鳴海弦
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鳴海弦という男は、根っからの負けず嫌いだ。
特にゲームに関してはやり込んでいる分こだわりが強く、プライドも高い。詳しくは知らないが、プレイヤーとしてそれなりに上手く、強い部類に入るのだろう。だがその反面、対人ゲームなんかで負けた日には本気で悔しがり、子どもみたいに拗ねるものだから、彼の機嫌を取らざるを得ない部下は毎回大変な思いをしている。この前第3の保科副隊長が鳴海隊長に誘われるままゲームをし、勝ってしまった時は特に大変だった。勝てると思って仕掛けた勝負で逆にコテンパンにされたのもあって、私が騒ぎを聞いて駆けつけた時にはすでに鳴海隊長は真っ白に燃え尽きていたのだ。もちろん、自業自得である。しかし隊長がそんな状態では、我々第1部隊は困ってしまう。何とかしなければ。そう思った私や他の部下たちは、手を替え品を替えおよそ一週間、全てにおいてやる気と自信を失ってしまった鳴海隊長を励まし続けた。時にとことん甘やかし、時に神様仏様鳴海様と褒め称え……当時を思い出すとドッと疲れるが、頑張った甲斐あって今はすっかりいつもの鳴海隊長だ。
今日も流行りの陣地取りゲームで連勝したようで、機嫌がいい。
「ハハッ、見たかボクの頭脳プレイ!」
「はいはい、見てた見てた」
「もっとちゃんと褒めろよ。いいか、今のはボクが新しいブキの性能を最大限に活かして……」
「わかったわかった。ね、それよりそろそろ糖分補給しない?」
私の提案に、前髪に隠れた目がきょとっと動く。
「糖分補給? ブドウ糖なら間に合っている」
「ブドウ糖って……。違う違う。今日も遅くまでやるだろうなと思って、ここに来る前にコンビニ寄って色々お菓子買ってきたの」
そう言ってかさりとビニール袋から取り出したのは、赤い箱。食べるとパキッとチョコレートでコーティングされた細長いビスケットが良い音を立てるお菓子、その名もパッキーだ。
弦も食べるでしょ? と箱を開けながら勤務時間外しか呼べない呼称で恋人を呼ぶも、返ってきたのは「いらん」の一言だった。
「ボクは忙しい。後にしてくれ」
どうやら彼は発売されたばかりのゲームに夢中らしい。この様子だと負けが続かない限り数時間はやり続けるだろう。でもそれも予想の範囲内だ。私だって伊達に鳴海弦の恋人をやっていない。
「そう。じゃあ弦の不戦敗ね」
「は?」
「パッキーゲーム。あ、もしかして知らない?」
「知ってるがそれは……リア充たちがあれをそれするゲームだろ!」
あわあわと顔を赤くする恋人の言うパッキーゲームは、どこか偏りがあるように感じる。けれど二人で細長いビスケットの両端をそれぞれ咥え、少しずつ食べ進め先に口を離したほうが負けというこのゲームで盛り上がるカップルは確かに存在する。どちらも口を離さなければ行き着く先は彼の言った通り、「あれをそれする」だ。
でも何ら問題はないだろう。私たちは歴とした恋人同士なのだから。そして私は知っている。鳴海弦という男が、どんなゲームであれ負けるのを極端に嫌うということを。
「で、やるの? やらないの?」
「や、やる! やるに決まってるだろ!」
彼はそう言うなりテレビ画面に向けていた身体を私のほうへと向けた。彼曰く、売られた勝負は買うのがゲーマーの矜持らしいが、正直チョロい。でもそういうところをかわいいと思ってしまう私も相当だ。
「負けても拗ねないでよ」
「安心しろ、ボクが勝つ。お前こそ泣いても知らんからな」
パッキーを一本取り出して、チョコレートのかかったほうを咥える。それからビスケットのほうを向かいへと差し出せば「ボクがこっちかよ」と文句を言いながら、彼も先端を咥えた。十五センチないくらいだろうか。思っていたよりも距離が近い。
スタートの合図はちらりと互いに目が合った瞬間だった。どちらともなく、パキ、パキと食べ進める。ゆっくりと食べ進めているからか、チョコレートが舌の上で溶けていくのをいつも以上に感じた。
ずっと、甘い。チョコじゃなくてビスケットのほうを咥えればよかった。
食べ進めながらそんなことを考えていると、不意に顔に髪が掛かった。私のじゃない、恋人の前髪だ。いつの間にこんなに距離を詰められていたのだろう。しかし驚きよりも前髪の間から覗く瞳のほうに気圧された。隠れているにも関わらず、こちらを貫くような鋭い視線。それから逃れるように反射的に身を引いてしまい、口元でパキリとビスケットの割れる音がした。
あーあ、負けちゃった。
きっと恋人はボクの勝ちだとドヤ顔を見せつけてくるだろう。そう予想していたのだが。
「っ、んぅ?!」
決着がつき、離れていくと思っていた顔が目の前にあった。それどころか唇を塞がれ、何度も何度も啄まれる。ゲームは終わったのに、どうして? しかし私の疑問は口に出ることはなく、全て目の前の男に飲み込まれていった。
「ふぅ、は……なん、でぇ」
ようやく声を絞り出せた頃には、すっかり身体に力が入らなくなっていた。苦しくて視界が滲む。でも、それももう終わりなはず。
腐っても隊長というべきか、意外としっかりとした恋人の身体に体重を預け呼吸を整える。もう二度と下手な勝負は仕掛けまい。そう心に誓っていると、不意に顎を持ち上げられた。それから再び近づいてくる唇を慌てて両手で押し止める。
「ちょっと待って弦、ゲームはもう終わったでしょ?!」
持ちかけたパッキーゲームは私の負け。でも罰ゲームとかは特に決めていなかった。だからさっきのキスはゲームの延長だとしても、再開する必要はないはずだ。
「ああ、そうだな。ゲームは終わった。ボクの勝ちでな」
「じゃあ、何で……」
「別に。ボクが個人的にしたいだけだ」
何を当然のことをとでも言いたげな顔で、恋人が言った。
「ゲームなんて回りくどいことをしていたが、お前もそのつもりだったんだろ。ボクはそれにのってやっただけだが?」
「そ、それはそうだけど。でも……」
「なんだ、もう満足したのか。だが残念だったな。ボクはまだ足りない」
ぐっと両手を押さえ込まれ、噛みつくように唇を奪われる。整ったばかりの呼吸はすぐに乱され、捕食されるような感覚に眩暈がした。目の前の彼はいつ満たされるのか。貪られながらそんなことを考えるも、全く予想がつかない。
不意に恋人の親指が私の目元を拭った。気づかないうちに目に溜まった涙が零れ落ちていたらしい。
「ボクは先に言ったからな。泣いても知らんからなと」
眦に触れるだけの優しい口づけが降ってくる。しかしその口端は意地悪く上がっていて、彼がまだ満たされてはいないのだと暗に語っていた。
特にゲームに関してはやり込んでいる分こだわりが強く、プライドも高い。詳しくは知らないが、プレイヤーとしてそれなりに上手く、強い部類に入るのだろう。だがその反面、対人ゲームなんかで負けた日には本気で悔しがり、子どもみたいに拗ねるものだから、彼の機嫌を取らざるを得ない部下は毎回大変な思いをしている。この前第3の保科副隊長が鳴海隊長に誘われるままゲームをし、勝ってしまった時は特に大変だった。勝てると思って仕掛けた勝負で逆にコテンパンにされたのもあって、私が騒ぎを聞いて駆けつけた時にはすでに鳴海隊長は真っ白に燃え尽きていたのだ。もちろん、自業自得である。しかし隊長がそんな状態では、我々第1部隊は困ってしまう。何とかしなければ。そう思った私や他の部下たちは、手を替え品を替えおよそ一週間、全てにおいてやる気と自信を失ってしまった鳴海隊長を励まし続けた。時にとことん甘やかし、時に神様仏様鳴海様と褒め称え……当時を思い出すとドッと疲れるが、頑張った甲斐あって今はすっかりいつもの鳴海隊長だ。
今日も流行りの陣地取りゲームで連勝したようで、機嫌がいい。
「ハハッ、見たかボクの頭脳プレイ!」
「はいはい、見てた見てた」
「もっとちゃんと褒めろよ。いいか、今のはボクが新しいブキの性能を最大限に活かして……」
「わかったわかった。ね、それよりそろそろ糖分補給しない?」
私の提案に、前髪に隠れた目がきょとっと動く。
「糖分補給? ブドウ糖なら間に合っている」
「ブドウ糖って……。違う違う。今日も遅くまでやるだろうなと思って、ここに来る前にコンビニ寄って色々お菓子買ってきたの」
そう言ってかさりとビニール袋から取り出したのは、赤い箱。食べるとパキッとチョコレートでコーティングされた細長いビスケットが良い音を立てるお菓子、その名もパッキーだ。
弦も食べるでしょ? と箱を開けながら勤務時間外しか呼べない呼称で恋人を呼ぶも、返ってきたのは「いらん」の一言だった。
「ボクは忙しい。後にしてくれ」
どうやら彼は発売されたばかりのゲームに夢中らしい。この様子だと負けが続かない限り数時間はやり続けるだろう。でもそれも予想の範囲内だ。私だって伊達に鳴海弦の恋人をやっていない。
「そう。じゃあ弦の不戦敗ね」
「は?」
「パッキーゲーム。あ、もしかして知らない?」
「知ってるがそれは……リア充たちがあれをそれするゲームだろ!」
あわあわと顔を赤くする恋人の言うパッキーゲームは、どこか偏りがあるように感じる。けれど二人で細長いビスケットの両端をそれぞれ咥え、少しずつ食べ進め先に口を離したほうが負けというこのゲームで盛り上がるカップルは確かに存在する。どちらも口を離さなければ行き着く先は彼の言った通り、「あれをそれする」だ。
でも何ら問題はないだろう。私たちは歴とした恋人同士なのだから。そして私は知っている。鳴海弦という男が、どんなゲームであれ負けるのを極端に嫌うということを。
「で、やるの? やらないの?」
「や、やる! やるに決まってるだろ!」
彼はそう言うなりテレビ画面に向けていた身体を私のほうへと向けた。彼曰く、売られた勝負は買うのがゲーマーの矜持らしいが、正直チョロい。でもそういうところをかわいいと思ってしまう私も相当だ。
「負けても拗ねないでよ」
「安心しろ、ボクが勝つ。お前こそ泣いても知らんからな」
パッキーを一本取り出して、チョコレートのかかったほうを咥える。それからビスケットのほうを向かいへと差し出せば「ボクがこっちかよ」と文句を言いながら、彼も先端を咥えた。十五センチないくらいだろうか。思っていたよりも距離が近い。
スタートの合図はちらりと互いに目が合った瞬間だった。どちらともなく、パキ、パキと食べ進める。ゆっくりと食べ進めているからか、チョコレートが舌の上で溶けていくのをいつも以上に感じた。
ずっと、甘い。チョコじゃなくてビスケットのほうを咥えればよかった。
食べ進めながらそんなことを考えていると、不意に顔に髪が掛かった。私のじゃない、恋人の前髪だ。いつの間にこんなに距離を詰められていたのだろう。しかし驚きよりも前髪の間から覗く瞳のほうに気圧された。隠れているにも関わらず、こちらを貫くような鋭い視線。それから逃れるように反射的に身を引いてしまい、口元でパキリとビスケットの割れる音がした。
あーあ、負けちゃった。
きっと恋人はボクの勝ちだとドヤ顔を見せつけてくるだろう。そう予想していたのだが。
「っ、んぅ?!」
決着がつき、離れていくと思っていた顔が目の前にあった。それどころか唇を塞がれ、何度も何度も啄まれる。ゲームは終わったのに、どうして? しかし私の疑問は口に出ることはなく、全て目の前の男に飲み込まれていった。
「ふぅ、は……なん、でぇ」
ようやく声を絞り出せた頃には、すっかり身体に力が入らなくなっていた。苦しくて視界が滲む。でも、それももう終わりなはず。
腐っても隊長というべきか、意外としっかりとした恋人の身体に体重を預け呼吸を整える。もう二度と下手な勝負は仕掛けまい。そう心に誓っていると、不意に顎を持ち上げられた。それから再び近づいてくる唇を慌てて両手で押し止める。
「ちょっと待って弦、ゲームはもう終わったでしょ?!」
持ちかけたパッキーゲームは私の負け。でも罰ゲームとかは特に決めていなかった。だからさっきのキスはゲームの延長だとしても、再開する必要はないはずだ。
「ああ、そうだな。ゲームは終わった。ボクの勝ちでな」
「じゃあ、何で……」
「別に。ボクが個人的にしたいだけだ」
何を当然のことをとでも言いたげな顔で、恋人が言った。
「ゲームなんて回りくどいことをしていたが、お前もそのつもりだったんだろ。ボクはそれにのってやっただけだが?」
「そ、それはそうだけど。でも……」
「なんだ、もう満足したのか。だが残念だったな。ボクはまだ足りない」
ぐっと両手を押さえ込まれ、噛みつくように唇を奪われる。整ったばかりの呼吸はすぐに乱され、捕食されるような感覚に眩暈がした。目の前の彼はいつ満たされるのか。貪られながらそんなことを考えるも、全く予想がつかない。
不意に恋人の親指が私の目元を拭った。気づかないうちに目に溜まった涙が零れ落ちていたらしい。
「ボクは先に言ったからな。泣いても知らんからなと」
眦に触れるだけの優しい口づけが降ってくる。しかしその口端は意地悪く上がっていて、彼がまだ満たされてはいないのだと暗に語っていた。