保科・鳴海
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基地から一番近い駅から電車で約十五分。そこから少し歩いたところにあるレトロカフェは、知る人ぞ知るケーキの名店で、ずっと来たいと思っていた場所だった。
そして私は念願叶い、そのお店にやってきたのだがーー。
「ぬわぁんで保科がここにいるんだ‼︎」
「何でって言われても、僕がこの子の上司やからですかねぇ」
テーブルを挟んでバチバチと火花を散らすのは、第一部隊の鳴海隊長と我らが第三部隊の保科副隊長だ。第一と第三は元々仲が悪いけれどこのふたりはまさに犬猿の仲。顔を合わせば言い合いに発展し……と言っても、キャンキャン吠える鳴海隊長を保科副隊長が言い負かしているだけなのだけど。他の隊員にも火がついてしまい、毎回揉め事になるから厄介だ。
だから、極力ふたりを引き合わせたくはなかったのだけど。
「大体今日は非番だろ。第三は部下のプライベートまで首を突っ込むのか!」
「そりゃ首も突っ込むでしょう。うちの子のアパートに荷物送りつけといて、わざわざ休みの日に持って来させるような人がおったら」
「なっ、あれは送り先を間違えただけだ」
「へぇ、毎月山ほど通販しとる人がねぇ」
そう。私がこのお店に来ることになった理由がこれだった。
少し前にアパートに頼んだ覚えのない荷物が届き、よくよく見てみると住所は私のものだったが宛名は鳴海隊長のもので、翌日第一に電話すると彼は「あー、ボクとしたことが打ち間違えたようだ。今度の休みにでもうちに届けに来てくれ」と宣った。
自分が間違えた癖に第一まで私に届けろ、と? 「嫌です」即答して電話を切ろうとすれば鳴海隊長は慌てた様子で私に待ったをかけた。
「ま、待て! 切るな! わかったこうしよう。今から指定する喫茶店まで持ってきてくれればいい。もちろんボクの奢りだ!」
その指定された場所がこのレトロカフェ。私が荷物を届けることにはまだ不満があったが、元々行きたかったお店だし、あの万年金欠の鳴海隊長に奢るとまで言われては断ることができなかった。
「わかりました」そう伝えると、電話の向こうから「え⁈」と驚いたような声が聞こえ、「絶対だぞ! やっぱなしはなしだからな!」と念を押された。
それから非番の日を伝え、会う日を決めて。まさかその当日に同じく非番だった保科副隊長に見つかり「どこ行くん?」と事情聴取されることになろうとは。
犬猿の仲のふたりだ。鳴海隊長の話をするのはマズイと咄嗟に嘘をついたもののすぐにバレ、「何かあったら嫌やし、僕も行くわ」と私を心配してくれた保科副隊長もついてくることになり、事態は悪化。慣れない嘘はつくものじゃない。
「大体ここは杉並区だろ。第三のオカッパと細目は立ち入り禁止だ」
「ボクも今日非番でプライベートなんですけど。あ、知ってます? ここ杉並区と三鷹市のちょうど境にあって、住所は三鷹になっとるんです。おやおやぁ。鳴海隊長、第三の管轄に入ってしもてますねぇ」
「ぐぬぬっ……」
言い争いはまだ続いていた。劣勢はいつも通り鳴海隊長だ。口喧嘩で保科副隊長に勝てる人なんてそもそもいない気がする。
私は運ばれてきたイチゴタルトを口に運びながら、いつ終わるんだろ、とその様子をぼんやり眺めていた。荷物も渡し終わったし、さっさとケーキを食べて帰りたい。
「あ、おいし!」
思わず出た声に、言い合っていた二人の視線が注がれる。
「美味いか! ボクの奢りだからな。ありがたく食べろ」
「そらよかったなぁ。僕のモンブランもひとくちいる?」
「え、いいんですか?」
「ええよええよ。君のもひとくちくれれば、それで」
「な、ずるいぞ保科っ!」
「別になぁんもずるないですよ。僕らこんなん日常茶飯事やんなぁ」
にこやかに同意を求めてくる保科副隊長に私はこくりと頷いた。保科副隊長には普段からよくしてもらっている。それこそ休憩時にはおやつやコーヒーをご一緒したり。お互いにそれ頂戴、あれ頂戴はいつものことだ。
「ここ、コーヒーも美味いな。飲んでみる?」
「ありがとうございます! じゃあひとくちだけ」
「いやいやいや、君もありがとうございますじゃないだろ! それ間接キ……」
「どないしました鳴海隊長。まさかこの歳でそういうのどうこう言うわけやないですよね」
「な……ぐっ……」
推し黙った鳴海隊長は何やら葛藤しているようで、手元にあったメロンソーダをずずっと勢いよく啜った。
「このメロンソーダはコーヒーなんかよりずっと美味いぞ! 特別に君にひとくちやってもいい」
ずい、と差し出されたメロンソーダは昔懐かしい色をしていた。お礼を言って少し汗をかいたグラスを受け取ろうと手を伸ばす。しかし私の手が届くより先に隣から手が伸びてきて、グラスを奪われてしまった。
「ほな、ありがたくいただきます」
「ア゛ーッ⁈」
鳴海隊長の絶叫が静かな店内に響く。今日が平日で本当によかった。幸い、客は私たち以外にいない。それにしてもーー。
「ふ、ふふっ」
我慢していたけれど、もう限界だった。ふたりのやり取りが面白すぎて、お腹が痛い。犬猿の仲とはいうものの。
「おふたりって、意外と仲良しですよね」
笑いすぎて出てきた涙を拭いながらそう言えば、
「どこがだ‼︎」
「どこがや‼︎」
と見事にシンクロしていて、仲はともかく、息はぴったりに違いなかった。
そして私は念願叶い、そのお店にやってきたのだがーー。
「ぬわぁんで保科がここにいるんだ‼︎」
「何でって言われても、僕がこの子の上司やからですかねぇ」
テーブルを挟んでバチバチと火花を散らすのは、第一部隊の鳴海隊長と我らが第三部隊の保科副隊長だ。第一と第三は元々仲が悪いけれどこのふたりはまさに犬猿の仲。顔を合わせば言い合いに発展し……と言っても、キャンキャン吠える鳴海隊長を保科副隊長が言い負かしているだけなのだけど。他の隊員にも火がついてしまい、毎回揉め事になるから厄介だ。
だから、極力ふたりを引き合わせたくはなかったのだけど。
「大体今日は非番だろ。第三は部下のプライベートまで首を突っ込むのか!」
「そりゃ首も突っ込むでしょう。うちの子のアパートに荷物送りつけといて、わざわざ休みの日に持って来させるような人がおったら」
「なっ、あれは送り先を間違えただけだ」
「へぇ、毎月山ほど通販しとる人がねぇ」
そう。私がこのお店に来ることになった理由がこれだった。
少し前にアパートに頼んだ覚えのない荷物が届き、よくよく見てみると住所は私のものだったが宛名は鳴海隊長のもので、翌日第一に電話すると彼は「あー、ボクとしたことが打ち間違えたようだ。今度の休みにでもうちに届けに来てくれ」と宣った。
自分が間違えた癖に第一まで私に届けろ、と? 「嫌です」即答して電話を切ろうとすれば鳴海隊長は慌てた様子で私に待ったをかけた。
「ま、待て! 切るな! わかったこうしよう。今から指定する喫茶店まで持ってきてくれればいい。もちろんボクの奢りだ!」
その指定された場所がこのレトロカフェ。私が荷物を届けることにはまだ不満があったが、元々行きたかったお店だし、あの万年金欠の鳴海隊長に奢るとまで言われては断ることができなかった。
「わかりました」そう伝えると、電話の向こうから「え⁈」と驚いたような声が聞こえ、「絶対だぞ! やっぱなしはなしだからな!」と念を押された。
それから非番の日を伝え、会う日を決めて。まさかその当日に同じく非番だった保科副隊長に見つかり「どこ行くん?」と事情聴取されることになろうとは。
犬猿の仲のふたりだ。鳴海隊長の話をするのはマズイと咄嗟に嘘をついたもののすぐにバレ、「何かあったら嫌やし、僕も行くわ」と私を心配してくれた保科副隊長もついてくることになり、事態は悪化。慣れない嘘はつくものじゃない。
「大体ここは杉並区だろ。第三のオカッパと細目は立ち入り禁止だ」
「ボクも今日非番でプライベートなんですけど。あ、知ってます? ここ杉並区と三鷹市のちょうど境にあって、住所は三鷹になっとるんです。おやおやぁ。鳴海隊長、第三の管轄に入ってしもてますねぇ」
「ぐぬぬっ……」
言い争いはまだ続いていた。劣勢はいつも通り鳴海隊長だ。口喧嘩で保科副隊長に勝てる人なんてそもそもいない気がする。
私は運ばれてきたイチゴタルトを口に運びながら、いつ終わるんだろ、とその様子をぼんやり眺めていた。荷物も渡し終わったし、さっさとケーキを食べて帰りたい。
「あ、おいし!」
思わず出た声に、言い合っていた二人の視線が注がれる。
「美味いか! ボクの奢りだからな。ありがたく食べろ」
「そらよかったなぁ。僕のモンブランもひとくちいる?」
「え、いいんですか?」
「ええよええよ。君のもひとくちくれれば、それで」
「な、ずるいぞ保科っ!」
「別になぁんもずるないですよ。僕らこんなん日常茶飯事やんなぁ」
にこやかに同意を求めてくる保科副隊長に私はこくりと頷いた。保科副隊長には普段からよくしてもらっている。それこそ休憩時にはおやつやコーヒーをご一緒したり。お互いにそれ頂戴、あれ頂戴はいつものことだ。
「ここ、コーヒーも美味いな。飲んでみる?」
「ありがとうございます! じゃあひとくちだけ」
「いやいやいや、君もありがとうございますじゃないだろ! それ間接キ……」
「どないしました鳴海隊長。まさかこの歳でそういうのどうこう言うわけやないですよね」
「な……ぐっ……」
推し黙った鳴海隊長は何やら葛藤しているようで、手元にあったメロンソーダをずずっと勢いよく啜った。
「このメロンソーダはコーヒーなんかよりずっと美味いぞ! 特別に君にひとくちやってもいい」
ずい、と差し出されたメロンソーダは昔懐かしい色をしていた。お礼を言って少し汗をかいたグラスを受け取ろうと手を伸ばす。しかし私の手が届くより先に隣から手が伸びてきて、グラスを奪われてしまった。
「ほな、ありがたくいただきます」
「ア゛ーッ⁈」
鳴海隊長の絶叫が静かな店内に響く。今日が平日で本当によかった。幸い、客は私たち以外にいない。それにしてもーー。
「ふ、ふふっ」
我慢していたけれど、もう限界だった。ふたりのやり取りが面白すぎて、お腹が痛い。犬猿の仲とはいうものの。
「おふたりって、意外と仲良しですよね」
笑いすぎて出てきた涙を拭いながらそう言えば、
「どこがだ‼︎」
「どこがや‼︎」
と見事にシンクロしていて、仲はともかく、息はぴったりに違いなかった。
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