鳴海弦
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
溜まりに溜まった仕事終え、ほんの少し様子を見に来ただけだった。きっと大丈夫。だからちらっと顔を出して、すぐに帰ろうと。なのに、どうして。
「どうしてもうこんなに散らかってるんですか!」
私の大声が広い部屋に響く。けれど外には漏れていないはずだ。だってこの隊長室はそれ程までに広いのだから。本来は……。
私は床に散らばった諸々を避けながら、テレビの前にある布団を目指した。そこにはこんもりとした盛り上がり。ほんのりお日さまの香りがするのは、昨日干したばかりだからだ。その盛り上がりにぐっと手を掛けると、中から抵抗するように強い力で引っ張られる。
「……鳴海隊長」
「……ぐ、ぐー、ぐー」
「起きてますよね?」
「……ぐー、寝てる」
だったら返事をしなければいいのに。私は呆れたようにため息をついて、布団の小山に向かって話しかけた。
「昨日、長谷川副隊長たちとこの部屋を掃除しましたよね。その時に一週間綺麗に保てたら、新しいゲームをやってもいいと約束しましたね」
今月も早々に給料を使い切った鳴海隊長が、長谷川副隊長に駄々をこねまくって取り付けた約束だった。
『新作のゲームが欲しいが金がない、何とかしろ長谷川ァ!』
いつものことと言えばいつものこと。けれど昨日の鳴海隊長の駄々っ子っぷりはすごかった。何せあの長谷川副隊長が先に折れたのだ。あれはまさにイヤイヤ期の子どもがスーパーで母親にお菓子をねだる姿。けれど長谷川副隊長もただ甘やかすだけじゃない。「部屋を一週間綺麗に保てたら」という条件を突きつけたのだ。無理だ、とその場にいた全員が思った。けれど鳴海隊長はぐぬぬと唸りながらも、その条件を飲んだ。現物がないとやる気が出ないということでゲームの購入は許し、プレイするのは一週間後という話だったのだけど、これは……。
私はじっとチカチカ光るテレビ画面を見つめた。このグラフィックとキャラクターは見覚えがある。鳴海隊長が昨日散々駄々をこねて欲しがった例の新作ゲームだ。電気屋に買いに行かされた私が言うのだから間違いない。総プレイ時間は十三時間と少し。昨日買ったばかりなのに、もうこんなにやり込んで。絶対に約束を守った時間のほうが短い。
「約束、思い切り破ってるじゃないですか」
もう返事はない。あくまで寝たふりを貫くつもりらしい。
「あっ、寝てるのに電源つけっぱなしはよくないなー。電気代もったいないし、切っちゃおっかなー」
「?!」
「最近のゲームはオートセーブが基本だし、まさか鳴海隊長、オートセーブオフにして縛りプレイとかしてないよね。よし、切ろう!」
「まっ、待て待て待て待て!」
ズボッと布団から鳴海隊長が飛び出してきて、ゲーム機に伸びていた私の手首を掴む。
「正気かキミは?!」
鳴海隊長が信じられないものを見るような目で私を見る。さすがに本気でやるつもりはなかったけれど、こんなに簡単に釣れるとは。鳴海隊長は慌ただしくコントローラーを握り、セーブポイントに走っている。
「一週間部屋を綺麗にしてたらって話だったじゃないですか。なのに何すぐ約束破ってるんですか」
「知らないのか、約束は破るためにあるんだ。それに長谷川が様子を見に来る前にクリアしてしまえばこっちのものだろ」
我が上司ながら最低だ。たまに本当にこの人について行っていいのかと不安になる。たまに、いや最近は結構、そう思う。
「だから寝る間も惜しんでゲームですか」
「は?」
「隈、ひどくなってますよ」
下ろされた前髪の間から覗く瞳。その下にくっきりと付いた隈。私が入隊した時にはすでにあったそれがなくなることはないのだけど、濃くなっているかどうかは見ればわかるようになった。今日は昨日より濃い。徹夜でゲームした証拠だ。それについては長谷川副隊長もほどほどにしておけと注意していたはずだけど。
「やっぱり長谷川副隊長に報告しないと」
「なっ、ちょ……ゲームクリアまで待ってくれ!」
「駄目ですよ。約束破った上に徹夜でゲームなんて」
「あと数時間……あと数時間あればクリアできそうなんだ。いやボクならもっと早くクリアできる!」
「そういう話じゃなくて……っ?!」
報告をと急いだからだろうか。足元に空缶が落ちているのに気付かずに踏んでしまい、ぐらりと身体が傾く。どさりと倒れ込んだものの咄嗟に受身を取り、衝撃はほとんどなかった。下に鳴海隊長の布団があったのも運が良かったと思う。ただーー。
「あの、鳴海隊長」
「ん? どうした」
どうしたもこうしたもない。鳴海隊長は倒れ込んだ私の身体の向きを変え、素早く自分の布団にのせたかと思えば、囲うように私の顔の横に肘をついてきたのだ。そしてそのままピコピコとゲームを再開してしまった。
「ちょ、退いてください」
「退いたら長谷川に告げ口するつもりだろ」
「そんなの当たり前じゃないですか」
「なら駄目だ。ボクがゲームをクリアするまでここにいてもらう」
「はい?」
それは一体いつになるのか。鳴海隊長は数時間後と言っていたけれど、信用ならない。というか、正直もう帰りたい。一刻も早くここから抜け出したくて鳴海隊長の薄い胸板を押す。しかし一見細そうな身体付きをしている癖に、私の力ではびくともしなかった。苦戦する私に、ふっと笑みが降ってくる。
「キミはここから抜け出せない。諦めろ」
「嫌です……ぐっ」
抵抗とばかりに自由に動く足をばたつかせていたら、上から体重をかけられて思わず呻く。だめだ、がっちりホールドされてしまって動けない。
「まあせいぜい頑張るんだな。キミが抜け出すのが先か、ボクがこいつをクリアするのが先か。ああ、眠くなったら寝てもかまわん。キミも隈の濃さでは人のことを言えないからな」
私が寝不足なのはどっかの誰かさんが書類仕事をしないからなんだけど。
キッと睨め付けるも本人はどこ吹く風。すっかりゲーム画面に夢中で、私にのしかかっているのも忘れているみたいだ。文句の一つでも言ってやろうかと思ったら、代わりに出てきたのは大きなあくび。ふ、とまた鼻で笑われたような気がした。でも眠くなるのも仕方がない。だって、目の前のこの人は中身だけでなく体温まで子どものそれだったから。
「どうしてもうこんなに散らかってるんですか!」
私の大声が広い部屋に響く。けれど外には漏れていないはずだ。だってこの隊長室はそれ程までに広いのだから。本来は……。
私は床に散らばった諸々を避けながら、テレビの前にある布団を目指した。そこにはこんもりとした盛り上がり。ほんのりお日さまの香りがするのは、昨日干したばかりだからだ。その盛り上がりにぐっと手を掛けると、中から抵抗するように強い力で引っ張られる。
「……鳴海隊長」
「……ぐ、ぐー、ぐー」
「起きてますよね?」
「……ぐー、寝てる」
だったら返事をしなければいいのに。私は呆れたようにため息をついて、布団の小山に向かって話しかけた。
「昨日、長谷川副隊長たちとこの部屋を掃除しましたよね。その時に一週間綺麗に保てたら、新しいゲームをやってもいいと約束しましたね」
今月も早々に給料を使い切った鳴海隊長が、長谷川副隊長に駄々をこねまくって取り付けた約束だった。
『新作のゲームが欲しいが金がない、何とかしろ長谷川ァ!』
いつものことと言えばいつものこと。けれど昨日の鳴海隊長の駄々っ子っぷりはすごかった。何せあの長谷川副隊長が先に折れたのだ。あれはまさにイヤイヤ期の子どもがスーパーで母親にお菓子をねだる姿。けれど長谷川副隊長もただ甘やかすだけじゃない。「部屋を一週間綺麗に保てたら」という条件を突きつけたのだ。無理だ、とその場にいた全員が思った。けれど鳴海隊長はぐぬぬと唸りながらも、その条件を飲んだ。現物がないとやる気が出ないということでゲームの購入は許し、プレイするのは一週間後という話だったのだけど、これは……。
私はじっとチカチカ光るテレビ画面を見つめた。このグラフィックとキャラクターは見覚えがある。鳴海隊長が昨日散々駄々をこねて欲しがった例の新作ゲームだ。電気屋に買いに行かされた私が言うのだから間違いない。総プレイ時間は十三時間と少し。昨日買ったばかりなのに、もうこんなにやり込んで。絶対に約束を守った時間のほうが短い。
「約束、思い切り破ってるじゃないですか」
もう返事はない。あくまで寝たふりを貫くつもりらしい。
「あっ、寝てるのに電源つけっぱなしはよくないなー。電気代もったいないし、切っちゃおっかなー」
「?!」
「最近のゲームはオートセーブが基本だし、まさか鳴海隊長、オートセーブオフにして縛りプレイとかしてないよね。よし、切ろう!」
「まっ、待て待て待て待て!」
ズボッと布団から鳴海隊長が飛び出してきて、ゲーム機に伸びていた私の手首を掴む。
「正気かキミは?!」
鳴海隊長が信じられないものを見るような目で私を見る。さすがに本気でやるつもりはなかったけれど、こんなに簡単に釣れるとは。鳴海隊長は慌ただしくコントローラーを握り、セーブポイントに走っている。
「一週間部屋を綺麗にしてたらって話だったじゃないですか。なのに何すぐ約束破ってるんですか」
「知らないのか、約束は破るためにあるんだ。それに長谷川が様子を見に来る前にクリアしてしまえばこっちのものだろ」
我が上司ながら最低だ。たまに本当にこの人について行っていいのかと不安になる。たまに、いや最近は結構、そう思う。
「だから寝る間も惜しんでゲームですか」
「は?」
「隈、ひどくなってますよ」
下ろされた前髪の間から覗く瞳。その下にくっきりと付いた隈。私が入隊した時にはすでにあったそれがなくなることはないのだけど、濃くなっているかどうかは見ればわかるようになった。今日は昨日より濃い。徹夜でゲームした証拠だ。それについては長谷川副隊長もほどほどにしておけと注意していたはずだけど。
「やっぱり長谷川副隊長に報告しないと」
「なっ、ちょ……ゲームクリアまで待ってくれ!」
「駄目ですよ。約束破った上に徹夜でゲームなんて」
「あと数時間……あと数時間あればクリアできそうなんだ。いやボクならもっと早くクリアできる!」
「そういう話じゃなくて……っ?!」
報告をと急いだからだろうか。足元に空缶が落ちているのに気付かずに踏んでしまい、ぐらりと身体が傾く。どさりと倒れ込んだものの咄嗟に受身を取り、衝撃はほとんどなかった。下に鳴海隊長の布団があったのも運が良かったと思う。ただーー。
「あの、鳴海隊長」
「ん? どうした」
どうしたもこうしたもない。鳴海隊長は倒れ込んだ私の身体の向きを変え、素早く自分の布団にのせたかと思えば、囲うように私の顔の横に肘をついてきたのだ。そしてそのままピコピコとゲームを再開してしまった。
「ちょ、退いてください」
「退いたら長谷川に告げ口するつもりだろ」
「そんなの当たり前じゃないですか」
「なら駄目だ。ボクがゲームをクリアするまでここにいてもらう」
「はい?」
それは一体いつになるのか。鳴海隊長は数時間後と言っていたけれど、信用ならない。というか、正直もう帰りたい。一刻も早くここから抜け出したくて鳴海隊長の薄い胸板を押す。しかし一見細そうな身体付きをしている癖に、私の力ではびくともしなかった。苦戦する私に、ふっと笑みが降ってくる。
「キミはここから抜け出せない。諦めろ」
「嫌です……ぐっ」
抵抗とばかりに自由に動く足をばたつかせていたら、上から体重をかけられて思わず呻く。だめだ、がっちりホールドされてしまって動けない。
「まあせいぜい頑張るんだな。キミが抜け出すのが先か、ボクがこいつをクリアするのが先か。ああ、眠くなったら寝てもかまわん。キミも隈の濃さでは人のことを言えないからな」
私が寝不足なのはどっかの誰かさんが書類仕事をしないからなんだけど。
キッと睨め付けるも本人はどこ吹く風。すっかりゲーム画面に夢中で、私にのしかかっているのも忘れているみたいだ。文句の一つでも言ってやろうかと思ったら、代わりに出てきたのは大きなあくび。ふ、とまた鼻で笑われたような気がした。でも眠くなるのも仕方がない。だって、目の前のこの人は中身だけでなく体温まで子どものそれだったから。