梶蓮
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子どもの成長は目まぐるしい。男の子は特にそう、と隣を歩く彼を見るたびに思う。昔はあんなにちっちゃくて可愛かったのに、今ではすっかり私の背丈を追い越してしまった。
「ガキん時の俺を可愛いって言うのはあんたくらいだ」
「えー、実際可愛かったよ? 私といる時は大人しかったし。あ、今も可愛いから安心してね」
「……嬉しくねぇ」
商店街でばったり会ったのは、幼い頃からよく知る蓮くんこと梶蓮くんだった。五つ歳下の高校生で、私にとっては弟みたいな男の子。昔は気性が荒くて一度暴れたら手をつけられないと周りは遠ざけていたけれど、私といる時はそんなことなくて。どちらかといえば口数が少なくて、物静かな印象だった。髪を金色に染め始めた時はさすがに反抗期かと思ったけれど、今は風鈴高校で楽しい学生生活を送っているようで姉(仮)としては嬉しい限りだ。
「いやーそれにしても、あそこに蓮くんがいてくれてよかったよ」
がさりと手にしたビニール袋を揺らすと、蓮くんは呆れたように言った。
「人を荷物持ち扱いすんな」
「もう、いいじゃない。君の好きな桃も買ったんだし」
私が持つ袋の中には甘い香りの漂う桃がごろごろ入っている。青果店のおじさんイチオシ、今が旬の桃だ。そして蓮くんの持つ袋には酒瓶や缶ビール、惣菜やおつまみの類。今日は飲むぞー! と大量に買ったはいいものの一人で持ちきれず困っていたところに、タイミングよく学校帰りの蓮くんを見つけたのだ。私と目が合った瞬間に諸々察したらしい彼はそれはそれは嫌そうな顔をしていたけれど、何なら見なかったことにされかけたけれど、好きなもの何でも買ってあげるからと交渉した結果、渋々ながらも荷物持ちを請け負ってくれたのだった。何やかんや言いつつも、優しい良い子なのである。
「これ、全部一人で食うのか?」
「もちろん! 今日はチートデイだから」
じっとこちらを見つめる蓮くんは太るぞと言いたげだ。でも大人には好きなだけ食べたり飲んだりしなきゃやってられない時もあるのだから仕方がない。
玄関先まで荷物を運んでもらって、お礼にと買った桃を蓮くんに渡す。けれど彼はそれを受け取らず「ここで食ってく」と言い放った。
「えっ」
「嫌なのかよ」
「別に嫌ではないけど」
「おばさんたちは?」
「旅行中。あーあ、せっかく一人で好き放題できると思ってたのに」
ブーブー文句を言う私を無視して、蓮くんはさっさと靴を脱いで上がっていってしまった。そしてビニール袋の中を物色し、焼き鳥を食べ始める。ねぎまに鶏皮、つくね、豚バラ。いや、ハイペース。さすが育ち盛り……って、このままだと私の分がなくなってしまう。慌てて酒盛りの準備をして、リビングのローテーブルに移動する。蓮くんには家にあったサイダーを渡して、自分には缶ビール。キンキンに冷えた缶のプルタブを開けるこの瞬間がたまらない。お気に入りのグラスになみなみと注いでから、蓮くんの肩を叩く。
「ね、乾杯しよ乾杯」
「は? 何で」
「こういうのは雰囲気が大事だから!」
まるでその気のない蓮くんのグラスに自分のをカツンと当ててから一気に呷る。しゅわしゅわの泡と苦味が喉の奥を滑り落ちていく。くだらないバラエティー番組を観ながらおつまみをつまんで、お酒を呷る最高の夜。蓮くんはジュースだけど、いつかは本物のお酒で乾杯する日が来るのかもしれない。少なくともあと三年くらいは先の話だけど。
「おい。飲み過ぎだ」
ローテーブルに山程あった惣菜やおつまみを粗方食べ終え、デザートにと冷やしておいた桃を摘んでいる時だった。蓮くんが眉根を寄せてグラスを傾ける私を見る。「えー、だいじょーぶだって」そうふにゃふにゃ答えるも、全く信用されてないらしい。無言のまま立ち上がったと思ったら、すぐにキッチンから水を持って来てくれた。
「ありがと。優しいねぇ蓮くんは」
昔の癖でついよしよし、と頭を撫でると蓮くんは石みたいにピシリと動かなくなった。てっきりガキ扱いするなと怒られるかと思ったのに。そういえば子どもの頃も慣れていないのかよくこうやって固まってたっけ。近所の野良猫も全く同じ反応をするのを思い出し、口元が緩んでしまう。
「ふふ、今度彼氏にするなら蓮くんみたいに優しい人にしよ」
「……は?」
「実はね、私、彼氏にフラれたの」
それも今日、商店街で蓮くんに会う少し前に。お互い就活も終わり、やっと前みたいに遊べると思っていたのに、久々に会った彼氏に告げられたのは「好きな子ができたから別れてくれ」の一言だった。一時間に及ぶ彼の言い訳じみた言い分を要約すると、就活で辛い時期にずっと支えてくれた女の子を好きになり、つれない私への愛情はなくなったらしい。私には忙しいから連絡するなって言ったきたのはそっちなのに。言ってくれれば私だって支えたのに。
ショックだった。けれど涙は出なかった。最終的には悲しみより怒りのが勝って、チートデイという名のやけ酒に至ったわけだけど。
「……だからね、次は私を大事にしてくれる優しい彼氏がほしいなと思って」
どこかにいい人いないかなー、なんて呑気にお酒を呷っていると、ふいに蓮くんがグラスを持っている手を掴んできた。何だか顔がこわい。もしかしてこれ以上は飲むなってこと? 不思議に思って首を傾げるも、蓮くんは俯いて黙りこくったままだった。
「ねえ、蓮く……っ」
急に蓮くんの顔が近くなって思わず目を見開く。すぐに離れていったけど、唇に触れたやわらかな感触を誤魔化せるはずもない。
「な、なんで……」
「俺がいんだろ」
その言葉の意味を理解して、私は慌てて手を振り解こうとした。けれど蓮くんの力が強くてびくともしない。それどころかぐっと距離を詰められて、私はせめてもの抵抗とばかりに彼の胸を押した。
「だ、だめだよ。そんな……」
「何で?」
「何でって私たち大分歳離れてるし、蓮くんはまだ高校生じゃない」
確かに蓮くんは優しくて良い子だ。そういう彼氏がいたらなとも思う。でもだからといって、蓮くんを彼氏にしたいわけじゃない。私にとって彼は弟みたいな存在で、恋愛対象として見たことがないのだ。そしてそれは、今更キスされたくらいでは変わりようもない。
「私、蓮くんのことそういう風に見れないし、きっとこの先私よりもっといい人が……んっ?!」
最後まで言葉を言い切るより先に再び口を塞がれた。たださっきまでと違うのは、それが触れるだけのものではないということ。分厚い舌が無理やり捩じ込まれ、口内を容赦なく、執拗に荒らしていく。
「ん、ふぅ……っ……」
流し込まれる唾液が甘いのは、彼が食べていた桃のせいだろうか。すっかり回らなくなった頭でとろりとした甘さを追いかけるように自身の舌先を伸ばすと、さっきまで好き放題していた蓮くんの舌が銀糸を引きながら私の中から出ていった。
「俺のこと、本当にそういう対象として見れねぇの?」
ハッと我に返って口元を拭う私に、蓮くんが問う。
「っ、だからさっきもそう言って……」
「ふぅん。でもそんな顔して、全然説得力ねぇんだけど」
くいと顎を掴まれて、無理やり目を合わせられる。そんなはずはない、と断言したかったのにーー。蓮くんの瞳に映る私は、言い逃れできないほど欲情しきった顔をしていた。
「ガキん時の俺を可愛いって言うのはあんたくらいだ」
「えー、実際可愛かったよ? 私といる時は大人しかったし。あ、今も可愛いから安心してね」
「……嬉しくねぇ」
商店街でばったり会ったのは、幼い頃からよく知る蓮くんこと梶蓮くんだった。五つ歳下の高校生で、私にとっては弟みたいな男の子。昔は気性が荒くて一度暴れたら手をつけられないと周りは遠ざけていたけれど、私といる時はそんなことなくて。どちらかといえば口数が少なくて、物静かな印象だった。髪を金色に染め始めた時はさすがに反抗期かと思ったけれど、今は風鈴高校で楽しい学生生活を送っているようで姉(仮)としては嬉しい限りだ。
「いやーそれにしても、あそこに蓮くんがいてくれてよかったよ」
がさりと手にしたビニール袋を揺らすと、蓮くんは呆れたように言った。
「人を荷物持ち扱いすんな」
「もう、いいじゃない。君の好きな桃も買ったんだし」
私が持つ袋の中には甘い香りの漂う桃がごろごろ入っている。青果店のおじさんイチオシ、今が旬の桃だ。そして蓮くんの持つ袋には酒瓶や缶ビール、惣菜やおつまみの類。今日は飲むぞー! と大量に買ったはいいものの一人で持ちきれず困っていたところに、タイミングよく学校帰りの蓮くんを見つけたのだ。私と目が合った瞬間に諸々察したらしい彼はそれはそれは嫌そうな顔をしていたけれど、何なら見なかったことにされかけたけれど、好きなもの何でも買ってあげるからと交渉した結果、渋々ながらも荷物持ちを請け負ってくれたのだった。何やかんや言いつつも、優しい良い子なのである。
「これ、全部一人で食うのか?」
「もちろん! 今日はチートデイだから」
じっとこちらを見つめる蓮くんは太るぞと言いたげだ。でも大人には好きなだけ食べたり飲んだりしなきゃやってられない時もあるのだから仕方がない。
玄関先まで荷物を運んでもらって、お礼にと買った桃を蓮くんに渡す。けれど彼はそれを受け取らず「ここで食ってく」と言い放った。
「えっ」
「嫌なのかよ」
「別に嫌ではないけど」
「おばさんたちは?」
「旅行中。あーあ、せっかく一人で好き放題できると思ってたのに」
ブーブー文句を言う私を無視して、蓮くんはさっさと靴を脱いで上がっていってしまった。そしてビニール袋の中を物色し、焼き鳥を食べ始める。ねぎまに鶏皮、つくね、豚バラ。いや、ハイペース。さすが育ち盛り……って、このままだと私の分がなくなってしまう。慌てて酒盛りの準備をして、リビングのローテーブルに移動する。蓮くんには家にあったサイダーを渡して、自分には缶ビール。キンキンに冷えた缶のプルタブを開けるこの瞬間がたまらない。お気に入りのグラスになみなみと注いでから、蓮くんの肩を叩く。
「ね、乾杯しよ乾杯」
「は? 何で」
「こういうのは雰囲気が大事だから!」
まるでその気のない蓮くんのグラスに自分のをカツンと当ててから一気に呷る。しゅわしゅわの泡と苦味が喉の奥を滑り落ちていく。くだらないバラエティー番組を観ながらおつまみをつまんで、お酒を呷る最高の夜。蓮くんはジュースだけど、いつかは本物のお酒で乾杯する日が来るのかもしれない。少なくともあと三年くらいは先の話だけど。
「おい。飲み過ぎだ」
ローテーブルに山程あった惣菜やおつまみを粗方食べ終え、デザートにと冷やしておいた桃を摘んでいる時だった。蓮くんが眉根を寄せてグラスを傾ける私を見る。「えー、だいじょーぶだって」そうふにゃふにゃ答えるも、全く信用されてないらしい。無言のまま立ち上がったと思ったら、すぐにキッチンから水を持って来てくれた。
「ありがと。優しいねぇ蓮くんは」
昔の癖でついよしよし、と頭を撫でると蓮くんは石みたいにピシリと動かなくなった。てっきりガキ扱いするなと怒られるかと思ったのに。そういえば子どもの頃も慣れていないのかよくこうやって固まってたっけ。近所の野良猫も全く同じ反応をするのを思い出し、口元が緩んでしまう。
「ふふ、今度彼氏にするなら蓮くんみたいに優しい人にしよ」
「……は?」
「実はね、私、彼氏にフラれたの」
それも今日、商店街で蓮くんに会う少し前に。お互い就活も終わり、やっと前みたいに遊べると思っていたのに、久々に会った彼氏に告げられたのは「好きな子ができたから別れてくれ」の一言だった。一時間に及ぶ彼の言い訳じみた言い分を要約すると、就活で辛い時期にずっと支えてくれた女の子を好きになり、つれない私への愛情はなくなったらしい。私には忙しいから連絡するなって言ったきたのはそっちなのに。言ってくれれば私だって支えたのに。
ショックだった。けれど涙は出なかった。最終的には悲しみより怒りのが勝って、チートデイという名のやけ酒に至ったわけだけど。
「……だからね、次は私を大事にしてくれる優しい彼氏がほしいなと思って」
どこかにいい人いないかなー、なんて呑気にお酒を呷っていると、ふいに蓮くんがグラスを持っている手を掴んできた。何だか顔がこわい。もしかしてこれ以上は飲むなってこと? 不思議に思って首を傾げるも、蓮くんは俯いて黙りこくったままだった。
「ねえ、蓮く……っ」
急に蓮くんの顔が近くなって思わず目を見開く。すぐに離れていったけど、唇に触れたやわらかな感触を誤魔化せるはずもない。
「な、なんで……」
「俺がいんだろ」
その言葉の意味を理解して、私は慌てて手を振り解こうとした。けれど蓮くんの力が強くてびくともしない。それどころかぐっと距離を詰められて、私はせめてもの抵抗とばかりに彼の胸を押した。
「だ、だめだよ。そんな……」
「何で?」
「何でって私たち大分歳離れてるし、蓮くんはまだ高校生じゃない」
確かに蓮くんは優しくて良い子だ。そういう彼氏がいたらなとも思う。でもだからといって、蓮くんを彼氏にしたいわけじゃない。私にとって彼は弟みたいな存在で、恋愛対象として見たことがないのだ。そしてそれは、今更キスされたくらいでは変わりようもない。
「私、蓮くんのことそういう風に見れないし、きっとこの先私よりもっといい人が……んっ?!」
最後まで言葉を言い切るより先に再び口を塞がれた。たださっきまでと違うのは、それが触れるだけのものではないということ。分厚い舌が無理やり捩じ込まれ、口内を容赦なく、執拗に荒らしていく。
「ん、ふぅ……っ……」
流し込まれる唾液が甘いのは、彼が食べていた桃のせいだろうか。すっかり回らなくなった頭でとろりとした甘さを追いかけるように自身の舌先を伸ばすと、さっきまで好き放題していた蓮くんの舌が銀糸を引きながら私の中から出ていった。
「俺のこと、本当にそういう対象として見れねぇの?」
ハッと我に返って口元を拭う私に、蓮くんが問う。
「っ、だからさっきもそう言って……」
「ふぅん。でもそんな顔して、全然説得力ねぇんだけど」
くいと顎を掴まれて、無理やり目を合わせられる。そんなはずはない、と断言したかったのにーー。蓮くんの瞳に映る私は、言い逃れできないほど欲情しきった顔をしていた。