わたしのお嫁くん
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毎週金曜日、とはいかないけれど、予定の合う金曜日は先輩と飲みに行くことになっている。
「お疲れ様です。遅れてすみません」
「今来たとこやし、気にせんでよかよ」
待ち合わせは新しくできた居酒屋。お値段の割に美味しいと評判の店だ。初めは生。一週間お疲れと乾杯して、ごくりと一気に呷る。
「ぷはーっ、幸せ」
「それは何より」
「私、金曜のこの一杯のために働いてますもん。それにしても古賀先輩、よくお店の予約取れましたね」
「ずーっと来たくて毎日空き確認しとった」
「それはそれは、お誘いありがとうございます」
古賀先輩は私の新人研修時代の指導担当だった。難しいと言われる契約を何本も取ってくるバリバリの営業マンで、今の私があるのは先輩のおかげと言っても過言ではない。そして楽しいお酒の飲み方を教えてくれたのも古賀先輩だった。
新人の頃部署の歓迎会で「無理せんとよ」と気を遣ってくれていた先輩だったが、飲んでも飲んでも顔色の変わらない私に「も、もしかして君、いける口?」と恐る恐る訊ねてきて、「今度焼酎フェスティバルあるんやけど」と耳打ちされた。どうやら古賀先輩もうわばみらしく、一緒に楽しく飲んだり食べたりできる相手を探していたらしい。それからは仕事を頑張ったご褒美に、と金曜日に二人で飲みに行くようになった。社会人の飲み会は上司のご機嫌とりで楽しくないと聞いていたので、金曜の夜がこんなに楽しみになるとは思いもしなかった。
「そういえば……」
古賀先輩が刺し盛りに箸を伸ばしながら呟く。
「最近恋愛相談を受けまして」
「ぶっ」
「え、今の笑うとこ?」
「すみません、すごい猛者もいたものだなと」
「私もそう思います。本社の山本くんって子なんやけど」
「あー。この前来てた……え、男の子のほう?」
「そうそう、その子」
少し前に東京から綺麗な女の人と、犬っぽい男の子がわざわざ福岡まで会議に来ていた。古賀先輩はその男の子から相談を受けたらしい。残業中に電話がかかってきたこともあったらしく、余計に笑ってしまった。
けれど、古賀先輩が恋愛相談とは。似合わないなあ。そう思いながらグラスを傾けると、「失礼なこと考えとーと?」と指摘された。とはいえ本当のことだから仕方ない。
古賀先輩は仕事中はクールなイケメンだ。だからすごくモテる。まさによりどりみどりだというのに、今のところ彼女はいないらしい。まあいたら私と飲みになんかいかないだろうけど。「お互いに恋人ができたらこの飲み会はやめましょう」と話して早数年。恋人ができてもおかしくない年月が過ぎたけれど、二人して脳内を占めるのが仕事・お酒・美味しいご飯なのがいけないのかもしれない。
「で、先輩はその山本くんになんてアドバイスを?」
「別に、当たり障りのないことを」
「ケチケチしないで教えてくださいよ」
「えぇ……」
メニュー表を見ていた古賀先輩は、冷酒とグラスを二人分頼んで指を組んだ。
「常に相手を観察しながら押したり引いたり。こっち向いたくらいじゃダメ。相手が背中にしがみついて欲しくてたまらんぐらいの顔されたら一気に……」
ーーがぶり。
ちらりと古賀先輩が私を見るのと「がぶり」と唇が動くのが同時で、一瞬食べられるような心地がした。落ち着け、私に言われてるわけじゃない。これは山本くんへのアドバイスだ。必死に自身にそう言い聞かせるも、熱は急速に上がっていく。いつもより酔いが回るのが早いのかもしれない。最近、仕事が忙しかったから。
「それは古賀先輩の持論ですか?」
「そうやね」
「肉食だなあ」
「まあ、それでもなかなか上手くいかんことも多いけど」
「それは苦労しますね」
「ほんとに」
ちょうど店員さんが冷酒を持ってきた。キリッとした辛口の日本酒。お刺身によく合うお酒だ。それを二人のグラスに注いで手渡せば、先輩の手がグラスではなく私の手を掴んだ。そして「え」と呆気に取られている間に、恋人がするみたいに指を絡められる。
「そろそろ我慢の限界なんやけど。君はいつ落ちてきてくれると?」
ふっと目元を緩ませてそう告げた古賀先輩は、私の知らない、飢えた獣みたいな顔をしていた。
「お疲れ様です。遅れてすみません」
「今来たとこやし、気にせんでよかよ」
待ち合わせは新しくできた居酒屋。お値段の割に美味しいと評判の店だ。初めは生。一週間お疲れと乾杯して、ごくりと一気に呷る。
「ぷはーっ、幸せ」
「それは何より」
「私、金曜のこの一杯のために働いてますもん。それにしても古賀先輩、よくお店の予約取れましたね」
「ずーっと来たくて毎日空き確認しとった」
「それはそれは、お誘いありがとうございます」
古賀先輩は私の新人研修時代の指導担当だった。難しいと言われる契約を何本も取ってくるバリバリの営業マンで、今の私があるのは先輩のおかげと言っても過言ではない。そして楽しいお酒の飲み方を教えてくれたのも古賀先輩だった。
新人の頃部署の歓迎会で「無理せんとよ」と気を遣ってくれていた先輩だったが、飲んでも飲んでも顔色の変わらない私に「も、もしかして君、いける口?」と恐る恐る訊ねてきて、「今度焼酎フェスティバルあるんやけど」と耳打ちされた。どうやら古賀先輩もうわばみらしく、一緒に楽しく飲んだり食べたりできる相手を探していたらしい。それからは仕事を頑張ったご褒美に、と金曜日に二人で飲みに行くようになった。社会人の飲み会は上司のご機嫌とりで楽しくないと聞いていたので、金曜の夜がこんなに楽しみになるとは思いもしなかった。
「そういえば……」
古賀先輩が刺し盛りに箸を伸ばしながら呟く。
「最近恋愛相談を受けまして」
「ぶっ」
「え、今の笑うとこ?」
「すみません、すごい猛者もいたものだなと」
「私もそう思います。本社の山本くんって子なんやけど」
「あー。この前来てた……え、男の子のほう?」
「そうそう、その子」
少し前に東京から綺麗な女の人と、犬っぽい男の子がわざわざ福岡まで会議に来ていた。古賀先輩はその男の子から相談を受けたらしい。残業中に電話がかかってきたこともあったらしく、余計に笑ってしまった。
けれど、古賀先輩が恋愛相談とは。似合わないなあ。そう思いながらグラスを傾けると、「失礼なこと考えとーと?」と指摘された。とはいえ本当のことだから仕方ない。
古賀先輩は仕事中はクールなイケメンだ。だからすごくモテる。まさによりどりみどりだというのに、今のところ彼女はいないらしい。まあいたら私と飲みになんかいかないだろうけど。「お互いに恋人ができたらこの飲み会はやめましょう」と話して早数年。恋人ができてもおかしくない年月が過ぎたけれど、二人して脳内を占めるのが仕事・お酒・美味しいご飯なのがいけないのかもしれない。
「で、先輩はその山本くんになんてアドバイスを?」
「別に、当たり障りのないことを」
「ケチケチしないで教えてくださいよ」
「えぇ……」
メニュー表を見ていた古賀先輩は、冷酒とグラスを二人分頼んで指を組んだ。
「常に相手を観察しながら押したり引いたり。こっち向いたくらいじゃダメ。相手が背中にしがみついて欲しくてたまらんぐらいの顔されたら一気に……」
ーーがぶり。
ちらりと古賀先輩が私を見るのと「がぶり」と唇が動くのが同時で、一瞬食べられるような心地がした。落ち着け、私に言われてるわけじゃない。これは山本くんへのアドバイスだ。必死に自身にそう言い聞かせるも、熱は急速に上がっていく。いつもより酔いが回るのが早いのかもしれない。最近、仕事が忙しかったから。
「それは古賀先輩の持論ですか?」
「そうやね」
「肉食だなあ」
「まあ、それでもなかなか上手くいかんことも多いけど」
「それは苦労しますね」
「ほんとに」
ちょうど店員さんが冷酒を持ってきた。キリッとした辛口の日本酒。お刺身によく合うお酒だ。それを二人のグラスに注いで手渡せば、先輩の手がグラスではなく私の手を掴んだ。そして「え」と呆気に取られている間に、恋人がするみたいに指を絡められる。
「そろそろ我慢の限界なんやけど。君はいつ落ちてきてくれると?」
ふっと目元を緩ませてそう告げた古賀先輩は、私の知らない、飢えた獣みたいな顔をしていた。
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