相模屋紺炉
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ゆらゆらと提灯のあかりを揺らして向かいからやって来たのは紺炉さんだった。
「こんばんはぁ。見回りですか?」
「おう。お前さんはこんな遅くに何してンだ?」
「ちょっと友達と飲んでまして」
へへっといつもより緩んだ声になってしまったのはそれなりに酔っているからだ。酔い覚ましにちょうどいいかと歩いてみれば、こんなところで紺炉さんにばったり。悪くない一日の終わりだ。
「んふふ」
「お前さん相当酔ってンな」
「そんなことないれすよう!」
ほら、と真っ直ぐ歩いてみせると、何故か紺炉さんにぶつかった。そのままたくましい腕に抱きとめられる。「おいおい、ふらふらじゃねェか」おかしい、そんなはずはないのだけど。
「お前さん、今一人暮らしだったよな。家どっちだ? 送ってく」
「ええー、いいですよそんなぁ」
「駄目だ。ほら行くぞ」
くいと手を引かれて町のほうへ。「家は?」「……あっち」ふらりとよろめくたびにぐっと引き寄せられて、色んな意味でドキドキする。子どもの頃はよくこうやって手を引いてもらったっけ。あの頃抱いた淡い憧れは、今やはっきりとした恋慕へと成り果てた。とはいえ、それも私の一方的なもの。紺炉さんからしてみれば、私はいつまで経っても子どものままなのだろう。
ーーこっちは手を握られるだけでドキドキしてるのに。
こっそり高いところにある顔を睨め付けると、視線を感じたのか紺炉さんが振り向いた。
「ン? どうかしたかい?」
「な、なんでもないです」
そう言えば、ふっと微笑まれて余計に心臓が鳴った。あの流し目で一体何人の女性を骨抜きにしてきたのか。若い頃はやんちゃだったと噂に聞くけれど、今だって引く手あまただろう。私が知らないだけで、恋人のひとりやふたり……。
「家、ここかい?」
「あ、はい!」
気づけば自分の家の前だった。慌ててお礼を言って、はたと止まる。
「送ってもらったお礼にお茶でもどうですか? ちょうど皇国で買ったお菓子があって」
「ありがてェ話だが、さすがにこんな夜更けに酔った女の家には上がれねェよ」
「あっはは。大丈夫ですよ、誰も紺炉さんが襲うなんて思っちゃいませんから」
あの紺炉さんが送り狼だなんてありえない。ましてや相手は、いつまでも子ども扱いされる私。ないない。
玄関の鍵を開けながら自嘲していると、その手に大きな手が重ねられた。
「俺もずいぶん見くびられたもんだなァ」
そっと耳元で囁かれて、びくりと肩が震える。
「こ、紺炉さ……」
ぐっと身体を押し付けられ、振り向くことができない。紺炉さんが何を思って、どんな顔でそう言ったのかわからない。ただ触れたところがどうしようもなく熱くて、それが私のものだけではないことははっきりとわかった。
「俺ァ酔った女を襲う趣味はねェが、好いた女はすぐにでも抱きてェと思ってるよ」
鼓膜を震わせる低く甘ったるい声に思わず息が漏れる。それに気をよくしたのか、紺炉さんはするりと手の甲を撫で、押さえ付けていた力を弱めた。
「今日は帰る。が、次はねェ。俺ももう我慢の限界だ」
背中から紺炉さんの熱が離れていく気配がした。遠ざかっていく足音が聞こえなくなり、突っ立ったままだった私はそこで初めて、糸が切れた人形みたいにその場に崩れ落ちた。
え、今のそういう……えっ⁈
酔いは一瞬にして覚め、しかし顔の熱は増すばかり。
ーー次からどんな顔して紺炉さんに会えばいいのよ。
とりあえず心の準備ができるまでは詰所に近づかないようにしよう。
そう決意して、その日はそのまま布団に入ったのだけど、当然眠れるはずもなく。次の日の夜またばったり紺炉さんと出会ってしまい……彼の宣言通り色々あって、さらに寝不足が続くことになるのだけど、この時の私はそんな未来を知る由もなかった。
「こんばんはぁ。見回りですか?」
「おう。お前さんはこんな遅くに何してンだ?」
「ちょっと友達と飲んでまして」
へへっといつもより緩んだ声になってしまったのはそれなりに酔っているからだ。酔い覚ましにちょうどいいかと歩いてみれば、こんなところで紺炉さんにばったり。悪くない一日の終わりだ。
「んふふ」
「お前さん相当酔ってンな」
「そんなことないれすよう!」
ほら、と真っ直ぐ歩いてみせると、何故か紺炉さんにぶつかった。そのままたくましい腕に抱きとめられる。「おいおい、ふらふらじゃねェか」おかしい、そんなはずはないのだけど。
「お前さん、今一人暮らしだったよな。家どっちだ? 送ってく」
「ええー、いいですよそんなぁ」
「駄目だ。ほら行くぞ」
くいと手を引かれて町のほうへ。「家は?」「……あっち」ふらりとよろめくたびにぐっと引き寄せられて、色んな意味でドキドキする。子どもの頃はよくこうやって手を引いてもらったっけ。あの頃抱いた淡い憧れは、今やはっきりとした恋慕へと成り果てた。とはいえ、それも私の一方的なもの。紺炉さんからしてみれば、私はいつまで経っても子どものままなのだろう。
ーーこっちは手を握られるだけでドキドキしてるのに。
こっそり高いところにある顔を睨め付けると、視線を感じたのか紺炉さんが振り向いた。
「ン? どうかしたかい?」
「な、なんでもないです」
そう言えば、ふっと微笑まれて余計に心臓が鳴った。あの流し目で一体何人の女性を骨抜きにしてきたのか。若い頃はやんちゃだったと噂に聞くけれど、今だって引く手あまただろう。私が知らないだけで、恋人のひとりやふたり……。
「家、ここかい?」
「あ、はい!」
気づけば自分の家の前だった。慌ててお礼を言って、はたと止まる。
「送ってもらったお礼にお茶でもどうですか? ちょうど皇国で買ったお菓子があって」
「ありがてェ話だが、さすがにこんな夜更けに酔った女の家には上がれねェよ」
「あっはは。大丈夫ですよ、誰も紺炉さんが襲うなんて思っちゃいませんから」
あの紺炉さんが送り狼だなんてありえない。ましてや相手は、いつまでも子ども扱いされる私。ないない。
玄関の鍵を開けながら自嘲していると、その手に大きな手が重ねられた。
「俺もずいぶん見くびられたもんだなァ」
そっと耳元で囁かれて、びくりと肩が震える。
「こ、紺炉さ……」
ぐっと身体を押し付けられ、振り向くことができない。紺炉さんが何を思って、どんな顔でそう言ったのかわからない。ただ触れたところがどうしようもなく熱くて、それが私のものだけではないことははっきりとわかった。
「俺ァ酔った女を襲う趣味はねェが、好いた女はすぐにでも抱きてェと思ってるよ」
鼓膜を震わせる低く甘ったるい声に思わず息が漏れる。それに気をよくしたのか、紺炉さんはするりと手の甲を撫で、押さえ付けていた力を弱めた。
「今日は帰る。が、次はねェ。俺ももう我慢の限界だ」
背中から紺炉さんの熱が離れていく気配がした。遠ざかっていく足音が聞こえなくなり、突っ立ったままだった私はそこで初めて、糸が切れた人形みたいにその場に崩れ落ちた。
え、今のそういう……えっ⁈
酔いは一瞬にして覚め、しかし顔の熱は増すばかり。
ーー次からどんな顔して紺炉さんに会えばいいのよ。
とりあえず心の準備ができるまでは詰所に近づかないようにしよう。
そう決意して、その日はそのまま布団に入ったのだけど、当然眠れるはずもなく。次の日の夜またばったり紺炉さんと出会ってしまい……彼の宣言通り色々あって、さらに寝不足が続くことになるのだけど、この時の私はそんな未来を知る由もなかった。