相模屋紺炉
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ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らして、我が物顔で膝を占拠するのは一匹の茶トラの野良猫。
差し出された煮干しを食べて、くあっと大きな欠伸をして。満足したら膝の上でまるくなる。
もちろん膝主の許可など取っていない。取っていないが、それがどうした? と言わんばかりに茶トラは膝上でごろりと寝返りを打った。
ああ、洗ったばかりの紺炉さんの法被がもう毛だらけだ。
「すごく懐いてますね」
「ここんとこしょっちゅう来やがるからなァ。俺もつい餌をやっちまって」
野良猫にしてはお腹まわりがぽよんとしているように見えたけど、どうやら気のせいじゃなかったみたい。
紺炉さんが茶トラの背中を撫でると「にゃあ」と甘えるような声が返ってきた。猫なで声とはまさにこのこと。かわいい。と、初めて見る私でさえそう思ってしまうのだから、普段から可愛がっている紺炉さんなんてもうデレデレだ。「へへっ」とふやけた顔で笑っちゃって、お酒を飲んだ若といい勝負だ。
紺炉さんの大きな掌に撫でられるのがよっぽど心地よかったのか、気づけば茶トラはぷすぷすと幸せそうな寝息を立てていていた。
自由だなあ。でも、眠ってしまうのも頷ける。あんな風に優しく撫でられたら、あたたかくて、安心して、きっと私も同じようになってしまうから。
ーーいいなぁ。
紺炉さんに構ってもらえる茶トラがちょっとだけ羨ましい。
私も素直に甘えたら、この子みたいに可愛がってもらえるかしら、なんて。心の中で独りごちて、すぐにないないと頭を振った。
私は今みたいに紺炉さんの隣で穏やかな時間を過ごせればそれで充分だ。いくら恋仲と言えど、もっと構ってほしいだなんて我儘は、忙しい彼の負担にしかならない。
この子には感謝しなきゃね。久々に紺炉さんとゆっくり過ごせるきっかけをくれたのだから。
私も撫でようと茶トラの背に手を伸ばしかけたところで、先に撫でていた紺炉さんの手が止まっていることに気づく。どうしたのだろうと顔を上げると、驚いた表情で私を見つめる彼がいた。
「紺炉さん?」
「気づかなくて悪かったな。まさかお前さんがそんな風に思ってるとは思わなくてよ」
「へ?」
一体何のことだろう? 私の疑問を余所に紺炉さんは膝に乗っていた茶トラをひょいと持ち上げた。気持ちよく眠っていた茶トラは無理やり起こされて不服そうだ。「んなぁ」と抗議していたが「また今度な」と地面に降ろされると、もうここに用はないとばかりに走り去っていった。
「行っちゃいましたけど、よかったんですか?」
「ああ、他に構ってやらなきゃならねェ奴がいるからな」
茶トラ以外にも可愛がっている子がいるなんて、とんだ猫たらしだ。けれど付近にそれらしい猫の姿は見当たらない。どこにいるのかと聞こうとして再び紺炉さんのほうを見ると、突然するりと頬を撫でられた。
「あ、あの……」
くすぐったくて思わず身を捩ると、紺炉さんの優しげな眼差しが意地悪く歪む。
「ん? どうした。構って欲しかったんじゃなかったのかい?」
「そんなの一言も言ってな……っ!」
頬を撫でていた手が輪郭を撫でるように移動して、軽く顎を持ち上げられる。そのまま親指の腹で唇をなぞられ、感触を楽しむようにふにふにと触られた。
「俺ァ確かに、この口が羨ましがるのを聞いたんだがなァ」
紺炉さんの言う通り、あの茶トラのことを「いいな」と羨ましく思う気持ちはあった。でもそれは心の中だけに留めていたはずで、口にはしてない……と、思うのだけど。
「……もしかして、声に出てました?」
「ああ。ちゃあんと聞こえたぜ」
恥ずかしさでどうにかなりそうだ。穴があったら入りたい。けれど都合よくそんな穴はないし、両手で顔を覆いたくとも紺炉さんがそれを許してはくれなかった。
「わ、忘れてください」
蚊の鳴くような声で言えばクツクツと笑う紺炉さんの姿が目に入った。
「そいつァ無理な相談だな」
上から下へ、ゆっくりと背中を撫でられて息を呑む。その手つきは茶トラを撫でていた時のように優しい。けれど向けられる視線はあの時と全くの別物で、このまま見つめ続けたらグズグズに溶かされてしまいそうなほどの熱を伴っていた。
「安心しな。たっぷり可愛がってやるから」
私を抱き寄せながら紺炉さんが低く、甘く囁く。その言葉に何も安心できないのに、抵抗もしきれなくて。この後、嫌と言うほど彼に可愛がられたのは言うまでもない。
差し出された煮干しを食べて、くあっと大きな欠伸をして。満足したら膝の上でまるくなる。
もちろん膝主の許可など取っていない。取っていないが、それがどうした? と言わんばかりに茶トラは膝上でごろりと寝返りを打った。
ああ、洗ったばかりの紺炉さんの法被がもう毛だらけだ。
「すごく懐いてますね」
「ここんとこしょっちゅう来やがるからなァ。俺もつい餌をやっちまって」
野良猫にしてはお腹まわりがぽよんとしているように見えたけど、どうやら気のせいじゃなかったみたい。
紺炉さんが茶トラの背中を撫でると「にゃあ」と甘えるような声が返ってきた。猫なで声とはまさにこのこと。かわいい。と、初めて見る私でさえそう思ってしまうのだから、普段から可愛がっている紺炉さんなんてもうデレデレだ。「へへっ」とふやけた顔で笑っちゃって、お酒を飲んだ若といい勝負だ。
紺炉さんの大きな掌に撫でられるのがよっぽど心地よかったのか、気づけば茶トラはぷすぷすと幸せそうな寝息を立てていていた。
自由だなあ。でも、眠ってしまうのも頷ける。あんな風に優しく撫でられたら、あたたかくて、安心して、きっと私も同じようになってしまうから。
ーーいいなぁ。
紺炉さんに構ってもらえる茶トラがちょっとだけ羨ましい。
私も素直に甘えたら、この子みたいに可愛がってもらえるかしら、なんて。心の中で独りごちて、すぐにないないと頭を振った。
私は今みたいに紺炉さんの隣で穏やかな時間を過ごせればそれで充分だ。いくら恋仲と言えど、もっと構ってほしいだなんて我儘は、忙しい彼の負担にしかならない。
この子には感謝しなきゃね。久々に紺炉さんとゆっくり過ごせるきっかけをくれたのだから。
私も撫でようと茶トラの背に手を伸ばしかけたところで、先に撫でていた紺炉さんの手が止まっていることに気づく。どうしたのだろうと顔を上げると、驚いた表情で私を見つめる彼がいた。
「紺炉さん?」
「気づかなくて悪かったな。まさかお前さんがそんな風に思ってるとは思わなくてよ」
「へ?」
一体何のことだろう? 私の疑問を余所に紺炉さんは膝に乗っていた茶トラをひょいと持ち上げた。気持ちよく眠っていた茶トラは無理やり起こされて不服そうだ。「んなぁ」と抗議していたが「また今度な」と地面に降ろされると、もうここに用はないとばかりに走り去っていった。
「行っちゃいましたけど、よかったんですか?」
「ああ、他に構ってやらなきゃならねェ奴がいるからな」
茶トラ以外にも可愛がっている子がいるなんて、とんだ猫たらしだ。けれど付近にそれらしい猫の姿は見当たらない。どこにいるのかと聞こうとして再び紺炉さんのほうを見ると、突然するりと頬を撫でられた。
「あ、あの……」
くすぐったくて思わず身を捩ると、紺炉さんの優しげな眼差しが意地悪く歪む。
「ん? どうした。構って欲しかったんじゃなかったのかい?」
「そんなの一言も言ってな……っ!」
頬を撫でていた手が輪郭を撫でるように移動して、軽く顎を持ち上げられる。そのまま親指の腹で唇をなぞられ、感触を楽しむようにふにふにと触られた。
「俺ァ確かに、この口が羨ましがるのを聞いたんだがなァ」
紺炉さんの言う通り、あの茶トラのことを「いいな」と羨ましく思う気持ちはあった。でもそれは心の中だけに留めていたはずで、口にはしてない……と、思うのだけど。
「……もしかして、声に出てました?」
「ああ。ちゃあんと聞こえたぜ」
恥ずかしさでどうにかなりそうだ。穴があったら入りたい。けれど都合よくそんな穴はないし、両手で顔を覆いたくとも紺炉さんがそれを許してはくれなかった。
「わ、忘れてください」
蚊の鳴くような声で言えばクツクツと笑う紺炉さんの姿が目に入った。
「そいつァ無理な相談だな」
上から下へ、ゆっくりと背中を撫でられて息を呑む。その手つきは茶トラを撫でていた時のように優しい。けれど向けられる視線はあの時と全くの別物で、このまま見つめ続けたらグズグズに溶かされてしまいそうなほどの熱を伴っていた。
「安心しな。たっぷり可愛がってやるから」
私を抱き寄せながら紺炉さんが低く、甘く囁く。その言葉に何も安心できないのに、抵抗もしきれなくて。この後、嫌と言うほど彼に可愛がられたのは言うまでもない。