相模屋紺炉
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朝餉の支度を始めて少しした頃に顔を出すのが紺炉さん。
次いで泊まり込みの火消のみんなや、まだ家が直っていない町の人たち。
そして支度が終わる頃に現れるのが髪を結ってもらったヒカゲとヒナタ、少し遅れて紅さんが降りてくる。
それが私の一日の始まりだ。
軽く洗い物をして、居間に向かうとふと違和感に気付く。
「あれ、紺さんは?」
味噌汁を啜る紅さんの隣がぽっかりと空いている。
「あァ? まだ寝てんじゃねェのか」
「紺さんに限ってそんなこと……」
いつも一番に起きてきて、台所に立つ私に「お早うさん」と声をかけてくれるのだ。今日だって……。記憶を呼び起こして、首をひねる。
「……見てないな?」
「さっさと起こしてこい。こいつらが紺炉の分まで飯食っちまうぞ」
主に甘い玉子焼きを狙って、か。
隙あらばと箸をのばす双子を紅さんが牽制してくれている。私はその間に、と紺炉さんの寝室に向かった。
「紺さん、起きてますか?」
襖の前で声をかけるが返事はない。一応断りを入れてから部屋に入る。敷かれた布団の側に腰を下ろすと、規則正しい呼吸が聞こえてきた。
私はほっと胸を撫で下ろす。
もしかしたら体調が悪いのではと心配していたのだが、顔色を見る限り大丈夫そうだ。
「紺さん、起きてください。朝ですよ」
声をかけて軽く揺する。それでも彼は夢の中。
「紺さん、紺さんってば。おーい、紺炉さーん!」
何をしても全く起きる気配がなくて、根負けしそうだ。ここまでぐっすりな紺炉さんを起こすのが逆に申し訳なくなってくる。
「寂しいんでそろそろ起きてください、紺炉さん」
彼の顔にかかる髪を払いながら、ふと頭をよぎったのは最近双子に読み聞かせた絵草紙だ。
お世話になっている第八のマキさん厳選のそれらは、眠り続けるお姫様にあることをすれば目を覚ますというもので。
双子はくだらねェ、気持ちわりィと言いたい放題だったけれど、読んだ二冊のどちらでも効果を発揮していたから、『それ』には相当な効力があるのではないだろうか。
私は紺炉さんの頬に手を添えて、身を屈めた。
もし効果がなかったとしても、彼は眠っているから気付かない。
「紺炉さん……」
一瞬でいい。ほんの少し、触れるだけ。
眠る彼に被さるように屈みこんで、
「狸寝入りですか?」
「いっ……⁈」
私は思い切り紺炉さんの頬を抓った。
なんでバレたと目を開く彼の頬を私はぺちぺちと叩く。
「私が顔近付けたらにやにやしだすから、さすがに気付きますよ! なんで寝たふりなんかしたんですか」
「そりゃお前さん、眠ったおひいさんの目を覚ますのは愛するもんのちゅうなんだろ? 皇国では」
双子への読み聞かせをどうやらこの人も聞いていたらしい。
「紺さんはお姫様じゃないでしょう。それにあれは物語ですから」
「でもお前さん、してくれようとしたじゃねェか」
「ししし、してません!」
少し前の自分の行動を思い出して、一気に顔が熱を帯びる。
ご飯が冷めちゃうから早く起きて来てください! とその場から逃げようとすれば手を取られ、
「で、ちゅうしてくれねェのか?」
ここに、と分かりやすく自身の唇をとんとんと人差し指で叩いてくる。
そんなことされると嫌でも目が紺炉さんの唇の動きを追ってしまい、私の顔はますます顔を赤くした。
「し、しませんよ」
ずるい大人の誘惑に精一杯首を横に振る。今の私には取られた手を振りほどくことはできない。
「じゃあ仕方ねェ」
「わっ⁈」
ぐいと引っ張られて、引きずりこまれたのは紺炉さんの布団の中。
「何するんですか紺さん」
「ちゅうしてくれねェと目が覚めねェからな。お前さんと眠り続けるのも悪かねェ」
あっという間に大きな身体に絡め取られる。
ドキドキと鳴る心臓はうるさいくらいだけど、彼の匂いと体温に包まれるのは心地よくて瞼が落ちてくる。
意識を手放す直前、私の唇に柔らかいものが触れた。
「なァ、次起きるときはお前さんからしてくれ」
「……考えておきます」
耳元で囁かれたそれは夢か現か、私にはもう判断できなかった。
次いで泊まり込みの火消のみんなや、まだ家が直っていない町の人たち。
そして支度が終わる頃に現れるのが髪を結ってもらったヒカゲとヒナタ、少し遅れて紅さんが降りてくる。
それが私の一日の始まりだ。
軽く洗い物をして、居間に向かうとふと違和感に気付く。
「あれ、紺さんは?」
味噌汁を啜る紅さんの隣がぽっかりと空いている。
「あァ? まだ寝てんじゃねェのか」
「紺さんに限ってそんなこと……」
いつも一番に起きてきて、台所に立つ私に「お早うさん」と声をかけてくれるのだ。今日だって……。記憶を呼び起こして、首をひねる。
「……見てないな?」
「さっさと起こしてこい。こいつらが紺炉の分まで飯食っちまうぞ」
主に甘い玉子焼きを狙って、か。
隙あらばと箸をのばす双子を紅さんが牽制してくれている。私はその間に、と紺炉さんの寝室に向かった。
「紺さん、起きてますか?」
襖の前で声をかけるが返事はない。一応断りを入れてから部屋に入る。敷かれた布団の側に腰を下ろすと、規則正しい呼吸が聞こえてきた。
私はほっと胸を撫で下ろす。
もしかしたら体調が悪いのではと心配していたのだが、顔色を見る限り大丈夫そうだ。
「紺さん、起きてください。朝ですよ」
声をかけて軽く揺する。それでも彼は夢の中。
「紺さん、紺さんってば。おーい、紺炉さーん!」
何をしても全く起きる気配がなくて、根負けしそうだ。ここまでぐっすりな紺炉さんを起こすのが逆に申し訳なくなってくる。
「寂しいんでそろそろ起きてください、紺炉さん」
彼の顔にかかる髪を払いながら、ふと頭をよぎったのは最近双子に読み聞かせた絵草紙だ。
お世話になっている第八のマキさん厳選のそれらは、眠り続けるお姫様にあることをすれば目を覚ますというもので。
双子はくだらねェ、気持ちわりィと言いたい放題だったけれど、読んだ二冊のどちらでも効果を発揮していたから、『それ』には相当な効力があるのではないだろうか。
私は紺炉さんの頬に手を添えて、身を屈めた。
もし効果がなかったとしても、彼は眠っているから気付かない。
「紺炉さん……」
一瞬でいい。ほんの少し、触れるだけ。
眠る彼に被さるように屈みこんで、
「狸寝入りですか?」
「いっ……⁈」
私は思い切り紺炉さんの頬を抓った。
なんでバレたと目を開く彼の頬を私はぺちぺちと叩く。
「私が顔近付けたらにやにやしだすから、さすがに気付きますよ! なんで寝たふりなんかしたんですか」
「そりゃお前さん、眠ったおひいさんの目を覚ますのは愛するもんのちゅうなんだろ? 皇国では」
双子への読み聞かせをどうやらこの人も聞いていたらしい。
「紺さんはお姫様じゃないでしょう。それにあれは物語ですから」
「でもお前さん、してくれようとしたじゃねェか」
「ししし、してません!」
少し前の自分の行動を思い出して、一気に顔が熱を帯びる。
ご飯が冷めちゃうから早く起きて来てください! とその場から逃げようとすれば手を取られ、
「で、ちゅうしてくれねェのか?」
ここに、と分かりやすく自身の唇をとんとんと人差し指で叩いてくる。
そんなことされると嫌でも目が紺炉さんの唇の動きを追ってしまい、私の顔はますます顔を赤くした。
「し、しませんよ」
ずるい大人の誘惑に精一杯首を横に振る。今の私には取られた手を振りほどくことはできない。
「じゃあ仕方ねェ」
「わっ⁈」
ぐいと引っ張られて、引きずりこまれたのは紺炉さんの布団の中。
「何するんですか紺さん」
「ちゅうしてくれねェと目が覚めねェからな。お前さんと眠り続けるのも悪かねェ」
あっという間に大きな身体に絡め取られる。
ドキドキと鳴る心臓はうるさいくらいだけど、彼の匂いと体温に包まれるのは心地よくて瞼が落ちてくる。
意識を手放す直前、私の唇に柔らかいものが触れた。
「なァ、次起きるときはお前さんからしてくれ」
「……考えておきます」
耳元で囁かれたそれは夢か現か、私にはもう判断できなかった。
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