橋田悠
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「おじょーサン、おめかししてどこ行くん?」
ひょいと覗き込むようにしてすぐ傍までやって来た橋田と鏡越しに目が合った。
「昨日言ったじゃん、久々にアヤから飲みに行こうって連絡があったって。憶えてない? 高校の時私と同じ一般コースだった子」
「あー、あの子な。よう憶えとるよ」
何気なく言ったその声が少しだけ。ほんの少しだけ低くなったような気がして、私は化粧ポーチの中を探っていた手を止めた。
「どしたん?」
ちらりと視線を移すと、鏡の中の橋田が小首を傾げてにこやかにこちらを見つめている。うん、いつもの橋田だ。
「なんでもない」
言ってから密かに詰めていた息を吐き、何事もなかったかのように再びポーチの中を探り始める。心臓がいやにドキドキしているのは、少し前の出来事を思い出したからだろう。
あれは確か一か月くらい前、サークルの飲み会に参加して、終電を逃してしまった時のことだ。同じく終電に乗り遅れたサークル仲間とカラオケでオールするか、解散して漫喫で一晩明かすか迷っていたところでスマホが震え、画面に表示された恋人の名前に、私はほろよいの楽しい気分のまま電話に出た。「もしもし橋田ー?」きっと相手の第一声は、呆れを含みつつも私と同じ温度の声で「楽しかったみたいやなあ」だろう。
「なんや、えらい楽しかったみたいやなあ」
当たりだ。ただしその声だけは予想に反して低かった。
「あれまだ帰ってへんの? 遅くても終電で帰るって約束したやんか」
「あー、電車間に合わなくてさ。でもカラオケか漫喫で過ごすから大丈夫だよ。始発で帰るつもりだし、明日のデートには遅刻しないと思う」
「それは別にええんやけど。で、今どこおるん?」
「え?」
「え、やなくて。僕、君が今どこにおるか聞いてるんやけど」
深夜とはいえ季節はまだ夏。だというのに、感情のない橋田の声に、ぞくりと肌が粟立つのを感じた。いつもと同じ穏やかでゆったりとした口調なのに、その声は今まで聞いたことがないほど冷淡で。まるでひやりとした刃を喉元に突きつけられているような感覚に、生きている心地がしなかった。
「……駅近くのコンビニで……うん……はい……」
電話を切った私の顔を見た友人がぎょっとして「大丈夫⁈」と背中をさすってきた。どうやら随分と青い顔をしていたらしい。
「酔いが回ってきたんじゃない? 水買って来ようか」
「ありがと、大丈夫」
本当は頭の奥がガンガンしていた。この痛みが酔いからくるものだったらどれほどよかっただろう。しかしそんなものは橋田と電話しているうちにすっかり覚めてしまった。今ならどんなに強いお酒を飲んでも酔えない自信がある。
「電話、彼氏さん?」
「うん。迎えに来るって」
「えーっ優しい! ラブラブじゃん!」
いつもなら照れ笑いのひとつでも返せたかもしれない。でも今の私にそんな余裕はなかった。
電話の向こうで橋田は静かに怒っていた。いつも穏やかに笑うあの橋田が、だ。
どうしよう。どうしたら許してもらえるだろう。
素直に謝ったからと言って橋田の怒りがおさまるとは思えず、かと言って良い解決策も思い浮かばず。そうこうしているうちに「こんばんはあ」と聞き慣れた恋人の声が聞こえた。
さっと友人の後ろに隠れるも、私の姿を見つけた橋田がこちらに向かってひらひらと手を振ってくる。
「おったおった。迎え遅なってごめんなあ」
その声はさっきの電話とは打って変わって温度のあるもので、恐る恐る見上げた顔には人当たりの良さそうな笑みさえ浮かんでいた。
あれ、怒ってない? 電話の時に感じた背筋の凍るようなあれは私の気のせいだったのだろうか。
「あんま飲み過ぎたらあかんよ。ほな帰ろか」
差し出された手に自分のを重ねると優しく握り込まれた。やっぱり私の杞憂だったのかもしれない。
「橋田、約束破ってごめんね」
冷やかすサークル仲間たちと別れて、家に向かう途中。タイミングを逃して言えずにいた言葉を恋人に伝える。
「あと、迎えに来てくれてありがとう」
駅からだいぶ離れたからだろうか、都会だというのに辺りに人影はなく、しんと静まり返っていた。この静寂にどうにも電話の時の橋田を思い出してしまって、沈黙が息苦しい。
「橋田?」
「ほんまやで」
半歩前を歩いていた橋田がくるりと振り返る。おさげと一緒に揺れた瞳は色んな感情の混ざった色をしていた。笑っているのに、泣いているような。やっぱり怒っているのかもしれない。
「君、僕がどれだけ心配しとったか知らんやろ」
繋いだままの手が痛いほど握られる。橋田の手は私よりずっと冷たかった。
「何かあったらどうするつもりやったん。それに君の傍におった男、明らかに君狙いやったやろ」
「そんなこと……」
「ないって言い切れるん?」
「わかんないけど、私には橋田がいるじゃん」
「世の中にはそういうこと気にせん男もおる。大体君は無防備過ぎやねん」
「大丈夫だよ。何かあったら走って逃げるし。私、元陸上部だよ!」
自信満々に言ったら、はあ、と橋田が大きなため息を吐いた。それからすっと目を細め、感情のない笑みをその顔に貼り付ける。
「君がなぁんもわかってないことはようわかった。なら試してみよか。逃げられるかどうか」
電話の時を彷彿とさせる冷ややかな声だった。電話越しの彼も今と同じ表情をしていたに違いない。
しまったと思った時にはもう遅く、家に帰るまで淡々と説教され、帰ってからも私が「わかる」までお仕置きをされ。
翌日どころか翌々日まで自身が使いものにならなかったのは記憶に新しい。
今日は大丈夫、だよね? 女友達と飲みに行くだけだし。終わったらすぐ帰るし。
アイロンでふんわりと巻いた髪を簡単にまとめ上げて、全身を鏡でチェックする。
「よし!」
「終わったん?」
「うん。変なとこない?」
「かわええよ。外に出したないくらい」
その言葉に、ん? と疑問を持った時には橋田がすぐ目の前にいた。
「はし……⁈」
大きな身体を折るように身を屈めた橋田がぐっと顔を近づけてくる。咄嗟に身を引くも彼の手にがっしりと腰と頭を固定されてしまい、降ってくる口づけを受け入れることしかできなかった。
「っ、ん……や、はる、かぁ」
慣れないことを理由に夜しか呼べない彼の名前が口をつく。それに気を良くしたのか、啄むような口づけがより激しくなって、何度も何度も繰り返された。苦しいくらいに抱き寄せられて酸素を求めて口を開けば、それすら許さないとばかりにすぐに彼ので塞がれた。
どれくらい経ったのだろう。頭がボーッとして、何も考えられない。うっすらと目を開けると、滲んだ視界に映る橋田は微かに笑っていた。
「あーあ、そんな蕩けた顔してもうて」
一人で立てなくなった私を支えながら、橋田が楽しげに言う。その唇は私の口紅が移って、赤く色づいてしまっていた。
「飲み会、今からやと間に合わんなあ。せっかくおめかししたのに」
「誰のせいだと……」
化粧も髪型も、橋田のせいで全部全部ぐしゃぐしゃだ。今からやり直して途中参加できないこともないけれど、中途半端に燻った熱を抱えたまま友達に会う気には到底なれなかった。
アヤには断りの連絡を入れよう。スマホが鳴ったのはそう思った矢先のことだった。
「もしもし?」
「ちょ、橋田!」
私の手からスマホを取り上げて電話に出たのは橋田だ。取り返そうと必死に手を伸ばすも、今まで届いた試しがない。
「アヤちゃんやったっけ。そうそう、橋田やで。悪いんやけど彼女、熱っぽくてなあ。今日は行かせられんわ。あとこういうんはもう二度と誘わんといて。うん、わかってくれればええんよ」
低く言い切った橋田が、通話の切れたスマホを返してくる。聞こえたのは途切れ途切れで、二人が何を話したのかまではわからない。けれど橋田が私の意思も聞かずに「二度と誘うな」と言ったことがショックで頭に血が上るのを感じた。
「なんで勝手なことするの!」
「あれ、断るつもりやったんやないの? それとも行きたかったん、合コン」
「合、コン?」
身に覚えのない言葉にぽかんとする私に、気づいてなかったん? と橋田が信じられないとでも言いたげな顔を向けた。
「高校の時も何度かあったやんか。あの子に誘われて行ったカラオケや遊園地に毎回知らん男がおったって」
そういえば、そんなこともあったかもしれない。
「でも今日は……」
「今日、も。合コンやって言うてたで」
「そんなぁ」
ぺたりと力なく床に座り込む私の頭を橋田がよしよしと撫でる。久しぶりに友達に会えると思って嬉々としてお洒落したのに、まさか合コンだったなんて。
「可哀想になあ」
「本当だよ。というか、橋田もわかってたなら言ってよ。そしたら最初から行かなかったのに」
「んー、君のかわええ格好は見たかったしなあ」
「あっそ。私が合コンでもやり直して行くって言うとは思わなかったの?」
「その心配はしとらんかったけど、そん時は何度でも止めたるから大丈夫やで」
そう言って唇の乱れた赤色を舌で舐めながら笑う橋田はあまりにも目に毒で、もし「やり直して行く」という判断をしていたら一体どんな目に遭っていたのか。私はその判断をしなかった数分前の私に、心から感謝した。
ひょいと覗き込むようにしてすぐ傍までやって来た橋田と鏡越しに目が合った。
「昨日言ったじゃん、久々にアヤから飲みに行こうって連絡があったって。憶えてない? 高校の時私と同じ一般コースだった子」
「あー、あの子な。よう憶えとるよ」
何気なく言ったその声が少しだけ。ほんの少しだけ低くなったような気がして、私は化粧ポーチの中を探っていた手を止めた。
「どしたん?」
ちらりと視線を移すと、鏡の中の橋田が小首を傾げてにこやかにこちらを見つめている。うん、いつもの橋田だ。
「なんでもない」
言ってから密かに詰めていた息を吐き、何事もなかったかのように再びポーチの中を探り始める。心臓がいやにドキドキしているのは、少し前の出来事を思い出したからだろう。
あれは確か一か月くらい前、サークルの飲み会に参加して、終電を逃してしまった時のことだ。同じく終電に乗り遅れたサークル仲間とカラオケでオールするか、解散して漫喫で一晩明かすか迷っていたところでスマホが震え、画面に表示された恋人の名前に、私はほろよいの楽しい気分のまま電話に出た。「もしもし橋田ー?」きっと相手の第一声は、呆れを含みつつも私と同じ温度の声で「楽しかったみたいやなあ」だろう。
「なんや、えらい楽しかったみたいやなあ」
当たりだ。ただしその声だけは予想に反して低かった。
「あれまだ帰ってへんの? 遅くても終電で帰るって約束したやんか」
「あー、電車間に合わなくてさ。でもカラオケか漫喫で過ごすから大丈夫だよ。始発で帰るつもりだし、明日のデートには遅刻しないと思う」
「それは別にええんやけど。で、今どこおるん?」
「え?」
「え、やなくて。僕、君が今どこにおるか聞いてるんやけど」
深夜とはいえ季節はまだ夏。だというのに、感情のない橋田の声に、ぞくりと肌が粟立つのを感じた。いつもと同じ穏やかでゆったりとした口調なのに、その声は今まで聞いたことがないほど冷淡で。まるでひやりとした刃を喉元に突きつけられているような感覚に、生きている心地がしなかった。
「……駅近くのコンビニで……うん……はい……」
電話を切った私の顔を見た友人がぎょっとして「大丈夫⁈」と背中をさすってきた。どうやら随分と青い顔をしていたらしい。
「酔いが回ってきたんじゃない? 水買って来ようか」
「ありがと、大丈夫」
本当は頭の奥がガンガンしていた。この痛みが酔いからくるものだったらどれほどよかっただろう。しかしそんなものは橋田と電話しているうちにすっかり覚めてしまった。今ならどんなに強いお酒を飲んでも酔えない自信がある。
「電話、彼氏さん?」
「うん。迎えに来るって」
「えーっ優しい! ラブラブじゃん!」
いつもなら照れ笑いのひとつでも返せたかもしれない。でも今の私にそんな余裕はなかった。
電話の向こうで橋田は静かに怒っていた。いつも穏やかに笑うあの橋田が、だ。
どうしよう。どうしたら許してもらえるだろう。
素直に謝ったからと言って橋田の怒りがおさまるとは思えず、かと言って良い解決策も思い浮かばず。そうこうしているうちに「こんばんはあ」と聞き慣れた恋人の声が聞こえた。
さっと友人の後ろに隠れるも、私の姿を見つけた橋田がこちらに向かってひらひらと手を振ってくる。
「おったおった。迎え遅なってごめんなあ」
その声はさっきの電話とは打って変わって温度のあるもので、恐る恐る見上げた顔には人当たりの良さそうな笑みさえ浮かんでいた。
あれ、怒ってない? 電話の時に感じた背筋の凍るようなあれは私の気のせいだったのだろうか。
「あんま飲み過ぎたらあかんよ。ほな帰ろか」
差し出された手に自分のを重ねると優しく握り込まれた。やっぱり私の杞憂だったのかもしれない。
「橋田、約束破ってごめんね」
冷やかすサークル仲間たちと別れて、家に向かう途中。タイミングを逃して言えずにいた言葉を恋人に伝える。
「あと、迎えに来てくれてありがとう」
駅からだいぶ離れたからだろうか、都会だというのに辺りに人影はなく、しんと静まり返っていた。この静寂にどうにも電話の時の橋田を思い出してしまって、沈黙が息苦しい。
「橋田?」
「ほんまやで」
半歩前を歩いていた橋田がくるりと振り返る。おさげと一緒に揺れた瞳は色んな感情の混ざった色をしていた。笑っているのに、泣いているような。やっぱり怒っているのかもしれない。
「君、僕がどれだけ心配しとったか知らんやろ」
繋いだままの手が痛いほど握られる。橋田の手は私よりずっと冷たかった。
「何かあったらどうするつもりやったん。それに君の傍におった男、明らかに君狙いやったやろ」
「そんなこと……」
「ないって言い切れるん?」
「わかんないけど、私には橋田がいるじゃん」
「世の中にはそういうこと気にせん男もおる。大体君は無防備過ぎやねん」
「大丈夫だよ。何かあったら走って逃げるし。私、元陸上部だよ!」
自信満々に言ったら、はあ、と橋田が大きなため息を吐いた。それからすっと目を細め、感情のない笑みをその顔に貼り付ける。
「君がなぁんもわかってないことはようわかった。なら試してみよか。逃げられるかどうか」
電話の時を彷彿とさせる冷ややかな声だった。電話越しの彼も今と同じ表情をしていたに違いない。
しまったと思った時にはもう遅く、家に帰るまで淡々と説教され、帰ってからも私が「わかる」までお仕置きをされ。
翌日どころか翌々日まで自身が使いものにならなかったのは記憶に新しい。
今日は大丈夫、だよね? 女友達と飲みに行くだけだし。終わったらすぐ帰るし。
アイロンでふんわりと巻いた髪を簡単にまとめ上げて、全身を鏡でチェックする。
「よし!」
「終わったん?」
「うん。変なとこない?」
「かわええよ。外に出したないくらい」
その言葉に、ん? と疑問を持った時には橋田がすぐ目の前にいた。
「はし……⁈」
大きな身体を折るように身を屈めた橋田がぐっと顔を近づけてくる。咄嗟に身を引くも彼の手にがっしりと腰と頭を固定されてしまい、降ってくる口づけを受け入れることしかできなかった。
「っ、ん……や、はる、かぁ」
慣れないことを理由に夜しか呼べない彼の名前が口をつく。それに気を良くしたのか、啄むような口づけがより激しくなって、何度も何度も繰り返された。苦しいくらいに抱き寄せられて酸素を求めて口を開けば、それすら許さないとばかりにすぐに彼ので塞がれた。
どれくらい経ったのだろう。頭がボーッとして、何も考えられない。うっすらと目を開けると、滲んだ視界に映る橋田は微かに笑っていた。
「あーあ、そんな蕩けた顔してもうて」
一人で立てなくなった私を支えながら、橋田が楽しげに言う。その唇は私の口紅が移って、赤く色づいてしまっていた。
「飲み会、今からやと間に合わんなあ。せっかくおめかししたのに」
「誰のせいだと……」
化粧も髪型も、橋田のせいで全部全部ぐしゃぐしゃだ。今からやり直して途中参加できないこともないけれど、中途半端に燻った熱を抱えたまま友達に会う気には到底なれなかった。
アヤには断りの連絡を入れよう。スマホが鳴ったのはそう思った矢先のことだった。
「もしもし?」
「ちょ、橋田!」
私の手からスマホを取り上げて電話に出たのは橋田だ。取り返そうと必死に手を伸ばすも、今まで届いた試しがない。
「アヤちゃんやったっけ。そうそう、橋田やで。悪いんやけど彼女、熱っぽくてなあ。今日は行かせられんわ。あとこういうんはもう二度と誘わんといて。うん、わかってくれればええんよ」
低く言い切った橋田が、通話の切れたスマホを返してくる。聞こえたのは途切れ途切れで、二人が何を話したのかまではわからない。けれど橋田が私の意思も聞かずに「二度と誘うな」と言ったことがショックで頭に血が上るのを感じた。
「なんで勝手なことするの!」
「あれ、断るつもりやったんやないの? それとも行きたかったん、合コン」
「合、コン?」
身に覚えのない言葉にぽかんとする私に、気づいてなかったん? と橋田が信じられないとでも言いたげな顔を向けた。
「高校の時も何度かあったやんか。あの子に誘われて行ったカラオケや遊園地に毎回知らん男がおったって」
そういえば、そんなこともあったかもしれない。
「でも今日は……」
「今日、も。合コンやって言うてたで」
「そんなぁ」
ぺたりと力なく床に座り込む私の頭を橋田がよしよしと撫でる。久しぶりに友達に会えると思って嬉々としてお洒落したのに、まさか合コンだったなんて。
「可哀想になあ」
「本当だよ。というか、橋田もわかってたなら言ってよ。そしたら最初から行かなかったのに」
「んー、君のかわええ格好は見たかったしなあ」
「あっそ。私が合コンでもやり直して行くって言うとは思わなかったの?」
「その心配はしとらんかったけど、そん時は何度でも止めたるから大丈夫やで」
そう言って唇の乱れた赤色を舌で舐めながら笑う橋田はあまりにも目に毒で、もし「やり直して行く」という判断をしていたら一体どんな目に遭っていたのか。私はその判断をしなかった数分前の私に、心から感謝した。