ツイステッドワンダーランド
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監督生くんに好きな人がいるらしい。
そんな噂を耳にしたのは少し前のこと。監督生くんとよく一緒にいる一年生たちや、ジャックくんがそんな話をしているのを、たまたま、そこらの人より少しばかりいい耳で聞いてしまったのだ。決して聞き耳を立てていたわけじゃない。俺が非常食用にと野草を摘んでいたところに、彼らが知らず話し始めただけで。まあジャックくんは匂いで気付いてたっぽいっスけど。
それにしても、あの監督生くんに好きな人ねえ。
ぱっと頭に浮かんだのは、屈託なく笑う笑顔。人懐っこくて、小動物みたいで。けれど魔法が使えないからといって弱々しいわけではなく、誰に対しても臆さず物を言う彼女。
そんな彼女が誰かに恋をしているとは思いもしなかった。一緒にいる時にそんな様子は微塵もなかったから。
一体相手は誰なのか。彼女のコミュニティは恐らくそんなに広くない。この学園の生徒か、はたまた先生か。彼女の故郷にいる相手……は考えにくい。さっき聞こえてきた話によると、彼女が恋を自覚したのは最近のようだし。
「水くさいっスね、監督生くんも」
なぜだか無性にムシャクシャした。それなりに親しいと思ってたのに、どうして監督生くんは俺に何も言ってくれなかったのか。それとも俺より一年生のほうが話しやすかったのか。
言ってくれれば、多分、協力くらいはしただろう。もちろんタダでとは言わないけれど。
「あ、やべ」
気づけば一心不乱に野草を引きちぎっていて、手は草の汁ですっかり緑色。食べる分だけ摘むつもりが辺り一帯禿げさせていた。急いで先生にバレないよう隠蔽しなければ。あと食べきれない分は……と考えて監督生くんの顔が浮かんだけれど、それをぶんぶんと頭を振って振り払う。
「きのこじゃないっすけど、ジェイドくんなら貰ってくれるっすよね」
今日の夕飯は山菜料理にほぼ決定だ。ジェイドくんはレシピを教えれば俺よりずっと美味く料理を作ってくれる。わざと分量多めに伝えて、余ったらタッパーに入れて持ち帰って……。食べ物のことを考えていたら途端にぐうと腹の虫が鳴った。
そういえばレオナさんに呼ばれて昼ろくに食えなかったんスよね。
ムシャクシャしてたのはきっと、腹が減っていたからに違いない。
***
「監督生くん、好きな人いるらしいっスね」
次の日の早朝、サバナクロー寮で見知った背中に声をかけた。どうやらランニングから帰ってきたところらしい。ぴんと立った三角の耳が音を拾い、身体がびくりと震える。大きな獣耳は時に便利だが、聞こえなかったふりができないのが難点だ。いやレオナさんはしれっとしそうだけど、真面目なジャックくんには無理だろう。思った通り彼はくるりと振り向き、あまりにも予想通りの行動に思わず唇が上がりかけた。
「ラ、ラギー先輩……」
ジャックくんは気まずそうに俺から顔を逸らした。顔に出やすいにもほどがある。やはり彼は昨日あの場に俺がいたことにも気付いていたのだろう。それならそれで話が早い。
「で、誰なんスか。その相手は」
「そ、それは……言えないっす」
「頑固っスねえ。別に言いふらそうってんじゃないんスよ。俺も監督生くんの恋を応援したいなって思ってるだけで」
ジャックくんだって、監督生くんの恋を応援しているはずだ。邪魔しようとすれば余計に口を閉ざすだろうが、協力となれば多少は気を許すはず。そう思っていたのに、突然ぴりっと空気が変わるのを感じた。顔を上げれば、なぜかジャックくんが眉間に皺を寄せて俺をきつく睨んでいた。
「ラギー先輩は、監督生の恋を応援するんですか」
「へ?」
予想外の言葉にきょとんとする。そりゃあ先輩として仲のいい後輩の恋は応援するでしょ。でもジャックくんはそれが気に入らないらしい。もしかしてジャックくん、監督生くんのことが好きとか? いや、だったら昨日の会話に加わってないか。
「なに。ジャックくんは応援したくないんスか?」
「俺は……応援してます。友人として、監督生が幸せになってくれたら嬉しい」
「じゃあなんで……」
「あいつ、すげぇ相手のこと好きらしくて、手紙で気持ち伝えるんだって頑張ってて。でもラギー先輩の応援はあいつにとって邪魔になるだけだから……」
「はあ?! 何スかそれ!」
ジャックくんはよくて、俺はだめって。意味がわからない。俺なら一年生やジャックくんよりずっと上手く立ち回って協力できるだろうに。けれどどれだけ問い詰めても、ジャックくんはそれ以上口を開こうとしなかった。
***
とたとたと、軽い足音が廊下に響く。まだ授業が始まるにはだいぶ早く、登校している生徒はほとんどいないというのに。
「そんなに急いでどこ行くんスか?」
「うわっ、ラギー先輩?!」
タイミングを見計らってひょいと曲がり角から飛び出せば、ぎょっとした監督生くんが止まりきれずにどんとぶつかってきた。
「す、すみません。怪我は?」
「俺は平気っスよ」
わざとぶつかるように仕向けたのはこちらだし、小柄な監督生くんがぶつかったところで何の支障もない。強いて言えば彼女の頭の上で眠っていたグリムくんが衝撃で吹っ飛んでいったのが気になるが、床に転がって尚「ふなぁ〜ツナ缶」と寝言を言っているくらいだから大丈夫だろう。
「監督生くんは、大丈夫じゃなさそうっスね」
顔面から飛び込んできた彼女の顔は、擦りむいたりはしていないものの赤くなってしまっていた。医務室で冷やしたほうがいいかもしれない。そう提案すると、彼女は用があるからと首を横に振った。
「この先に用があるんスか?」
「はい。どうしても急ぎの用事で」
「へぇ」
この先にあるのは二年と三年の教室だった。恐らく監督生くんの好きな相手が、そのどちらかの学年にいるのだろう。ジャックくんの言っていた手紙ーーラブレターを相手の机に忍ばせるつもりなのか。
「あの、私そろそろ行きますね」
床に転がったままのグリムくんを拾い上げながら、監督生くんが俺の横を通り過ぎていく。
「上手くいくといいっスね」くらい言えばよかった。でも一応俺は知らないことになってるし、何より。
「あー。なんでこうなっちゃうかな」
とたとたと遠ざかっていく足音を耳にしつつ、俺はその場にしゃがみ込んだ。そして手にしているものをじっと見つめる。
本当に、こんなことするつもりはなかったんスけど。
今更何を言ったところで言い訳にしかならないだろう。手の中にあるのは紛れもなく監督生くんのもの。よそ見をしていた彼女の鞄から一瞬にして抜き取った、シンプルな白い封筒だった。
魔が差した、としか言いようがない。監督生くんの好きな相手が誰なのか知りたくて、気付けば勝手に手が動いていた。
ジャックくんの言ってた通りっスねえ。
結局俺は監督生くんの恋の応援どころか邪魔しかしていない。これがバレたら馬じゃなくてジャックくんに蹴られたりして。充分あり得る話にゾッとしつつも、俺はラブレターの封に指をかけていた。ここまで来てしまったし、好奇心には勝てなかったのもある。
監督生くんのラブレターはシールで簡単に封がしてあるだけだった。下手に破らないよう気を付けて、相手の名前を知った後で監督生くんに落ちてたと返すか、そっと相手の机に入れておくのもありだろう。
持ち前の器用さもあってか、シールは難なく綺麗に剥がれた。引き続き慎重に中の手紙を取り出す。手紙は一枚きりだった。折り畳まれたそれを広げ、相手の名はーー。
「……あー、もう!」
手にしていた手紙がくしゃりと音を立てた。が、そんなことどうでもいい。
長い廊下を全力で走って、階段は数段飛ばしで駆け上がる。行き先は、監督生くんと好きな相手、その教室。恐らくそこに監督生くんもいるだろうから。
目当ての教室に着き、扉を開ける。クラスは2-B。
「え、ラギー先輩?」
「やっぱりここにいたんスね」
肩で息をしながら、監督生くんのほうへと近づいていく。マジフトでもここまで全力を出したことはなかったからか、なかなか息が整わない。監督生くんは前から二番目の席にいた。鞄の中身を広げ、さっきまで何かを探していたらしい。それも、今にも泣きそうな顔で。
「探しものはこれっスか?」
俺は手にしていた手紙を監督生くんに差し出した。彼女はすぐに「あっ」と声を出し、「先輩それ読ん……ち、違うんです、これはその……」と顔を赤くして、手紙を取り返そうと必死に手を伸ばしてくる。しかし俺はひらりとそれをかわした。監督生くんの目が「なんで?」と訴えてくる。
「か、返してください!」
「いいっスよ。もちろんタダでとは言わないっスけど」
監督生くんは俺の人となりをよく理解しているのだろう。顔を赤くしながらも、何を要求されるのかと身構えている。
「そこまで怯えなくても。難しいことじゃないっスよ。今から俺が言うことを最後まで聞いて、返事をくれるだけでいいんスから」
「それ、だけ?」
「そうそう。それだけっス!」
昨日からずっとムシャクシャしていた。山ほど飯を食べても、ぐっすり寝ても治らないし、何かにあたったかなくらいに思ってたけど、原因に気付いてしまえばただただ恥ずかしいだけだった。
無意識に嫉妬して、邪魔をして。監督生くんの手紙を読んでやっと自分の気持ちに気付くだなんて。かっこ悪いにもほどがある。だからせめて、言葉だけは監督生くんより先にーー。
「監督生くん。俺、アンタのことが……」
そんな噂を耳にしたのは少し前のこと。監督生くんとよく一緒にいる一年生たちや、ジャックくんがそんな話をしているのを、たまたま、そこらの人より少しばかりいい耳で聞いてしまったのだ。決して聞き耳を立てていたわけじゃない。俺が非常食用にと野草を摘んでいたところに、彼らが知らず話し始めただけで。まあジャックくんは匂いで気付いてたっぽいっスけど。
それにしても、あの監督生くんに好きな人ねえ。
ぱっと頭に浮かんだのは、屈託なく笑う笑顔。人懐っこくて、小動物みたいで。けれど魔法が使えないからといって弱々しいわけではなく、誰に対しても臆さず物を言う彼女。
そんな彼女が誰かに恋をしているとは思いもしなかった。一緒にいる時にそんな様子は微塵もなかったから。
一体相手は誰なのか。彼女のコミュニティは恐らくそんなに広くない。この学園の生徒か、はたまた先生か。彼女の故郷にいる相手……は考えにくい。さっき聞こえてきた話によると、彼女が恋を自覚したのは最近のようだし。
「水くさいっスね、監督生くんも」
なぜだか無性にムシャクシャした。それなりに親しいと思ってたのに、どうして監督生くんは俺に何も言ってくれなかったのか。それとも俺より一年生のほうが話しやすかったのか。
言ってくれれば、多分、協力くらいはしただろう。もちろんタダでとは言わないけれど。
「あ、やべ」
気づけば一心不乱に野草を引きちぎっていて、手は草の汁ですっかり緑色。食べる分だけ摘むつもりが辺り一帯禿げさせていた。急いで先生にバレないよう隠蔽しなければ。あと食べきれない分は……と考えて監督生くんの顔が浮かんだけれど、それをぶんぶんと頭を振って振り払う。
「きのこじゃないっすけど、ジェイドくんなら貰ってくれるっすよね」
今日の夕飯は山菜料理にほぼ決定だ。ジェイドくんはレシピを教えれば俺よりずっと美味く料理を作ってくれる。わざと分量多めに伝えて、余ったらタッパーに入れて持ち帰って……。食べ物のことを考えていたら途端にぐうと腹の虫が鳴った。
そういえばレオナさんに呼ばれて昼ろくに食えなかったんスよね。
ムシャクシャしてたのはきっと、腹が減っていたからに違いない。
***
「監督生くん、好きな人いるらしいっスね」
次の日の早朝、サバナクロー寮で見知った背中に声をかけた。どうやらランニングから帰ってきたところらしい。ぴんと立った三角の耳が音を拾い、身体がびくりと震える。大きな獣耳は時に便利だが、聞こえなかったふりができないのが難点だ。いやレオナさんはしれっとしそうだけど、真面目なジャックくんには無理だろう。思った通り彼はくるりと振り向き、あまりにも予想通りの行動に思わず唇が上がりかけた。
「ラ、ラギー先輩……」
ジャックくんは気まずそうに俺から顔を逸らした。顔に出やすいにもほどがある。やはり彼は昨日あの場に俺がいたことにも気付いていたのだろう。それならそれで話が早い。
「で、誰なんスか。その相手は」
「そ、それは……言えないっす」
「頑固っスねえ。別に言いふらそうってんじゃないんスよ。俺も監督生くんの恋を応援したいなって思ってるだけで」
ジャックくんだって、監督生くんの恋を応援しているはずだ。邪魔しようとすれば余計に口を閉ざすだろうが、協力となれば多少は気を許すはず。そう思っていたのに、突然ぴりっと空気が変わるのを感じた。顔を上げれば、なぜかジャックくんが眉間に皺を寄せて俺をきつく睨んでいた。
「ラギー先輩は、監督生の恋を応援するんですか」
「へ?」
予想外の言葉にきょとんとする。そりゃあ先輩として仲のいい後輩の恋は応援するでしょ。でもジャックくんはそれが気に入らないらしい。もしかしてジャックくん、監督生くんのことが好きとか? いや、だったら昨日の会話に加わってないか。
「なに。ジャックくんは応援したくないんスか?」
「俺は……応援してます。友人として、監督生が幸せになってくれたら嬉しい」
「じゃあなんで……」
「あいつ、すげぇ相手のこと好きらしくて、手紙で気持ち伝えるんだって頑張ってて。でもラギー先輩の応援はあいつにとって邪魔になるだけだから……」
「はあ?! 何スかそれ!」
ジャックくんはよくて、俺はだめって。意味がわからない。俺なら一年生やジャックくんよりずっと上手く立ち回って協力できるだろうに。けれどどれだけ問い詰めても、ジャックくんはそれ以上口を開こうとしなかった。
***
とたとたと、軽い足音が廊下に響く。まだ授業が始まるにはだいぶ早く、登校している生徒はほとんどいないというのに。
「そんなに急いでどこ行くんスか?」
「うわっ、ラギー先輩?!」
タイミングを見計らってひょいと曲がり角から飛び出せば、ぎょっとした監督生くんが止まりきれずにどんとぶつかってきた。
「す、すみません。怪我は?」
「俺は平気っスよ」
わざとぶつかるように仕向けたのはこちらだし、小柄な監督生くんがぶつかったところで何の支障もない。強いて言えば彼女の頭の上で眠っていたグリムくんが衝撃で吹っ飛んでいったのが気になるが、床に転がって尚「ふなぁ〜ツナ缶」と寝言を言っているくらいだから大丈夫だろう。
「監督生くんは、大丈夫じゃなさそうっスね」
顔面から飛び込んできた彼女の顔は、擦りむいたりはしていないものの赤くなってしまっていた。医務室で冷やしたほうがいいかもしれない。そう提案すると、彼女は用があるからと首を横に振った。
「この先に用があるんスか?」
「はい。どうしても急ぎの用事で」
「へぇ」
この先にあるのは二年と三年の教室だった。恐らく監督生くんの好きな相手が、そのどちらかの学年にいるのだろう。ジャックくんの言っていた手紙ーーラブレターを相手の机に忍ばせるつもりなのか。
「あの、私そろそろ行きますね」
床に転がったままのグリムくんを拾い上げながら、監督生くんが俺の横を通り過ぎていく。
「上手くいくといいっスね」くらい言えばよかった。でも一応俺は知らないことになってるし、何より。
「あー。なんでこうなっちゃうかな」
とたとたと遠ざかっていく足音を耳にしつつ、俺はその場にしゃがみ込んだ。そして手にしているものをじっと見つめる。
本当に、こんなことするつもりはなかったんスけど。
今更何を言ったところで言い訳にしかならないだろう。手の中にあるのは紛れもなく監督生くんのもの。よそ見をしていた彼女の鞄から一瞬にして抜き取った、シンプルな白い封筒だった。
魔が差した、としか言いようがない。監督生くんの好きな相手が誰なのか知りたくて、気付けば勝手に手が動いていた。
ジャックくんの言ってた通りっスねえ。
結局俺は監督生くんの恋の応援どころか邪魔しかしていない。これがバレたら馬じゃなくてジャックくんに蹴られたりして。充分あり得る話にゾッとしつつも、俺はラブレターの封に指をかけていた。ここまで来てしまったし、好奇心には勝てなかったのもある。
監督生くんのラブレターはシールで簡単に封がしてあるだけだった。下手に破らないよう気を付けて、相手の名前を知った後で監督生くんに落ちてたと返すか、そっと相手の机に入れておくのもありだろう。
持ち前の器用さもあってか、シールは難なく綺麗に剥がれた。引き続き慎重に中の手紙を取り出す。手紙は一枚きりだった。折り畳まれたそれを広げ、相手の名はーー。
「……あー、もう!」
手にしていた手紙がくしゃりと音を立てた。が、そんなことどうでもいい。
長い廊下を全力で走って、階段は数段飛ばしで駆け上がる。行き先は、監督生くんと好きな相手、その教室。恐らくそこに監督生くんもいるだろうから。
目当ての教室に着き、扉を開ける。クラスは2-B。
「え、ラギー先輩?」
「やっぱりここにいたんスね」
肩で息をしながら、監督生くんのほうへと近づいていく。マジフトでもここまで全力を出したことはなかったからか、なかなか息が整わない。監督生くんは前から二番目の席にいた。鞄の中身を広げ、さっきまで何かを探していたらしい。それも、今にも泣きそうな顔で。
「探しものはこれっスか?」
俺は手にしていた手紙を監督生くんに差し出した。彼女はすぐに「あっ」と声を出し、「先輩それ読ん……ち、違うんです、これはその……」と顔を赤くして、手紙を取り返そうと必死に手を伸ばしてくる。しかし俺はひらりとそれをかわした。監督生くんの目が「なんで?」と訴えてくる。
「か、返してください!」
「いいっスよ。もちろんタダでとは言わないっスけど」
監督生くんは俺の人となりをよく理解しているのだろう。顔を赤くしながらも、何を要求されるのかと身構えている。
「そこまで怯えなくても。難しいことじゃないっスよ。今から俺が言うことを最後まで聞いて、返事をくれるだけでいいんスから」
「それ、だけ?」
「そうそう。それだけっス!」
昨日からずっとムシャクシャしていた。山ほど飯を食べても、ぐっすり寝ても治らないし、何かにあたったかなくらいに思ってたけど、原因に気付いてしまえばただただ恥ずかしいだけだった。
無意識に嫉妬して、邪魔をして。監督生くんの手紙を読んでやっと自分の気持ちに気付くだなんて。かっこ悪いにもほどがある。だからせめて、言葉だけは監督生くんより先にーー。
「監督生くん。俺、アンタのことが……」
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