日比野カフカ
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「今日おっさん誕生日なんだってよ」
食券をこちらに差し出しながらそう教えてくれたのは、今年入隊したばかりの伊春くんだった。お昼時の食堂はここで働く私にとっての戦場なのだけど、三年も勤めれば隊員たちと会話をしながら注文を捌けるようになってくる。私はAランチと生姜焼き定食、カレーライスのオーダーを厨房へと伝え、伊春くんに向き直った。
「へぇ、そうなんだ! それはおめでたいね」
「だろ! なのにおっさん、乗り気じゃねえんだよ。せっかく俺らが祝ってやるっつってんのに」
ひでぇよな、と言いながら肘で突かれ、隣に立っていた人物が呻き声を上げる。そこにいたのは今日、八月五日が誕生日というその人、カフカさんだ。よろけた拍子にさらに隣にいたレノくんまで巻き込んで、苦い顔をされている。
「お誕生日なのに嬉しくないんですか?」
脇腹をさするカフカさんの顔を覗き込むように訊ねると、彼はだってよぅと情けない声を出した。
「そりゃあ昔は嬉しかったけど、年々疲れやすくなるし、腹も出てくるし。歳食ったの実感して素直に喜べねえんだよ」
「まあ確かにおっさんの腹は出てるけどよ」
「でもここに来る前よりはマシになりましたよね、先輩」
「うるせー! 伊春も市川も好き放題言いやがって。お前らも三十過ぎたらこうなるんだからな。覚えとけよ」
今年入隊の隊員たちは見込みのある人ばかりだと、保科副隊長が話していたのを思い出す。そんな中、一際楽しそうに語っていたのがカフカさんについてだった。どんなにすごい人かと思いきや、なんと、防衛隊で唯一解放戦力0パーセントを叩き出した人。よほどツボに入ったのか、その期待の新人(お笑い枠)について語る保科副隊長は泣くほど笑っていた。
誕生日を迎えることについて、考え方は人それぞれだろう。私は祝ってもらえたら嬉しいけど、確かにカフカさんの言うように年々喜べなくなっていく人もいるかもしれない。けれど私が思うにカフカさんはそういう人ではないだろう。だって口では喜べないと言いながら、その顔からは嬉しさが滲み出ている。伊春くんやレノくんは騙せても、隊員たちと顔を合わせ日々の栄養バランスを守る食堂スタッフの目は誤魔化せない。その日の体調の良し悪しだって、一目でわかるんだから。
「はーい、おまたせ。Aランチに生姜焼き定食、あとカレーライスね」
出来上がった定食を三人のトレイにのせる。「えっ」と驚きの声を上げたのはカフカさんだった。
「俺カレーライス頼んだんだけど」
「ちゃんとカレーライスでしょう?」
「ハ、ハンバーグがのってる」
「それは私からの誕生日プレゼントです」
カフカさんが食堂でよく注文するのは、カレーライスとハンバーグランチだ。直接聞いたことはないけれど、毎回すごく美味しそうに食べてくれるから、好物なのだろうと思っていた。実際、今のカフカさんの反応を見るに、私の予想は当たっていたみたい。子どもみたいに目をキラキラさせて、ハンバーグののったカレーライスを眺めている。
「あ、でもお誕生日嬉しくないんでしたっけ。新しく作り直すので、これは伊春くんとレノくんに食べてもらいましょうか」
ちらりと二人に目配せすると、伊春くんとレノくんは示し合わせたように「嫌なら仕方ねえよな」「そうですね」と口裏を合わせてくれた。察しのいい子たちだ。
「なっ……!」
「あれ、先輩どうしたんですか。祝われるの嫌なんですよね?」
「ハンバーグカレーは俺たちが責任持って食ってやるから安心しな!」
二人の言葉にカフカさんさんがわなわなと震える。ダメ押しとばかりにカフカさんのトレイからハンバーグカレーを回収しようとすれば、ぐっと手首を掴まれた。
「だぁぁ、嬉しいよ! 本当はめちゃくちゃ嬉しい! だからハンバーグカレーも俺が食う!」
本心を白状したカフカさんは恥ずかしいのか顔を赤くしていた。
「じゃあ今日の夜みんなで祝うからそのつもりでいろよ、おっさん!」
「わかったわかった。ありがとよ」
「消灯までですからね、先輩、伊春くん」
「「お、おう」」
微笑ましいやり取りを目にして、つい口元が緩んでしまう。去っていく三人の後ろ姿を見つめ、思い出したようにカフカさんを呼んだ。
「ん、どうした?」
「改めて、お誕生日おめでとうございます」
これサービスです、とトレイにヨーグルトをのせると、カフカさんは「ありがとよ!」と眩しい笑顔を私に向けたのだった。
食券をこちらに差し出しながらそう教えてくれたのは、今年入隊したばかりの伊春くんだった。お昼時の食堂はここで働く私にとっての戦場なのだけど、三年も勤めれば隊員たちと会話をしながら注文を捌けるようになってくる。私はAランチと生姜焼き定食、カレーライスのオーダーを厨房へと伝え、伊春くんに向き直った。
「へぇ、そうなんだ! それはおめでたいね」
「だろ! なのにおっさん、乗り気じゃねえんだよ。せっかく俺らが祝ってやるっつってんのに」
ひでぇよな、と言いながら肘で突かれ、隣に立っていた人物が呻き声を上げる。そこにいたのは今日、八月五日が誕生日というその人、カフカさんだ。よろけた拍子にさらに隣にいたレノくんまで巻き込んで、苦い顔をされている。
「お誕生日なのに嬉しくないんですか?」
脇腹をさするカフカさんの顔を覗き込むように訊ねると、彼はだってよぅと情けない声を出した。
「そりゃあ昔は嬉しかったけど、年々疲れやすくなるし、腹も出てくるし。歳食ったの実感して素直に喜べねえんだよ」
「まあ確かにおっさんの腹は出てるけどよ」
「でもここに来る前よりはマシになりましたよね、先輩」
「うるせー! 伊春も市川も好き放題言いやがって。お前らも三十過ぎたらこうなるんだからな。覚えとけよ」
今年入隊の隊員たちは見込みのある人ばかりだと、保科副隊長が話していたのを思い出す。そんな中、一際楽しそうに語っていたのがカフカさんについてだった。どんなにすごい人かと思いきや、なんと、防衛隊で唯一解放戦力0パーセントを叩き出した人。よほどツボに入ったのか、その期待の新人(お笑い枠)について語る保科副隊長は泣くほど笑っていた。
誕生日を迎えることについて、考え方は人それぞれだろう。私は祝ってもらえたら嬉しいけど、確かにカフカさんの言うように年々喜べなくなっていく人もいるかもしれない。けれど私が思うにカフカさんはそういう人ではないだろう。だって口では喜べないと言いながら、その顔からは嬉しさが滲み出ている。伊春くんやレノくんは騙せても、隊員たちと顔を合わせ日々の栄養バランスを守る食堂スタッフの目は誤魔化せない。その日の体調の良し悪しだって、一目でわかるんだから。
「はーい、おまたせ。Aランチに生姜焼き定食、あとカレーライスね」
出来上がった定食を三人のトレイにのせる。「えっ」と驚きの声を上げたのはカフカさんだった。
「俺カレーライス頼んだんだけど」
「ちゃんとカレーライスでしょう?」
「ハ、ハンバーグがのってる」
「それは私からの誕生日プレゼントです」
カフカさんが食堂でよく注文するのは、カレーライスとハンバーグランチだ。直接聞いたことはないけれど、毎回すごく美味しそうに食べてくれるから、好物なのだろうと思っていた。実際、今のカフカさんの反応を見るに、私の予想は当たっていたみたい。子どもみたいに目をキラキラさせて、ハンバーグののったカレーライスを眺めている。
「あ、でもお誕生日嬉しくないんでしたっけ。新しく作り直すので、これは伊春くんとレノくんに食べてもらいましょうか」
ちらりと二人に目配せすると、伊春くんとレノくんは示し合わせたように「嫌なら仕方ねえよな」「そうですね」と口裏を合わせてくれた。察しのいい子たちだ。
「なっ……!」
「あれ、先輩どうしたんですか。祝われるの嫌なんですよね?」
「ハンバーグカレーは俺たちが責任持って食ってやるから安心しな!」
二人の言葉にカフカさんさんがわなわなと震える。ダメ押しとばかりにカフカさんのトレイからハンバーグカレーを回収しようとすれば、ぐっと手首を掴まれた。
「だぁぁ、嬉しいよ! 本当はめちゃくちゃ嬉しい! だからハンバーグカレーも俺が食う!」
本心を白状したカフカさんは恥ずかしいのか顔を赤くしていた。
「じゃあ今日の夜みんなで祝うからそのつもりでいろよ、おっさん!」
「わかったわかった。ありがとよ」
「消灯までですからね、先輩、伊春くん」
「「お、おう」」
微笑ましいやり取りを目にして、つい口元が緩んでしまう。去っていく三人の後ろ姿を見つめ、思い出したようにカフカさんを呼んだ。
「ん、どうした?」
「改めて、お誕生日おめでとうございます」
これサービスです、とトレイにヨーグルトをのせると、カフカさんは「ありがとよ!」と眩しい笑顔を私に向けたのだった。
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