交渉成立だな」
私はデスクの引出しに煙草をしまい、鍵を掛けた。
「入隊試験、本気なんだ」
「おう、これが最後のチャンスだからな」
ぐっと拳を握るカフカに目を細める。その目には入社した時と同じ熱が宿っていて、少しだけ懐かしく思った。諦めたカフカに私は何も声を掛けられなくて、背中を押すこともできなかったから。本当に、市川くんはすごいなと思う。
「そっか、頑張れ」
清掃業務に向かうカフカと市川くんの背中を見送ってから、引出しの鍵をそっと撫でる。
「カフカくんが禁煙できるか賭ける?」
話を聞いていたらしい上司が悪い顔で耳打ちしてくる。
「いいですけど、賭けにならないでしょ」
この鍵の出番はない。私はそう確信している。
カフカが諦めないと決めたなら、そうなのだろう。私も彼のその言葉を信じるだけだ。
がむしゃらに泥臭く。私の知ってる日比野カフカはそういう男だ。
そしてそれを上司もわかっているようで、つまらなそうに唇を尖らせた。
「じゃあ君が太るに一票」
「セクハラで訴えますよ」
まぁその可能性は大いにあるから、私自身気は抜けないんだけど。
「一緒に食べます?」
私はかさりとコンビニの袋を揺らした。中身は好きなものばかり。でもその分カロリーもすごい。
恐らくこの先毎日、カフカがお菓子を持ってくる。一人食べるとなると体重計とにらめっこの日々が続くだろう。でも二人ならーー。
しかし上司は「去年の健康診断で血糖値が引っかかってから妻がうるさくてね」と私の提案をやんわりと断り、仕方がないので私はジムでも通うか、と真剣に考え始めた。
民間清掃会社モンスタースイーパーの事務所にバチン、と大きな音が響く。「は?」かろうじて疑問を声に出すと、目の前の男ーー同僚である日比野カフカはもう一度思い切り両手を合わせて頭を下げた。
「俺の禁煙を手伝ってくれ。お前にしか頼めねぇんだ!」
聞き間違いであれと思ったけれど、二度同じことを聞けば認めざるを得ない。何を言ってるんだこいつは。
「もちろんただでとは言わねぇよ」
そう言ってカフカは私のデスクの上にコンビニの袋を置いた。中を覗き込むと、私の好きなフィナンシェやチョコがたくさん入っていた。わかってるじゃない。
「それは一先ず手付金みたいなもんだ。これから一日一個俺はお前に菓子を買ってくる。代わりにお前は俺の煙草を預かってくれ」
「別にいいけど、それ私じゃなくてもいいんじゃない?」
モンスタースイーパーには他にも何人か社員がいる。徳さんや最近仲の良い市川くんにでも頼めばいいのに。
「市川は未成年だからな。んで、何より同期のお前が一番信頼できる!」
グッと親指を立てるカフカに一瞬目を丸くして、「それはどうも」とコンビニ袋と手渡された煙草の箱を預かる。そっか、私信頼されてるんだ。そう思ったのも束の間、
「何せお前は鬼の金庫番だろ。よっ、経理部の鬼!」
デリカシーのない言葉に、手にした煙草の箱がくしゃりと音を立てる。誰だろ、言ったの。この前精算漏れで注意した営業部の新人かな。
後ろで市川くんがオロオロしながら「先輩!」と声をかけていたけれど、カフカは気づいていない。というか「かっけぇよな!」くらいのノリで言ってくるから、イライラするだけそんな気がしてきた。
「わかった。協力する。期間はあんたが防衛隊の試験に合格するまででいい?」
「おう! 交渉成立だな」
私はデスクの引出しに煙草をしまい、鍵を掛けた。
「入隊試験、本気なんだ」
「おう、これが最後のチャンスだからな」
ぐっと拳を握るカフカに目を細める。その目には入社した時と同じ熱が宿っていて、少しだけ懐かしく思った。諦めたカフカに私は何も声を掛けられなくて、背中を押すこともできなかったから。本当に、市川くんはすごいなと思う。
「そっか、頑張れ」
清掃業務に向かうカフカと市川くんの背中を見送ってから、引出しの鍵をそっと撫でる。
「カフカくんが禁煙できるか賭ける?」
話を聞いていたらしい上司が悪い顔で耳打ちしてくる。
「いいですけど、賭けにならないでしょ」
この鍵の出番はない。私はそう確信している。
カフカが諦めないと決めたなら、そうなのだろう。私も彼のその言葉を信じるだけだ。
がむしゃらに泥臭く。私の知ってる日比野カフカはそういう男だ。
そしてそれを上司もわかっているようで、つまらなそうに唇を尖らせた。
「じゃあ君が太るに一票」
「セクハラで訴えますよ」
まぁその可能性は大いにあるから、私自身気は抜けないんだけど。
「一緒に食べます?」
私はかさりとコンビニの袋を揺らした。中身は好きなものばかり。でもその分カロリーもすごい。
恐らくこの先毎日、カフカがお菓子を持ってくる。一人食べるとなると体重計とにらめっこの日々が続くだろう。でも二人ならーー。
しかし上司は「去年の健康診断で血糖値が引っかかってから妻がうるさくてね」と私の提案をやんわりと断り、仕方がないので私はジムでも通うか、と真剣に考え始めた。
2/2ページ