蘇枋隼飛
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ーーあ、転ぶ。
躓いて、ぐらりと身体がアスファルトに向かうのを感じらながらぎゅっと目を瞑った。よそ見して歩くからこうなるのだ。見知った後ろ姿があったからって駆け出したりするから。鈍臭いのは自分が一番わかってるだろうに。
ここでかっこよく受け身を取れるほど運動神経も反射神経もよくない私は少しでも衝撃に備えようとぐっと身を縮こませた。アスファルトに接する面積が少ないほうが痛くなさそう、なんて。
けれど次の瞬間やってきた衝撃は思っていたよりずっと軽いものだった。とん、と軽く何かにぶつかったかと思えば、そのまま優しく包まれて。何ならふわりとお香みたいないい匂いもするものだから、ずっとこのままでいたいような気も……。
「って、蘇枋くん!?」
「うん、オレだよー」
はっとして顔を上げるとそこには涼やかに微笑む蘇枋くんがいた。どうやら私が転びそうになっていたのを見かけて抱き止めてくれたらしい。ありがたい。けど、距離が近い。
お礼を言って慌てて離れようとすると、退路を断つようにきゅっと蘇枋くんの両腕が私の腰を抱き寄せた。さっきよりもずっと距離が近くなって、心臓がうるさいくらいに鳴っているのがばれてしまいそうだ。
「蘇枋、くん……?」
一体どうしたのだろう。そう思って再び蘇枋くんを見上げると、にこにこと微笑んでいた彼の瞳がぐっと大人びたものへと変わる。とても同い年には見えない、知らない男の人の顔だ。
そして目の前の彼はうっそりと笑って言った。
「嬉しいな。君から飛び込んできてくれるなんて」
「ち、ちが……」
私はぶんぶんと首を横に振った。誤解である。事故である。
少し離れたところに蘇枋くんがいたから声をかけようとして駆け寄り、その拍子に転びそうになっただけで。
「だから、その……決して飛び込もうとしたわけでは……」
しどろもどろになりながら何とか事の経緯を説明する。その間も腕が解かれることはなく、身動きすらできなかった。
「そうなんだ。それは残念」
私の下手っぴな説明を一通り聞き、蘇枋くんがわざとらしく肩を落とす。一応誤解は解けたかな? けれど安堵したのも束の間、蘇枋くんは目元を綻ばせて続けた。
「でもオレを見つけて走ってきてくれたんだね。それは嬉しいな」
「うっ、」
……それは嘘ではないけれど。改めて言葉にされるとものすごく恥ずかしい。
これが恋人同士の会話なら素直にときめくことができたのだろうか。けれど残念ながら私たちはただの友達だ。
思うにこれは蘇枋くんの戯れだ。真に受けてはいけない。
「蘇枋くん、そういうのはあんまり言わないほうがいいと思う」
「何で?」
「私はいいけど、多分勘違いする子もいるだろうから」
友達だからこその言葉の応酬、距離感、触れ合い。私は意外にもノリのいい蘇枋くんの性格を知っているから、今のやり取りも冗談なのだとわかる。耐性はないから正直ドキドキはするけれど。
彼を知らない子が同じことをされたら、勘違いする子が大半だろう。蘇枋くんはかっこよくて、ノリがよくて、みんなに優しいから。
「……君にしかこんなこと言わないよ」
「え?」
蘇枋くんが何やらぽつりと呟いた。けれど上手く聞き取れなくて、思わず聞き返すと良い笑顔だけが返ってきた。
「何でもない。とりあえず君に怪我がなくてよかったよ」
パッと私から両腕を離し蘇枋くんが言った。
ようやく解放されてほっとしたけれどさっきまで彼が触れていたところがまだ熱を持っているようで、それからしばらくの間、私は蘇枋くんとまともに目を合わせることができなかった。
躓いて、ぐらりと身体がアスファルトに向かうのを感じらながらぎゅっと目を瞑った。よそ見して歩くからこうなるのだ。見知った後ろ姿があったからって駆け出したりするから。鈍臭いのは自分が一番わかってるだろうに。
ここでかっこよく受け身を取れるほど運動神経も反射神経もよくない私は少しでも衝撃に備えようとぐっと身を縮こませた。アスファルトに接する面積が少ないほうが痛くなさそう、なんて。
けれど次の瞬間やってきた衝撃は思っていたよりずっと軽いものだった。とん、と軽く何かにぶつかったかと思えば、そのまま優しく包まれて。何ならふわりとお香みたいないい匂いもするものだから、ずっとこのままでいたいような気も……。
「って、蘇枋くん!?」
「うん、オレだよー」
はっとして顔を上げるとそこには涼やかに微笑む蘇枋くんがいた。どうやら私が転びそうになっていたのを見かけて抱き止めてくれたらしい。ありがたい。けど、距離が近い。
お礼を言って慌てて離れようとすると、退路を断つようにきゅっと蘇枋くんの両腕が私の腰を抱き寄せた。さっきよりもずっと距離が近くなって、心臓がうるさいくらいに鳴っているのがばれてしまいそうだ。
「蘇枋、くん……?」
一体どうしたのだろう。そう思って再び蘇枋くんを見上げると、にこにこと微笑んでいた彼の瞳がぐっと大人びたものへと変わる。とても同い年には見えない、知らない男の人の顔だ。
そして目の前の彼はうっそりと笑って言った。
「嬉しいな。君から飛び込んできてくれるなんて」
「ち、ちが……」
私はぶんぶんと首を横に振った。誤解である。事故である。
少し離れたところに蘇枋くんがいたから声をかけようとして駆け寄り、その拍子に転びそうになっただけで。
「だから、その……決して飛び込もうとしたわけでは……」
しどろもどろになりながら何とか事の経緯を説明する。その間も腕が解かれることはなく、身動きすらできなかった。
「そうなんだ。それは残念」
私の下手っぴな説明を一通り聞き、蘇枋くんがわざとらしく肩を落とす。一応誤解は解けたかな? けれど安堵したのも束の間、蘇枋くんは目元を綻ばせて続けた。
「でもオレを見つけて走ってきてくれたんだね。それは嬉しいな」
「うっ、」
……それは嘘ではないけれど。改めて言葉にされるとものすごく恥ずかしい。
これが恋人同士の会話なら素直にときめくことができたのだろうか。けれど残念ながら私たちはただの友達だ。
思うにこれは蘇枋くんの戯れだ。真に受けてはいけない。
「蘇枋くん、そういうのはあんまり言わないほうがいいと思う」
「何で?」
「私はいいけど、多分勘違いする子もいるだろうから」
友達だからこその言葉の応酬、距離感、触れ合い。私は意外にもノリのいい蘇枋くんの性格を知っているから、今のやり取りも冗談なのだとわかる。耐性はないから正直ドキドキはするけれど。
彼を知らない子が同じことをされたら、勘違いする子が大半だろう。蘇枋くんはかっこよくて、ノリがよくて、みんなに優しいから。
「……君にしかこんなこと言わないよ」
「え?」
蘇枋くんが何やらぽつりと呟いた。けれど上手く聞き取れなくて、思わず聞き返すと良い笑顔だけが返ってきた。
「何でもない。とりあえず君に怪我がなくてよかったよ」
パッと私から両腕を離し蘇枋くんが言った。
ようやく解放されてほっとしたけれどさっきまで彼が触れていたところがまだ熱を持っているようで、それからしばらくの間、私は蘇枋くんとまともに目を合わせることができなかった。
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