鳴海弦
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「ボクが何を言いたいか、わかるか?」
朝礼が終わるや否や汚部屋、もとい隊長室に呼び出され私は首を傾げた。正直、心当たりはない。
でも朝礼に一度も参加したことのない鳴海隊長がこんな朝早くに起床し、始終不機嫌そうな顔をしながらもわざわざ朝礼に参加して、終わると同時に私を呼びつけたのだからよっぽどのことだろう。いつもだったらまだ夢の中か、下手したら今から眠りにつこうという時間だ。こんな時間に鳴海隊長が活動しているのは、本当に珍しい。それこそ、雪でも降るんじゃないかと思うくらいには。
全く思いつかない心当たりを探すのに疲れてふと視線を遠くにやると、これまた珍しくいつも締め切られているカーテンが開いていた。大きな窓の向こうに、はらはらと白い雪が舞っているのが見える。一瞬、鳴海隊長のせいで本当に雪が?! と目を見張ったけれど、すぐに今朝天気予報でホワイトクリスマスになるかもしれないと言っていたのを思い出した。
ホワイトクリスマス、か。子どもの頃は雪というだけで無邪気にはしゃいだものだけど、大人になるにつれて寒いだとか、電車が動かないだとか、色々な事情で素直に喜べなくなった。社会人になってからは尚のこと。でもだからと言ってどうなるものでもない。今日の外での長時間訓練もあるし、しっかり防寒対策をしないと。
「おい、聞いてるのか?」
「すみません、さっぱりわかりません」
ボーッとしすぎたみたいだ。正直に答えると、鳴海隊長が「はぁ?!」とキレ気味に食いついてくる。
「キミは今日が何の日か知らんのか?!」
「何の日って、え……クリスマス?」
「そう、クリスマスだ! なのに見ろ。枕元にプレゼントが一つもない!」
一大事だとギャンギャン喚く鳴海隊長が小学生の子どもに見えてきて私は思わず目を擦った。もしかして私、これだけのために呼ばれたの? いや、まさか。きっと冗談だ。そう思いながら半笑いで訊き返す。
「……え?」
「だーかーらー、クリスマスなのにプレゼントがないのはおかしいだろ! 今年はちゃんと靴下まで用意したんだぞ」
彼の指差した方向に用意した靴下とやらは見当たらない。あるのはジュース缶やスナック菓子のゴミで、鳴海隊長は慌てた様子でそのゴミの散らばる床をかき分けた。
「ほら!」
ドヤ顔で彼が発掘したのはくたびれた様子のくるぶしソックス。せめてクリスマスっぽいものを用意して言ってほしかった。その小ささではサンタさんもプレゼントを入れられないし、そもそも片方失くしたのかなくらいにしか思わない。
「……そんなにプレゼントが欲しかったんですか?」
「当たり前だ!」
もうサンタを信じる歳でもないだろうに。それに去年のクリスマスはゲームをしながら「リア充爆発しろ」と一日中呪詛を吐いていた癖に、今年になって急に手のひら返しがすごい。理由は……一つだけ思い当たらないこともないけれど。
私ははぁと溜息をついて、鳴海隊長に向き直った。
「知ってますか、鳴海隊長。サンタさんはいい子のところにしか来ないんです」
「なら尚更ボクのところにプレゼントがないのはおかしいだろ!」
「会議そっちのけでゲームしたり、夜更かしして朝起きられなかったり、後輩にお金借りようとしたりする人はいい子じゃありません! この前またキコルちゃんにお金借りようとしてたでしょ」
「ぐっ、何で知って……」
「というわけで、鳴海隊長のところにサンタさんは来ません」
ずばり言い切ると、鳴海隊長の姿勢の悪い背中がひと回り小さくなったような気がした。あきらかにショックを受けている。でも事実だから仕方がない。
「残念ながらサンタさんからのプレゼントはありません。が、私からのプレゼントならあります」
そのひとことに、うなだれていた鳴海隊長の表情がパァッと明るくなる。
「ほ、本当か?!」
「まあ一応、その……こっ、恋人ですので」
「はは、そうか。あるのか。あるならいいんだ、あるなら。ボクはてっきりキミに忘れられてるのかと」
「忘れるわけないじゃないですか。プレゼント交換しようって約束したのに」
付き合って初めて迎えるクリスマス。せっかくだからそれっぽいことをしようと提案したのは先月のことだ。去年散々呪詛を撒き散らしていた鳴海隊長のことだから嫌がるかと思っていたのだけど、彼は思いのほかすんなり了承してくれた。
でも鳴海隊長は万年金欠。クリスマスシーズンともなれば子どもたちへのプレゼントに選ばれるのを狙って新作ゲームもたくさん発売され、ゲーム好きの鳴海隊長も迷わず購入することだろう。だから、ささやかでいいから二人でケーキを食べて、プレゼント交換をしようと、そう約束したのだ。
「だが、朝起きても枕元にプレゼントはなかったぞ! どこを探してもそれらしきものは見当たらなかった」
「それはそうですよ! 勤務時間が終わってから渡そうと思ってましたし」
「そう、なのか? ボクはてっきりサンタみたいに置いてくれるものだと」
鳴海隊長の考える恋人同士のプレゼント交換って、そういう感じだったのか。さすがにそこまでのサプライズは考えてなかった。
「でもそれを言ったら、鳴海隊長も私の枕元にプレゼントを置いてなかったですよね?」
今朝起きた時にそれらしきものはなかったと思う。もちろん、見落としている可能性もあるけれど。
「当然だ。そもそもボクはキミの家を知らんからな」
「知ってても勝手に置いていくのはやめてくださいね。びっくりするので」
「なっ、恋人にはサプライズするものじゃないか?! ネットにはそのほうが喜ぶって書いてあったが……」
サプライズを嬉しく思うかどうかは多分、人に寄ると思う。私は程度にも寄るけれど、サプライズ自体はどちらかと言えば嬉しい派。でも今、何よりも嬉しいのはーー。
「調べて、くれたんですね」
どうしたら私が喜ぶか、それを彼なりに調べて考えてくれたことが、何よりも嬉しい。鳴海隊長のことだから、他にも色々とネット検索してくれてそうだ。
ありがとうございますとお礼を言えば、「別にたまたま目に入っただけだ!」とそっぽを向かれてしまった。照れているのかその耳は微かに赤い。全く、素直じゃないなあ。でもそういうところすらかわいいと思えてしまうから、私もそれなりに重症なのだと思う。
「はっ、結局プレゼントは貰えないってことか!」
「だから勤務が終わってからって……」
「嫌だ! 今がいい!」
「だめですって!」
宥めても宥めても駄々をこねる恋人。そんなところすらもかわいい……とはさすがに言い切れず、私は長谷川副隊長に通信を繋いだ。「裏切り者ー!!」ひょいと長谷川副隊長に首根っこを掴まれて連れていかれる鳴海隊長を見送る。これから昼過ぎまで会議があるらしい。一方私は外で狙撃訓練だ。でもその前に。
自身のロッカールームに向かい、ダッシュで隊長室に戻ってくる。床に散らばったゴミを避けながら、辿り着いた先は鳴海隊長が寝起きする布団の上。へたった枕の隣には彼が用意したというくるぶしソックスが雑に置かれていた。
ーー隊長には、後でって言ったけど。
くるぶしソックスを避けて、そっと用意していたプレゼントを置く。ケーキを食べた後にでも交換できればなんて考えていたけれど、あんな話を聞いたら気が変わってしまった。
きっと会議を終えた鳴海隊長は不機嫌さMAXでこの部屋に帰ってくる。そんな彼が枕元のプレゼントを見つけたら、一体どんな顔をするだろう。想像しただけでワクワクする。
「メリークリスマス」
私はまだ見ぬ恋人の反応に胸を踊らせながら、主のいない隊長室を後にした。
朝礼が終わるや否や汚部屋、もとい隊長室に呼び出され私は首を傾げた。正直、心当たりはない。
でも朝礼に一度も参加したことのない鳴海隊長がこんな朝早くに起床し、始終不機嫌そうな顔をしながらもわざわざ朝礼に参加して、終わると同時に私を呼びつけたのだからよっぽどのことだろう。いつもだったらまだ夢の中か、下手したら今から眠りにつこうという時間だ。こんな時間に鳴海隊長が活動しているのは、本当に珍しい。それこそ、雪でも降るんじゃないかと思うくらいには。
全く思いつかない心当たりを探すのに疲れてふと視線を遠くにやると、これまた珍しくいつも締め切られているカーテンが開いていた。大きな窓の向こうに、はらはらと白い雪が舞っているのが見える。一瞬、鳴海隊長のせいで本当に雪が?! と目を見張ったけれど、すぐに今朝天気予報でホワイトクリスマスになるかもしれないと言っていたのを思い出した。
ホワイトクリスマス、か。子どもの頃は雪というだけで無邪気にはしゃいだものだけど、大人になるにつれて寒いだとか、電車が動かないだとか、色々な事情で素直に喜べなくなった。社会人になってからは尚のこと。でもだからと言ってどうなるものでもない。今日の外での長時間訓練もあるし、しっかり防寒対策をしないと。
「おい、聞いてるのか?」
「すみません、さっぱりわかりません」
ボーッとしすぎたみたいだ。正直に答えると、鳴海隊長が「はぁ?!」とキレ気味に食いついてくる。
「キミは今日が何の日か知らんのか?!」
「何の日って、え……クリスマス?」
「そう、クリスマスだ! なのに見ろ。枕元にプレゼントが一つもない!」
一大事だとギャンギャン喚く鳴海隊長が小学生の子どもに見えてきて私は思わず目を擦った。もしかして私、これだけのために呼ばれたの? いや、まさか。きっと冗談だ。そう思いながら半笑いで訊き返す。
「……え?」
「だーかーらー、クリスマスなのにプレゼントがないのはおかしいだろ! 今年はちゃんと靴下まで用意したんだぞ」
彼の指差した方向に用意した靴下とやらは見当たらない。あるのはジュース缶やスナック菓子のゴミで、鳴海隊長は慌てた様子でそのゴミの散らばる床をかき分けた。
「ほら!」
ドヤ顔で彼が発掘したのはくたびれた様子のくるぶしソックス。せめてクリスマスっぽいものを用意して言ってほしかった。その小ささではサンタさんもプレゼントを入れられないし、そもそも片方失くしたのかなくらいにしか思わない。
「……そんなにプレゼントが欲しかったんですか?」
「当たり前だ!」
もうサンタを信じる歳でもないだろうに。それに去年のクリスマスはゲームをしながら「リア充爆発しろ」と一日中呪詛を吐いていた癖に、今年になって急に手のひら返しがすごい。理由は……一つだけ思い当たらないこともないけれど。
私ははぁと溜息をついて、鳴海隊長に向き直った。
「知ってますか、鳴海隊長。サンタさんはいい子のところにしか来ないんです」
「なら尚更ボクのところにプレゼントがないのはおかしいだろ!」
「会議そっちのけでゲームしたり、夜更かしして朝起きられなかったり、後輩にお金借りようとしたりする人はいい子じゃありません! この前またキコルちゃんにお金借りようとしてたでしょ」
「ぐっ、何で知って……」
「というわけで、鳴海隊長のところにサンタさんは来ません」
ずばり言い切ると、鳴海隊長の姿勢の悪い背中がひと回り小さくなったような気がした。あきらかにショックを受けている。でも事実だから仕方がない。
「残念ながらサンタさんからのプレゼントはありません。が、私からのプレゼントならあります」
そのひとことに、うなだれていた鳴海隊長の表情がパァッと明るくなる。
「ほ、本当か?!」
「まあ一応、その……こっ、恋人ですので」
「はは、そうか。あるのか。あるならいいんだ、あるなら。ボクはてっきりキミに忘れられてるのかと」
「忘れるわけないじゃないですか。プレゼント交換しようって約束したのに」
付き合って初めて迎えるクリスマス。せっかくだからそれっぽいことをしようと提案したのは先月のことだ。去年散々呪詛を撒き散らしていた鳴海隊長のことだから嫌がるかと思っていたのだけど、彼は思いのほかすんなり了承してくれた。
でも鳴海隊長は万年金欠。クリスマスシーズンともなれば子どもたちへのプレゼントに選ばれるのを狙って新作ゲームもたくさん発売され、ゲーム好きの鳴海隊長も迷わず購入することだろう。だから、ささやかでいいから二人でケーキを食べて、プレゼント交換をしようと、そう約束したのだ。
「だが、朝起きても枕元にプレゼントはなかったぞ! どこを探してもそれらしきものは見当たらなかった」
「それはそうですよ! 勤務時間が終わってから渡そうと思ってましたし」
「そう、なのか? ボクはてっきりサンタみたいに置いてくれるものだと」
鳴海隊長の考える恋人同士のプレゼント交換って、そういう感じだったのか。さすがにそこまでのサプライズは考えてなかった。
「でもそれを言ったら、鳴海隊長も私の枕元にプレゼントを置いてなかったですよね?」
今朝起きた時にそれらしきものはなかったと思う。もちろん、見落としている可能性もあるけれど。
「当然だ。そもそもボクはキミの家を知らんからな」
「知ってても勝手に置いていくのはやめてくださいね。びっくりするので」
「なっ、恋人にはサプライズするものじゃないか?! ネットにはそのほうが喜ぶって書いてあったが……」
サプライズを嬉しく思うかどうかは多分、人に寄ると思う。私は程度にも寄るけれど、サプライズ自体はどちらかと言えば嬉しい派。でも今、何よりも嬉しいのはーー。
「調べて、くれたんですね」
どうしたら私が喜ぶか、それを彼なりに調べて考えてくれたことが、何よりも嬉しい。鳴海隊長のことだから、他にも色々とネット検索してくれてそうだ。
ありがとうございますとお礼を言えば、「別にたまたま目に入っただけだ!」とそっぽを向かれてしまった。照れているのかその耳は微かに赤い。全く、素直じゃないなあ。でもそういうところすらかわいいと思えてしまうから、私もそれなりに重症なのだと思う。
「はっ、結局プレゼントは貰えないってことか!」
「だから勤務が終わってからって……」
「嫌だ! 今がいい!」
「だめですって!」
宥めても宥めても駄々をこねる恋人。そんなところすらもかわいい……とはさすがに言い切れず、私は長谷川副隊長に通信を繋いだ。「裏切り者ー!!」ひょいと長谷川副隊長に首根っこを掴まれて連れていかれる鳴海隊長を見送る。これから昼過ぎまで会議があるらしい。一方私は外で狙撃訓練だ。でもその前に。
自身のロッカールームに向かい、ダッシュで隊長室に戻ってくる。床に散らばったゴミを避けながら、辿り着いた先は鳴海隊長が寝起きする布団の上。へたった枕の隣には彼が用意したというくるぶしソックスが雑に置かれていた。
ーー隊長には、後でって言ったけど。
くるぶしソックスを避けて、そっと用意していたプレゼントを置く。ケーキを食べた後にでも交換できればなんて考えていたけれど、あんな話を聞いたら気が変わってしまった。
きっと会議を終えた鳴海隊長は不機嫌さMAXでこの部屋に帰ってくる。そんな彼が枕元のプレゼントを見つけたら、一体どんな顔をするだろう。想像しただけでワクワクする。
「メリークリスマス」
私はまだ見ぬ恋人の反応に胸を踊らせながら、主のいない隊長室を後にした。