橋田悠
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一番上の姉曰く、
「やっぱり大事なのは顔よぉ。ちょっとくらい問題があっても顔が良ければぜーんぶ許せちゃう。それに顔が良い人なら見るたびに恋できるでしょ?」
二番目の姉曰く、
「くそルッキストめ! 見た目より中身のが大事に決まってんじゃん。大体歳とったらイケメンも何もないだろ。恋人にするなら断然性格の良いやつ!」
一番下の妹曰く、
「かわいこちゃん。かわいこちゃんは正義」
まさに三者三様とはこのことや。
僕は「せやねえ」と相槌を打ちながら、ある画家の生涯について書かれた本をめくった。内容は姉妹たちの会話にかき消されてなかなか頭に入ってこない。僕は読んでたページに栞を挟んで本を閉じた。
「聞いてるーはるちゃん?」
「ちゃあんと聞いとるよ」
こんな風に賑やかなんはいつものことや。なんてことない橋田家の日常風景。そしてこの会話ももう少ししたら終わる。三人が気の済むまで話して、飽きて、それでおしまい。
けど今日は思わぬ方向に話が進んだ。
「で、どうなの?」
「どうって、何のこと?」
「だからぁ、はるちゃんはどういうタイプが好きなのって」
あー、そう来たか。
「僕のタイプなんか聞いたっておもろないやろ」
「えー、そんなことないよー。気になるわよねえ」
「言いたくなかったらいいけど、まあ姉としてははるちゃんがどんな子を好きか気になるかな」
「うん、ぼくも気になる。はるちゃんの好きなタイプ」
さっきまで熱い舌戦を繰り広げていた三人が期待に胸を膨らませて僕を見る。
こうも一致団結されるとは。うーん、キラッキラした視線が痛いなあ。
上手いこと言って逃げ出そうにもソファに座る僕の左右には二人の姉、足元には妹と、完全に包囲されている。これは多分、言うまで解放してくれんやつやろな。
「……好みは人それぞれやけど、べっぴんさんは目で追ってしまうなあ。ずっと見てたくなるし、目の保養は必要や」
「そうよねぇ」
「性格も大事やね。話してええ子やともっと話したなる。あと性格が合わんと長く続かんと思うし」
「だよな!」
小さな手がきゅっと僕のズボンの裾を引っ張った。
「はるちゃん、かわいこちゃんは嫌い?」
「まさか。もちろん大好きやで、かわええ子も」
「ならよかった」
嘘は言うてへんけど、我ながら曖昧な答えやなと思う。結局のところ僕は三人の好きなタイプ、どれもわかるし好きやから、こうとしか答えられん。「またはぐらかして」とか言われるやろか。けど予想に反して三人は納得してくれたようやった。お互いに顔を見合わせて、うんうん頷いとる。
「へぇ、はるちゃんそういう子が好きなのね」
「そうなるかなあ」
「じゃあ今連絡取ってる子、そういう子なんだ」
ぴしり、と空気が固まる音がした。いや、固まったんは僕だけや。三人の視線は変わらずこちらに注がれていて、僕の反応に確信を得たのか
「キャー‼︎」と黄色い悲鳴が上がった。
「やっぱりそうなんだー!」
「水臭いじゃん。言ってくれればいいのに」
「はるちゃん、その子かわいい?」
三人は興奮気味に僕との距離をさらに詰めてくる。
「ちょ、ちょお待って。僕、何のことかさっぱり……」
「もう、隠したって無駄よー。女の勘はよく当たるんだから! はるちゃんさっきからスマホ見るたびににこにこしてるの、気づいてた?」
「そんなん僕はいつでも笑顔やろ」
「いつもと全然違うからバレバレなんじゃん? あとにこにこっていうより、にやにやしてる」
「……嘘ぉ」
「はるちゃん、かーわい」
僕、そんなわかりやすい顔しとった? 今までだって誰にもバレたことなかったのに。
「みんなの気のせいやない? 僕大体いつもこんな感じ……!」
姉妹たちの追及から逃れるようにそう言いかけたところで、タイミング悪く本の上に置いていたスマホの画面が光った。そこに表示されたんは明らかに女の子の名前。咄嗟に手で隠したけど、思えばそれが逆にあかんかった。女の子の友達はいっぱいおるのに、隠したら今までのを全部肯定しとるようなもんやん。
案の定三人は微笑ましい表情で僕を見て、
「はるちゃん、よっぽどその子のこと好きなのねぇ。あたしちょっと妬けちゃうかも」
「あ! まーたその顔。やっぱりにやにやしてる」
「ぼく、そういうはるちゃんもかわいくていいと思う」
これはもう隠す意味ないな。誤魔化されてもくれんやろ。それならそれでしゃーない。僕は降参とばかりに手を上げた。
「今はまだ、ただの友達やから。そっとしといてくれると嬉しいなあ」
そう言って本とスマホを持って、姉妹たちの包囲網から立ち上がる。
「へぇ。今は、なんだ」
「うん。今は、やね」
パタンと閉じた扉の向こうで、再び黄色い悲鳴が上がるのが聞こえた。
まさか家族にバレるとはなあ。女の勘というものは確かによく当たるらしい。その勘をちょっとでもあの子に分けたったら、僕も楽なんやけど。
スマホ画面をタップすると、『待ち合わせ何時にする?』という短いメッセージと、猫のような犬のような生き物の可愛らしいスタンプが表示された。僕が頼んで作ってもらった、あの子の落書きから生まれたオリジナルのスタンプや。使うとるのはあの子と僕だけやと思いたい。
『週末どっか行かへん?』という僕のデートのお誘いに、鈍いあの子はそうと気づかず、こうも簡単に乗ってくる。一緒に出かけられんのは嬉しいけど、あの子の中で僕はまだ、仲良い友達の一人なんやろう。
ーー手強いなあ。僕から誘う女の子は君だけやのに。
手早く時間と、おめかしして来てな、とメッセージを返す。本当は他の相手にはあまり使わへんのやけど、スタンプを添えることも忘れない。
その時ふと、二番目の姉、萌ちゃんの言ってたことが頭をよぎった。確かめるようにそっと自分の顔に手を伸ばし、
ーーああ、これは確かにバレるなあ。
自分でも驚くほど顔が緩んどって苦笑する。正直、家族以外にバレとらんのが不思議なくらいや。
できればこれ以上誰にもバレたくないんやけど、どうしたもんかねえ。完全に緩み切った口元を手で覆いながら、僕は新たに生まれた問題に対処するのに珍しく必死やった。
「やっぱり大事なのは顔よぉ。ちょっとくらい問題があっても顔が良ければぜーんぶ許せちゃう。それに顔が良い人なら見るたびに恋できるでしょ?」
二番目の姉曰く、
「くそルッキストめ! 見た目より中身のが大事に決まってんじゃん。大体歳とったらイケメンも何もないだろ。恋人にするなら断然性格の良いやつ!」
一番下の妹曰く、
「かわいこちゃん。かわいこちゃんは正義」
まさに三者三様とはこのことや。
僕は「せやねえ」と相槌を打ちながら、ある画家の生涯について書かれた本をめくった。内容は姉妹たちの会話にかき消されてなかなか頭に入ってこない。僕は読んでたページに栞を挟んで本を閉じた。
「聞いてるーはるちゃん?」
「ちゃあんと聞いとるよ」
こんな風に賑やかなんはいつものことや。なんてことない橋田家の日常風景。そしてこの会話ももう少ししたら終わる。三人が気の済むまで話して、飽きて、それでおしまい。
けど今日は思わぬ方向に話が進んだ。
「で、どうなの?」
「どうって、何のこと?」
「だからぁ、はるちゃんはどういうタイプが好きなのって」
あー、そう来たか。
「僕のタイプなんか聞いたっておもろないやろ」
「えー、そんなことないよー。気になるわよねえ」
「言いたくなかったらいいけど、まあ姉としてははるちゃんがどんな子を好きか気になるかな」
「うん、ぼくも気になる。はるちゃんの好きなタイプ」
さっきまで熱い舌戦を繰り広げていた三人が期待に胸を膨らませて僕を見る。
こうも一致団結されるとは。うーん、キラッキラした視線が痛いなあ。
上手いこと言って逃げ出そうにもソファに座る僕の左右には二人の姉、足元には妹と、完全に包囲されている。これは多分、言うまで解放してくれんやつやろな。
「……好みは人それぞれやけど、べっぴんさんは目で追ってしまうなあ。ずっと見てたくなるし、目の保養は必要や」
「そうよねぇ」
「性格も大事やね。話してええ子やともっと話したなる。あと性格が合わんと長く続かんと思うし」
「だよな!」
小さな手がきゅっと僕のズボンの裾を引っ張った。
「はるちゃん、かわいこちゃんは嫌い?」
「まさか。もちろん大好きやで、かわええ子も」
「ならよかった」
嘘は言うてへんけど、我ながら曖昧な答えやなと思う。結局のところ僕は三人の好きなタイプ、どれもわかるし好きやから、こうとしか答えられん。「またはぐらかして」とか言われるやろか。けど予想に反して三人は納得してくれたようやった。お互いに顔を見合わせて、うんうん頷いとる。
「へぇ、はるちゃんそういう子が好きなのね」
「そうなるかなあ」
「じゃあ今連絡取ってる子、そういう子なんだ」
ぴしり、と空気が固まる音がした。いや、固まったんは僕だけや。三人の視線は変わらずこちらに注がれていて、僕の反応に確信を得たのか
「キャー‼︎」と黄色い悲鳴が上がった。
「やっぱりそうなんだー!」
「水臭いじゃん。言ってくれればいいのに」
「はるちゃん、その子かわいい?」
三人は興奮気味に僕との距離をさらに詰めてくる。
「ちょ、ちょお待って。僕、何のことかさっぱり……」
「もう、隠したって無駄よー。女の勘はよく当たるんだから! はるちゃんさっきからスマホ見るたびににこにこしてるの、気づいてた?」
「そんなん僕はいつでも笑顔やろ」
「いつもと全然違うからバレバレなんじゃん? あとにこにこっていうより、にやにやしてる」
「……嘘ぉ」
「はるちゃん、かーわい」
僕、そんなわかりやすい顔しとった? 今までだって誰にもバレたことなかったのに。
「みんなの気のせいやない? 僕大体いつもこんな感じ……!」
姉妹たちの追及から逃れるようにそう言いかけたところで、タイミング悪く本の上に置いていたスマホの画面が光った。そこに表示されたんは明らかに女の子の名前。咄嗟に手で隠したけど、思えばそれが逆にあかんかった。女の子の友達はいっぱいおるのに、隠したら今までのを全部肯定しとるようなもんやん。
案の定三人は微笑ましい表情で僕を見て、
「はるちゃん、よっぽどその子のこと好きなのねぇ。あたしちょっと妬けちゃうかも」
「あ! まーたその顔。やっぱりにやにやしてる」
「ぼく、そういうはるちゃんもかわいくていいと思う」
これはもう隠す意味ないな。誤魔化されてもくれんやろ。それならそれでしゃーない。僕は降参とばかりに手を上げた。
「今はまだ、ただの友達やから。そっとしといてくれると嬉しいなあ」
そう言って本とスマホを持って、姉妹たちの包囲網から立ち上がる。
「へぇ。今は、なんだ」
「うん。今は、やね」
パタンと閉じた扉の向こうで、再び黄色い悲鳴が上がるのが聞こえた。
まさか家族にバレるとはなあ。女の勘というものは確かによく当たるらしい。その勘をちょっとでもあの子に分けたったら、僕も楽なんやけど。
スマホ画面をタップすると、『待ち合わせ何時にする?』という短いメッセージと、猫のような犬のような生き物の可愛らしいスタンプが表示された。僕が頼んで作ってもらった、あの子の落書きから生まれたオリジナルのスタンプや。使うとるのはあの子と僕だけやと思いたい。
『週末どっか行かへん?』という僕のデートのお誘いに、鈍いあの子はそうと気づかず、こうも簡単に乗ってくる。一緒に出かけられんのは嬉しいけど、あの子の中で僕はまだ、仲良い友達の一人なんやろう。
ーー手強いなあ。僕から誘う女の子は君だけやのに。
手早く時間と、おめかしして来てな、とメッセージを返す。本当は他の相手にはあまり使わへんのやけど、スタンプを添えることも忘れない。
その時ふと、二番目の姉、萌ちゃんの言ってたことが頭をよぎった。確かめるようにそっと自分の顔に手を伸ばし、
ーーああ、これは確かにバレるなあ。
自分でも驚くほど顔が緩んどって苦笑する。正直、家族以外にバレとらんのが不思議なくらいや。
できればこれ以上誰にもバレたくないんやけど、どうしたもんかねえ。完全に緩み切った口元を手で覆いながら、僕は新たに生まれた問題に対処するのに珍しく必死やった。