橋田悠
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それはお家デート中のことだった。
「ん」
隣に腰を下ろして本を読んでいた橋田が、唐突にこちらに身体を向けて長い腕を左右に広げてきたのだ。
「え、何?」
思わずそう訊いてしまったけれど、橋田の行動の意図がわからなかったわけじゃない。ただ私に素直に飛び込む勇気がなかっただけだ。誤魔化すようにへらりと笑うと、橋田もにこりと微笑み返してくる。
「七秒ハグって知っとる?」
「七秒ハグ?」
「そ。この前本で読んだんやけど、一日たった七秒ハグするだけで絆が深まったりリラックスできたりするんやって」
へえ、と私が相槌を打つ間も橋田の両腕は広げられたままだった。つまりというか、やはりというか、そういうことなのだろう。けれど話を聞いたからといってすぐ行動に移せるわけでもない。なかなかその場から動けずにいると、橋田はわざとらしくため息を吐いた。
「最近僕、なかなか疲れが取れんくて困っとるんよね。君にぎゅーってしてもらえたら一発で元気になると思うんやけどなあ」
なんて白々しい。しかし私はぐっと唇を噛みながらも、橋田のお願いを無下にできなかった。一応恋人だし、何より私は橋田のお願いにとても弱い。
警戒しつつおずおずと近づいて行くと、そんな気はしていたけれど、私が橋田に触れるより先に長い腕に絡め取られた。ひょいと持ち上げられて、彼の足の間にすっぽりと収められる。
「んふふ、捕まえた」
腕だけではなく足も使って引き寄せられて、身を捩る余裕もない。私はされるがまま橋田の身体に頭を預けた。
「七秒だっけ」
「そう、七秒」
「ちゃんと数えててよ」
そう言って、橋田の背中に腕を回して目を閉じる。「うんうん、任せといて」橋田の右手が子どもをあやすみたいに優しく私の頭を撫でた。とく、とく、と規則正しい心音が聞こえてくる。じわりと伝わってくる体温は橋田のものだろうか、それとも二人分の体温が溶け合っているのか。七秒間のハグ効果は本当かどうかわからないけれど、確かにこれは心地いい。
「……橋田」
「んー?」
「七秒経った?」
「どうやろ。もうちょっとやない?」
嘘つきめ。軽く一分は過ぎているだろうに。咎めるような視線を向けると、橋田は苦笑しながら私の眉間の皺を指で伸ばした。次いで親指の腹で私の目の下を撫でていく。
「七秒ハグ、すごいなあ。リラックスしすぎて僕、眠たなってきたわ。今日はもうこのままお昼寝しよか」
君も眠いやろ? と問われて私は静かに頷いた。それを見てクスリと笑みを零した彼は私を抱き上げてベッドへと寝転がった。ハグは今も継続中だ。聞こえてくる心臓の音と、あたたかな体温と。ぽんぽんと背中まで撫でられてしまっては、瞼も重くなってくる。
こうなるとわかりきっていたから、橋田の胸に飛び込むのは嫌だったんだ。
眠い目を擦ると指にうっすらとコンシーラーが付いた。頑張って隠したつもりだったのに意味がなかったなとぼんやりとした頭で思う。
このところ眠れない夜が続いていた。原因は学業だったり、人間関係だったり色々だ。そのひとつひとつは小さなストレスがタイミング悪く重なって、眠れなくなって。でもこれは私自身の問題だから、橋田には言わないつもりだった。優しい恋人に余計な心配をかけたくなかったし、彼といる時間は楽しく過ごしたかったから。まあ、橋田は私の隠し事なんて全部お見通しだったみたいだけども。
「……ありがと」
お礼は面と向かって言うべきだけれど、みっともない顔は見られたくなかったから橋田の胸に押し付けた。
「何言うてんの。お礼を言うんは僕のほうやで。僕の我儘に付き合うてくれてありがとうなあ」
橋田はあくまでも「自分のため」を通すつもりらしい。本当は全部私のため。弱音を吐けない、甘え下手な私を甘やかすためなのに。
これ以上迷惑も心配もかけたくないのに、閉じた目の奥がじわりと熱くなる。堪えるように橋田の服をきゅっと握ると、背中を撫でる手が一層優しくなった。
「ほらもう寝え。ちゃーんと起こしたるから、安心して寝てええよ」
橋田の柔らかな声が子守唄みたいに私の耳をくすぐる。穏やかな波の音にも似ていた。ぽん、ぽんと背中を撫でられるとその度にゆったりと睡魔が押し寄せてきて、眠れなかった日々が嘘のように、私はそのままあっさりと意識を手放したのだった。
「ん」
隣に腰を下ろして本を読んでいた橋田が、唐突にこちらに身体を向けて長い腕を左右に広げてきたのだ。
「え、何?」
思わずそう訊いてしまったけれど、橋田の行動の意図がわからなかったわけじゃない。ただ私に素直に飛び込む勇気がなかっただけだ。誤魔化すようにへらりと笑うと、橋田もにこりと微笑み返してくる。
「七秒ハグって知っとる?」
「七秒ハグ?」
「そ。この前本で読んだんやけど、一日たった七秒ハグするだけで絆が深まったりリラックスできたりするんやって」
へえ、と私が相槌を打つ間も橋田の両腕は広げられたままだった。つまりというか、やはりというか、そういうことなのだろう。けれど話を聞いたからといってすぐ行動に移せるわけでもない。なかなかその場から動けずにいると、橋田はわざとらしくため息を吐いた。
「最近僕、なかなか疲れが取れんくて困っとるんよね。君にぎゅーってしてもらえたら一発で元気になると思うんやけどなあ」
なんて白々しい。しかし私はぐっと唇を噛みながらも、橋田のお願いを無下にできなかった。一応恋人だし、何より私は橋田のお願いにとても弱い。
警戒しつつおずおずと近づいて行くと、そんな気はしていたけれど、私が橋田に触れるより先に長い腕に絡め取られた。ひょいと持ち上げられて、彼の足の間にすっぽりと収められる。
「んふふ、捕まえた」
腕だけではなく足も使って引き寄せられて、身を捩る余裕もない。私はされるがまま橋田の身体に頭を預けた。
「七秒だっけ」
「そう、七秒」
「ちゃんと数えててよ」
そう言って、橋田の背中に腕を回して目を閉じる。「うんうん、任せといて」橋田の右手が子どもをあやすみたいに優しく私の頭を撫でた。とく、とく、と規則正しい心音が聞こえてくる。じわりと伝わってくる体温は橋田のものだろうか、それとも二人分の体温が溶け合っているのか。七秒間のハグ効果は本当かどうかわからないけれど、確かにこれは心地いい。
「……橋田」
「んー?」
「七秒経った?」
「どうやろ。もうちょっとやない?」
嘘つきめ。軽く一分は過ぎているだろうに。咎めるような視線を向けると、橋田は苦笑しながら私の眉間の皺を指で伸ばした。次いで親指の腹で私の目の下を撫でていく。
「七秒ハグ、すごいなあ。リラックスしすぎて僕、眠たなってきたわ。今日はもうこのままお昼寝しよか」
君も眠いやろ? と問われて私は静かに頷いた。それを見てクスリと笑みを零した彼は私を抱き上げてベッドへと寝転がった。ハグは今も継続中だ。聞こえてくる心臓の音と、あたたかな体温と。ぽんぽんと背中まで撫でられてしまっては、瞼も重くなってくる。
こうなるとわかりきっていたから、橋田の胸に飛び込むのは嫌だったんだ。
眠い目を擦ると指にうっすらとコンシーラーが付いた。頑張って隠したつもりだったのに意味がなかったなとぼんやりとした頭で思う。
このところ眠れない夜が続いていた。原因は学業だったり、人間関係だったり色々だ。そのひとつひとつは小さなストレスがタイミング悪く重なって、眠れなくなって。でもこれは私自身の問題だから、橋田には言わないつもりだった。優しい恋人に余計な心配をかけたくなかったし、彼といる時間は楽しく過ごしたかったから。まあ、橋田は私の隠し事なんて全部お見通しだったみたいだけども。
「……ありがと」
お礼は面と向かって言うべきだけれど、みっともない顔は見られたくなかったから橋田の胸に押し付けた。
「何言うてんの。お礼を言うんは僕のほうやで。僕の我儘に付き合うてくれてありがとうなあ」
橋田はあくまでも「自分のため」を通すつもりらしい。本当は全部私のため。弱音を吐けない、甘え下手な私を甘やかすためなのに。
これ以上迷惑も心配もかけたくないのに、閉じた目の奥がじわりと熱くなる。堪えるように橋田の服をきゅっと握ると、背中を撫でる手が一層優しくなった。
「ほらもう寝え。ちゃーんと起こしたるから、安心して寝てええよ」
橋田の柔らかな声が子守唄みたいに私の耳をくすぐる。穏やかな波の音にも似ていた。ぽん、ぽんと背中を撫でられるとその度にゆったりと睡魔が押し寄せてきて、眠れなかった日々が嘘のように、私はそのままあっさりと意識を手放したのだった。