相模屋紺炉
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落ちてくる雫に思わずぎゅっと目を閉じた。
「うっ」
低い呻き声を上げると同時に冷たい感触が頬を伝う。また失敗してしまった。薬液だけが無駄に流れていく。点眼薬をさすのはいつまで経っても慣れない。
誰もいないのをいいことにしれっとちり紙で頬を拭い、もう一度点眼薬を構えると、後ろからくつくつと笑い声が聞こえた。
「お前さん、まだそいつが苦手なのか」
「こっ、紺炉さん⁈」
いつからそこにいたのだろう。一番見られたくない人に恥ずかしいところを見られてしまった。もういい大人なのに、穴があったら入りたい。
あまりの羞恥に何も言えずにいると、肩を震わせていた紺炉さんがちょいちょいと私を手招きした。促されるまま座り込んだ彼の隣に座り、促されるまま彼のーー。
膝をぽんぽん、と二回叩く動作の意味を考えてはっと我に返る。
「どうした?」
「えっと、紺炉さんそれは……」
「点眼上手くできねェんだろ? 遠慮するこたァねェさ。ガキの頃はよくやってやったじゃねェか」
「それは、そうですけど」
確かに子どもの頃は自分でやるのが怖くて、紺炉さんにしょっちゅうお願いしていた。けれどあの頃と今では何もかも違う。周りの目も気になるし、どうやって甘えていたのかも、もう思い出せない。
断ろう。そう思うのに紺炉さんの親切を無下にもできなくて、私は心を決めた。
「よ、よろしくお願いします!」
できるだけ早く、とお願いして紺炉さんの膝に頭を乗せる。今の時間はみんな出払っているから、誰かに見られるなんてこともないはずだ。
かたくてがっしりとした筋肉と独特の薬の匂いがいつも以上に近くにあって、心臓が壊れそうなくらい鳴っている。
紺炉さんはそれを怖がっていると受け取ったらしい。緊張を和らげるように頭を撫でて、さす直前に「目ェ開けな」と優しい声で教えてくれた。
私や若、双子たちでよほどやり慣れているのだろう。流石と言うべきか、ほんの一瞬の出来事で怖さを感じる暇もなかった。じんわりと薬液が染みていくのを待って、ゆっくりと目を開ける。
「ありがとうございました。おかげで全然怖くなかったです!」
「そりゃよかった。また点眼さすときはいつでも言いな」
今度は自分でできるようになっておきたいところだ。苦笑しながら起き上がろうとするも、視界には目を細めて私を覗き込む紺炉さんが映るばかりで、
「紺炉さん?」
「誰もタダで、とは言ってねェけどな」
するりと束ねられた長い黒髪が零れ落ちてきて、椿油の香りに包まれる。
ああ、大人はずるい生き物だ。
ゆるりと溶けていく思考の片隅で、この先も自分で点眼できなくてもいいかもしれない、なんてことを考えてしまった。
「うっ」
低い呻き声を上げると同時に冷たい感触が頬を伝う。また失敗してしまった。薬液だけが無駄に流れていく。点眼薬をさすのはいつまで経っても慣れない。
誰もいないのをいいことにしれっとちり紙で頬を拭い、もう一度点眼薬を構えると、後ろからくつくつと笑い声が聞こえた。
「お前さん、まだそいつが苦手なのか」
「こっ、紺炉さん⁈」
いつからそこにいたのだろう。一番見られたくない人に恥ずかしいところを見られてしまった。もういい大人なのに、穴があったら入りたい。
あまりの羞恥に何も言えずにいると、肩を震わせていた紺炉さんがちょいちょいと私を手招きした。促されるまま座り込んだ彼の隣に座り、促されるまま彼のーー。
膝をぽんぽん、と二回叩く動作の意味を考えてはっと我に返る。
「どうした?」
「えっと、紺炉さんそれは……」
「点眼上手くできねェんだろ? 遠慮するこたァねェさ。ガキの頃はよくやってやったじゃねェか」
「それは、そうですけど」
確かに子どもの頃は自分でやるのが怖くて、紺炉さんにしょっちゅうお願いしていた。けれどあの頃と今では何もかも違う。周りの目も気になるし、どうやって甘えていたのかも、もう思い出せない。
断ろう。そう思うのに紺炉さんの親切を無下にもできなくて、私は心を決めた。
「よ、よろしくお願いします!」
できるだけ早く、とお願いして紺炉さんの膝に頭を乗せる。今の時間はみんな出払っているから、誰かに見られるなんてこともないはずだ。
かたくてがっしりとした筋肉と独特の薬の匂いがいつも以上に近くにあって、心臓が壊れそうなくらい鳴っている。
紺炉さんはそれを怖がっていると受け取ったらしい。緊張を和らげるように頭を撫でて、さす直前に「目ェ開けな」と優しい声で教えてくれた。
私や若、双子たちでよほどやり慣れているのだろう。流石と言うべきか、ほんの一瞬の出来事で怖さを感じる暇もなかった。じんわりと薬液が染みていくのを待って、ゆっくりと目を開ける。
「ありがとうございました。おかげで全然怖くなかったです!」
「そりゃよかった。また点眼さすときはいつでも言いな」
今度は自分でできるようになっておきたいところだ。苦笑しながら起き上がろうとするも、視界には目を細めて私を覗き込む紺炉さんが映るばかりで、
「紺炉さん?」
「誰もタダで、とは言ってねェけどな」
するりと束ねられた長い黒髪が零れ落ちてきて、椿油の香りに包まれる。
ああ、大人はずるい生き物だ。
ゆるりと溶けていく思考の片隅で、この先も自分で点眼できなくてもいいかもしれない、なんてことを考えてしまった。