鳴海弦
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あっ、と気づいた時にはすべてが遅く、唇に柔らかな感触がした。それと同時に、下された前髪の間から覗く不思議な色合いの瞳がきゅっと細まる。
ーーなんだか猫みたい。
怪獣細胞由来の兵器にそんな感想を抱いてしまった私は意外にも落ち着いてーー、いやきっと現実から目を逸らそうとしていたのだろう。目の前の彼なんかは驚きすぎて未だに固まっている。
私はやんわりと彼の胸を押し、顔を逸らした。
「すみません、鳴海隊長。私の不注意でした」
「っ!」
鳴海隊長が勢いよく私から距離を取る。やっぱり猫みたいだ。尻尾を膨らませ毛を逆立たせた猫。そんな彼を見やりつつ、私は小さく息を吸った。息を止めていたのはほんの数秒のはずなのに、心臓はなかなか落ち着かない。
長谷川副隊長に命じられ隊長室を掃除していた私と、それを阻止しようとした鳴海隊長。いつものことと言えばその通りで、だからこそ油断していた。まさかお互いにバランスを崩して事故チューしてしまうなんて。
「鳴海隊長」
私の呼びかけに彼がびくりと肩を震わせた。なんだかすごく警戒されてる?
「私は気にしないので、鳴海隊長も気にしないでもらえると助かります」
いい大人なのだから心配の必要はないと思うけれど、念のため。たかが事故チュー程度でぎくしゃくするくらいなら、なかったことにしたほうがいい。
こんなのよくあることだ。犬に噛まれたようなもの。事実、実家に帰ると愛犬に顔中舐められてるし。
そんな風に笑い話に繋げると、鳴海隊長が「は?」と突然低い声を出した。さっきまで警戒心MAXの猫みたいだった癖にまるで別人だ。
「そうか。キミはボクのことを犬か何かだと思ってるわけか」
怒りの滲んだ声音に息を呑む。
「ち、違います。さっきのは言葉の綾で……」
気まずくなるから、お互いなかったことにしましょう。そう言いたかっただけなのに、どうしてこうも上手くいかないのか。
鳴海隊長がゆらりと立ち上がり、こっちに向かってくる。お説教か、反省文か、何にせよ怒られるに違いない。私は腹を決め、その場に正座し直した。
そして再び目の前にやって来た鳴海隊長が向かいに座り、手を伸ばしてきてーー。
「え」
私の驚きはすぐに目の前の彼に言葉ごと飲み込まれた。
唇に少しかさついた柔らかな感触がして、咄嗟に押し返すも簡単に押さえ込まれてしまう。角度を変えて何度も唇を塞がれ、触れるだけのキスなのにさっきよりもずっと長くて、頭がクラクラする。
そして解放される頃にはお互いに息が上がり、私の視界は涙で滲んでいた。
「っ、なんでこんなこと……」
「それはっ……キミが犬扱いするから、つい……」
確かに犬に噛まれたと思って、とは話したけれど、あれは決して鳴海隊長を犬扱いしたわけじゃない。そう弁明しようとして、ぽろりと両目から溜まった涙がこぼれ落ちた。
「わ、悪かった、だからもう泣くな! だがこれでキミも少しはボクのこと意識しただろ」
「え?」
きょとんとする私に、鳴海隊長が呆れたように溜め息を吐く。
「やっぱり気づいてなかったのか。ボクが何度もデートに誘ってるというのに」
「デート、ですか?」
全くもって身に覚えがない。
「昨日だって誘っただろ、新作のゲームやるぞって」
「あれデートだったんですか!?」
鳴海隊長曰く、今まで何度か誘われてやったゲーム会はお家デートというやつだったらしい。てっきりゲーム相手が欲しかっただけかと思っていた。お家というか、一応隊長室だったし。
「密室に男女二人はもはやデートだろ! なのにキミはそんな気ないようだし。恋愛シミュレーションゲーム通りにやってるのに、キミは予定にない行動しかしない」
「そ、そんなこと言われても……」
「挙句、事故チューしたら顔色ひとつ変えずに犬に噛まれたと思ってだ? ボクのこと眼中になさすぎるだろ。ゲームだったら攻略を諦めるレベルだぞ!」
ジトリと鳴海隊長が恨みがましく私を見つめてくる。その視線に甘さが含まれていると感じてしまうのは、彼の思いを知ってしまったからだろうか。
「じ、じゃあ諦めればよかったじゃないですか」
逃げるように言葉を紡ぐ。そうでもしないと熱のこもった瞳に絡め取られてしまいそうだった。
「ボクもそう思う。だが、できなかった」
再び鳴海隊長の手が伸びてきて、私の頬に触れた。思わずぴくりと肩が震える。
「キミが好きだ」
真っ直ぐな言葉が耳に届く。でもそれになんて答えるべきか私にはわからない。まだ答えが出ていない。今ここで曖昧に答えるのは不誠実だ。
きゅっと口を閉ざす私の頬を鳴海隊長の親指が撫でた。くすぐったさに身を捩ると、長い前髪の向こうで彼の両目が細くなる。
「別に返事はすぐじゃなくていい。少なくとも犬よりは上ってことは証明されたしな」
鳴海隊長の親指がふに、と私の唇に触れた。
まだ私の中で答えは形になっていない。でも顔に集まる熱ばかりはどうにも隠しようがなかった。
ーーなんだか猫みたい。
怪獣細胞由来の兵器にそんな感想を抱いてしまった私は意外にも落ち着いてーー、いやきっと現実から目を逸らそうとしていたのだろう。目の前の彼なんかは驚きすぎて未だに固まっている。
私はやんわりと彼の胸を押し、顔を逸らした。
「すみません、鳴海隊長。私の不注意でした」
「っ!」
鳴海隊長が勢いよく私から距離を取る。やっぱり猫みたいだ。尻尾を膨らませ毛を逆立たせた猫。そんな彼を見やりつつ、私は小さく息を吸った。息を止めていたのはほんの数秒のはずなのに、心臓はなかなか落ち着かない。
長谷川副隊長に命じられ隊長室を掃除していた私と、それを阻止しようとした鳴海隊長。いつものことと言えばその通りで、だからこそ油断していた。まさかお互いにバランスを崩して事故チューしてしまうなんて。
「鳴海隊長」
私の呼びかけに彼がびくりと肩を震わせた。なんだかすごく警戒されてる?
「私は気にしないので、鳴海隊長も気にしないでもらえると助かります」
いい大人なのだから心配の必要はないと思うけれど、念のため。たかが事故チュー程度でぎくしゃくするくらいなら、なかったことにしたほうがいい。
こんなのよくあることだ。犬に噛まれたようなもの。事実、実家に帰ると愛犬に顔中舐められてるし。
そんな風に笑い話に繋げると、鳴海隊長が「は?」と突然低い声を出した。さっきまで警戒心MAXの猫みたいだった癖にまるで別人だ。
「そうか。キミはボクのことを犬か何かだと思ってるわけか」
怒りの滲んだ声音に息を呑む。
「ち、違います。さっきのは言葉の綾で……」
気まずくなるから、お互いなかったことにしましょう。そう言いたかっただけなのに、どうしてこうも上手くいかないのか。
鳴海隊長がゆらりと立ち上がり、こっちに向かってくる。お説教か、反省文か、何にせよ怒られるに違いない。私は腹を決め、その場に正座し直した。
そして再び目の前にやって来た鳴海隊長が向かいに座り、手を伸ばしてきてーー。
「え」
私の驚きはすぐに目の前の彼に言葉ごと飲み込まれた。
唇に少しかさついた柔らかな感触がして、咄嗟に押し返すも簡単に押さえ込まれてしまう。角度を変えて何度も唇を塞がれ、触れるだけのキスなのにさっきよりもずっと長くて、頭がクラクラする。
そして解放される頃にはお互いに息が上がり、私の視界は涙で滲んでいた。
「っ、なんでこんなこと……」
「それはっ……キミが犬扱いするから、つい……」
確かに犬に噛まれたと思って、とは話したけれど、あれは決して鳴海隊長を犬扱いしたわけじゃない。そう弁明しようとして、ぽろりと両目から溜まった涙がこぼれ落ちた。
「わ、悪かった、だからもう泣くな! だがこれでキミも少しはボクのこと意識しただろ」
「え?」
きょとんとする私に、鳴海隊長が呆れたように溜め息を吐く。
「やっぱり気づいてなかったのか。ボクが何度もデートに誘ってるというのに」
「デート、ですか?」
全くもって身に覚えがない。
「昨日だって誘っただろ、新作のゲームやるぞって」
「あれデートだったんですか!?」
鳴海隊長曰く、今まで何度か誘われてやったゲーム会はお家デートというやつだったらしい。てっきりゲーム相手が欲しかっただけかと思っていた。お家というか、一応隊長室だったし。
「密室に男女二人はもはやデートだろ! なのにキミはそんな気ないようだし。恋愛シミュレーションゲーム通りにやってるのに、キミは予定にない行動しかしない」
「そ、そんなこと言われても……」
「挙句、事故チューしたら顔色ひとつ変えずに犬に噛まれたと思ってだ? ボクのこと眼中になさすぎるだろ。ゲームだったら攻略を諦めるレベルだぞ!」
ジトリと鳴海隊長が恨みがましく私を見つめてくる。その視線に甘さが含まれていると感じてしまうのは、彼の思いを知ってしまったからだろうか。
「じ、じゃあ諦めればよかったじゃないですか」
逃げるように言葉を紡ぐ。そうでもしないと熱のこもった瞳に絡め取られてしまいそうだった。
「ボクもそう思う。だが、できなかった」
再び鳴海隊長の手が伸びてきて、私の頬に触れた。思わずぴくりと肩が震える。
「キミが好きだ」
真っ直ぐな言葉が耳に届く。でもそれになんて答えるべきか私にはわからない。まだ答えが出ていない。今ここで曖昧に答えるのは不誠実だ。
きゅっと口を閉ざす私の頬を鳴海隊長の親指が撫でた。くすぐったさに身を捩ると、長い前髪の向こうで彼の両目が細くなる。
「別に返事はすぐじゃなくていい。少なくとも犬よりは上ってことは証明されたしな」
鳴海隊長の親指がふに、と私の唇に触れた。
まだ私の中で答えは形になっていない。でも顔に集まる熱ばかりはどうにも隠しようがなかった。