相模屋紺炉
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夜空に流れる川の下、願いを乗せた笹の葉がさらさらと揺れている。
「今年は織姫様と彦星様、会えましたかね」
「これだけ晴れてンだ。今頃年に一度の逢瀬を楽しんでるだろうよ」
「そうですよね。ならよかった」
愛する人と一年に一度しか会えないなんて可愛そう、と誰かが言っていたのを思い出す。愛する人と遠く引き離されて過ごす日々は、きっと私には想像もつかないくらい、悲しくて寂しいものだろう。
だが毎日顔を合わせ、手の届く距離にいれば幸せというわけでもないのだ。
「紺炉さん、短冊吊るしてもらえませんか?」
「なんだ、まだ持ってたのか」
「あとでやろうと思って忘れてました。できるだけ高いところにお願いします」
「おう、任せな」
持っていた青色の短冊を手渡すと、紺炉さんは私の言うとおりに、彼の届く一番高いところに吊るしてくれた。
「これでどうだ?」
「ばっちりです。ありがとうございます」
お礼を言って見上げた横顔はいつもとなんら変わらない。
なにも言ってくれない、か。気付いていない訳ではないだろうに。
少し手を伸ばせば触れられるほど近くにいるのに、私と紺炉さんの距離は織姫彦星よりはるかに遠い。彼にとって私はいつまで経っても歳の離れた妹分なのだ。いっそ突き放してくれたら諦めもつくものを。
それほど時を置かず、若が笹に火をつけにやって来た。笹と短冊は炎に焼かれ、煙とともに人々の願いが天高く昇っていく。
でも私の願いはただ灰になるだけ。遠い夜空の織姫と彦星に届くことはない。当たり前だ。すぐ隣に立つ彼にすら届かないのだから。
「なァ、織姫さんにはもっと良い奴がいると思わねェか」
一緒に煙の行く末を眺めていた紺炉さんが、不意にそんなことを言った。
「どうしてです?」
「年に一度しか会えねェ遠くにいる奴なんざ忘れて、もっと近くで織姫さんを思ってくれる奴とくっついたほうが幸せだろ。彦星も織姫さんが大事なら、さっさと手放してやったほうがいい」
空に向かって投げられた言葉は私への問いかけか、彼自身への言い聞かせか。遠回しに振られたのかもしれない。けれど、
「もし私が織姫で、彦星がそんなこと言ったら引っ叩きますね」
「物騒だなそりゃ」
「だって、そうでしょう。嫌われたのなら諦めますけど……。そうじゃないなら、なに勝手に私の幸せ決めてくれてんだって。織姫様は、愛する彦星と一緒にいるのが一番幸せなんです」
気持ちが昂りすぎたようで、言い終える頃にはすっかり息が上がっていた。見かねた紺炉さんが落ち着かせるように頭を撫でてくれる。子どもの頃からよく知る、大きくてあたたかい手だ。
「……こいつァ一生手放せねェなァ」
「え?」
「こっちの話だ。気にすンな」
困ったように眉を下げて紺炉さんが笑った。夜を溶かした優しい眼差しに見つめられ、妹扱いだというのに嬉しくて、気持ちが溢れそうになる。私はあとどれくらいで星の川を渡り切れるだろう。
紺炉さんが好き。
ずっと貴方とともに在りたい。
いつか届けと青色の短冊に願うのは、昔も今もこの先も、ただそれだけ。
「今年は織姫様と彦星様、会えましたかね」
「これだけ晴れてンだ。今頃年に一度の逢瀬を楽しんでるだろうよ」
「そうですよね。ならよかった」
愛する人と一年に一度しか会えないなんて可愛そう、と誰かが言っていたのを思い出す。愛する人と遠く引き離されて過ごす日々は、きっと私には想像もつかないくらい、悲しくて寂しいものだろう。
だが毎日顔を合わせ、手の届く距離にいれば幸せというわけでもないのだ。
「紺炉さん、短冊吊るしてもらえませんか?」
「なんだ、まだ持ってたのか」
「あとでやろうと思って忘れてました。できるだけ高いところにお願いします」
「おう、任せな」
持っていた青色の短冊を手渡すと、紺炉さんは私の言うとおりに、彼の届く一番高いところに吊るしてくれた。
「これでどうだ?」
「ばっちりです。ありがとうございます」
お礼を言って見上げた横顔はいつもとなんら変わらない。
なにも言ってくれない、か。気付いていない訳ではないだろうに。
少し手を伸ばせば触れられるほど近くにいるのに、私と紺炉さんの距離は織姫彦星よりはるかに遠い。彼にとって私はいつまで経っても歳の離れた妹分なのだ。いっそ突き放してくれたら諦めもつくものを。
それほど時を置かず、若が笹に火をつけにやって来た。笹と短冊は炎に焼かれ、煙とともに人々の願いが天高く昇っていく。
でも私の願いはただ灰になるだけ。遠い夜空の織姫と彦星に届くことはない。当たり前だ。すぐ隣に立つ彼にすら届かないのだから。
「なァ、織姫さんにはもっと良い奴がいると思わねェか」
一緒に煙の行く末を眺めていた紺炉さんが、不意にそんなことを言った。
「どうしてです?」
「年に一度しか会えねェ遠くにいる奴なんざ忘れて、もっと近くで織姫さんを思ってくれる奴とくっついたほうが幸せだろ。彦星も織姫さんが大事なら、さっさと手放してやったほうがいい」
空に向かって投げられた言葉は私への問いかけか、彼自身への言い聞かせか。遠回しに振られたのかもしれない。けれど、
「もし私が織姫で、彦星がそんなこと言ったら引っ叩きますね」
「物騒だなそりゃ」
「だって、そうでしょう。嫌われたのなら諦めますけど……。そうじゃないなら、なに勝手に私の幸せ決めてくれてんだって。織姫様は、愛する彦星と一緒にいるのが一番幸せなんです」
気持ちが昂りすぎたようで、言い終える頃にはすっかり息が上がっていた。見かねた紺炉さんが落ち着かせるように頭を撫でてくれる。子どもの頃からよく知る、大きくてあたたかい手だ。
「……こいつァ一生手放せねェなァ」
「え?」
「こっちの話だ。気にすンな」
困ったように眉を下げて紺炉さんが笑った。夜を溶かした優しい眼差しに見つめられ、妹扱いだというのに嬉しくて、気持ちが溢れそうになる。私はあとどれくらいで星の川を渡り切れるだろう。
紺炉さんが好き。
ずっと貴方とともに在りたい。
いつか届けと青色の短冊に願うのは、昔も今もこの先も、ただそれだけ。