梶蓮
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公園のベンチに座って曲を聴いていると、隣に誰かが座る気配がした。
見ればそこにいたのは梶くんで、「悪ぃ、待たせた」と彼の口元が動く。
「全然待ってないよ。私も今来たとこ」
そう言ってイヤホンを外してして鞄にしまおうとすれば、隣から梶くんの手が伸びてきて遮られてしまった。
「何聴いてたんだよ」
「最近ハマってる洋楽。昔の曲だけど、歌詞も良くておすすめだよ」
「ふーん」
梶くんに捕まった私の手は、そのままヘッドフォンを外した彼の耳元へ。どうやら梶くんは私がさっきまで聴いていた曲を聴きたいらしい。けれど耳に着けたのは片方だけ。こっちも貸すよと自分の片耳に残されたイヤホンを外そうとすれば、これで充分だと却下されてしまった。
イヤホンコードがあまり長くないからか、梶くんがぐっと私のほうへと身体を寄せてくる。膝同士がぶつかって思わず「近いよ」と彼を押し返すと「これくらい近くねえと聴けねえだろ」とさらに距離を詰めてきて、さらりとした淡い金髪が私の頬をくすぐった。
近い。近すぎる。こんなに距離が近いのは初めてで、体温が一気に上昇していくのを感じた。心臓の音、梶くんに聞こえたらどうしよう。不安になって隣を見遣ると、ぱちりと梶くんと目が合ってうっかりスマホを落としそうになった。
「っぶね」
「ご、ごめん」
「別にいい。曲、流せよ」
「うん」
地面に落ちる直前で梶くんが拾ってくれたスマホを受け取り、さっきまで聴いていた曲を流す。ゆったりとしたバラードはうるさい心臓をいくらか落ち着かせてくれたけれど、すぐにこの曲は梶くんの好みじゃないかもしれないとハッとする。彼がいつも聴いているのはテンポが速くて激しめの曲だ。バラードを聴いているところなんて見たことないし、想像もできない。
けれどそれも杞憂だったみたいだ。ちらりと盗み見た梶くんは僅かに目元を緩ませて、曲に聴き入っていた。
「いいじゃん」
一曲を最後まで聴き終えて梶くんが言う。
「ほんと? よかったあ」
距離の近さなどすっかり忘れていた私は安堵の息を吐いた。この時は緊張は恥ずかしさよりも、好きな人が私の好きな曲を気に入ってくれた嬉しさのほうが上回っていた。
「これ、何て歌ってんの?」
「え?」
「歌詞もいいんだろ。俺、英語わかんねえから」
「ああ、これはね」
私はこの曲の和訳を梶くんに伝えた。この曲は男性が歌っているけれど女性視点の曲で、好きな相手への想いを歌ったもの。好きで、好きで、どうしようもなくて。お願い気づいてと呼びかけるサビの部分を、私は特に気に入っている。
「ーー好き。大好き。だからお願いこっちを見、て……」
そして二番の歌詞を伝えたところで、私ははたと気づいた。これじゃあまるで私が愛の告白をしているみたいだ、と。
「ち、違うの梶くん! これは曲の歌詞で……」
慌ててスマホから顔を上げて梶くんを見ると、彼はふいとそっぽを向いていた。私から距離を取ろうとしたのだろう。繋がったままのイヤホンコードがピンと張っていた。
「梶、くん?」
「……こっち見んな」
そっぽを向いてしまった彼の表情はここからでは窺い知れない。けれど、髪から覗く耳は赤く染まっていた。
「梶くん」
「……」
「さっきの嘘。違わない」
好き。大好き。だから、お願いーー。
「っ!」
バッと振り向いた梶くんが私を思い切り抱き寄せた。キスされると思ってぎゅっと目を閉じるもそんな感触はなく、代わりにごちっと鈍い音が頭に響いた。
「いったー!」
おでこがじんじんする。「ひどい」と泣き言を言えば「煽るお前が悪い」と珍しく顔が赤いままの梶くんに言い返されてしまった。そして痛む額を摩る私の手を取って、彼は「行くぞ」と歩き出した。
「ど、どこに?」
今日はCDショップに行く予定だったはずだ。けれど、梶くんの向かう先はどうみても目的地とは真逆。不思議に思い訊ねる私に梶くんは振り返ることなく「俺んち」と短く告げて、それが何を意味するのか、気づいた私はきっと梶くんよりも真っ赤になっていた。
見ればそこにいたのは梶くんで、「悪ぃ、待たせた」と彼の口元が動く。
「全然待ってないよ。私も今来たとこ」
そう言ってイヤホンを外してして鞄にしまおうとすれば、隣から梶くんの手が伸びてきて遮られてしまった。
「何聴いてたんだよ」
「最近ハマってる洋楽。昔の曲だけど、歌詞も良くておすすめだよ」
「ふーん」
梶くんに捕まった私の手は、そのままヘッドフォンを外した彼の耳元へ。どうやら梶くんは私がさっきまで聴いていた曲を聴きたいらしい。けれど耳に着けたのは片方だけ。こっちも貸すよと自分の片耳に残されたイヤホンを外そうとすれば、これで充分だと却下されてしまった。
イヤホンコードがあまり長くないからか、梶くんがぐっと私のほうへと身体を寄せてくる。膝同士がぶつかって思わず「近いよ」と彼を押し返すと「これくらい近くねえと聴けねえだろ」とさらに距離を詰めてきて、さらりとした淡い金髪が私の頬をくすぐった。
近い。近すぎる。こんなに距離が近いのは初めてで、体温が一気に上昇していくのを感じた。心臓の音、梶くんに聞こえたらどうしよう。不安になって隣を見遣ると、ぱちりと梶くんと目が合ってうっかりスマホを落としそうになった。
「っぶね」
「ご、ごめん」
「別にいい。曲、流せよ」
「うん」
地面に落ちる直前で梶くんが拾ってくれたスマホを受け取り、さっきまで聴いていた曲を流す。ゆったりとしたバラードはうるさい心臓をいくらか落ち着かせてくれたけれど、すぐにこの曲は梶くんの好みじゃないかもしれないとハッとする。彼がいつも聴いているのはテンポが速くて激しめの曲だ。バラードを聴いているところなんて見たことないし、想像もできない。
けれどそれも杞憂だったみたいだ。ちらりと盗み見た梶くんは僅かに目元を緩ませて、曲に聴き入っていた。
「いいじゃん」
一曲を最後まで聴き終えて梶くんが言う。
「ほんと? よかったあ」
距離の近さなどすっかり忘れていた私は安堵の息を吐いた。この時は緊張は恥ずかしさよりも、好きな人が私の好きな曲を気に入ってくれた嬉しさのほうが上回っていた。
「これ、何て歌ってんの?」
「え?」
「歌詞もいいんだろ。俺、英語わかんねえから」
「ああ、これはね」
私はこの曲の和訳を梶くんに伝えた。この曲は男性が歌っているけれど女性視点の曲で、好きな相手への想いを歌ったもの。好きで、好きで、どうしようもなくて。お願い気づいてと呼びかけるサビの部分を、私は特に気に入っている。
「ーー好き。大好き。だからお願いこっちを見、て……」
そして二番の歌詞を伝えたところで、私ははたと気づいた。これじゃあまるで私が愛の告白をしているみたいだ、と。
「ち、違うの梶くん! これは曲の歌詞で……」
慌ててスマホから顔を上げて梶くんを見ると、彼はふいとそっぽを向いていた。私から距離を取ろうとしたのだろう。繋がったままのイヤホンコードがピンと張っていた。
「梶、くん?」
「……こっち見んな」
そっぽを向いてしまった彼の表情はここからでは窺い知れない。けれど、髪から覗く耳は赤く染まっていた。
「梶くん」
「……」
「さっきの嘘。違わない」
好き。大好き。だから、お願いーー。
「っ!」
バッと振り向いた梶くんが私を思い切り抱き寄せた。キスされると思ってぎゅっと目を閉じるもそんな感触はなく、代わりにごちっと鈍い音が頭に響いた。
「いったー!」
おでこがじんじんする。「ひどい」と泣き言を言えば「煽るお前が悪い」と珍しく顔が赤いままの梶くんに言い返されてしまった。そして痛む額を摩る私の手を取って、彼は「行くぞ」と歩き出した。
「ど、どこに?」
今日はCDショップに行く予定だったはずだ。けれど、梶くんの向かう先はどうみても目的地とは真逆。不思議に思い訊ねる私に梶くんは振り返ることなく「俺んち」と短く告げて、それが何を意味するのか、気づいた私はきっと梶くんよりも真っ赤になっていた。