鳴海弦
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
本来広いはずの隊長室は部屋主である鳴海隊長の私物や、片付けられないまま放置された段ボールやゴミで足の踏み場もない。そんな中、私は何とかスペースを作り正座していた。もちろん自主的にである。
どうしてかって? そんなの私にだってわからない。そもそも心当たりがないのだ。だから本当はこんなことしたくはないのだけどーー。
私はちらりと目の前の人の様子を窺った。長谷川副隊長が定期的に干している布団の上、そこに横になってカチカチと携帯ゲーム機を操作している鳴海隊長を。
「あの、鳴海隊長……」
聞こえていないなんてことはないと思うけど、声かけに対しての反応はない。彼の視線は手元のゲーム機に集中している、ように見えて。
(やっぱり怒ってるよなぁ)
第1部隊に入隊しそれなりに経てば、鳴海隊長の機嫌の良し悪しもそれなりにわかるようになってくる。というか彼自身がどう思っているかは置いておいて、周りからすれば彼は割と、いやかなりわかりやすい人間だ。今だってあんなにムスリと頬を膨らませて、怒ってますと言わんばかり。
思えばここに来る前から機嫌が悪かった。夜勤が始まる前に同期と世間話をしていたら突然「来い」と腕を引っ張られ、ここに連れて来られたかと思いきやゲームをしながらだんまりを決め込まれ。鳴海隊長の機嫌の良し悪しはわかるようになったけれど、彼が何を考えているのかまではさすがにわからない。
「鳴海隊長、私そろそろ行かないと」
「……あいつのところにか?」
ぼそりと落とされた声に首を傾げる。あいつ? あいつって誰だろう。この後東雲小隊と街の見回りに行く予定ではあるけれど。
「ハッ、しらを切るつもりか? さっきあいつと話してただろ」
「ああ! 今日は中秋の名月だから月が綺麗だねって話ですか?」
夜勤が被った同期としていた世間話。基地に来る途中すごく綺麗な満月が出ていたと話したら、彼が今日は中秋の名月だと教えてくれたのだ。だから休憩のタイミングが合えば、屋上でお月見をしよう、と。
「っ、キミは……! 男なら誰にでもそういうことを言うのか!?」
「? はい。女子にも言いますけど」
「は?」
「え?」
少しの沈黙が降りて、鳴海隊長がはぁ、と大きな溜め息を吐いた。同時にさっきまでのムスリとした表情も抜け落ちて、代わりに呆れたような表情が浮かぶ。
「どうやらボクはキミを買い被っていたようだ。はは、そうだよな。キミに教養があるとは到底思えん」
「え、何なんですか急に!? これでも入隊試験は成績上位だったんですけど!」
「ハッ、そういうところだ。まあ、ボクは一位以外取ったことないがな!」
自信たっぷりにドヤ顔する鳴海隊長は、さっきとは打って変わって上機嫌だ。やる気スイッチならぬ彼のご機嫌スイッチは一体いつ押されたのか、きっと考えたところで私にはわからない。長谷川副隊長レベルになればわかるのだろうか。
「で、月が何だって?」
「ああ、月が綺麗だから時間が合えばお月見しようって話で」
「ボクが行ってやる」
「え、でも……」
「遠慮はいらん! 休憩時間になったら呼びに来い。いいか、絶対だぞ!」
遠慮はいらないと言われても、部隊の隊長には遠慮するに決まっている。鳴海隊長の参加を伝えたら予想通り同期は遠慮してお月見に参加せず、だからと言ってあんなに乗り気な鳴海隊長を見てしまっては中止にすることもできず。
結局鳴海隊長と私の二人で、中秋の名月を楽しんだのだった。
どうしてかって? そんなの私にだってわからない。そもそも心当たりがないのだ。だから本当はこんなことしたくはないのだけどーー。
私はちらりと目の前の人の様子を窺った。長谷川副隊長が定期的に干している布団の上、そこに横になってカチカチと携帯ゲーム機を操作している鳴海隊長を。
「あの、鳴海隊長……」
聞こえていないなんてことはないと思うけど、声かけに対しての反応はない。彼の視線は手元のゲーム機に集中している、ように見えて。
(やっぱり怒ってるよなぁ)
第1部隊に入隊しそれなりに経てば、鳴海隊長の機嫌の良し悪しもそれなりにわかるようになってくる。というか彼自身がどう思っているかは置いておいて、周りからすれば彼は割と、いやかなりわかりやすい人間だ。今だってあんなにムスリと頬を膨らませて、怒ってますと言わんばかり。
思えばここに来る前から機嫌が悪かった。夜勤が始まる前に同期と世間話をしていたら突然「来い」と腕を引っ張られ、ここに連れて来られたかと思いきやゲームをしながらだんまりを決め込まれ。鳴海隊長の機嫌の良し悪しはわかるようになったけれど、彼が何を考えているのかまではさすがにわからない。
「鳴海隊長、私そろそろ行かないと」
「……あいつのところにか?」
ぼそりと落とされた声に首を傾げる。あいつ? あいつって誰だろう。この後東雲小隊と街の見回りに行く予定ではあるけれど。
「ハッ、しらを切るつもりか? さっきあいつと話してただろ」
「ああ! 今日は中秋の名月だから月が綺麗だねって話ですか?」
夜勤が被った同期としていた世間話。基地に来る途中すごく綺麗な満月が出ていたと話したら、彼が今日は中秋の名月だと教えてくれたのだ。だから休憩のタイミングが合えば、屋上でお月見をしよう、と。
「っ、キミは……! 男なら誰にでもそういうことを言うのか!?」
「? はい。女子にも言いますけど」
「は?」
「え?」
少しの沈黙が降りて、鳴海隊長がはぁ、と大きな溜め息を吐いた。同時にさっきまでのムスリとした表情も抜け落ちて、代わりに呆れたような表情が浮かぶ。
「どうやらボクはキミを買い被っていたようだ。はは、そうだよな。キミに教養があるとは到底思えん」
「え、何なんですか急に!? これでも入隊試験は成績上位だったんですけど!」
「ハッ、そういうところだ。まあ、ボクは一位以外取ったことないがな!」
自信たっぷりにドヤ顔する鳴海隊長は、さっきとは打って変わって上機嫌だ。やる気スイッチならぬ彼のご機嫌スイッチは一体いつ押されたのか、きっと考えたところで私にはわからない。長谷川副隊長レベルになればわかるのだろうか。
「で、月が何だって?」
「ああ、月が綺麗だから時間が合えばお月見しようって話で」
「ボクが行ってやる」
「え、でも……」
「遠慮はいらん! 休憩時間になったら呼びに来い。いいか、絶対だぞ!」
遠慮はいらないと言われても、部隊の隊長には遠慮するに決まっている。鳴海隊長の参加を伝えたら予想通り同期は遠慮してお月見に参加せず、だからと言ってあんなに乗り気な鳴海隊長を見てしまっては中止にすることもできず。
結局鳴海隊長と私の二人で、中秋の名月を楽しんだのだった。