鳴海弦
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困った。非常に困った。
談話室で頭を抱えていると、同僚の一人がどうしたのかと声をかけてきた。顔を上げた私の顔色を見て、体調でも悪いのかと背中までさすってくれて。本当に心優しい同僚である。
「実は……」
そんな彼女に私は何があったのか、ぽつぽつと話し始めた。
問題が起きたのは数日前。鳴海隊長が長谷川副隊長のゴルフクラブを買い戻す資金稼ぎのために、様々なバイトをした時のことだ。
「こちらをご覧ください」
私は同僚にスマホ画面を見せた。そこにはとある執事喫茶について書かれた記事が載っていて、『期待の新星、俺様ツンデレ執事現る!?』とでかでかと書かれていた。それが我ら第一部隊の鳴海隊長だったのだ。
「ああ、この前長谷川副隊長にこっぴどく怒られてたやつね。でもこれがどうかした?」
「どうもこうも一大事だよ! だってこのせいで世間が鳴海隊長の絶妙の俺様ツンデレ具合に気づいちゃったんだから」
「はあ?」
「どうしよう。このままだと各所に引っ張りだこ……」
「それはないから安心しなさい」
同僚は呆れた様子で私を見つめた。そして心配して損したとも、そういえばこういう奴だったなとも。それでも私の話に付き合ってくれるのだから、感謝しかない。
鳴海隊長と言葉を交わすようになって、私はピンときてしまった。彼は天性の俺様ツンデレ系だ、と。数々の乙女ゲームをプレイし、一番最初は必ず俺様ツンデレキャラから攻略する私が言うのだから間違いない。
「でね、私閃いたの」
「何を?」
「鳴海隊長にこっそり俺様ツンデレ特有のセリフを言わせようって」
「あんたって子は……」
もしやいけるのでは? と始めたささやかな遊びは思いのほか上手くいった。鳴海隊長と話す時にそれっぽい言葉を引き出すように会話を振る。そうすると鳴海隊長は面白いくらいに典型的なセリフを返してきたのだ。
そのやり取りが私の中で密かな楽しみになっていたのに、まさかこんな形で世間に露呈してしまうとは。どうしよう、隊長のツンデレボイスCDとか出たら。それはそれで買うけども。
「ちなみに一番綺麗に返ってきたのがこちらです」
『ハッ、また怪我したのか。心配? べっ、別にお前のことが心配で来たわけじゃないからな! たまたまボクもこっちに用事があっただけで……勘違いするなよ!!』
「え、録音までしてるの!?」
「するでしょ、そりゃあ!」
生の俺様ツンデレボイスだ。保存しない理由はない。
「実はこの後隊長室の掃除があるから、もう一セリフ、コレクションを増やそうと思って……って、そんなに引かなくても」
ふと同僚の顔が引き攣り、真っ青になっているのに気づく。彼女はわなわなと唇を震わせ、ゆっくりと私の後ろを指差してーー。
「何やら楽しそうなことを話しているようだな。ボクもまぜろ」
聞き覚えのある声に息を呑む。恐る恐る振り向けば、そこには話題の中心人物がいた。
「な、鳴海隊ちょ……」
「一体何の話をしていたんだ? 詳しく聞かせてもらおうか」
ぽんと置かれた手が、がしりと肩に食い込む。上から信じられない力で押さえつけられて、とてもじゃないが逃げられそうにない。
せめて同僚に助けてもらおうと顔を向ければ、彼女は跡形もなく消えていた。逃げ足が速すぎる。
「そういえば、私この後用事が……」
「ああ、確かボクの部屋の掃除だったか。ちょうど良い。そこで話すか」
「いや、あの、違っ」
「勘違いするなよ。わかっていないようだから言うが、これは隊長命令だ。お前に拒否権はない。勝手に録音したツンデレボイスとやらについてボクの部屋で洗いざらい吐いてもらうからな」
(ぜ、全部聞かれてた!)
このまま捕まれば、せっかく集めたボイスコレクションを失うかもしれない。それだけは絶対に嫌。
しかし必死に逃げ出そうと暴れるも防衛隊最強相手に敵うはずもなく、首根っこを掴まれそのまま俵担ぎにされた私は、抵抗虚しく隊長室に連れ込まれたのだった。
談話室で頭を抱えていると、同僚の一人がどうしたのかと声をかけてきた。顔を上げた私の顔色を見て、体調でも悪いのかと背中までさすってくれて。本当に心優しい同僚である。
「実は……」
そんな彼女に私は何があったのか、ぽつぽつと話し始めた。
問題が起きたのは数日前。鳴海隊長が長谷川副隊長のゴルフクラブを買い戻す資金稼ぎのために、様々なバイトをした時のことだ。
「こちらをご覧ください」
私は同僚にスマホ画面を見せた。そこにはとある執事喫茶について書かれた記事が載っていて、『期待の新星、俺様ツンデレ執事現る!?』とでかでかと書かれていた。それが我ら第一部隊の鳴海隊長だったのだ。
「ああ、この前長谷川副隊長にこっぴどく怒られてたやつね。でもこれがどうかした?」
「どうもこうも一大事だよ! だってこのせいで世間が鳴海隊長の絶妙の俺様ツンデレ具合に気づいちゃったんだから」
「はあ?」
「どうしよう。このままだと各所に引っ張りだこ……」
「それはないから安心しなさい」
同僚は呆れた様子で私を見つめた。そして心配して損したとも、そういえばこういう奴だったなとも。それでも私の話に付き合ってくれるのだから、感謝しかない。
鳴海隊長と言葉を交わすようになって、私はピンときてしまった。彼は天性の俺様ツンデレ系だ、と。数々の乙女ゲームをプレイし、一番最初は必ず俺様ツンデレキャラから攻略する私が言うのだから間違いない。
「でね、私閃いたの」
「何を?」
「鳴海隊長にこっそり俺様ツンデレ特有のセリフを言わせようって」
「あんたって子は……」
もしやいけるのでは? と始めたささやかな遊びは思いのほか上手くいった。鳴海隊長と話す時にそれっぽい言葉を引き出すように会話を振る。そうすると鳴海隊長は面白いくらいに典型的なセリフを返してきたのだ。
そのやり取りが私の中で密かな楽しみになっていたのに、まさかこんな形で世間に露呈してしまうとは。どうしよう、隊長のツンデレボイスCDとか出たら。それはそれで買うけども。
「ちなみに一番綺麗に返ってきたのがこちらです」
『ハッ、また怪我したのか。心配? べっ、別にお前のことが心配で来たわけじゃないからな! たまたまボクもこっちに用事があっただけで……勘違いするなよ!!』
「え、録音までしてるの!?」
「するでしょ、そりゃあ!」
生の俺様ツンデレボイスだ。保存しない理由はない。
「実はこの後隊長室の掃除があるから、もう一セリフ、コレクションを増やそうと思って……って、そんなに引かなくても」
ふと同僚の顔が引き攣り、真っ青になっているのに気づく。彼女はわなわなと唇を震わせ、ゆっくりと私の後ろを指差してーー。
「何やら楽しそうなことを話しているようだな。ボクもまぜろ」
聞き覚えのある声に息を呑む。恐る恐る振り向けば、そこには話題の中心人物がいた。
「な、鳴海隊ちょ……」
「一体何の話をしていたんだ? 詳しく聞かせてもらおうか」
ぽんと置かれた手が、がしりと肩に食い込む。上から信じられない力で押さえつけられて、とてもじゃないが逃げられそうにない。
せめて同僚に助けてもらおうと顔を向ければ、彼女は跡形もなく消えていた。逃げ足が速すぎる。
「そういえば、私この後用事が……」
「ああ、確かボクの部屋の掃除だったか。ちょうど良い。そこで話すか」
「いや、あの、違っ」
「勘違いするなよ。わかっていないようだから言うが、これは隊長命令だ。お前に拒否権はない。勝手に録音したツンデレボイスとやらについてボクの部屋で洗いざらい吐いてもらうからな」
(ぜ、全部聞かれてた!)
このまま捕まれば、せっかく集めたボイスコレクションを失うかもしれない。それだけは絶対に嫌。
しかし必死に逃げ出そうと暴れるも防衛隊最強相手に敵うはずもなく、首根っこを掴まれそのまま俵担ぎにされた私は、抵抗虚しく隊長室に連れ込まれたのだった。
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