鳴海弦
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朝、目覚めたら、当然そこはボクの部屋だった。
布団から手の届く範囲に必要なもの全てが置いてある理想の部屋。長谷川が片付けた様子も特にない。見慣れた、いつもの風景だった。ある一点を除いてはーー。
ボクは一度大きく深呼吸をしてから布団を捲った。ぬくぬくだった身体を冬の空気がひやりと撫でる。そしてそこには全裸の美女……ではなく、全裸の部下がいた。いや、それなりに可愛くてボクのタイプではあるが、そうではなく。
全裸の、部下が、いた。それも入隊時、ボクが面倒を見てやった後輩で、付き合いが長くそれなりに親しい部下。彼女はボクの隣ですやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていたが、捲った布団のせいで肌寒かったのか「うぅ…」と眉間に皺を寄せて呻いている。
「……マジか」
ボクは何事もなかったかのように、静かに布団を元に戻した。
ーーこれはマズイ! 非常にマズイ状況だ。
隣には全裸の部下(付き合ってない)、ボクは一応Tシャツを着ているが、下がどういう状況かなんて見なくてもわかる。さらに床にはボクの私物に紛れて彼女の服が点々と落ちていて、全力で目を逸らしたいのに容赦なく現実を突きつけてくる。
こんなの、誰がどう見たって事後じゃないか。
ボクはズキズキと痛む頭を両手で抱えた。比喩ではなく実際に痛いのである。恐らく原因は昨日の忘年会。今隣で寝ている部下にガチャを引かせたらレアを連発して、気を良くしたボクは珍しく記憶がなくなるほど酒を飲んでしまったのだ。
そして、ボクはそのまま部下をお持ち帰りした、と。正直、何ひとつ覚えちゃいないが。
いやいや、ダメだろう。さすがのボクもヤバいことをしでかしたなと思う。もし長谷川や功さんにバレたら……と青ざめて、閃く。
バレなければいいのでは?
ボクは手を伸ばし、スマホを引き寄せた。
「OKグーグ◯、死体の埋め方」
『すみません。聞き取れませんでした』
「く、死体の埋め方を」
『わかりません。もう一度お願いします』
「だから、死体の埋め方を教えろと」
『わかりました。警察にお繋ぎします』
「待て待て待て、ボクが悪かった。頼むから待ってくれ」
何て役に立たないAIだ。とりあえず基地敷地内のどこかに穴を掘って埋めるか。そう思い立ったがすぐに面倒になり、ボクは彼女を私物の山に埋めることにした。幸い長谷川はつい最近ボクの部屋を片したところ。次の片付けまでは恐らくまだ猶予がある。その間に彼女をどうするか策を練ればいい。今のこの状況を他人に見られなければ何とでもなる。となれば、善は急げだ。
再び布団を捲り、彼女を部屋の隅まで転がしてーー。
「「あ」」
彼女の身体を布団からどかそうと触れた瞬間に、さっきまで目を閉じていた彼女と目が合った。
「鳴海隊長……」
その声はひどく掠れている。彼女はパッとボクから視線を逸らし、恥じらいに頬を染めた。
ボクは心のどこかで彼女の口から「昨日は何もなかった」と聞けるのではないかと期待していた。お互い酔っ払って、服を脱いで寝てしまっただけだと。だがこの反応は、明らかに。
「あ、あの」
「すまん!」
ボクはすぐさま深々と土下座した。
「昨日はその、ひどく酔っていて記憶が全くないんだ。だから……」
「顔を上げてください、鳴海隊長」
ぽん、と肩に柔らかな手が置かれた。顔を上げると、布団を引き寄せて身体を隠した部下が困ったような顔で笑っていた。
「昨日は私も酔ってたんです。それで、私も隊長とならいっかって。だから昨日のことはお互い忘れましょう。素敵な一夜をありがとうございました」
彼女は、ボクにとってよく出来た部下だった。ボクの期待には必ず応える。ボクの考えを先読みして指示するより先に動く。部下としては本当に優秀だ。しかし、
「それはキミの本心か?」
気づけば肩に置かれた彼女の手を取っていた。
「はい」
迷いのないはっきりとした声が返ってくる。その顔は聞き分けのいい部下の顔だった。
「隊長は違うんですか?」
「ボクは……」
当初の望み通りに事が運ぼうとしているというのに、ズキリと胸が痛んだ。被害者は部下である彼女のほうだろうに、ボクが傷ついてどうする。
そもそもボクは何故彼女を部屋に連れ込んだのか。ズキリ、ズキリ。頭なのか、胸なのか、よくわからない痛みが押し寄せてくる。
そうだ、昨日の忘年会。やたら彼女にベタベタ触れる奴がいて、気に食わなくて。他の奴に奪われるくらいなら、ボクがーー。
「もう一度だけ。ボクにチャンスをくれないか」
「え?」
きょとんとする彼女をそのまま押し倒す。今から何をされるのか、それとも昨夜のことを思い出したのか。彼女の顔は見る見る赤くなっていった。昨日もこうだったのだろうか。クソ、何で覚えてないんだ。
「キミが欲しい」
「えっ⁈」
「嫌だったら突き飛ばして構わん。ただ、キミが嫌じゃないなら最後まで止まらんからな。そのつもりでいろ」
「ま、待ってください隊長! どうして……」
「ボクが、キミを自分のものにしたいだけだ」
「っ!」
キミはどうなんだ。キミの本心はーー。
そう問うと、彼女は戸惑いつつも口を開き、
『顔を洗って出直してきてください』
突如部屋に響いた機械的な女性の声に、思わずズッコケる。
「……OKグーグ◯、ちょっとは空気を読んでくれないか」
『すみません、もう一度お願いします』
「急にポンコツになるな!」
さっきまで顔を真っ赤にしていた彼女は、ボクに押し倒されたままクスクスと笑っていた。せっかくやり直そうと思っていたのに、こんなんじゃ全く格好が付かない。
「笑いすぎだろ」
「だって、ふふっ」
「で、どうなんだ?」
「さて、どうでしょう。グーグ◯に聞いてみます?」
さっきまでの聞き分けのいい優秀な部下はどこに行ったのか。ボクに組み敷かれた彼女は、まるで挑発するようにゆるりと目を細めている。
「いや、いい。キミ自身に聞いたほうが早そうだ」
未だボクを突き飛ばさない彼女が、ボクに縋るまで、恐らくそう時間はかからないだろう。
布団から手の届く範囲に必要なもの全てが置いてある理想の部屋。長谷川が片付けた様子も特にない。見慣れた、いつもの風景だった。ある一点を除いてはーー。
ボクは一度大きく深呼吸をしてから布団を捲った。ぬくぬくだった身体を冬の空気がひやりと撫でる。そしてそこには全裸の美女……ではなく、全裸の部下がいた。いや、それなりに可愛くてボクのタイプではあるが、そうではなく。
全裸の、部下が、いた。それも入隊時、ボクが面倒を見てやった後輩で、付き合いが長くそれなりに親しい部下。彼女はボクの隣ですやすやと気持ちよさそうに寝息を立てていたが、捲った布団のせいで肌寒かったのか「うぅ…」と眉間に皺を寄せて呻いている。
「……マジか」
ボクは何事もなかったかのように、静かに布団を元に戻した。
ーーこれはマズイ! 非常にマズイ状況だ。
隣には全裸の部下(付き合ってない)、ボクは一応Tシャツを着ているが、下がどういう状況かなんて見なくてもわかる。さらに床にはボクの私物に紛れて彼女の服が点々と落ちていて、全力で目を逸らしたいのに容赦なく現実を突きつけてくる。
こんなの、誰がどう見たって事後じゃないか。
ボクはズキズキと痛む頭を両手で抱えた。比喩ではなく実際に痛いのである。恐らく原因は昨日の忘年会。今隣で寝ている部下にガチャを引かせたらレアを連発して、気を良くしたボクは珍しく記憶がなくなるほど酒を飲んでしまったのだ。
そして、ボクはそのまま部下をお持ち帰りした、と。正直、何ひとつ覚えちゃいないが。
いやいや、ダメだろう。さすがのボクもヤバいことをしでかしたなと思う。もし長谷川や功さんにバレたら……と青ざめて、閃く。
バレなければいいのでは?
ボクは手を伸ばし、スマホを引き寄せた。
「OKグーグ◯、死体の埋め方」
『すみません。聞き取れませんでした』
「く、死体の埋め方を」
『わかりません。もう一度お願いします』
「だから、死体の埋め方を教えろと」
『わかりました。警察にお繋ぎします』
「待て待て待て、ボクが悪かった。頼むから待ってくれ」
何て役に立たないAIだ。とりあえず基地敷地内のどこかに穴を掘って埋めるか。そう思い立ったがすぐに面倒になり、ボクは彼女を私物の山に埋めることにした。幸い長谷川はつい最近ボクの部屋を片したところ。次の片付けまでは恐らくまだ猶予がある。その間に彼女をどうするか策を練ればいい。今のこの状況を他人に見られなければ何とでもなる。となれば、善は急げだ。
再び布団を捲り、彼女を部屋の隅まで転がしてーー。
「「あ」」
彼女の身体を布団からどかそうと触れた瞬間に、さっきまで目を閉じていた彼女と目が合った。
「鳴海隊長……」
その声はひどく掠れている。彼女はパッとボクから視線を逸らし、恥じらいに頬を染めた。
ボクは心のどこかで彼女の口から「昨日は何もなかった」と聞けるのではないかと期待していた。お互い酔っ払って、服を脱いで寝てしまっただけだと。だがこの反応は、明らかに。
「あ、あの」
「すまん!」
ボクはすぐさま深々と土下座した。
「昨日はその、ひどく酔っていて記憶が全くないんだ。だから……」
「顔を上げてください、鳴海隊長」
ぽん、と肩に柔らかな手が置かれた。顔を上げると、布団を引き寄せて身体を隠した部下が困ったような顔で笑っていた。
「昨日は私も酔ってたんです。それで、私も隊長とならいっかって。だから昨日のことはお互い忘れましょう。素敵な一夜をありがとうございました」
彼女は、ボクにとってよく出来た部下だった。ボクの期待には必ず応える。ボクの考えを先読みして指示するより先に動く。部下としては本当に優秀だ。しかし、
「それはキミの本心か?」
気づけば肩に置かれた彼女の手を取っていた。
「はい」
迷いのないはっきりとした声が返ってくる。その顔は聞き分けのいい部下の顔だった。
「隊長は違うんですか?」
「ボクは……」
当初の望み通りに事が運ぼうとしているというのに、ズキリと胸が痛んだ。被害者は部下である彼女のほうだろうに、ボクが傷ついてどうする。
そもそもボクは何故彼女を部屋に連れ込んだのか。ズキリ、ズキリ。頭なのか、胸なのか、よくわからない痛みが押し寄せてくる。
そうだ、昨日の忘年会。やたら彼女にベタベタ触れる奴がいて、気に食わなくて。他の奴に奪われるくらいなら、ボクがーー。
「もう一度だけ。ボクにチャンスをくれないか」
「え?」
きょとんとする彼女をそのまま押し倒す。今から何をされるのか、それとも昨夜のことを思い出したのか。彼女の顔は見る見る赤くなっていった。昨日もこうだったのだろうか。クソ、何で覚えてないんだ。
「キミが欲しい」
「えっ⁈」
「嫌だったら突き飛ばして構わん。ただ、キミが嫌じゃないなら最後まで止まらんからな。そのつもりでいろ」
「ま、待ってください隊長! どうして……」
「ボクが、キミを自分のものにしたいだけだ」
「っ!」
キミはどうなんだ。キミの本心はーー。
そう問うと、彼女は戸惑いつつも口を開き、
『顔を洗って出直してきてください』
突如部屋に響いた機械的な女性の声に、思わずズッコケる。
「……OKグーグ◯、ちょっとは空気を読んでくれないか」
『すみません、もう一度お願いします』
「急にポンコツになるな!」
さっきまで顔を真っ赤にしていた彼女は、ボクに押し倒されたままクスクスと笑っていた。せっかくやり直そうと思っていたのに、こんなんじゃ全く格好が付かない。
「笑いすぎだろ」
「だって、ふふっ」
「で、どうなんだ?」
「さて、どうでしょう。グーグ◯に聞いてみます?」
さっきまでの聞き分けのいい優秀な部下はどこに行ったのか。ボクに組み敷かれた彼女は、まるで挑発するようにゆるりと目を細めている。
「いや、いい。キミ自身に聞いたほうが早そうだ」
未だボクを突き飛ばさない彼女が、ボクに縋るまで、恐らくそう時間はかからないだろう。