相模屋紺炉
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「最近太っちゃって」
ため息混じりにそんなことを零すと、「どこがですか?!」と女の子たちの声がカフェに響いた。
全然太ってないと優しい言葉をかけてくれたのは、浅草で色々あってから定期的にお茶する仲になった第八の茉希ちゃん、アイリスちゃん、環ちゃんだ。お世辞でも嬉しい。けれど和服だからわかりにくいだけで、実際私は太ったのである。
昨日久々にのった体重計、その針は今まで見たことのない数値で止まり、つまめてしまったむにっと柔らかな腹肉。これがもう少し上についていてくれたなら、どんなによかったか。当然のことながら、頑固な贅肉はどれだけ寄せても引っ張っても都合良く移動してはくれなかった。
このままではまずい。せめて元の体重に戻さなければ。運動方法は茉希ちゃんに聞くからいいとして、あとはーー。
私は無意識のうちにまたため息をついていたらしい。茉希ちゃんたちが「大丈夫ですか?」と不安そうに訊いてくる。
「ごめんね。大丈夫よ。ただ……」
「ただ?」
「紺炉さんがね、うちに来るたびにたくさん手土産を買ってきてくれるのよ」
「えっ、素敵じゃないですか! すごく愛されてるって感じ」
キャーとはしゃぐ彼女たちを見ながら、確かにその通りなのだと思う。恋人である紺炉さんと私は二人揃って甘いもの好き。それもあってか、彼はいつも手土産に人気の和菓子や皇国のお菓子を買ってきてくれる。毎回買ってこなくてもいいと言っても「俺がお前さんと食いてェんだ」の一点張り。追い討ちをかけるように「駄目か?」なんて上目遣いで訊かれては、断る気も失せてしまう。そして気づけば美味しく食べた分だけお腹に贅肉がついていた。紺炉さんも同じものを、何なら私より食べている時だってあるのに体型が変わらないのはどうしてだろう。ずるい、ずるすぎる。
「痩せるまで買ってこないでって言えばいいだけなんだけど、あの人嬉しそうに持ってくるからなかなか言い出せなくて」
「な、なるほど……」
「昨日もえっと、皇国のうぃーくえんどしとろん? とかいうお菓子を買ってきてくれて」
「ウィークエンドシトロン、ですか?」
アイリスちゃんが、ふむと考え込む。
「昨日は土曜日でしたよね」
「ええ。でも、それがどうかしたの?」
「もしかしたら、桜備大隊長にも運動メニューを考えてもらったほうがいいかもしれません」
第八の桜備さんに? どういうことだろうと首を傾げていると、アイリスちゃんが青い瞳をやわらかく細めて言った。
「ウィークエンドシトロンは週末に大切な人と一緒に食べるケーキなんです」
誰が言い出したのかは定かではない。けれど確かに、大災害前の資料にも書かれているというお菓子の名前の由来。それが嘘か本当か。そもそも紺炉さんが、その由来を知っていたのかどうかもわからない。でも、もし知っていたとしたら。知っていて、私に買ってきてくれたのだとしたら。
私は目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。瞼の裏に浮かぶのは、大切で大好きな、あの人の笑顔。
「この後、第八に行ってもいいかしら?」
私の言葉に、茉希ちゃんたちが微笑む。
「当たり前じゃないですか!」
紺炉さんはきっとこれからも、私のために美味しいお菓子を買ってきてくれる。そして私はこれからも、「美味しい」って言いながらそれを紺炉さんと一緒に食べる。
それでいい。それがいい。この先も、ずっと。
そのために私がやるべきことは一つ。桜備さんと茉希ちゃん指導の元、ダイエットを頑張るだけだ。
ため息混じりにそんなことを零すと、「どこがですか?!」と女の子たちの声がカフェに響いた。
全然太ってないと優しい言葉をかけてくれたのは、浅草で色々あってから定期的にお茶する仲になった第八の茉希ちゃん、アイリスちゃん、環ちゃんだ。お世辞でも嬉しい。けれど和服だからわかりにくいだけで、実際私は太ったのである。
昨日久々にのった体重計、その針は今まで見たことのない数値で止まり、つまめてしまったむにっと柔らかな腹肉。これがもう少し上についていてくれたなら、どんなによかったか。当然のことながら、頑固な贅肉はどれだけ寄せても引っ張っても都合良く移動してはくれなかった。
このままではまずい。せめて元の体重に戻さなければ。運動方法は茉希ちゃんに聞くからいいとして、あとはーー。
私は無意識のうちにまたため息をついていたらしい。茉希ちゃんたちが「大丈夫ですか?」と不安そうに訊いてくる。
「ごめんね。大丈夫よ。ただ……」
「ただ?」
「紺炉さんがね、うちに来るたびにたくさん手土産を買ってきてくれるのよ」
「えっ、素敵じゃないですか! すごく愛されてるって感じ」
キャーとはしゃぐ彼女たちを見ながら、確かにその通りなのだと思う。恋人である紺炉さんと私は二人揃って甘いもの好き。それもあってか、彼はいつも手土産に人気の和菓子や皇国のお菓子を買ってきてくれる。毎回買ってこなくてもいいと言っても「俺がお前さんと食いてェんだ」の一点張り。追い討ちをかけるように「駄目か?」なんて上目遣いで訊かれては、断る気も失せてしまう。そして気づけば美味しく食べた分だけお腹に贅肉がついていた。紺炉さんも同じものを、何なら私より食べている時だってあるのに体型が変わらないのはどうしてだろう。ずるい、ずるすぎる。
「痩せるまで買ってこないでって言えばいいだけなんだけど、あの人嬉しそうに持ってくるからなかなか言い出せなくて」
「な、なるほど……」
「昨日もえっと、皇国のうぃーくえんどしとろん? とかいうお菓子を買ってきてくれて」
「ウィークエンドシトロン、ですか?」
アイリスちゃんが、ふむと考え込む。
「昨日は土曜日でしたよね」
「ええ。でも、それがどうかしたの?」
「もしかしたら、桜備大隊長にも運動メニューを考えてもらったほうがいいかもしれません」
第八の桜備さんに? どういうことだろうと首を傾げていると、アイリスちゃんが青い瞳をやわらかく細めて言った。
「ウィークエンドシトロンは週末に大切な人と一緒に食べるケーキなんです」
誰が言い出したのかは定かではない。けれど確かに、大災害前の資料にも書かれているというお菓子の名前の由来。それが嘘か本当か。そもそも紺炉さんが、その由来を知っていたのかどうかもわからない。でも、もし知っていたとしたら。知っていて、私に買ってきてくれたのだとしたら。
私は目を閉じて、ゆっくりと息を吐いた。瞼の裏に浮かぶのは、大切で大好きな、あの人の笑顔。
「この後、第八に行ってもいいかしら?」
私の言葉に、茉希ちゃんたちが微笑む。
「当たり前じゃないですか!」
紺炉さんはきっとこれからも、私のために美味しいお菓子を買ってきてくれる。そして私はこれからも、「美味しい」って言いながらそれを紺炉さんと一緒に食べる。
それでいい。それがいい。この先も、ずっと。
そのために私がやるべきことは一つ。桜備さんと茉希ちゃん指導の元、ダイエットを頑張るだけだ。